太陽は動かない

著者 :
  • 幻冬舎
3.51
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本棚登録 : 1260
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  • Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344021686

作品紹介・あらすじ

新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件。
AN通信の鷹野一彦は、部下の田岡と共に、事件の背後関係を探っていた。AN通信は、表向きはアジア各地のファッションやリゾート情報などを扱う小さなニュース通信社だが、裏では「産業スパイ」としての別の顔を持つ。同社の情報部に所属する鷹野と田岡のミッションは、この油田開発利権にまつわる謀略の全貌や機密情報をいち早く手に入れ、高値で売り飛ばすこと。
調べを進めるうちに鷹野は、企業間の提携交渉を妨害する意図で、ウイグルの反政府組織による天津スタジアム爆破計画があるとの情報を入手した。

吉田修一が初めて挑んだ、新境地にして真骨頂。人間賛歌の新・スパイ物語!

感想・レビュー・書評

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  • 主人公・鷹野一彦 は、『AN通信』の社員。『AN通信』はアジアのニュースを発信する小さな通信会社という設定であるが、実は独自に収集した情報を企業や政府に高値で売ることを生業としている。いわゆる産業スパイ集団の会社である。
    前回、先に「ウォーターゲーム」を読んでしまったので、ある程度の結論を知りながらも、繋がっていくストーリー。若干、「ウォーターゲーム」の鷹野よりも若いたか、そう思って読むからか、行動も何となく若さが感じられる。

    南シナ海で見つかった新油田をめぐり中国のエネルギー企業『新源石油』が、日本の『興和』、韓国の『南星』と共同油田開発を進めようとしているところに中国政府がそれを妨害する。

    中国政府は新源石油に反感を持っているウイグル過激派を使って、天津スタジアムで行われる日韓戦サッカーの最中に爆破計画を計画、実行しようとする。この爆破計画に巻き込まれる鷹野と鷹野の部下・田岡。
    興和に拉致され天津スタジアムのどこかに閉じ込められている田岡を爆破までに救出することが精一杯で、ウイグルの新源石油と「興和+南星」の提携阻止を目論む爆破計画を阻止することもできず、実行側に情報を売ることもできず、失敗に終わる。
    しょっぱなから、やられっぱなしなんだ…と、少々テンションが下りながらも、登場人物たちが無事であったことにホッとする。

    一方で、この新油田開発を巡る競争に、なぜか中国の国営総合エネルギー巨大企業・CNOXと香港トラスト銀行頭取・アンディ・黄が動かない。実は、両者は、壮大な計画を秘密裏に進めており、デイビッド・キムやAyakoは、この計画を実行しようしていた。

    鷹野たちが知らない情報を持ってすでに計画している彼らは鷹野の一歩も二歩も先を歩いていて、それを鷹野が必死で走っている感がある。『どうしたんだー、鷹野!』と、ついつい叫んでしまった。

    人を世間を騙し、欺き、世界が動いていく。実際の世の中もそんなものなのかもしれない。単に私が、知らないだけで、世界の一部の人間は、今もこの瞬間に世の中を動かすための施策を計画し、推し進めている。私を含めた世間一般の人間は、何も知らずに単に一日、一日を生活している。そう考えると虚しいのか、幸せなのかどっちなんだろうと、問いかけたくなる。(私ならこんな世界では絶対、生きていけない。きっと瞬殺されているだろう。)

    物語はデイビッド・キムがAyakoが小田部菜々に接触したあたりから、大きく本筋に向かって転換していく。

    CNOXの『宇宙太陽光発電』計画。人工衛星からマイクロ波集め太陽光エネルギーを地上で受信するという、計画はこのマイクロ波技術の第一人者である小田部博士を取り込むことであり、キムとAyakoは博士の娘である小田部菜々に近づいたのである。

    ここに地元の代議士で1年生議員の五十嵐拓の後輩の広津陸が開発した『新型太陽光パネル』が絡んでくる。
    また、AN通信上海支社の文化記者・青木優が、何やら不審な動きをする。途中忘れしまうくらい登場がなかったのに、最後に『忘れていた』ことを思い出させる登場。

    刻一刻と状況が変わり、見方が裏切り、敵が味方になる。
    このシリーズが単なるアクションものとして終わらないのは、鷹野、キム、Ayakoの関係にふと同士の絆のようなものを感じるからであろう。それが、物語の厚みと暖かさを加えている。

    国家規模の『宇宙太陽光発電』が、本作のタイトル『太陽は眠らない』に繋がる。

    また、鷹野の幼い頃の生活が少しだけ描写されており、鷹野の上司・風間が、鷹野に寄せる思いが特別であることを感じるが、その想いがどこからくるのかまだ、理解できていない。

    並行して走っているいろいろなストーリーがようやく最後に一つにまとまる。

  • 前半ののんびりさとは対象的に後半はとてもスピーディーな展開。この終わりかたが一番良かったと思えるラストで読了感もよし。

  • とにかく面白い。
    映画を観ているようだな…と思ったら映画化されているのね。でも、この作品が好きなので、きっと映画は観ない。

    横道世之介とは全く違う作風のようで、一人一人を丁寧に描くところは同じだ。
    鷹野という人物が実際にいるような気がして、本を読んでいない時も、ふと鷹野の人生について考えてしまう。
    田岡という後輩への想いが、風間の鷹野への想いと似ていてじーんとしてしまう。
    今日1日を生き抜く彼らを応援してしまう。

    柳が全く出てこなかった。次作では出るのかも気になる。

  • テーマは生きるじゃないかなと思います。
    24時間以内に連絡しないと、裏切ったと思われて心臓付近に仕掛けた爆弾が破裂して命を落とす。
    だから、連絡できない状況になってしまった時、必死に命を守る行動を考えたりします。
    ただ、企業間の云々はちょっと分かりずらかったかなぁと。

  • 映画化されるのを知って読んでみた。この著者は何作も読ませてもらっているがこんなの始めてだ、これはハードボイルド小説ではないか、こんな小説も書けるんだ。何と言っても魅力的なのは峰不二子のようなAYAKOだが、映画のキャストを見るとちょっとがっかりした、もっと美人じゃないとダメだろう、深キョンか北川景子ぐらいは当てて欲しかった。あとはどれぐらいのアクション映画に出来るかで映画の評価は決まりそうだ。滅多に読まないハードボイルド小説だか十分に楽しめた。

  • 今まで読んだことのない激しいアクション的な作品
    夢中で三部作を読み進んだ、

    こんな吉田修一ははしめて。
    自分が素人かもしれないけど
    違和感はなかった!文章力の凄さ

    異国だけど
    主人公に泣けた。

  • AN通信の鷹野はアジアを駆け回る産業スパイ。手に入れた情報を、より高く買い取る相手へと運ぶ。組織からの点呼に応えられなければ、胸に埋め込まれた爆弾が彼の命を奪う。
    他のスパイたちも暗躍するなか、鷹野は部下の田岡と一緒に任務を遂行する。

    ---------------------------------------

    鷹野さんシリーズの一作目。

    諜報活動をバリバリこなしながら、危機一髪でギリギリ生き延び鷹野さんは、007さながらのスパイだった。彼の生い立ちが不憫なだけで、彼のやっている活動は正義ではないし、何を考えているかもよくわからなかった。
    けれど、一般人(広津青年)の命を守ろうとする姿勢はかっこよかった。そして、デイビッド・キム、AYAKOたちとの関係性には痺れてしまった。ライバルだけど、危ないときは助け合う。でも普段は相手を出し抜こうとしている。いわゆる同業他社、というやつ。

    気づくとページをめくるスピードがどんどん速くなっていった。スポーツ漫画を読んでいるときみたいだった。
    どうせ死なないんでしょ、とは思いつつも興奮させてもらった。すぐに二作目も読む。

  • 映画化もされた吉田修一さんのエンタメ大作。情報を武器にした秘密組織での戦いを描く。書き方も影響しているのだろうが本当に誰が見方で誰が敵かが全く分からない状況で信じるもののために突き進む彼らはカッコよい。主人公の鷹野が意外にも情に厚く、感情的になるなと思いながらもそうなっていくのは王道だが熱くなる。キャラクターが多く視点もコロコロ変わるので決して読みやすい本ではないのが欠点かもしれない。個人的には吉田修一さん初読み。エンタメ、純文学ともに書いてきた作家さんだけにまだまだ読みたい本はあるだろう。

  • 他の作品とは趣きが違っていて意欲作だとは思うが、やはりダン・ブラウンには敵わない。

    • トミーさん
      そうですか?
      ダン、ブラウンという作者の作品を読んだことがありません

      シリーズ3ともハマりましたが〜
      そうですか?
      ダン、ブラウンという作者の作品を読んだことがありません

      シリーズ3ともハマりましたが〜
      2020/02/01
  • ミッションインポッシブルのような話を期待していたら全然違った。
    もっとダークな感じだった。暴力シーンが多い…。
    産業スパイの話は難しい。いろんな国・人が絡んできて、何のために動いているのか、誰が敵か味方か、頭はパニック。
    「幸せってのはゴールじゃなくて、毎日拾って集めてくもんなんだよ」
    そう思えるまで誰かを愛しながらも、スパイの世界が捨てきれない彼ら。スパイの世界ってなんだろう。
    脱原発が広がるなかでこの作品を読めてよかった。

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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