芸術起業論

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344011786

感想・レビュー・書評

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  • ・論理の重要性
     アートの本場であるアメリカの姿勢は〈謎解きゲーム〉。快感に溺れてる富裕層の目を見開かせるような新しい概念の創造が求められている。そこで論理が重要になる。歴史の文脈の理解と提示、自分の好きの根拠の究明、それを他国の言葉に翻訳すること、敵地の論理の分析。これらがあってこそ独創的な個人のアイデンティティというものが評価される。つまり作品の美的な受容は理論的な理解の上に成り立つ。

    ・金とアート
     アートは人間がすることだからまずもって金がいる。金は最強のコミュニケーションツールであり、芸術家の最後の壁。これが目的になってはいけないが、手段としてなければ評価を引き寄せられない。なぜなら現代美術は概念の遊びでありコミュニケーションなので、同じコミュニケーションである金銭がものをいうから。

    ・アーティストの心得
     歴史を学べ。自分の好きを徹底的に究明しろ。その好きを歴史に接続すれば自分が作りたいものが自ずと見えてくる。そして凡人はひたすら努力しろ、宮崎駿のように。あとは集団を作ってパトロンを獲得しろ。パトロンから独立した孤高の芸術家像は近代に特有のもので、より広範な歴史的文脈からすればパトロン+集団制作が定石。

    ・天才はマティスのみ
     本文で真の天才として示されているのはマティス。彼は芸術家が自由になるプロセスを表現しているとされる。逆にピカソなんかは腕力で描いてるから人間の限界を示しているとされる。ここら辺は感性的な説明しかなかったが、深掘りできたら面白そう。

    ・セクシュアルな存在としての花
     『侍女の物語』で「花は植物の性器だ」と言われていたことを思い出す。村上は大学受験予備校での模写でそのことに思い至り、それがあの特徴的な花のキャラクターの誕生に繋がったそうだ。

  • ブックカバーは必須だけど読みやすい。違和感のある点も勉強になる点も多くて面白かった。

  • 難しい本だ。

    村上隆が言いたいことは非常によくわかるし、説得力もある。
    難しいのは、村上隆がこの本でたくさんの隠し事をしているという点だ。

    アートが欧米では歴史的文脈に基づいた一種の商品であり、
    アーティストとして評価されるということは、
    そうした文脈と市場を把握した上で、
    ルールに則った(そのルールを如何に奇麗に壊し、新しいルールを提案するか含めた)作品を作る事だ。
    という主張は非常に説得力に富んだ、面白い視点だと思う。
    また、そうした視点を欠き、市場原理とかけ離れながら、
    大学という安全な空間でぬくぬくと身内受けだけでやっていける日本の芸術界に対する厳しい批判も、多大な有効性を持っているだろう。

    こうした身も蓋もなく、なおかつ面白い議論は僕も大好きだ。
    一方で、村上隆はこの本でたくさんの隠し事をしている。

    まず第一に、じゃあ日本人アーティストはどうすればいいの?という疑問に関する具体的な答えは無い。
    世界のアート市場の現状を把握しろ。という言葉はある。
    でも、それをどのように行えばいいのか?という具体的な答えはない。
    端々に村上の体験に基づいた提言はあるが、それらは必ずしもまとまり体系だってはおらず、
    世界のアート市場の現状を把握するメソッドに落とし込むヒントとしてこの本を読む読者にゆだねられている。
    本書が難しい書だと感じた点のひとつがここにある。
    第二に、本書はあまりにもアート作品を商品として論じすぎているように感じられる。
    後半、マティスを賞賛するあたりの文章では、村上隆自身もアートにただの商品以上の価値を感じていることが伺えるが、
    商取引における額面以上に、美術作品に関する"価値"を論じることは、
    村上隆自身も有効な論述を構築できず、誤摩化したのではないか。という印象を感じる。

    本書はアートに関して語った本のなかでも、誰にでもわかる言葉で語った相当にわかりやすい本である点で希有な物であり、
    現代において疾駆する芸術家が、自らの内に抱いた矛盾すらも内包し、読者に突きつけた、相当に面白い本であるのは確かだと思う。

  • 自伝的な作品で、

    怒りを表現

    という感じ。あんまり面白くなかった。

  • 芸術の世界は研究にも通ずるように思う。

  • 2024/16

  • 現代アートの売り方について著者の考えとどのように実践してきたかが書かれている。

    芸術は文脈や作者のアイデンティティとの関連を説明できなくては物体に過ぎない。


    村上隆についてはオタクカルチャー的作品を作る人、くらいの認識しか無かったので知らない側面を知ることができた。
    実は日本画出身だとか36歳まで貧乏していたとか

    表紙が著者の顔写真のドアップなので部屋に置いておくと存在感がある…

  • 我が座右の書です。
    私は本書を読んで、美術制作を始めたようなものです。
    美術に興味がある方は必読でしょう。

  • 「芸術起業論」村上隆

    ■なぜ日本人アーティストで世界で通用する人が少ないか?
    →欧米の芸術のルールを踏まえていなかったから。
    →だから、欧米で勝負するために欧米アートの構造をしつこく分析した。
    →仮説と検証の連続、マネジメントの技術も磨く

    ■一流の作品とは、理解される窓口の多い作品
    ・価値は偶然から生まれる。運に翻弄される。
    →だから窓口を増やす必要がある。

    ■価値の違いを乗り越えてでも理解してもらうという客観性こそが大切。
    ・芸術作品は自己満足であってはならない。
    ・価値観の違う人にも話しかけなければ、未来は何も変わらない。
    ・本来なら分かり合えない人たちと、どう深く濃く交流していくかを考えねばならない。

    ■芸術には開国が必要
    ・日本の「芸術」の定義はあいまい
    ・世界の価値は「その作品から歴史が展開するかどうか」
    →欧米の美術の歴史に文脈を作るなら、徹底的な学習が必要

    ■世界で評価されない作品は意味がない
    ・作品に部分的なきらめきがあっても欧米の美術史における文脈付けが弱ければ、外国に渡っていくパワーは全然不足している。

    ★西洋の評論の基盤の強さ
    ・日本文化も日本人の事もそれほど知らなかった西洋の美術評論家が、「西洋化された日本人のオリジナルコンセプト」と知るや否や猛烈に学習し、そして、むしろ日本人評論家よりはるかに鋭く分析的に批評をする。

    ★個人の歴史の蓄積をブランド化する方法
    ・今の芸術の中心はアメリカ、世界に挑戦するならアメリカで商売する基盤を考えなければならない。
    ・日本人としてのアイディンティティはあるが、外国の現場での渡世方法は「別物」
    ・白人から忌避される黄色人種である現実を知るべきだし、欧米美術界の中ではサーカスのピエロのような存在、猿回しのサル的な位置づけである事実も把握する。

    ★欧米の美術における決まり
    ・自分自身のアイディンティティを発見して、制作の動機づけにする。
    ・欧米美術史及び自国の美術史の中で、どのあたりの芸術が自分の作品と相対化させられるかをプレゼンテーションすることも重要
     →決まりを踏まえたうえで斬新なイメージを見せると優良な現代芸術が誕生。
     →決まりを踏まえなければ、ルール外の「物体」
    ・「欧米の美術の世界特有」のルールを導入して作品を発表する。自分自身のアイディンティディを調べる。
    【例】
    大衆芸術である浮世絵や漫画やアニメ・ゲームの日本美術史の中での関係を把握して、
    西洋的美術の移植に失敗した日本ならではの出来事にも言及していく。
    その上で、日本独特の文化体系を、欧米美術史の文脈に乗せる。
    という、西洋アート世界との決定的で新しい接触をすればよかった。

    ★個人の持つブランドを商品にする
    ・自分の●●年の歴史に、最近300年ほどの日本の美術の歴史の文脈を用意周到に関連付ける。

    ★交渉とは
    ・自分が得したいなら、相手も得するような提案をすべきだろう

    ■日本人の芸術が世界に通用していなかったわけ
    ・文脈の設定に対する理解不足と、人間と人間の勝負の瞬間に弱かった。

    ★作品を通して世界美術史における文脈を作り上げることは、今も世界における美術作品制作の基本であり続けている。

    ・西洋の美術の世界で、最初に認められた日本人美術家は葛飾北斎

    ★日本文化の潜在能力に自信があれば、尚更、まだまだ弱い日本人の伝達能力を身につけなりません。
    「文化の精神性を説明」などというとわかりづらくて拒否されるのではないかと、われわれ日本人は思いがちですけど、そうゆうところを徹底的に伝えることが、案外、現代の美術の世界においては大切な仕事になる。

    ★欧米のトップの美術批評家は、時代の基準をきちんと作る。
    だからこそ、芸術という非論理的なものに興味を持ち「わけのわからないものを論理で語る」ことに挑戦できる。

    ■歴史を勉強するとどんどん自由になれる。
    ・芸術の世界だけでなく、どの業界にもどの分野にも特有の文脈があり、
    「文脈の歴史の引き出しを開けたり閉めたりすること」が、価値や流行を生み出す。

    ★美術のルールを読み解く方法
    ・歴史を学ぶ。
    ・好きな作品や、好きな作家のたどってきた系譜をしっかり勉強するだけで、かなりの事が見えてくる。
    →自分の探さなければならない歴史がまずわかる。
    →わかったら実際に歴史を読み解けばいい。
    →そうすれば、美術のルールはすぐに理解できる。
    →自分のひかれているものを読み解くと、欧米の美術のルールだけと言わず、自分の動いているルールそのものも掴めるはず。

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著者プロフィール

北海道大学スラブ研究センター教授。1942年長野県生まれ。
上智大学外国語学部ロシア語科卒業。(社)ソ連東欧貿易会ソ連東欧経済研究所調査部長を経て,1994年4月から現職。2000年4月から2002年3月までスラブ研究センター長。
専門分野は旧ソ連のエネルギー経済,ロシア極東経済,日ロ経済関係。
著書・論文には,『めざめるソ連極東』〈共著〉(日本経済評論社,1991年),『ソ連崩壊・どうなるエネルギー戦略』〈共著〉(PHP研究所,1992年),「ロシア石油・天然ガス輸出市場の形成」西村可明編著『旧ソ連・東欧における国際経済関係の新展開』(日本評論社,2000年),「サハリン大陸棚石油・ガス開発にともなう環境問題」(『ロシア研究』日本国際問題研究所,2001年),『サハリン大陸棚石油・ガス開発と環境保全』〈編著〉(北海道大学図書刊行会,2003年)など多数。

「2004年 『北樺太石油コンセッション 1925-1944』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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