むかしのはなし

著者 :
  • 幻冬舎
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感想 : 257
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344007413

感想・レビュー・書評

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  •  この作品は、しをんさんの根本にあるものをはっきりと写し出している。、
    「人はどんな状況においても、言葉を媒介にだれかとつながっていたいと願うものである」ということだ。


     登場する7人の男女は,メールはパソコンに文章を打つ、記録媒体に音声を記録させる、カウンセリングを受ける、警察の聴取を受ける、といった方法で、自分がしてきたこと、自分がそのとき感じたことを残そうとする。
     それぞれが淡々と、思いを語る。愛、犯罪など、穏やかでないものばかりが語られるけれど、その語り口調が綺麗で、どんどん引き込まれていった。

     
     もしも自分が死ぬとしたら、やはり私たちは残したいと願うだろう。知っていて欲しいと祈るだろう。自分が存在していたことを。
     たとえ自分の存在が、誰かを傷つけていたのだとしても、それでもやはり、私たちは、自分の存在を残したいと願うだろう。


     早く死ぬ家系に生まれたかもしれないモモちゃんが、地球に隕石がぶつかると言う危機に攻め立てられてもなお、「長生きしたい」という。長く生きることで、本当の自由を手に入れられるんじゃないかと思うんだ、と。

     しかし、その願いはかなわず、木星行きのチケットは彼の手にはわたらない。語り手である「僕」はモモちゃんにチケットを渡さず、一人宇宙空間をさまよいながら、ディスクにモモちゃんとの思い出を記録する。

     一人で、誰もいない、気の遠くなるような孤独の中生きる「僕」を想像すると、すうっと、寒くなっていく気がした。


     つながっていたい。つながっていたい。
     強く、そう、思った。

  • 独白による回顧録。
    語り伝えたい身の上話。
    それぞれ冒頭にある昔話のあらすじがモチーフになっているような、教訓になっているような、不思議な味わいがありました。

    途中から、あと3ヶ月で隕石が地球がぶつかって…という世界の終わりが迫り来る話でつながってくのだけど、これももう生き延びた人たちの思い出話なのね、と思うとちょっと怖い。
    確かにいろんな方のレビューにもでてきた「終末のフール」ぽいが、こっちの方が「今は昔」のおはなしだけに暗い雰囲気が漂ってる。

    八犬伝と空き巣の「ロケットの思い出」がいちばん好きかな。
    「ディスタンス」は少女は本気なのに、ロリコンが気持ち悪くておもしろかった。

  • 「かぐや姫」「桃太郎」「浦島太郎」など、
    昔話を今風にアレンジした短編集。
    そう書かれてなかったら、まったくわからないほどだけど。

    むかしと言いながらも、内容は先行くSF作品。
    本当に宇宙に行けるのだろうか。。。
    それぞれの短編がリンクしてます。
    でも1作品だけ、リンクしてるのかわからなかったけど。

  •  昔話をモチーフにした7話からなる短編集。
              
          * * * * *

     最初はわかりませんでした。各話が根っこの部分でつながっていることが。

     だから、この作品の本当の面白さに気づいたのは、キーワードが明示される「たどりつくまで」からでした。まったく無警戒でした。

     全話を通して漂う、少し退廃的で気怠げな空気。極限状態を迎えるとき、人間は……。
     いや、なかなか……。

  • 久しぶりにしをんさんを読みました。この人は本当に天才じゃないかと思います。一読すると冒頭の昔話と結び付かないような気がするのに、読んでいくにつれてちゃんとその昔話になっている。しかも短編集だけどリンクしている。滅亡する地球。選ばれた人が乗るロケット。彼が語る昔の事はディスクに載って銀河を漂う。たどり着く先はどこの誰の所なんだろう。むかしむかし…こんな事があって、こんな人がいました。私たちが今耳にする昔の物語のように。とはいえ、モモちゃん、宇田さんは若干やりすぎ。

  • 読めば読むほど味が深まる作品だと思われる(推測)

    昔話とリンクさせた短編集です。
    でも、最後まで読むと長編小説とも読めるというからくり。
    よく考えてある。すごい構成だわ。
    1、ラブレス(かぐや姫)
     No1ホストが暴力団組員の愛人を孕ませて追いかけられる話
    2、ロケットの思い出(花咲か爺)
     旧友頼みでの旧友の元カノの部屋に空き巣に入る話
    3、ディスタンス(天女の羽衣)
     成長するにつれ叔父からの愛が冷めていくことを認められない少女の話
    4、入江は緑(裏島太郎)
     久しぶりに帰郷した幼馴染が、結婚すると言い出す話
    5、たどりつくまで(鉢かつぎ)
     タクシー運転手が整形美女を乗せる話
    6、花(猿婿入り)
     好きでもない男と結婚してロケットに乗った話
    7、懐かしき川べりの街の物語せよ(桃太郎)
     モモちゃんと宝石を盗む話

    面白かったけれども、高尚すぎて理解しきれていません。
    衝撃的だったのは、5、たどりつくまで(鉢かつぎ)
    結局、美貌と財産か。
    それなら、地球が滅亡に向かっていく中、
    整形をすることはちっともおかしくない。

    7、懐かしき川べりの街の物語せよ(桃太郎)もインパクトあり。
    読んでいる最中はモモちゃんはの魅力が全く分からなかったのですが
    最後の僕とのやり取りにはぐっときました。
    モモちゃんは恐怖からも自由なように見えるのに
    それでも自由を求めているという。
    そのためには長生きをしたいという。
    でもそれができないなら、夢を交換しよう、と。
    あえてチケットには触れず。
    きっとモモちゃんはホストの息子だ。

  • かぐや姫や桃太郎という昔話の構成を借りて、現代あるいは未来に「むかしばなし」が生まれるとしたら……という凝った構成。それが、ただの実験で終わらず、ちゃんと作品に消化されてるのが気持ちいい。連作短編としての必然性というか、徐々に全体像が明らかになるところもうまい。カバーは白地にスミ1色なのに、めくると4色の写真があらわれるという、錦の褌のような凝った装丁がカッコイイ。

  • 地球は滅亡してしまい、抽選で当たった(チケットを手に入れた)人だけが宇宙に飛び立ち、命を長らえることができる。
    宇宙船に乗った人たちが、どのように地球で過ごしていたか、どのように「チケット」を手に入れたか、「むかしのはなし」を物語る人々の短篇集。

    切ない話が多かった。三浦さんの作品はすべてそうだけど。
    どこか残酷で、だけどファンタジーっぽい色も兼ね備えていて、切ない気持ちになった。
    モモちゃん、サル。
    出てくる人たちはみな、何かを地球に「おいてきてしまった」「捨ててきてしまった」と後悔しながら、先の見えない旅を続けている、迷子の子供のようだった。

  • 日本昔話が背景にあるのか、それでいてロケット脱出という起こることがあり、不思議と次次にページを読み進めた。

  • 先日読んだ『マナーはいらない』の中で紹介されていた作品。
    「いま、昔話が生まれたとしたら」という設定が面白そうと感じ、図書館で借りてみた。

    三浦しをんの作品には、キャラクターの楽しさを期待することが多いけれど、この作品は少し控えめに感じた。

    『入江は緑』で舟屋に住む主人公と、最終話でモモちゃんに引き寄せられ続ける主人公には共感が持てた。
    受け身なところでシンパシーを感じるのかも。

    よく考えると、個性が強くなく受け身なのに物語の主人公って不思議だ。
    周りにいる強烈な人を際立たせる触媒として働くと、とても面白い。

    主人公があまりにアナーキーだと、共感ができないから読みにくいのかも。

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』で、デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で「直木賞」、12年『舟を編む』で「本屋大賞」、15年『あの家に暮らす四人の女』で「織田作之助賞」、18年『ののはな通信』で「島清恋愛文学賞」19年に「河合隼雄物語賞」、同年『愛なき世界』で「日本植物学会賞特別賞」を受賞する。その他小説に、『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『きみはポラリス』、エッセイ集に『乙女なげやり』『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』等がある。

三浦しをんの作品

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