バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌

著者 :
  • 幻冬舎
4.10
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本棚登録 : 144
レビュー : 19
  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344023307

作品紹介・あらすじ

18世紀終わりに生を享けた伝説の男ラロン・フォキル。彼が作った千以上の"バウルの歌"は、譜面に遺されることなく、脈々と口頭伝承され、今日もベンガル地方のどこかで誰かが口ずさむ。教えが暗号のように隠された詩は、何のために、数百年もの間、彼の地で歌い継がれているのか。アジア最貧国バングラデシュに飛び込み、追いかけた12日間の濃密な旅の記録。

感想・レビュー・書評

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  • バングラデシュに口伝で伝わる歌がある。その名は「バウルの歌」。18世紀から19世紀にかけて生きた伝説の男、ラロン・フォキルが残した膨大な数の歌だ。

    国連職員であった著者は、理想としてきたことと実際の仕事の内容のギャップに違和感を感じ、退職を決意した。そして住んでいたフランスを離れ、日本に帰国した。ぶらぶらと暮らすうち、何かしなければと焦りを感じ、旅に出ることにした。旅の目的に選んだのが、仕事をしていた頃に知った「バウルの歌」を聴くこと。著者は友人のカメラマンとともに、バングラデシュに向けて旅立つ。

    冒頭は、いささかふわふわとした印象である。著者は「バウル」に惹かれてはいるのだが、なぜかといえば「何となく」としか答えようのない掴み所のなさである。よくいえばしなやかさと言えるのかもしれないが、やや心許ない感じもする。
    一方で、バウルについて知っている人を探しだし、同行者を確保し、現地の案内人も見つけてしまうあたり、有能な人でもあるのだろう。
    そんな著者が綴る、12日間に渡るバングラデシュ紀行である。

    バングラデシュの人々は温かく、親切である。
    甘い「チャ」やさまざまなカレー、ぎゅうぎゅう詰めの列車や、めちゃめちゃに揺れるバスなど、「バウルの歌」を探す途上の旅の記録は楽しい。
    「イキアタリバッタリ」の旅を続けながら、著者は徐々に、何人かのバウルに出会い、数多くの「バウルの歌」を聴き、理解を深めていく。
    その途上で、著者は自らの父のこと、仕事のことを重ね合わせ、しみじみと灌漑にふける。こうして読み進めてくると、著者が「バウルの歌」を探す旅に出たのも、何か必然があったのかとも思えてくる。

    「バウルの歌」を歌うのは「バウル」と呼ばれる人々である。
    「バウル」はなかなかに捉えにくい存在であるようで、人によっては卑しい人々とみなし、バウルは子どもを作らないという人もいれば、修行だけで歌は歌わないバウルもいる。そうかと思えば「バウルの歌」を歌う「バウル」ではない「ミュージシャン」もいるのだという。
    「バウルの歌」の歌詞は謎めいており、例えばこんな調子である。

    <BLOCKQUOTE>鳥籠の中、見知らぬ鳥は、どうやって往き来する?
    つかまえたら、「心の枷」をその足にはめたのに。
    八つの部屋は九つの扉で鎖され
    中をときたま閃光がよぎる、
    その上には、母屋がある---
    そしてそこには、鏡の間。</BLOCKQUOTE>
    (「知らない鳥」:本書p.257より)

    哲学のようでもあり、宗教のようでもあり、謎かけのようでもある。ヨガや禅も連想させ、アジア的な印象を受ける。

    旅の後半で著者が参加する、3日3晩続くという「バウル」の祭は圧巻だ。ものすごいエネルギーである。

    あとがきで、著者は自らがたどり着いた「バウル」の意味を明かす。
    旅先で聴いた「バウルの歌」を心のどこかに感じながら、著者はこの先も歩んでいくのだろう。


    *詩人・タゴールは、ラロンに会ったことがあるという伝説があるのだそうだ。著者は「タゴールとラロン」として1章を割いており、この部分、興味深く読んだ。

  • バングラデシュへの旅。
    何年かに一度、こういう「自分探しの旅」が出るんだな。インドとか。
    若いころなら、素直に読めたが。今は年かな。
    あたりまえじゃん、という印象。

  • とても面白かった。
    川内さんの文章はやっぱ好きだなあっと思う。
    歩く川内さんの隣にいるような気分にさせてくれる。
    ちょっと耳に入っただけなのになぜか気になることってあるけど、これはその気になることをとことん追っていっちゃうお話。
    どんだけの行動力だ、すごいなあ。
    んでもってけっこう思いつきで始まってるわりに人や状況が次々と繋がっていく様が不思議でもあり、必然のようでもあり。
    バウルという人々の中を流れ伝わってゆく歌。
    なんと豊かな国か。
    子どもはなによりも大切なもの、だからこそ持たないことを選ぶこともある。っとゆーのは結構腑におちる。
    産めばなんとかなる、とか子どもは自分で育つ、とか言われる度に違和感があった。
    なんとかなる、で産んだ結果虐待とかになるんじゃないの?産んでホントにあなた幸せ?なんか愚痴ばっか言ってるけど?とか。単純に疑問だった。
    社会がそうだから、周りがそう言うから、ではなく自分のココロがなにを求めているのか、それを知ろうとしないとなあ。
    バウルの歌、聴いてみたい。

  • 18世紀終わりに生を享けた伝説の男ラロン・フォキル。
    彼が作った千以上の"バウルの歌"は、譜面に遺されることなく脈々と口頭伝承され、今日もベンガル地方のどこかで誰かが口ずさむ。
    教えが暗号のように隠された詩は何のために数百年もの間、彼の地で歌い継がれているのか。
    アジア最貧国バングラデシュに飛び込み追いかけた12日間の濃密な旅の記録。

  • クシュティア県のラロン廟でのバウルとの衝撃の遭遇(P113)は人生の道が広がった瞬間。グルであるユヌス・シャが教えてくれた聖なる場所へたどり着く道は「愛すること」。執着を手放し、平等に人間を愛すること。▼フォキル・バウジャは修行を経てグルになったバウル。ラロンを神と崇め、ラロンの全てを正しいとする原理主義的な雰囲気で少し心配(P265)。『バウルの鳥』の歌詞を説明してくれた。「知らない鳥はココロ、鳥かごは体、身体はいつか壊れる、どこへ飛んでゆくかはココロ次第」。▼世俗に生きる自分がいて、もう一人の冨や欲望から自由になりたいと切望する自分がいる。でもどうやってそこに行けるのか、彼にも分からない(p285)。▼バウルとは、命の風を探す人々(P292)。

  • 4年前、インドでバウルを聴いたときのことを思い出した
    単なる音楽でなく、思いや考えが深いからこそ、あんな音楽を奏でられるのだとよくわかった

    ノヨンデワン

  • バングラデシュに行こうと思ってたときに読んだ。結局行けなかったので(2015年の初めは情勢がよくなかった)思いは募るばかり。また行けそうになったら読み返したい。バウルをめぐる旅行記もおもしろく読めるし、引用される詩がはっとするような美しさ。

  • 海外生活が長く、シンクタンクや国連で働いていたという恐れ多い肩書の割に(と言っては失礼だけど)自分と同年代ということもあって非常に親しみやすい感のある川内さん。例えばたかのてるこさんのパワー全開体当たり系とはまた違い少しゆるやかな感じ。本作も読み終えるとなんだかゆったりとした旅から帰って来たような気持ちになる。何より、これを読むとバングラデシュという国がとても好きになってしまう。ただ私がこれを☆3つにした理由は、本書へのレビューがバウルそのものよりもむしろ著者の生き方姿勢に対するものになってしまうということ。でもそれは川内さんの書くものが"新しいジャンル"だということでもあるのかもしれない。これからの執筆活動も楽しみにしています。

  • 飛行機の中とプールサイドで読んだ。

    著者は国連で難民支援の仕事をしていた女性。バングラデシュにおいて、どのカーストにも属さない吟遊詩人集団「バウル」の歌を聴きに行くという2週間の旅の記録。つてをたどり、何の予定も知己もないところから、旅が展開していく。

    彼女自身のそれまでの人生のことも挿入される。映画を作りたくて日大芸術学部に入学した学生時代、その後の米国留学、コロンビア留学、パリの国連勤務時代。

    バングラデシュの近代史についてもページを割いている。英国の植民地支配から独立した当初はベンガル人の国ではなく東パキスタンとして。1970年のパキスタン総選挙で人口に勝るバングラデシュ側が勝利したことで、東西パキスタンによる内戦が勃発。増大する難民に業を煮やしたインドの介入により第三次インド・パキスタン戦争に発展。バングラデシュがベンガル人国家として独立したのは1972年。

    旅の途中に、アジア人として初めてノーベル文学賞を受賞した詩人ラジンドラナード・タゴールの生家を訪ねる。パキスタン国歌・インド国歌の作者でもあるダゴールとバウル達が歌う歌を書いたラロン・フォキルは同時代に生きている。

    この著者は同世代。これからもフォローしてみたい。

  • 元国連職員の著者は、バングラディッシュの謎の民「バウル」に興味を持つ。
    「バウル」に会うため、周りの人々に協力してもらい、その実像に迫っていく。「バウル」には子どもを持ってはいけないという決まりごとがある。ならば、どうやって次世代へと受け継がれてきたのだろう?
    謎が謎を呼ぶ、ミステリーのようだ。

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著者プロフィール

川内 有緒/ノンフィクション作家。1972年、東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務後、ライターに転身。『空をゆく巨人』(集英社)で第16回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『パリでメシを食う。』(幻冬舎)、『パリの国連で夢を食う。』(同)、『晴れたら空に骨まいて』(ポプラ社/講談社文庫)など。https://www.ariokawauchi.com

「2020年 『バウルを探して〈完全版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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