嫉妬する人、される人

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 65
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344006492

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  • 書誌学を扱う博士による「歴史上にみる日本的嫉妬の構造」を書いた本。
    秀吉に仕えた秀才、黒田官兵衛もその才能を嫉妬され僻地へ追いやられ。
    与謝野鉄幹、晶子夫妻の創刊した「明星」は、当時爆発的に売れた雑誌であったが真偽も出所もわからない怪文により部数を減らす。
    しかし、著者は「嫉妬は人間の感情生活の一番根幹であり、底にあるものであり、かつすべての発生源であると」と定義する。
    嫉妬が善か悪かという判断ではない。
    嫉妬は他者との関わりの中で生まれるものであり、嫉妬する気持ちが無い人は、人間関係に関心のないということだそうで。
    人に関心があるからこそ。関心をもたれているからこそ嫉妬が生まれる、嫉妬されるということだろうか?
    個人的には「他人は自分が思っているほど他人に関心を持っていない。だから気にスンナ。」という考えなんですが。
    自分とは逆の方向に向いた理論だなぁと思いました。

    人間が嫉妬心は、劣等感・自分の待遇を不遇だと感じている場合に起こるものですが。
    日本の組織における嫉妬の対象となりえる状況とは何かというと。
    (例は江戸時代の藩の中の話だったりしますが)
    ?大胆な人材抜擢を受けた者。
     成り上がり者に対して旧組織に属する者は非常な嫌悪感を持つ。
    ?経済面で上手く立ち回った者。大儲けした者。
    ?過大な報酬を断ることなく受け取る者。
    日本では「お金は汚らわしいもの」という認識がされていて。
    秀吉は小判を手で触らず扇子に乗せて見たとか。
    そういえば一時期IT企業社長とか株でもうけた人とか。
    「汗を垂らして働かない人間なんて!」みたいな世論も出たりしていましたね。

    では、どうやって嫉妬を回避すれば良いのか。
    ?権力と権威の分離
    権力が移り変わった際に、旧組織の権威を残したまま、新体制を増設させる。
    例えば藤原不比等は自らが天皇となるのではなく天皇を御輿として担ぎながら補佐役として立ち回り。
    次に源頼朝は天皇の補佐役になるのではなく「征夷大将軍」として武力面でのし上がり。
    後の北条家は将軍の「執権」の身分のまま実権を握る。
    日本の政治構造は全ての権限を一箇所に集めるのでなく、多重構造にして権威と権力を正面衝突させないように回避してきたそうです。

    ?黒子として振舞う
    政治についてですが、表立って権力を振るわない。
    発言を公の場では控え、陰で采配を振るい自らはのし上がらない。
    名声を求めない。

    ?身を引く
    いつまでも権力の座にいるとその間ずっと嫉妬をされる。
    そのため、潔く身を引き後継者を育て支えることに尽力する。
    一度辞めたのに再度登場しない。
    辞めるにしても、所属する集団から意見を違えて飛び出したりなんかすると周囲からの反感を買う。
    むしろ、クビをきられた、飛ばされた。だから一本立ちします。という方が、本人的には「不要の烙印」を押されたようで納得はいかないが、周囲からの日本人的な同情を寄せられるとのこと。

    ?他人のために席を空けて置く
    無欲で控えめで他人の存在を許容し、他人のために席を空けて置くという気遣いがあれば、人は吸い寄せられ。
    「あいつの所へ行ったらなんとかなるかもしれない」という認識を持たせる。

    ?何か欠けたものがある
    権力を持ちながら禄は低いだとか。
    農民からのし上がり権力を得た今だ昔通りの暮らしをして清貧を保つとか。

    強大すぎる力を持つと逆に嫉妬ではなく恐れを抱かれるようですが。
    天下の信長でさえも結局は殺されたりしたわけなので。
    (何故明智光秀が暴挙にでたのかはっきりはしていないけど)
    どこまで力を持てば嫉妬されなくなるのかわからない。
    でも、そんなに他人の目を気にして生きて辛くないのかなと思いもしますが。
    ある程度は意識して生活した方がやりたいことがやれるのかもしれない。
    松下幸之助は「嫉妬は万有引力と同じである」と言ったとか。
    嫉妬を否定することはできない。
    ただ、調節することは出来る。
    「嫉妬はきつね色に焼け」とも言ったそうで。
    通常、嫉妬をしているということを他人に知られることを人は嫌う。
    みっともない、男らしくない、恥ずべき感情等マイナス要素であり、嫉妬を克服し、消し去ることを推奨するけれど。
    人間を人間たらしめる原動力であり、エンジンになりえるもので。
    ある程度の嫉妬は上手く使えれば社会生活の向上に役立つようです。

  • 嫉妬されたり、したりしている方へ。

  • 知り合いに頼まれたんだよなあ。

著者プロフィール

1929~2011年。
文学者、書誌学者、元関西大学名誉教授。
著書多数。1980年『完本 紙つぶて』でサントリー学芸賞、2004年『文豪たちの大喧嘩 鷗外・逍遥・樗牛』で読売文学賞研究・翻訳賞、2006年『紙つぶて 自作自注最終版』で毎日書評賞ほか受賞。

「2016年 『谷沢永一 二巻選集 下 精撰人間通』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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