無名

著者 :
  • 幻冬舎
3.53
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344003859

作品紹介・あらすじ

一日一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。そんな父が、夏の終わりに脳の出血により入院した。混濁してゆく意識、肺炎の併発、その後在宅看護に切り替えたのはもう秋も深まる頃だった。秋の静けさの中に消えてゆこうとする父。無数の記憶によって甦らせようとする私。父と過ごした最後の日々…。自らの父の死を正面から見据えた、沢木文学の到達点。

感想・レビュー・書評

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  • 2016.2.15
    一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。そんな父が、ある夏の終わりに脳の出血のため入院した。混濁してゆく意識、肺炎の併発、抗生物質の投与、そして在宅看護。病床の父を見守りながら、息子は無数の記憶を掘り起こし、その無名の人生の軌跡を辿る―。生きて死ぬことの厳粛な営みを、静謐な筆致で描ききった沢木作品の到達点。(「BOOK」データベースより)

    著者の父が病にかかり、亡くなるまで、父との関係、父の姿、そして自らの幼少期を思い返しながら、父という人物を描いていく、そしてそのような自己を描いていく作品。素朴で名誉欲がなく、ただ酒と本と音楽と散歩を楽しみ、世に無名のまま亡くなった父。しかしそんな無名のものにもこれだけの物語があり、小説に足るだけの物語があり、そして息子である著者と父の間の、他には代えがたい1つのオリジナルな物語がある。誰しもそうではないか。私もあなたも、この地球の裏側に生きている人にも、物語がある、そんなことを思わせられた。それは代えがたいオリジナルであり、具体例であり、紋切り型ではない物語だし、そんな父との著者との関係もまた、オリジナルなもののはずだが、どこかその具体の中に、人間の普遍性、親子関係の普遍性を感じるような気もする。この物語の父は、運命を受け入れる人だったのだろう。私は最近、それが大人になることだと思っている。いろんなことを経験し、どうしようもないことも経験し、しかしその経験を通して人間の分際を肌で知り、できないことはできない、知れないことは知れない、それをただ受け入れる、そこに感傷も悔恨もなく、ただただ流れを、運命を受け入れる、そのような一種の境地にたどり着くことが、生きることの晩年なのだろう。「何もしなかった、何もできなかった」という言葉には、そのような生きることの晩年にてたどり着く場所の重みが感じられる。そしてまたこの小説を通して、私は自らの父との関係、父の姿を考えずにはいられない。父はどんな人で、私と父はどんな関係だったのか。すでに亡き人であるだけ、それを明らかにするには拙い私の記憶に頼る他なく、無論これまでも考えることは多々あったが、しかしこの小説ほどにその機微を、父の存在を、緻密に捉え考えたことはなかった。子にとって親とは何よりと影響の強い存在である。父がどのような人で、その父と私にはどのような関係があって、父のことをどう思っていたか、子どもながらにどう振る舞っていたか、これは自らを知る上でも欠かせない、現在の自分というものの大きな構成要素だろう。すべての人、すべての関係に独自の物語が存在することを語り、また私も再び自らの記憶の中の父と向き合い語らいたいと思わせてくれた一冊。いつかもし、私が父と呼ばれる存在になることがあれば、その時にまた読み返したいなと思う。ふと思ったが、失う時にならねば興味を持てないものなのかもしれない、親と言うのは。いろんな話をすればよかったと、母の死に目に同じ後悔を私は抱くのだろう。だったら元気に生きてる今のうちに話しとけよって話だけどこれが中々やる気でないのが人間なんだろうか。

  • 参りました。
    決してダブらせてはいけないと思いながら読んでたのに・・・父に会いたくなりました。

  • 再読だが、最初に読んだ時の記憶は残っていなかった。
    今読み返すと、自分が父の死に直面した時の心の動きがわかるような気がする。
    いつか自分の子が、無名の自分の事を文章にしてくれたら、誰にも理解されずに消え去る自分も、少しは意味のある存在だったと思えるのかもしれない。まあ、あり得ないけど。

  • 2022年7月2日読了

  • 4年半前に亡くなった父を強く思い出させた作品だった。

  • 筆者とその父親との距離感や思い出なんかが知れただけで、特に響くもの無し。自分事としてみた時、どう立ち向かうことになるんでしょうか。当面は知りたくありませんが…

  • 深夜特急等が好きで、ひさしぶりにこの著者の本を読もうと手に取る。最初は、著者も年を取ったなあと思った。ご自身ののノンフィクションなのか?父親介護の話。俳句を作っていた父の句を集め、本にすると言う流れ話は進んでいく。

    最初は題名の通り「無名」の人の句や介護の話なんて、興味ないよと思っていたが、なぜか話に引き込まれていく。
    私も行く行くはそう遠くない未来、自分にのしかかってくる話だからなのだろうか、この本のリアリティさかな。不思議に読ませる力を持った一冊だな、と思った。

  •  静かだった。
     そうだ、僕が今までに遭遇した幾つかの大切な人との別れも、やっぱりこんな風に静かだった。 老いて、病に伏し、その時を待っての別れは、いつも静かだった。
     そんな別れを、作者は“程のよい”と言う。 そうなのかもしれない。 幸せな別れ方なのかもしれない。 そして、“幸せな別れ方”だからこそ、そこには他の別れ方とはまた別の、深く静かな悲しみが存在することに気づかされる物語だった。

     作者は旅をする。まるで遺伝子を探すように、自分の中に存在する父を探す静かな旅をする。 やがて父と自分が重なる。
     同じような旅を、いつか僕もする予感がしている。

  • 沢木耕太郎が老人介護をすると、なぜか格好いい。普通の場合、無名であればあるほど、こんなに恬淡とはできない。たいてい、周りに迷惑をかけるだけかかけて、かけないと損、とばかりジタバタするものだ。やはり、この父にしてこの子あり、だろう。

  • 普通の人の一つの命が亡くなっていくまでと、それを受け入れていく息子である著者の気持ちの動きを丁寧に描いている。誰にでも起こりうる普通のできごとだからこそ、丁寧に丁寧にくみ上げるとこんな風に癒やしにもなるのだと知った。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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