夏草のフーガ

  • 幻冬舎
3.61
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本棚登録 : 204
感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344020139

作品紹介・あらすじ

母親とふたりで暮らす夏草は、祖母と同じ私立中学に通うことが憧れだった。願いはかない合格したものの、喜んでくれるはずの祖母は突然倒れ、目を覚ますと、自分を中学一年生だと言い張るようになる。一方、クラス内の事件をきっかけに学校を休みがちになった夏草は、中学生になりきった祖母と過ごす時間が増え、ふと、祖母が以前、口にした「わたしは罪をおかした」という言葉を思い出す。いつもやさしかった祖母の罪とはなんだったのか…?互いのなかに見知らぬ闇を見たあと、家族は再び信じ合えるのか?注目作家の書き下ろし感動長編ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 人、その日々は、草のよう、
    その盛りは、野の花のよう。

    そうつぶやきながら、おばあちゃんがコツコツと作り続けて
    天井いっぱいに吊り下げられたヒンメリが目に浮かぶようです。

    この、フィンランドに伝わる伝統的なモビール、ヒンメリが気になって調べてみたら
    入れ子になったり、複雑に交叉したり、
    想像していたより遥かに幾何学的な美しさを湛えながら繋がっていて

    主人公の夏草、母の木の実、祖母の夕子、それぞれの転機となった中一の出来事を
    時を行きつ戻りつしながらフーガのように綴ったこの物語の印象と
    ぴったり重なって、心が震えました。

    中一になって初めての国語の授業で、夏目漱石の『夢十夜』を読み解くような
    素敵なミッションスクールに入学し、希望に胸をふくらませていた矢先に
    聖書の朗読を巡るいざこざでクラス中から無視されるいじめに遭う夏草。

    この夏草の気持ちをほどいていくのが、病に倒れたあと、記憶が退行して
    中一の頃に戻ってしまったおばあちゃん、というのが素敵。

    いじめ、震災、夫婦、家族、信仰と、たくさんのテーマが盛り込まれているけれど
    頼りない麦わらが誰かの手で繋がれて、小さな宇宙のようなヒンメリになるように
    支え合い、手を取り合い、繋がり合って続いていく命のいとおしさを
    丁寧に、抱きしめるように描いた作品です。

    • 永遠ニ馨ルさん
      ヒンメリは私の大好きフィンランドの伝統的なモビール!
      (麦わらが手に入らず、ストローを使って作ってみたりもしたんですよ♪)
      そんなヒンメリが...
      ヒンメリは私の大好きフィンランドの伝統的なモビール!
      (麦わらが手に入らず、ストローを使って作ってみたりもしたんですよ♪)
      そんなヒンメリが表紙に描かれている(そして物語のモチーフともなっている)こんな素敵作品があったなんて知らなかった!
      素敵作品を教えてくださって、ありがとうございます♪
      いつか私も読んでみたいです!
      (くっ、在住している市の図書館には蔵書がないなんて!)
      2012/10/26
    • まろんさん
      おお!永遠ニ馨ルさんはヒンメリをご存じなばかりか、作ってみたこともあったとは!
      私はこの本を読んで初めて知ったのですが
      基本は正八面体の幾何...
      おお!永遠ニ馨ルさんはヒンメリをご存じなばかりか、作ってみたこともあったとは!
      私はこの本を読んで初めて知ったのですが
      基本は正八面体の幾何学的なモチーフなのに
      麦わらを素材にしているからなのか、温かみのある美しさで、感激してしまいました。
      この本には最近フォローさせていただいたブクログ仲間さんのおかげで巡り会えたのですが
      真摯で、とても素敵な作品でした。
      中一の頃に戻って、ギンガムチェックのワンピースをうれしそうに着るおばあちゃんが
      とても可愛らしくて、その後たどる人生の重さとの対比に胸を打たれました。
      イナカの図書館にはなぜかあったので、永遠ニ馨ルさんの図書館にも
      いつか出現するといいですね(*'-')フフ♪
      2012/10/27
  • おばあちゃんが中学生に戻るって言う設定にちょっと戸惑いましたが、どんどん引き込まれていきます。

    心は中学生のおばあちゃん、虐めにあっている孫、おばあちゃんとしっくりいかない母親。おばあちゃんの切ない過去を巡って、強い絆で結ばれていく。

    良い作品に巡り会えました。

  • おばあちゃんの母校であるミッションスクールに入学した中学一年の夏草。

    だが、おばあちゃんは倒れ、目覚めた時にはなんと「中学一年の夕子ちゃん」になってしまっていた。

    戸惑う夏草と夏草の母、木の実。
    そんな時、夏草はあることがきっかけでイジメを受け、学校に行けなくなってしまう…

    そんな夏草と不思議な友情を持って接してくれたのは、家で療養中の夕子ちゃん=おばあちゃんだった。

    夏草はおばあちゃんが中学一年に戻ってしまった理由を知るために、おばあちゃんの中学時代を調べはじめるのだった…


    夏草と木の実、木の実と夕子、二組の娘と母の物語。
    夕子と夫、木の実と夫、二組の夫婦の物語

    きついこともふくめ、細やかに描かれている。

    また夏草の学校でのエピソードも、おばあちゃんのことを通して経験したことを自分のなかで受け止め、つらいながらも、解決していこうとがんばる夏草のすがたがよかった。

    いろんなテーマが盛り込まれてたけど、綺麗にひとつの方向に向かっている物語。

  • 本を読み終わって、改めて表紙を見て、表紙に「ヒンメリ」が描かれていることに気がつき、物語がぐっと胸に来た。

    人、その日々は、草のよう、
    その盛りは、野の花のよう。

    ヒンメリの美しさ、人の心の不思議さ、美しさ、そして、その中にある闇を思った。
    キリスト教の信じる者は救われるという言葉には、私も抵抗がある。
    私が思う神様は、自分を信じないからって救わないなんて、ケチなことはしないはずだと信ずるから。
    信じるということは難しい。
    けれど、信じる道を歩きたいと思う。

    蛇足だけれど、私もヒンメリを作ってみたい。

  • ほしおさなえさんの3冊目

    冒頭、メダイが出てきたので、興味をもって読んだ。
    メダイというのは、マリア様の御像が彫られた
    小さなペンダントのようなもの、
    カトリックのお守りのようなもの。
    日本では一般には知られていないのではないかな?

    そして、この本は、信仰の話だった。
    ん~、違うな、
    信仰をきっかけにした、生き方の話だ。

    「神は存在するか」という問いに真正面から向き合う
    夕子ちゃんと友仁さん。
    答えが出ないままに、ぼんやりとした問の中で
    現実に即して生きていくとき、
    これが私の生き方なのか?という思いがつきまとう。
    そして、肯定できないままに、遠くを見る目で生きて
    目の前にいる人をしっかり見ることができない。

    そんな目につきあう家族は、自分の存在が不確かになる
    愛されていないのではないか?
    自分はいなくてもいいのではないか?

    ただ、最後は、私にはよくわからない結末だった。
    ちょっと無理にハッピーエンドにしたみたいな・・

    ほしおさんのこだわりだったのかな・・
    悩みの中で終わらせてもよかったようにも思う。
    苦しいけれど、そんなもんでしょ、現実って。

  • 不思議な設定なのに、
    なぜだか先が気になって、
    ぐいぐい読んだ。

    日本という国で、
    キリスト教と向き合うのは
    本当に難しいのだなあ。

  • 舞台は311後。祖母の母校でもあるミッションスクールに進学した中1の夏草。その祖母が倒れた後回復したものの、意識は中1に戻ってしまう。夏草の両親は別居中、実の親子であるはずの夏草の母と祖母も仲もぎこちない。さらに夏草は学校でいじめにあい不登校に。祖母の意識は何故中1に戻ってしまったのか。洗礼は受けていないが、教会には通っていたという祖母。祖母の過去と信仰の問題。祖母が作っていたヒンメリ。最後にはお話は奇麗にまとまる。

    夏草がいじめられた原因が、クラスメイトが教師の不在中に聖書の朗読をやめたことをチクったことであり、「聖書の朗読をやめるなんて許されないことです」と教師がガチギレするあたりからどうも肌に合わなかったようで…この作者の作品はこれまで100%の確率で読んでよかったのだけど、これははじめて外しました。

  • 夢中で一気に読んだ

  • sg

  • 「信じる」ということ。人と人の繋がり。そしてちょっとだけ311(設定は311直後の頃だけど、コロナで変わっていく今としても通じる)。エールを貰える。

    どこが、と書けないけど、とても良かった。

    ほしおさんの作品は暴力的な描写がなく暖かいのが良いなと思う。

    文庫本が出たら買おう。

  • 凪のようなさざなみのような、静かだけどなにか打たれる物語。

    「活版印刷三日月堂」シリーズで気になっていた作家さんの、そのシリーズ以外の初読みでしたが、それと同様に細やかで丁寧に綴られた文の心地良さを感じました。
    他作品も読んでみようと思います。

  • 自分中学一年生と思い込む祖母。父と別居中の母。入学早々失敗した、夏草。

  • 【あらすじ】
    母親とふたりで暮らす夏草は、祖母と同じ私立中学に通うことが憧れだった。願いはかない合格したものの、喜んでくれるはずの祖母は突然倒れ、目を覚ますと、自分を中学一年生だと言い張るようになる。一方、クラス内の事件をきっかけに学校を休みがちになった夏草は、中学生になりきった祖母と過ごす時間が増え、ふと、祖母が以前、口にした「わたしは罪をおかした」という言葉を思い出す。いつもやさしかった祖母の罪とはなんだったのか…?互いのなかに見知らぬ闇を見たあと、家族は再び信じ合えるのか?注目作家の書き下ろし感動長編ミステリー。

    【感想】

  • ほしおさなえ

  • 震災後に書き下ろされた作品。発行が7月だから、だいぶ早いペースで書かれたのではなかろうか。
    中学生になった夏草が体験する、様々なこと。
    お母さんが、おばあちゃんが中1の時にあったこと。
    ヒンメリというスウェーデンの民芸品によって繋がる人々。
    おばあちゃんの秘密。

    後味爽やかな作品。

  • 東日本大震災の事が、ひとつのテーマになってて驚いた。
    夏草が震災について感じたことや、お母さんと話すことが自分と結構被ってて、当時の事を思い出した。

    夏草と自分が少し似てて、読んでて胸が苦しくなった。

    お祖母ちゃんの“罪”っていうのが、私にはよくわからなかった。

    ヒンメリ見てみたいし、作ってみたいな。

    (似)
    「西の魔女が死んだ」梨木香歩

  • 敬愛するほしお先生の作品。
    3・11が起こったことによって大きく趣向を変えたようです。
    主人公の夏草と、ある日突然中学生に精神が戻ってしまったおばあちゃん、夏草の母親や父親、クラスメイト、様々な人間関係が織り成す日常物です。
    大きく何か事件が起こるというよりは、終始静かなに波立っているような印象を受けます。

  •  おばあちゃんの出身校で中高一貫のミッション系の女子校に通う中1の少女、夏草。クラスでのいざこざが原因で、学校に行けなくなってしまう。5月の始めに倒れたおばあちゃんは、意識を取り戻したものの記憶が混乱しているのか、自分を中1だと思っていた。なぜ中1なのか?おばあちゃんがくれたメダイに秘められた事実、夏草の母が子どもの頃のこと、その頃から作りはじめたというヒンメリ…。夏草、母、おばあちゃん、三代の女性の物語。
     表紙の幾何学模様だと思っていたのは、おばあちゃんが中学時代に教会で作り方を教わり作っていたヒンメリ(フィンランドの伝統的な手工芸品)。
     なんとなく梨木香歩さんの『からくりからくさ』が思い浮かんだ。

  • ラベル:緑N ホシ
    資料番号:5000483361

  • またも家族の絆(というか繋がり)が核にある話だった。

    震災後の小説は初めて読んだ。
    表紙に描かれているヒンメリと、信仰等がキィワード。

    別居中の両親のうち、母親と暮らす夏草は、祖父を亡くした数ヶ月後、部屋で倒れていた祖母を見つける。命に別状はなかったものの、祖母はなんと、中一以降の記憶体験を忘れてしまっていた。
    ある事件で入ったばかりの中学校を不登校中の夏草は、祖母・夕子と過ごすうちに、祖母の過去を知っていくことになる。

    自分で決めたことが自分の人生を作る。当然のことだが、これを強く意識したまま生きるのはなかなか難しい。

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著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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