時限の幻

著者 :
  • 幻冬舎
3.47
  • (2)
  • (4)
  • (8)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 39
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344022690

作品紹介・あらすじ

天下の趨勢が織田信長に傾いていた戦国中期。「会津の執権」金上盛備は、ときに政略結婚で隣国の動きを封じ、ときにあえて仇敵と同盟を結び、巧みな外交術で主家・蘆名氏を支えていた。しかし本能寺で信長が倒れるや、天下を狙う隣国の若き当主・伊達政宗が牙をむく。一気に蘆名を手中にするべく暗殺者を送り込んだのだ-。気鋭の新進作家が放つ、傑作歴史エンタテインメント。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 戦国時代末期の奥州を舞台に「会津の執権」と呼ばれた金上盛備と独眼竜・伊達政宗の二人を主人公とした歴史小説である。伊達政宗は戦国ファンならば説明不要の有名人である。金上盛備は会津蘆名氏の家老である。歴史ファンであっても戦国のヒーロー伊達政宗に潰される障害の一つという程度の認識が一般的である。その蘆名の視点の物語という点で先ず新鮮である。
    奇しくも福島第一原発事故からの復興が社会的なテーマとなっている。大河ドラマも会津を舞台とした『八重の桜』が放送される。福島の復興を応援する立場としても、会津視点の歴史小説は楽しめる。著者もブログで「震災と事故で多分に実害を受け、また風評被害を受けて人の見る目が変わってしまった福島、会津も、いつか清々しい輝きを取り戻してくれる、という期待を込めてこの物語を送り出したい」と述べている(「永青の日々雑感」2012年10月13日)。
    金上盛備の知名度は低いが、織田信長や豊臣秀吉との対面シーンやダブル主人公の伊達政宗を視点人物としたパートと半々にすることで、会津蘆名家に思い入れのない読者でも楽しめる。伊達家や蘆名家に起きたことのほとんどが相手方による陰謀として描かれている。政宗が奥州の覇者になった過程に新鮮な視点を提供する。
    伊達政宗は一代で奥州の覇者となった「暴れん坊」として知られている。しかし、周辺の大名の視点で見ると政宗以前から伊達は強国であった。戦国大名は個人の才覚が強調されがちであるが、織田信長にしても武田信玄にしても父親の代からの蓄積を活かした面がある。伊達政宗にも同様な側面があることが理解できる。
    金上盛備は伊達政宗の好敵手に相応しい知謀の武将である。政宗とは一進一退の攻防を繰り広げ、天下人の信長や秀吉とも渡り合った。しかし、人心掌握の点では問題がある。蘆名の有力家臣から反発や離反が相次ぐが、自業自得の側面がある。
    盛備は最も忠実な味方になるべき相手にも真相を隠した。真相を知らされない家臣が疑念を抱くことは当然である。結果オーライで済まされるほど世の中は甘くない。また、敵に回してはならない親しくない相手に興奮して暴言を吐き、離反される。暴言を吐いた側は「一時の興奮による言葉で、深い悪意がある訳ではない」と軽く考えがちであるが、吐かれた側は根に持つものである。相手を尊重する配慮がなければリーダーの資格はない。
    最後の摺上原の戦い直前で盛備も反省するが、「説明しなくても分かってくれるだろう」という基本的に古いタイプの人間である。新世代の政宗に滅ぼされることは歴史の必然と思えてくる。敗者の歴史を描きながらも、敗者を過度に美化しない歴史小説であった。

  • 蘆名と伊達、佐竹、最上らの戦国時代の奥州の争いを蘆名の重臣金上盛備と伊達政宗らの視点で描く。
    血縁により、謀略が入り乱れているなか、意地でも蘆名氏を存続させようとした金上盛備。なかなかに味わい深い。

  • 2018.6.2完了
    言葉は悪いがこんなマイナーな人たちをよくおさえていると思う。
    文章も読みやすかったし、面白かったといえる。
    蘆名盛氏がいかに偉大だったかが窺える。
    四天王が脆弱であったかもよく表現されている。
    よい。

  • 会津の執権金上盛備の対伊達外交

  • 金上盛備って知らなかったけど問題なく読めた。
    蘆名家って伊達目線だとどんな感じが気になる。思えば伊達政宗って読んだことないなぁ。

  • 会津の蘆名家において、会津の執権と呼ばれた金上盛備について書かれた本です。

    はっきりいって、この人物については全くと言っていいほど知りませんでしたが、伊達政宗の謀略に対して、謀略で対応した数少ない人物であったことが分かりました。

    最も、あれもこれも政宗の謀略だった、としているため、どこまでが裏で本当に糸を引いていたかは分からないところはありますが。。

    ↓ ブログも書いています。
    http://fuji2000.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-a048.html

  • とても面白く、一気に読みました。
    戦国時代を描いた歴史小説は数多く読みましたが、東北地方を舞台としたものにはなかなか触れる機会がなかったため、この時代の東北地方の勢力図を知るという意味でも大変興味深く読ませていただきました。

    この著者さんの作品も初めてでしたが、他著も読んでみたくなりました。
    特に合戦のようすを描くのが上手いなあと思いました。最後の決戦のシーンなどは圧巻。是非とも他の 戦国合戦もの(日本の)も書いていただきたいです。

  • 会津蘆名氏の金上盛備と伊達政宗の戦い…調略・交渉による攻防。緊張が続く展開で、次はどういう手が出るのかと面白かった。自分がこの時代に詳しくないので、勢力関係がイマイチわからなかったのが心残り。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

吉川永青
一九六八年東京都生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。二〇一〇年「我が糸は誰を操る」で小説現代長編新人賞奨励賞を受賞。同作は、『戯史三國志 我が糸は誰を操る』と改題し、翌年に刊行。一二年、『戯史三國志 我が槍は覇道の翼』で吉川英治文学新人賞候補。一五年、『誉れの赤』で吉川英治文学新人賞候補。一六年、『闘鬼 斎藤一』で野村胡堂文学賞受賞。近著に『新風記 日本創生録』『乱世を看取った男 山名豊国』などがある。

「2023年 『憂き夜に花を 花火師・六代目鍵屋弥兵衛』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉川永青の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×