- Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344016972
感想・レビュー・書評
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(上下巻とまとめた感想)
「竜の道」を図書館で偶然手に取って読んで以来、なんとなく好き感が高まっている白川道さん。ストーリーにも文章にも重厚感があって、今までこういうヘヴィーな小説をあまり読んでこなかったからか、何か未体験のものごとに取り組み始めたときのような新鮮な気持ちになる・・・なあんてもっともらしいことを書いてみたけれど、好き感が高まる一番の要因は、主人公のかっこよさ!「竜の道」の竜一しかり、この作品の晴之しかり(実は晴之っていう名前がなんとなくポップな雰囲気をまとっているような気がしてイマイチしっくりきていないのだけれども)、超硬派!冷静沈着!ポーカーフェイス!そしてときどき見せる感情の起伏と涙。うぅ、かっこいい。
主人公は30代後半の新鋭建築家、晴之。生涯で唯一、そして最も愛した恋人の美里を、大企業の御曹司である淳介によって覚醒剤中毒にされた挙句に失った。美里の遺言は、生まれ育った小樽の海で眠りたいというもの。その言葉通り、晴之は美里の亡骸を親友の浩と共に小樽の海に沈め、淳介に報復を誓う。しかしある漁師が美里の亡骸を引き揚げたことから、警察が動き出してしまう。
裏社会で生きる主人公を描いた「竜の道」と比べて血生臭さはずっと少なく、さほど人も殺されない(ゼロではないけれど)。晴之を中心とした、仕事に没頭する30代の男女の青春物語、みたいな雰囲気もある小説だった。
とはいえ、最愛の人を殺された主人公の復讐劇というストーリーは「竜の道」とよく似ている。けれど、個人的に主人公により感情移入できたのは「竜の道」の方。晴之の元恋人である美里を覚醒剤中毒にしたあげく死に追いやった淳介というキャラクターは、仕事の面で出世コースから外れた無能な人間として描かれている。だから、かっこよすぎる晴之の復讐の相手としてちょっと弱いように感じたのだ。もし淳介が、晴之と同じかそれ以上に仕事ができて、容姿端麗で、美里の死を気にも留めず覚醒剤の乱用を秘密裏に続けながらも出世街道まっしぐら、というようなキャラクターで描かれていたら、もっと晴之頑張れー!って感じになっていたかもと思う。
晴之の友人や元恋人、恩師、因縁の上司、晴之の罪を暴こうとする元刑事など、さまざまな登場人物の思惑や策略が入り乱れて読み応えがあった上巻に比べ、下巻は、事件の答え合わせのような感じで、会話文の中に既知の内容が何度も出てきて(晴之が淳介に復讐を決意するに至った経緯など)、飛ばし読みした箇所もあった。上下巻に分けないで後半短くしてもよかったのでは?というような気もしたけれど、それでもやっぱりおもしろかったから熱中して読めた。白川さんの作品、また読みたいなー。 -
2017.01.09
読み終えるのに2週間以上かかった。これ程、続きを読みたくなる本は最近ではなかったなあ•••。
桐生晴之(ハル)、江畑美里(ミサト)、李京愛、堀越次郎そして清家茜。刑事の渡誠一郎、息子の良一。やるせない内容だった。晴之が「偶然とか運命とか宿命とかいわれるような、人間の想像を超えた、つまり人智を超えたものやことがある•••。」と言ったが、正しくそんな内容の話だ。やるせない、本当にやるせない•••。愛は凄い! -
ハードボイルドというのは、えもいわれぬ読後感がありますね・・・。
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2009年読了。
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茜との結婚は決めたが、渡元刑事に少しづつ真実を暴かれていく晴之。正直、真実を暴かれず逃れて欲しいという想いと罪を受けるが、次の光が見えるようなそんな終わりかたを期待した。大切な人の最後の頼みを実現した晴之は決して悪人ではなかった。むしろ、その想いに応えようとの一途な気持ちで突き進んだ。しかし、嘘を付かなければ前進できないその状況はやはり間違ったことなんだろう。
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文庫版の解説にもあったが、過去このようなストーリーの小説があり、新鮮味は衝撃的ではなかったが十分に長編を楽しみましたね。
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ある男の人生を大河ロマンのように叙述する。その男が、地獄も栄光も経験する宿命のもとに生まれ、その生き様が波乱万丈であり、その上、友情と恋愛のドラマをも抱え込んだ大変魅力的な主人公である場合に。
いまどき、古臭いタイプの小説であるのだと思う。演歌のように、流行とは縁がない。それでいて読めば忘れ難い。そういう小説を、この作家はひたすら書き続けている。意図してかどうかはわからない。きっとロマンを描くという一念で、小説を書き進めているだけに違いない。
それにしても人間観察眼の鋭さは、この作者が人生の途上において作家への転身を図った人とはとても思えないほどである。株とバブルで頂点を知り、失墜を知った体験を書いたデビュー作『流星たちの宴』からは、自分の体験を小説化した作品が当たっただけの一発屋であるように思えた。
新堂冬樹がやはり実体験を基にした闇金融の世界を描いて一躍売れっ子になった『無間地獄』も、所詮一発屋と思った。
最近はこうして経済の世界から小説のサイドに転身を図る作家が目立つように思える。一つにはバブルという日本独特の経済破綻を通過儀礼として持つことになった背景世界があっただろう。しかし、経済という水のように流れゆき予断を許さぬ世界に身を置き、ときには命のやり取りまでをも覚悟せざるを得なかった作家たちに、内なる何ものか(おそらくそれは自分自身)と対峙する機会を、小説というフォルムが与えてくれたのだろう。
白川道という作家のベスト作品はまぎれもなく『天国への階段』であっただろう。浦河の北へ一つ隣の無人駅・絵笛をベースにした過去と現在の宿命の物語である。
その意味では本書は、『天国への階段』を復活させ、さらにこの作家はこうした物語を生み出すことができることを証明するかのような作品である。ベースは絵笛ではなく、おなじ北海道ながらさらに有名きわまる小樽。
新進気鋭の建築家として歩み出した男には、捨てられぬ過去があった。現在を彩る新たな恋の気配と、大企業の祝運に絡め、男は運命がふたたび彼を絡め取りにやって来た気配を五感で感じ始める。昔の仲間たちが蠢き始め、暗い世界からやってきた凶刃が現代を傷つける。
大河ドラマであり、宿命の物語であり、正統なるロマンティシズムと叙情であり、そしてスケールの大きな叙事詩である。どこか黴臭い、職人部屋のような日陰の気配を感じながら、それでも巻置くあたわず読み進んでしまう。作家にとって、きっと一世一代の思いを込めた力作であることだけがひしひしと伝わってくる。
<個人史> 2001年に『天国への階段』を読んだ当初、ぼくは浦河にけっこう出張仕事に行っていた。海沿いの単調な国道を嫌って、牧場に沿った道を辿ると、浦河に入る少し手前に絵笛という綺麗な名前の土地があった。 当時の札幌の行きつけの呑み屋には絵笛出身の青年が常連で来ていたこともあって、『天国への階段』はトップクラスの話題であり、あれほど長い小説であるのにも関わらず、常連みんなが読まざるを得ない雰囲気にあった。本は回し読みされていた。 その呑み屋からも札幌からも遠い関東の地でこの本を読むとき、その頃の微熱のようなプチ・白川ブームを思い出さざるを得なかった。人は変わり、運命も変わる。常連でなくなったその店では、あれほど高かったコンサドーレ熱が見事に消え、ファイターズ熱気でまとまっている。その変わり身の早さに着いてゆけない浦和レッズ・サポーターのぼくは、今でもあの店に白川道への微熱が続いているとは思えない。『天国への階段』を一過性のプチ・ブームに終らせない何かをこの作品が持っているかどうか、となると、正直心もとない。二番煎じ、ということ以上に、彼らのドライな頭の中には次の刺激を求める何かが立ち現われているだろうから。そもブームというのは、そんな夢まぼろしのようなことを言うのではないだろうか。 -
切ない話。
天国への階段にも通ずるやるせないストーリーが悲しかった。
白川道の作品





