- Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344023185
作品紹介・あらすじ
剣は一流だが、道場には閑古鳥が鳴く草波弥市。武士の身分を捨て、商家に婿入りした小池喜平次。二人は、彼らを裏切り国許から追放した勘定奉行の娘で初恋の女・萩乃と、十六年ぶりに江戸で再会し、用心棒を引き受ける。一方、国許では、かつて化け物と恐れられた男が藩政に返り咲き、藩を二分する政争の余波が、二人にも及ぼうとしていた-。
感想・レビュー・書評
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仇討ちストーリーでもあり、恋愛小説でもあり。友情話でもあるよなあ、深い味わいの読後感。
さいしょは冴えない未練がましいダメ男に見えていた弥市が、読み進めるうちに、惚れてまうやろ、、とじわじわ染み込んできた。萩乃も、思わせぶりな匂わせ迷惑女かとおもいきゃ。喜平次も、男として、いざというときに腹が据わっていて、かっこいいよ。
ラストでこんなドラマチックな勧善懲悪の見せ場もあり。神絵師さんたちにこの高田馬場の場面描いてほしい。悪玉はこのくらいの死に方をしてほしいよ。
ひとを想う気持ちにもいろいろあるよなあ、と、大人なら誰でもちょっと思い当たりながら読んでしまうんじゃないかな。惚れたひとには幸せでいてほしい、そこに自分が必要ないパターン、自分の気持ちを説明できないような想い、自分の心を騙すような抑え方をする、そういうの、じつは身近にある感情だものね。
人生紆余曲折あり、こんどこそ、自分の気持ちにまっすぐに向き合いたい、惚れたひとを幸せにするためには自分が役に立つはずだ!という選択をした弥生の存在がとても輝く。暮らし向きは大変だろうけどさ。後悔はないよね。
読んだあと思い出話をしたくなるような、せつないスカッとストーリー。映像化してほしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
紅【くれない】のはつ花ぞめの色深く思ひし心われ忘れめや
よみ人しらず
直木賞作家・葉室麟の最新刊は、「おもかげ橋」。フォークグループ六文銭の名曲「面影橋から」でも知られる、東京神田川に架かる橋の名だ。
時代は江戸期。江戸に住む弥市と喜平次は、もとは肥前国(現、佐賀、長崎)の藩士だった。16年前、藩でのもめ事のため、江戸に出ることとなった2人。弥市は剣術道場を開き、喜平次は飛脚問屋に婿入りし、まずまずの成功を収めている。
浪人と町人という新しい生活になじんでいたある日、国もとの萩乃という女性を江戸にかくまう話が飛び込んでくる。萩乃は、実は若き日の2人が恋こがれた「高嶺の花」だった。
京人形のようにたおやかな萩乃だが、夫とは不和が続いていた。そんな彼女の用心棒を任せられた弥市は、40歳近くして独身。私を守って下さるのですね、と萩乃に見つめられ、弥市の心は揺れ動く。
喜平次は、結婚前の萩乃に和歌を教えたことがあった。そして、萩乃がみずからの心を託したという和歌を思い出す。掲出歌、「古今和歌集」巻第十四の一首である。
紅花の初咲きで染めた色が深いように、深く染まった恋心を私はけっして忘れません、という歌意だ。萩乃の、その「深く思ひし」初恋の相手とは誰だったのか。
高田馬場など地名の来歴や、剣劇も随所にはさみつつ、本書のテーマはおそらく、初恋。甘く、かつほろ苦い初恋の成就には、橋を渡らなくてはならない。郷愁と今の生活との葛藤の上に架かる、「おもかげ橋」か。
(2013年3月10日掲載) -
2021.07.29
以前から読みたいと思っていた本だった。予想通りで人を想う、友を想う世界が忘れていたのもを思い出させる様だった。 -
藩内の勢力争いに巻き込まれて、放逐される。それでも武士道精神で、とある女性を守り抜く二人の男の物語
主人公が出来過ぎのように思える
誰かのために苦労もいとわず、自分の信念に忠実に生きた -
2019.8.9
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大学3年目の春、それまで住んでいた県人寮を出て、目白区関口の下宿に引っ越した。
東京カテドラル聖マリア大聖堂のある関口教会の裏側に位置する場所であった。
数分歩けば講談社や光文社があり、その先には護国寺があった。
また関口教会前の目白通りを渡ると、そこは椿山荘であった。
その椿山荘の脇に小道があり、しばらく行くと胸突坂という坂道になる。
そこを下って神田川を渡ると早稲田大学の校舎が見えてくる。
当時良く歩いた散歩コースであった。
その神田川を少し上った所にあるのが、この小説の舞台になった「面影橋」である。
「面影橋」は昔、姿見橋とか俤(おもかげ)の橋などと呼ばれていた。
付近一帯は高田村で、近くには「南蔵院」や「氷川神社」があった。
また太田道灌にちなんだ、<山吹の里>もこのあたりである。
さらに堀部安兵衛の十八人斬りで有名な高田馬場があったのも、この高田村であった。
それらのことは小説でも詳しく書かれており、物語を彩る重要な要素になっている。
また「面影橋」は蛍の名所としても知られていた。
それを読んで思い出したのが、大学時代に胸突坂で出会った蛍のことである。
そのことは以前村上春樹の「ノルウェイの森」を読んだ時にも書いたが、ある日、いつものように胸突坂を歩いていると、突然蛍が飛んできた。
まさか都心のこのような場所で蛍に出会うとは。
思いがけない遭遇に驚いた。
後になって知ったが、それは椿山荘が夏の催しのために飼育していた蛍だったのだ。
その蛍が、たまたまそこまで飛んできたのであった。
そして今回この小説を読んで、さらにこのあたりが昔は蛍の名所だったということを知ったのである。
それが椿山荘の蛍となり、さらに自分のなかの記憶として残ることになったのである。
それがどうしたと言われればそうかもしれないが、それでもこうしたささやかな発見があることが、自分にとっての読書の醍醐味になっている。
今回そうした出会いがあったことで、より小説を身近に感じることができたのである。
物語はお家騒動の煽りをくって国を追われたふたりの武士が、再び持ち上がったお家騒動のなかで初恋の女性を匿うことになるという明朗青春活劇である。
恋と友情を軸に、ときにコミカルに、ときに叙情豊かに描かれることで、儘ならぬ人生の哀歓が浮かび上がってくる。
地元九州を舞台に書くことの多い葉室麟の小説だが、これは珍しく江戸が舞台である。 -
萩乃さん、嫌~。
表紙絵に翻弄された感があります。
弥市さんが弥生さんと巡り会えたので良しとする。
喜平次さん、しっかりしろ!惑わされるな!と思った。 -
L
かなり軽快。
この作家さんで浪人が主役なのを読んだ記憶がなかったせいか、いつもと違う感で読み進めるとやっぱり藩のゴタゴタに巻き込まれる話だった。
今回は恋愛が全面に出ている。
いいまわしに含みがありすぎて右往左往させられた感じもあるけれど、要は悪人以外みんな常識あるいい人だったってことかな。
弥生さん、登場は後半なのに全部持ってったね。
萩乃は幸薄め。 -
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喜平次と弥市のお互いの思いやる心、信じる心が素晴らしい。
弥市を見初めた弥生さんがとても素敵な方で
幸せになってほしいと思えた。