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本 ・本 (260ページ) / ISBN・EAN: 9784344022263
感想・レビュー・書評
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トランポリン競技を題材にしたスポーツ小説・・・と思いきや。。。
主要登場人物は以下の5人。
安井順也:奔放さは無いが、基本に忠実な美しい演技を行う努力家
野田遼:難しい演技も軽々こなすが、執着力が無い天才肌
細川洋充:目立ちたがり屋の関西人。実は人が悪い。
石丸卓司:あだ名は皇帝。常に実力以上の難易度に挑戦する
松重慎司:実力はあるが落ち着きがなくイージーミスに陥りがち。
これらの選手に加え、コーチたちや審判員なども含めた群像劇です。
スポーツ小説としてはちょっと変わっています。
競技会のシーンは技に入る前の予備ジャンプでいきなり画面が切り替わり、次章は試合後だったり、いきなり数年後だったします。ですから競技中の選手や観客・関係者の心理などは描かれません。
さらに、普通は主人公たちが頑張って栄光を迎える所がエンディングになりそうなものですが、この話はちょっと違います。全体の2/3位の所に選手としてのピークが来て、その後日談、あるいは再生と言った所に大きな比重が置かれています。
最初は普通のスポーツ小説として「なんだかな~」と思いながら読んでいました。登場人物が多く発散傾向にあることも理由の一つ。しかし、登場人物の引退や再生、年を経た姿を描いた後半は一気読みでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書は、トランポリンという競技の歴史と現状、そして選手たちの葛藤を描いている。トランポリンは2000年のシドニーオリンピックより正式な競技種目となった。もともとは、遊戯的な要素を持つサーカスの一部として始まったとされる。
この競技は、技の難易度や華麗さを競う演技、動かずに技を行う水平移動の距離、そして高い位置で行う跳躍時間によって評価される。競技には規定演技と自由演技があり、選手は10回の跳躍において、その都度演技を変える。
物語は、天才肌の野田遼、真面目で愚直ながら確実性の高い安井順也、目立ちたがり屋で話すことの好きな細川洋充、怖いもの知らずだが孤独を好む石丸卓志、大舞台に弱い松重慎司の五人を中心に進む。彼らは少年時代からライバルとして切磋琢磨し、互いの成長を見守ってきた。
彼らはなぜトランポリンを始めたのか、どのように向き合い、取り組むのかについて、それぞれの視点から描かれる。オリンピックを目指す中で、出場できるのはわずか二人。敗北の味を知り、次の人生にどう向かうのか、負けた後にどう立ち直るのか、そしてその過程でトランポリンとどう向き合うのかがテーマとなる。五人の選手は、時間軸の縦糸に沿って、それぞれの人生が絡み合っていく。
遼の背景には、両親が体操選手だったことがあり、彼は新体操の佳那とデートをしたが、試合をすっぽかしてしまい、その後沈んでしまう。卓志は洋充と親しく、実力も上だったが、オリンピックは洋充の手に入った。彼は首の頸椎を損傷しながらも出場を目指し、そのことを隠している。負けて引退を決めた卓志は、父親の知り合いの会社で働きながらも、ワールドゲームズのシンクロのトランポリンに出場しようと努力している。
慎司は6歳からトランポリンを始め、両親が中華料理店を経営している。彼は一度も試合に観客として訪れたことがなく、両親の愛情に飢えながら、居酒屋のアルバイトをしながら競技を続けている。
順也は、保険外交を営む母親に育てられ、母の離婚も経験している。最初は「頑張れ」と言われるのが嫌だったが、スポンサーもつき、経済的な苦労から解放されている。着実に前進を続ける彼の姿は、努力と成長の象徴である。
トランポリン協会のナショナルチームコーチは青山諭。彼は7歳からトランポリンを始めたが、身長が185cmにまで伸びてしまい、体型的に競技には不向きとなった。彼は「青鬼コーチ」と呼ばれるほど厳格で、その指導は厳しい。
本作は、才能や華やかさだけでは勝利は得られないという厳しい現実を描いている。オリンピック出場はごく一部の選手に限られ、多くの選手はその夢の実現に向けて苦闘している。こうした過酷な環境の中で、スポーツはその価値と意義を持ち続けていることを伝えている。孤独との闘いが一人一人につきまとう。 -
トランポリンというあまりメジャーでない競技を中心に、オリンピック代表を目指す現役選手、その家族、コーチ、審判……と様々な人物の人生が描かれている小説です。
群像劇、というといいのかもしれないけれど、あまりにもめまぐるしく入れ替わる語り手、すぎるほど淡々と進むストーリーに、いまいち入り込むことができなかった。
ただ、オリンピック代表に決まった選手が、あちこちの人に「頑張れ」と声をかけられ、自分の意志などお構いなしにたくさんの人に期待を背負わされ、その応援に感謝の気持ちを表さないと陰口をたたかれる、その状況に「頼むから、ほっといてくれ」と心のなかで呟くシーンはすごく印象に残った。 -
とても苦くて、胸が痛くなるんだけど、不思議と勇気が湧いてくる物語である。
トランポリン競技は、かつて2000年前後に、中田大輔という選手が注目されて、テレビの番組などでちらほら見かけるようになっていた。
遊園地にある子供向けのトランポリンをやったことがあって、あの奇妙な跳躍感が忘れらないでいる。
そこで何十メートルもとびあがって回転し、着地し、体を捻り、次々に技を繰り出すのだ。想像するだけでも胸がドキドキする。
中田選手のあと、もう少しトランポリン競技がメジャーになるかと思っていたが、相変わらずマイナーな扱いで、ほとんど話題にならない。
マイナーで話題にならなくても、関わっている人たちにはその人達の数だけ人生や運命がある。嬉しさや楽しさ、辛さや苦しさがあるのだ。
それを5人の青年の人生で丁寧に描いている。
よくあるスポーツ物のように、「奇跡の逆転」が起こるわけではなく、むしろ失敗と挫折の連続ばかり。
それでも、人生は続いていくのだ、という、当たり前と言えば当たり前のことが、淡々と綴られていることが、かえって胸を打つ。
ラストは胸に染みた。 -
スポーツで名を残すわずかな人って本当にすごいと思う。
友だちと遊んだりする暇なく、ひたすら練習、練習、練習。
メジャーなスポーツならそれで食べて行けるけど、マイナースポーツなら?
トランポリン、オリンピック競技とは言え、見たことない人も多いだろう。
たとえ金メダルを取っても将来は?そんな不安や葛藤をうまく描いてあった。
才能や夢、興味、楽しみ。
お金、時間、挫折、限界。 -
トランポリンを始めた子供の短編から始まり
トランポリンに関係する人々の短編をつなぎ合わせた感じで
楽しく読めました。
ただ 少し盛り上がりに欠けるかも
失礼しました -
人それぞれの夢への取り組み方、向き合い方が描かれた一冊。
どんな形で自分の中の「夢」と折り合いをつけるのか、あるいはつけなかった結果何を思うのか、さまざまな可能性が丁寧に描かれている。
優勝すれば即英雄・金持ちというわけにはいかない世界だからこそ、個人が取り組む動機や理由の純粋さが伝わりやすくリアリティを感じた。 -
ちょうど平昌オリンピックの時期に、ピッタリな本!トランポリンの選手の話なので、夏と冬で季節は違うけど、オリンピックがらみということで、なんてタイムリー!わたしも、オリンピック開会式の選手の入場のシーンは大好きでいつも感動します。ここにたどり着くまでに彼らがどれだけ苦労して頑張ってきっと我慢したこともいっぱいあって。でも夢がかなってよかったねっていつも思います。裏にはこんなにも一筋縄でいかないことがいっぱいあるんだね。そりゃあ、そうだよね。スポーツ選手だって人間だもの。平昌でも、みんな自分らしく活躍してくれますように!
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採点される個人競技なら他でもよかったんじゃなかろうか。トランポリンらしさは特に内容に関係なかった。
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私にとってスポーツは自分で行うものではなく、見るもの、読むものであり、マイナースポーツを扱っているものはそれだけで興味深い。
トランポリンというとオリンピック競技でありながら日本ではマイナースポーツ、競技の仕組みもルールもわからないのですが、話の中で自然に必要な情報が出てくるので苦労なく読み進む事ができました。
話としては5人のトランポリン選手を軸にして、それぞれの立場から選手の悩みや葛藤、迷いなどリアルに感じられましたが、スポーツ物にしては淡々と進む印象で好き嫌いが分かれそう。
著者プロフィール
桂望実の作品





