十二単衣を着た悪魔

著者 :
  • 幻冬舎
4.02
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  • Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344021754

作品紹介・あらすじ

59もの会社から内定が出ぬまま二流大学を卒業した伊藤雷。困ったことに、弟は頭脳も容姿もスポーツも超一流。そんな中、日雇い派遣の仕事で「源氏物語展」の設営を終えた雷は、突然『源氏物語』の世界にトリップしてしまった。そこには、悪魔のような魅力を放つ皇妃・弘徽殿女御と息子の一宮がいた。一宮の弟こそが、何もかも超一流の光源氏。雷は一宮に自分を重ね、この母子のパーソナル陰陽師になる。設営でもらった「あらすじ本」がある限り、先々はすべてわかる。こうして初めて他人に頼られ、平安の世に居場所を見つけた雷だったが…。光源氏を目の敵にする皇妃と、現代からトリップしてしまったフリーターの二流男が手を組んだ。構想半世紀、渾身の書き下ろし小説。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公の雷(らい)が源氏物語の世界にスリップする。雷は源氏物語のあらすじ本を持っていたことから、未来がなんでも見える!と光源氏の兄・一宮とその母・弘徽殿女御のパーソナル陰陽師になる。
    現実世界では雷は二流大学の三流学科卒のフリーターで、文武両道でモテモテの弟にコンプレックスを持っていたので、光源氏の陰で目立たない一宮に肩入れしていく。

    この物語はあとがきで著者が書いている通り「弘徽殿女御コードで読む『源氏物語』」
    「桐壺更衣に夫を寝取られたあげく、夫は彼女が産んだ第二皇子(光源氏)ばかりを偏愛している。これでは長男の我が子を飛び越えて、第二皇子が次の帝位につくかもしれない。弘徽殿女御は、どんな思いでいたか」
    でも、弘徽殿女御はどんなにキツいと言われようと、どんなに可愛げがないと言われようと、我が子のために政治力を発揮していく。その姿を見て雷は、弘徽殿女御は生まれるのが千年早かっただけなんだ、千年後の世界で人気のある夕顔、葵の上、朧月夜なんて、男にすがって生きるしかできなかった女じゃないか!と思う。
    そして、そんな弘徽殿女御の姿を見て、自分は毒も薬も飲めない、なんて可もなく不可もない人間なんだ!と気付く。

    パーソナル陰陽師として頼りにされ、愛する人と結婚もして、雷はどんどん変わってゆく。他人に認められること、そして愛する人がいること、この二つで人は強くなっていくんだなぁ。

    それにしても、弘徽殿女御の言動はすごい!
    雷が生優しいことを言うと「甘いっ!」とバッサバッサと切り捨てていく。本家の源氏物語ではほとんど登場しない弘徽殿女御。私も彼女が主人公の方が面白いと思うなぁ。
    読み応えバツグンの一冊でした。

  • 源氏物語を弘徽殿女御の立場から描いた変り種。
    面白おかしく、快調に勢いよく書かれています。
    現代の大学生がタイムスリップしたという設定なので、わかりやすいかも。

    就職試験に落ちまくりの伊藤雷(らい)は、バイトで源氏物語のイベントに行き、なぜか物語の中に入り込んでしまった。
    パンフレットを持っていたので、物語世界の未来がわかり、陰陽師・伊藤雷鳴として認められることに。
    安部晴明にはまったことがあったので、多少の知識はあった。

    弘徽殿女御(こきでんのにょうご)は、光源氏の父である桐壺帝の正妃。
    次の天皇になる一宮を産んだ女性なのですね。
    源氏物語では、いわば敵方。源氏の母の桐壺をいじめる側ですからね。
    怖い中年のおばさんというイメージではないかな。
    藤壺もいわば恋敵。
    藤壺と光源氏の不倫を、この作品の中では、天皇に言いつけています。
    さらに妹の朧月夜が光源氏に手をつけられるにいたっては、怒り心頭も無理ない立場。
    しかし、朧月夜は息子の妃にと考えていたんですね。叔母と甥‥当時は可能だったわけですが。

    女御がお気に入りの作者は、名誉挽回をしたかったよう。
    ひいきの引き倒しになって、事実と違うというか~別の話になってるところもありますが。
    女としてはほとんど愛されなかったが政治にまで腕をふるった女性は史上初めてと豪語するんですが、そんなことないでしょう。
    有力者の娘で天皇の妻で天皇の母になった女性はいくらでもいますから。そのうち何人かは力をふるったでしょう‥え、この物語世界では持統天皇いないとか?(笑)

    雷が出会った弘徽殿女御はまだ若く、幼い息子をひたすら大事にしている。
    クールで気が強く、現代女性の先取りといった雰囲気。
    迫力ありすぎて、女としては可愛くないだろうという点もあるのだが。本人は怖がられるほうがましと言い切る。
    26年もの間、弘徽殿女御との縁が続き、さらに須磨に流された光源氏の見張り役もつとめる雷。
    その頃には結婚もし、その時代の家族の哀歓というものも実感を持って知っていた‥ 悲しみのさなか、光源氏の一言に慰められる。
    このくだりは感動的です。

    皇太子は決して出来が悪いわけではないのに、弟の光源氏があまりにも優れていて、誰の目にも光り輝かんばかりなため、割を食っているんですね。
    いろいろ困ったところがありつつも、確かに魅力はあるという光源氏。

    雷には水(すい)という弟がいて、見た目もよければ勉強もスポーツも出来る。親は分け隔てないようにと気をつかい、ちょっとしたことでも雷を褒め、水のことばかり褒めないようにしていたという。そんなふうに気をつかわれるのも苦しかったのだが‥
    一宮に共感を覚える雷。
    雷の弟への気持ちや、タイムスリップから戻っての兄弟の関係も面白いですね。

  • 二流大学卒、女にはフラれ、就職も決まらない。優秀な父や弟と比べ、コンプレックスの塊の雷くん、22歳。

    そんな彼が製薬会社主催の「源氏物語」展覧会の設営バイトをきっかけに、突然平安時代、それも架空の物語であるはずの「源氏物語」の世界の中にタイムスリップしてしまう。

    現代的なファッションや言葉遣いを怪しまれ、ひっ捕えられてしまった雷は設営バイトのために持っていた「源氏物語」のあらすじ本とわずかなサンプル薬を頼りに「高麗から来た陰陽師」になりすますことに。

    元の世界に帰れないまま、桐壺院の正妻である弘徽殿の女御のスパイとなる雷。そこには正妻でありながら院に愛されない彼女や、第一皇子でありながら弟の光に何もかも敵わない春宮への共感があった…。
    源氏物語の世界で嫁を貰い、陰陽師としての評判を欲しいままにし、光とも友情を築き老年に差し掛かった雷はまたしても突然、元の世界に帰って来てしまう。

    あちらの世界に大事な人が沢山出来、未練だらけの雷は考えた末にある決断をするのだが…。

    「プラダを着た悪魔」のメリル・ストリープに、十二単衣を着た悪魔として弘徽殿の女御を被らせ、人気のヒロインたちや光ではなく、意地悪な脇役としてしか描かれない弘徽殿の女御に焦点を当てた新しい源氏物語異聞の誕生である。

    内館氏らしく平成の世に皮肉たっぷり、源氏物語を読み慣れた者にも新鮮味のある設定。何より雷の口から語られる、源氏物語のキャラクターたちの人間味ある姿にまた源氏物語を読み返したくなる。

  • 『源氏物語』の中に入り込んじゃう「俺」。
    タイムスリップものは、大体結末の想像がつくものですが、「俺」は平安時代でなかなかの充実した生活を送っており、「あれれ?どうなるの?」と思いながら読み終えました。
    源氏物語内では、端役になる弘徽殿女御の心の機微を描き、登場する男女を現代に見立てたりして着眼点が面白いと思いました。
    読み終えて、「俺」は内館先生なのかもしれないと思いました。

  • 新しい切り口というか、弘徽殿の女御がこんなに生き生きとしたキャラクターという描かれ方はなかなかないと思う。
    そこに絡む雷鳴が現代に戻ってくるあたりも、よくあるタイムトリップとは、違っていて、良かった。

  • 生きていく時代は選べないけど、強く生きるんだ。

    弘徽殿女御とは、素晴らしい目の付けどころ。「源氏物語」では本当に嫌な女だけど、なるほどー、と思わせる設定。朧月夜や朱雀帝も右大臣も。現代の人間の感性で、というか、まっさらな目でみれば「源氏物語」もこんな風に変わるのか、と。発想の勝利といった小説。

    主人公の自虐っぷりもなかなかだったけど、平安時代に飛ばされて、でもなんとか生き抜いたのを思えば、リアルに「まだ本気出してないだけ」だなと。あとは、ちょっと現代日本を否定しすぎじゃとも思ったところも。主人公ちゃんとこの後生きていけるのかな。いや、大丈夫だね。覚悟できる人なので。

    SFと考えるとたぶん色々なところが反則なので(笑)ファンタジーですね。なんちゃって古典ファンタジー。「源氏物語」をあらすじ本レベルでいいので、知っていた方が面白いのではないかな。

  • 一気に読み終えました。
    源氏物語は漫画で読んで、あとは古文の教科書に出てきたところくらいしか知らなかったけど

    キャラクター設定を紐解いていくと
    こんなに面白くなるのかと。

    ドラマ「仁」っぽい?とも思いましたが。

    みんなそれぞれコンプレックスがあったり、他人に言われてるようなタイプではなかったり。

    楽しかった本でした。

    内館さんもっと小説いっぱい書いて〜(笑)

  • 現在林真理子さんの源氏物語を読んでいます。(今2巻を図書館で予約中。)
    その間に、以前から予約していたこちらの本が届きました。内館牧子さんが描く、弘徽殿女御目線の源氏物語です。

    真理子源氏は六条御息所目線で描かれていて新鮮!と思ってたけどこちらも負けていません。
    弘徽殿を先駆的な考えを持つキャリア女性として描きなおしていて面白いのです。

    主役(視点)を変えるだけで物事の印象はこんなにも変わるのかと思わせてくれた真理子&内館源氏。
    読みやすさに注力したもの、パロディ化したもの、源氏の一人称で語られるもの、漫画になったりもしたし、源氏は本当にいろいろいじっても面白いし、どんな変化にも対応しうる懐の深さに毎度感動するばかりです☆

  • あらすじを知った上で物語の世界にトリップするという設定が秀逸。光源氏の名前しか知らなかったが楽しく読めて源氏物語の理解もできた。知識もついてすごく得した気分。

  • 久しぶりにと最初っから最後まで隙なく面白い話に出逢った!
    こうゆう物語大好き

    まず源氏物語に興味があって、ちゃんとは覚えてなくとも大体の本家のあらすじを知ってたからこそ、この本は面白かったのだと思う

    でもこの物語を読んで、絶対原作読もうって決めた
    しかも古文で読みたい
    紫式部はどう伝えたかったのか、桐壺帝や弘徽殿女御や光源氏は物語中どう思って生きたのか、きっと現代に伝わるものはどれだけ分かりやすく訳されててもちょっと違う気がする
    そりゃ文化も食も違うこと多くって結局分からないってなるだけかもしれないけど...がんばる!

    それにしても、昔の日本の姿を想像してしまう
    今自分が都会に住んでるから空が白んでて、オリオン座のいくつか見えただけで興奮してるけどそうじゃない
    いつか沖縄に行った時に夜部屋から見える星空に感動して小学生だったけど、ついルームメンバー5人ほどで無言で眺めていたことを思い出した
    もう一度みたいな...とずっと思っていたけど楽な世界に流されて忘れていた
    まさかこの期に思い出すとは...また見たいなぁ

    どこか自然が多いところで思いっきり源氏物語の世界に溺れてみたい
    それが私の今の少し大きな野望かな

    なんだかただの感想のつもりが話がズレてしまったけど、ただただ面白い小説ってゆうだけではなく私にとって思い出とか目標とか色々考えさせてくれた物語。
    本当に出会って、読めてよかった

    最高に素敵で面白かった!!



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著者プロフィール

1948年秋田市生まれの東京育ち。武蔵野美術大学卒業。1988年脚本家としてデビュー。テレビドラマの脚本に「ひらり」(1993年第1回橋田壽賀子賞)、「毛利元就」(1997年NHK大河ドラマ)、「塀の中の中学校」(2011年第51回モンテカルロテレビ祭テレビフィルム部門最優秀作品賞およびモナコ赤十字賞)、「小さな神たちの祭り」(2021年アジアテレビジョンアワード最優秀作品賞)など多数。1995年には日本作詩大賞(唄:小林旭/腕に虹だけ)に入賞するなど幅広く活躍し、著書に映画化された小説『終わった人』や『すぐ死ぬんだから』『老害の人』、エッセイ『別れてよかった』など多数がある。元横綱審議委員で、2003年に大相撲研究のため東北大学大学院入学、2006年修了。その後も研究を続けている。2019年、旭日双光章受章。

「2023年 『今度生まれたら』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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