LONESOME隼人

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 15
レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344006041

作品紹介・あらすじ

終身刑で米国の刑務所に20年間暮らす歌人の魂の叫び-。望郷の思いを歌い続け、「朝日歌壇」常連となり、「天声人語」で紹介された歌人・郷隼人、初めての本。

感想・レビュー・書評

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  • 獄中から歌を詠む。今日の朝日新聞歌壇にも隼人氏の歌が掲載されていました。アメリカの刑務所から。

    以下、引用致します。猫好きゆえのpick up!

    野良猫にチーズやミルクを与えいし
    老囚ゆうべ独房に死す

    かもめとぶけいむしょの空ひろびろと
    むげんのせかいがひろがりており

    一瞬に人を殺めし罪の手と
    うた詠むペンを持つ手は同じ

    限りなく殺風景な独房に
    林檎一個の華やかなる美

    囚徒とは知らずじゃれつく仔猫らの
    体温ぬくし霜降りし利庭(にわ)

    貴重(プレシャス)な終身刑の残り日を
    素直に生きんひと日ひと日を

    「生きるために食う」獄中にいつか死ぬため生きる我は「籠の鳥(ケージバード)」

    仔猫らがおなか空かして待っている
    身も残そうなチキンの骨に

    「獄死者」の小さな記事に獄死者の
    計り知れざる無念さを想う

    自由とは欲を捨て去り何ひとつ
    失うものを持たぬことなり

    月光のさむざむと冴え獄庭の
    枯草蒼く浮かんでおりぬ

    散歩する我が脚追いてじゃれつきぬ
    仔猫よおまえも淋しいんだな

    獄塀のほんの隙間を往き来する
    仔猫を抱けば生命(いのち)の温もり


    『隼人 ローンサム・ハヤト』郷隼人

  • 図書館で偶然みつけた本。短歌の歌集でお気に入りの一つ。初めて読んだ日、泣いた。

  • 著者は「朝日歌壇」の短歌の常連投稿者。短詩の素養などまったくない私だが、氏の作品に初めて触れたとき、刑務所に囚われた心を歌った重い内容に心をゆさぶられた。「アメリカ」とカタカナで記された居住地もその紙面では珍しく、印象深く記憶に残った。しばしば掲載される歌を読み続けるうちに、殺人の罪で無期懲役の刑に服していること、鹿児島出身であること、故郷に老いた母がいることを知った。

    本書には獄中歌人の約500首の歌、10本のエッセイ(大阪朝日新聞に連載)、そして数点のスケッチ画が収められている。これを読んで、名前はペンネームであること、長く会っていない娘さんがいること、そして日本には彼の歌から慰めと勇気をもらっているファン(私もそのひとり)が多くいることを知った。氏の歌にふれて自死を思いとどまった若い娘さんもいるそうだ。短歌が郷氏を救い、郷氏の短歌が若い命を救った。短歌の大きく深い力に感謝したい。

    繋がれて気も狂わずに辿りつく
    満十八年服役記念日

    十年の歳月を経て初めての
    母の便りに胸がつまりぬ

    人間の生命奪いし吾が手なり
    その手が今は短歌(うた)綴りいる

    無念なり手塩にかけしグッピーを
    トイレに流さるる房内捜査(セルサーチ)にて

    空腹に寝付つけぬ夜半の獄の床
    親子丼の幻浮かびて

    春なれば我が身の内の血の騒ぎ
    つのる激しさ淫らなる想い

    今宵だけは一番上等の囚人服を
    身に付け聖夜の夕食(サパー)へ向いぬ

    直立し点検(カウント)を待つ我が脚に
    夕日と格子の影の美し

    冤罪であったならばともう一度
    夢より醒めてやり直したい

    かもめとぶけいむしょの空ひろびろと
    むげんのせかいがひろがりており

  •  この本の腰巻(本に巻いてある帯様の紙のこと)には郷隼人歌文集とあります。ということはこの著者は「知る人ぞ知る」という人なんですね。だいたいこの郷隼人という名前ですけど、この名前はおわかりと思いますが、ペンネームのようなのです。名前から察して鹿児島出身の人のようです。なぜペンネームかといいますと、それには理由があります。腰巻にはさらに小さな字で「終身刑で米国の刑務所に20年間暮らす歌人の魂の叫び―」と記してあります。そう彼は殺人罪で終身刑を宣告されて収監中の身なんですね。
     郷隼人さんは独学で短歌を学び、アメリカの刑務所から朝日新聞紙上の「朝日歌壇」に投稿を続けています。一九九六年にはじめて入選したのですが、その後朝日歌壇の常連入選者となっていますし。複数の選者によって選ばれることも少なくない実力者なので、「知る人ぞ知る」歌人なのです。
     朝日歌壇というと連合赤軍の坂口弘が投稿し、やがて歌人として評価されていった舞台です。郷隼人もまた獄中から投稿することで知られるようになった歌人です。彼が坂口弘とちがうのは坂口のような政治的動機によって人を殺したというのではなく、一人の不幸な殺人者であり、異国の刑務所に囚われていることでしょう。
     はじめて入選した作品を紹介しましょう。

    囚人のひとり飛び降り自殺せし夜に「Free as a Bird」ビートルズは歌う

     空を飛ぶ鳥というのは自由の代名詞なのでしょう。自殺した囚人が最後に空を飛んだというのをなんと説明すればいいのでしょう。しかもその鳥は囚人たちを嘲笑うように刑務所内を遊び回っているのです。

    「脱獄を試みたらば撃つ!」という
              警告板にスズメら憩う

     ところで刑務所っていうのは社会の矛盾というのがしわ寄せになってくるところ、こんな短歌もありました。

    娑婆にては少数民族(マイノリティ)の黒人が
       大多数民族(マジョリティ)となるアメリカン刑務所(プリズン)

     社会的にはマイノリティである人々が刑務所ではマジョリティになるという、これはまさしく社会の矛盾構造のあらわれだし、差別の現実というのはこういうことをいうのではないでしょうか。本書の前半は歌集ですが、後半は郷さんの歌文集、つまり短歌の入ったエッセイになっています。その中に彼が出会った囚友のひとり、韓国人と米兵の混血であるタミーの話が出てくる。出会ったときはまだまだ立ち直るチャンスがあったタミー出会ったがしばらくして知った消息は二重終身刑となって服役しているという事実であった。その背景にある哀しさをどう表現したらいいのでしょうか。
     そんな中で、一人の人間としての尊厳はたとえ刑務所の中でも守らなければならないものだと郷さんは述懐します。
     
    真夜独り歌詠む時間に人間と
       しての尊厳(ディグニティ)戻る独房

     そして生きることの望みは出所後の人生設計である。郷さんのように出所という可能性もほとんどない人たちもいるであろうに、この歌もせつない。

    求人欄広げて終身囚たちは
              赤エンピツで夢追うている

     夢というのはそんなに大きなものではない。求人欄にあるささやかな人生ですら、刑務所の中の囚人たちにとっては夢なのでしょう。そして故郷、やはり望郷の歌が多いし、食べ物への切望がいくども登場してきます。

    記事に見る七草粥のぬくもりや
             遠き故郷の母を想いぬ

     そして今朝朝日新聞をひもとくと朝日歌壇に郷隼人の作品が載っていた(二〇〇四・七・十一付)。

    計画は短期滞在(ステイ)の筈だった在米三十周年記念日

     郷隼人は渡米して三十年たったというのです。最初はなにがしかの夢を持っての渡米だったにちがいありません。そして運命の波は彼を弄んだのです。



    ★★★★ 絶望につつまれた異空間からの望郷のメッセージ。人間の罪と尊厳とを詠う時空を超えた郷隼人の世界を一度体験してください。人間にとって夢とは何か、誇りとは何か、教師としての感性がなまったなと思ったらこの本を開いてください。国語科教材としてもいいかも。

  • 実家の母からの「救援物資と一緒に送られてきたシリーズ」第3弾!
    ゆっくりと落ち着いて読めば心に残る詩が幾つか見つかることでしょう。

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