番犬は庭を守る

著者 :
  • 幻冬舎
3.34
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本棚登録 : 255
感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344021235

作品紹介・あらすじ

原子力発電所が爆発し、臨界事故が続発するようになった世界では、放射能汚染による精子の減少と劣悪化が深刻な問題となっていた。優良精子保有者である「種馬」の精子は民間の精子バンクが高額で買い上げ、その一家には一生遊んで暮らせる大金が転がり込んで来る。一方で、第二次性徴期を迎えても生殖器が大きくならず、セックスのできない不幸な子供たちは「小便小僧」と呼ばれていた。高校を卒業し、警備保障会社に就職をした小便小僧のウマソーは、市長の娘に恋をした罰として、使用済みの核燃料や放射性廃棄物で溢れる、廃炉になった原発を警備することになる。やがてウマソーの性器は徐々に失われ…。人々が原子力を選んだ結果、生まれてしまった世界。だが、それでも紡がなければならない未来がある-。全編を通して岩井美学に貫かれた、豊饒なエンターテインメント。10年ぶり、書き下ろし長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 原発事故のせいで放射能汚染が進んだ世界。
    優良な精子を作れる男性は精子バンクから多額の報酬を得られる反面、性器が正常に発育しない男性は数多く存在している。

    ウマソーの恋愛は、学生時代から未発達の性器のせいでうまくいかない。就職した警備会社でも市長の娘と恋愛関係になり、性器を整形手術するがやはりうまくいかない。廃炉になった原発の警備担当に左遷され、子どもたちに襲われて性器は損なわれてしまう。

    廃炉になったはずの原発にはまだ放射能物質が残っており、子どもたちのイタズラで深刻な臨界事故が起こる。
    ウマソーは仕事を変えて別の街にいた。かつて自分が精子バンクで騙した男との勤務で芽生えた謎の友情。
    ウマソーのかつての上司の娘も入れて、彼らは三人で子どもを育てることにした。

    ---------------------------------------

    福島第一原発の事故を思い出さずにはいられない内容。
    放射能汚染で正常に精子を作れる男性が少なくなった影響で、価値観や倫理観が変わってしまった世界の話。

    まあ、ここまで精子や男性器に固執する世の中になることはないんじゃないかな、と思う。放射能汚染が進んで正常な性器の持ち主が減少したら、性の概念も当然変化するだろうし、そうすれば性交にこだわることもなくなるんじゃないだろうか。
    もし、それでも従来の性交にしがみつくなら、そんな社会は滅びてしまうべきだ。人間が作った原発で、人間の生殖器が壊れて、人間の社会が滅んでいく。それでいいと思う。

    悲しいディストピアの話だった。

  • あからさまではある。そこにはちょっと嫌悪感もある。自身が積極的に反原発活動をする岩井さんの書いたこの物語は、もちろんその明確な意図を持って書かれた近未来フィクションだ。それは辛辣で、容赦がない。表現も道具立ても過激だ。人によっては受けつけないかもしれない。
    正直言うと、僕も声高に反原発を叫ぶ岩井さんには、ちょっと抵抗感を感じてもいた。「打ち上げ花火・・」や「ラブレター」の優しさだったり、「リリイシュシュ・・」や「undo」のアート性とでもいうべきもの、純粋に優れた稀有な映像作家であるというイメージ。それを、その活動が台無しにしてしまう印象さえあったのだ。
    でもこれを読んで、僕のその考えは変わった。変わらざるを得なかった。
    そこにあるのは「悪意」でも「自己主張」でも「被害者意識」でもなく、紛れもなく「怒り」であったからだ。人間の存在の根源に関わる危険、脅威、を無視し、人の存在そのものを冒涜した無頓着で利己的な行動に対する怒りだったからだ。それは津波対策がどうのとか、政府の対応がどうのとか、ストレステストの結果がどうのとかいうのとはまったく別次元の話。本来あるべき論点はそこじゃない。事故が起きなければいいんですか?自分の身に被害がなければいいんですか?活断層の上じゃなかったらいいんですか?いやいや、そうじゃないだろう。どんなに安全な原発を作っても、廃棄物は確実に溜まり続けるのだから。この物語が何世代にもわたる家系を辿るのも、おそらくそういう意図であろう。
    しかし、この物語が何よりも素晴らしいのは、その「怒り」をベースにした世界観の中で、それでも人の矜持であったり生命力であったりを、強く感じさせてくれるところだ。「負けるもんか!」と叫んでいるところだ。「ピクニック」や「スワロウテイル」にも似た、雑草の息吹を感じることができるところだ。社会的な問題作であると同時に、人間賛歌を謳いあげる大傑作である。これはぜひ映画化してほしい!と思って調べたら、やはり映画化も予定されているようだ。偉そうな言い方で恐縮だが、渾身の力で、岩井さんの最高傑作となる映画にしてほしいと強く願う。

  • スルスルと入っていけた

    世界観が酷いので、ハードやバイオレンスな内容でも嫌悪感なく受け入れてしまう
    最後が、当たり前のことなのにとても奇跡に感じてしまった

    節々に痛いモノが散りばめられていて、精子バンク詐欺の完全犯罪の言い分には妙に納得してしまった。

  • 3.5 原子力崩壊後の近未来を描く。読んでいるだけでも痛くなる表現あり。絶望の中の希望の物語。今を受け入れ前に進むしかないと思える。

  • なんとなく手に取って一気に読んだけど二度読みたいかと言うとそれほどではない。
    人格の崩壊も殺人もト書きを淡々と読み流していくようで現実感が無い。
    それがかえって読みやすい。

    原発事故の汚染の怖さより、更に2代先までまだ人類が続いているということがわかる最後の一文に一番ゾッとした。
    地獄かよ。

  • あー、
    とどのつまり、結局、
    だいじなことって
    いのちを紡ぐ、ってことかー。

    鯨、漁師、原発、カンフーキッド、体外受精、
    守衛、精子バンク、豚、肝臓移植、種馬
    市長の娘、避難区域、管理区域、流刑地、代理母

    なんだー、どのコトバも同じ重さ(軽さ?)に思えてしまう。

  • 原子力をエネルギーとして社会を作っていった人類の未来の話。
     お話しは、鯨捕り名人イジェサムの武勇伝から。 
     鯨を捕り、その全てを無駄なく使い切る文化がそこにはあった。しかし、そこにも原子力発電所が建ち、鯨捕りもなくなり、廃炉となって、しかもそれが臨界事故を起こし、町は滅びた。
     その子孫ウマソーがこの物語の主人公だ。
     彼の生きる時代は、多くの男が放射能の影響で、精子も少なく、生殖器も大きくならず、セックスも出来なくなっていた。ウマソーもその一人で、彼らは「小便小僧」と呼ばれていた。
     一方、偶然にもそうでない優良な精子を持った男は、その精子を売り、裕福に暮らしている。精子は、民間バンクが買い、多くの夫婦はそこから、精子を買うのだった。
     そんな中で、ウマソーは恋をし、働き、普通に生きていこうとするのだが、『小便小僧」の生き方はどんどん限られてくる。
     
     どんな社会でも、色々な思いをもって生きていくのだし、未来へつなげていくためには、子どもお生み育てることが必要だ。
     この社会は、「育児給付金」をもらってしかまともに生きられなく、そのために「精子バンク」から精子を買うことが当たり前の世界。
     しかし、ウマソーは最後に子どもを育てる。
     どうしてって、それは読んでのお楽しみ。
     この本の最後。
    「…そして、それが私の祖父である。」
     その祖父とは、ウマソーが育てた子どものことだ。

  • 原発事故後の世界では遺伝子の損傷が大きかった。
    原発への警鐘というには、気色悪さを感じた。

  • 読んでたら苦しくなるし、いたそうだし、辛かった。
    原発事故は関西ではほとんどもう昔のことになってしまって気に留めてない。
    東京に最近引っ越して来て選挙もして現実問題なんだって、掘り返されされた。
    そこにたまたま手にとったこの本。
    わたしの孫はウマソーみたいになってるかもしれない。
    2013.08.02

  • 【岩井俊二が描く、原子力崩壊後の世界。】

    あーれー
    期待していたのと
    ぜんぜん違かった・・。

    暴力的だった。ふぅ。

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著者プロフィール

映像作家。1963年1月24日仙台市生まれ。横浜国立大学卒業。主な作品に映画『Love Letter』『スワロウテイル』『四月物語』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』『ヴァンパイア』『花とアリス殺人事件』『リップヴァンウィンクルの花嫁』など。ドキュメンタリーに『市川崑物語』『少年たちは花火を横から見たかった』など。「花は咲く」の作詞も手がける。

「2017年 『少年たちは花火を横から見たかった 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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