明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち

著者 :
  • 幻冬舎 (2013年2月27日発売)
3.58
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感想 : 210
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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344023376

作品紹介・あらすじ

ひとつの家族となるべく、東京郊外の一軒家に移り住んだ二組の親子。澄生と真澄の兄妹に創太が弟として加わり、さらにその後、千絵が生まれる。それは、幸せな人生作りの、完璧な再出発かと思われた。しかし、落雷とともに訪れた“ある死”をきっかけに、澄川家の姿は一変する。母がアルコール依存症となり、家族は散り散りに行き場を失うが―。突飛で、愉快で、愚かで、たまらなく温かい家族が語りだす。愛惜のモノローグ、傑作長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • まさか山田詠美にここまで泣かされるとは思わなかった。
    読み終わるとただただ呆然としてしまい、しばらくたっても思い返すと涙がにじんでくる。
    彼女の作品は今まで恋愛ものしか読んだことがなかった。
    インテリな女と肉体派の男の恋愛を書く作家という勝手なイメージを持っていたので、家族を扱ったこんなにまで胸を打つ作品を描き出すとは。
    私が今年読んだ本の中で一番の作品といってもいいほど。

    物語は二つの家族が親の再婚により一つになり、さらに新しい命も誕生し新しい家族としてスタートした澄川家。
    それは誰もが羨むまさに幸せを絵にかいたような家族だった。
    しかし、長男の不運の死によって家族の様相は一変し、息子の死を受け入れられなかった母はアルコール依存症となっていく。

    長女、次男、次女のそれぞれの視点から物語は語られるが、とりわけ次男の創太が絡んだ場面になると、もうだめだ。
    涙腺決壊。胸がキューンと苦しくなってくる。
    次男は父の連れ子で母とは血がつながっていない。
    その彼が母と出会った時からずっと一貫して、母が壊れてしまってもなお母に愛されようと寄り添い続ける姿はなんとも切ない。
    決して愛情を平等に分け与えるような聖母のような母ではないのに。

    ただ、この物語は単なる継子のお涙ちょうだいではもちろんない。
    幸せの象徴だった長男の死が重要なファクターだ。
    死を抱えながら生きていたらこの母のように精神が徐々に壊死してしまう。
    それをどうやって家族は乗り越えていくのか。
    決して暗い話ではない。
    死者への執着よりも、生きている者が一番大事なんだという作者のメッセージが強く感じられた。
    血よりも濃い家族の絆、そして家族の再生。
    ラストは希望に満ちた素晴らしい終わり方だった。

    新聞や雑誌、各所で取り上げられ、気になっていたこの本。
    普段だったら山田詠美は積極的には読まないけれど、読んでみて分かった。何しろ傑作である。
    もちろん文章の綺麗さ、巧さは間違いない。
    山田詠美と聞いて尻込みする人にも是非読んでもらいたい素敵な作品である。

    • nobo0803さん
      こんにちは♫

      はい。山田詠美と聞いて尻込みをする人の1人です!
      vilureefさんが書かれた、インテリな女と肉体派の男の恋愛を書く作家・...
      こんにちは♫

      はい。山田詠美と聞いて尻込みをする人の1人です!
      vilureefさんが書かれた、インテリな女と肉体派の男の恋愛を書く作家・・うまい!!と思わず拍手したくなりました(笑)
      そうなんです、山田詠美さんのイメージはまさにその通り。
      でも、この本は全く違いますね!!
      早速チェックします( ..)φメモメモ
      2013/06/02
    • vilureefさん
      またまたnobo0803さん、こんにちは。

      そうですよね、山田詠美ってい言うと初期の作品のイメージでしょうかね?
      なんとなく受け入れ...
      またまたnobo0803さん、こんにちは。

      そうですよね、山田詠美ってい言うと初期の作品のイメージでしょうかね?
      なんとなく受け入れがたい感じがあって・・・。
      と言ってもそんなに読んでいないのですが(^_^;)

      ですが、この本を読んで是非その先入観を覆してください。
      木皿さんの本はきっと万人受けなんでしょうが、この本の完成度の高さと言ったら。
      私はこちらの本に軍配を上げます!
      って、どうでもいいですが(笑)
      2013/06/03
  • 先日終わったソチオリンピック。
    ヨーロッパでの開催だと、なかなかライブ映像を楽しむのは難しかった。
    録画して見ると、民放の番組の前半は感動的な取材映像で埋め尽くされ、背中に背負うストーリーでお腹がいっぱいに・・・。
    確かに葛西選手の今までのオリンピックシーンや新聞の記事くらいは興味深く見ているけれど、真央ちゃんや高橋大輔くん、弓弦くんの取材映像を見ていると、今回のオリンピックは以前にもまして過剰になっていた気がした。
    彼らの競技だけに没頭できる環境を静観できるいいのだけど、マスコミに取り上げられるのもある種仕事だと思えばバランスが大事というところか。

    で、この本。
    ステップファミリーのたいへん魅力的な長男(ちょっとしたしぐさや行動が人を惹き付けずにはおかない!)が不慮の事故で亡くなってしまう。
    溺愛していた息子を失った母親は精神的に大きなダメージを受けアルコールに依存症に。
    母親の精神的なバランスをぎりぎり保とうと家族は全力を尽くすのだが・・・。
    母親が実の兄を溺愛していたのを客観的に眺めながら何事にも踏み込めない長女。
    兄に向けられていた血のつながらない母親の愛情を今こそ、手に入れようとする次男。
    血縁のうえで両親を繋ぐ次女は、兄と過ごした時間が短かったにもかかわらず、学校や家庭に兄が遺した思い出に絡め取られそうになりながら、反発し、苦しんでいる。

    ギリギリのバランスの上に成り立つ家族。
    はた目から見ていると、母親がこれ以上壊れないように子ども達が自分を殺し我慢を重ねて成立しているのがわかる。
    自分が自分らしく生きようとすることは、この家族を離脱し、自分というピースを取り去ることになり、バランスが崩壊することを意味すると考えている。

    人のために生きることで、自分は今まで以上に強くなれたと感じる人がいる。
    何もかもそぎ落として、自分という芯だけを頼りに生きる人もいる。

    いろいろな事情に、物語が絡まってしまった家族関係。
    苦しいね・・・。
    シンプルに居心地のいい、帰ってくる場所としての『家族』とはもはや異なる世界。
    そんなことを考えた1冊。
    傍観者たちによって、勝手にストーリーを背負わされてしまったオリンピックの競技者たちに対してなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。

  • 何事にも特別に秀でた長男 澄生を筆頭に、綺麗で特別で完璧な幸福に満ちた澄川家。

    両親の子連れ再婚は成功し、新しい家族にも恵まれたのだが…。澄生が落雷に打たれて17歳という若さで命を落としてから、拠り所を失った一家はどう生きていくのか。

    久しぶりのエイミーさん。卒論のテーマに山田詠美さんを選んだので、一通り著作は読んできたつもりですが「風味絶佳」以来かな…3.11以後に書かれた作品ということで、、、

    テーマは家族の喪失と再生かな。

    澄生を失い、アルコール依存症になるまで追い詰められてしまう母親、大切な人を突然失うのが怖くて恋愛に向き合えない長女、自分を素通りする母の愛を求めて年の離れた未亡人と付き合う次男、誰よりも愛された兄を死んでしまえばいいと憎みもした次女。

    一人っ子の私には親の愛情を巡る兄弟間の争い、みたいなものはよく分からないけれど、大事な人は出来れば独り占めしたいし、されたいのが人の性。

    不在なのに誰よりも色濃くその存在を感じさせる澄生に、他人ながら嫉妬します。

  • 「明日会えるって信じていた人が、もう戻ってこないことがある」

    言っている意味は分かるし、言葉にするのは容易い。
    でも実際にその瞬間を体験した人とそうでない人では、この本の感じ方が違うのではないでしょうか。

    たわいもない話で笑いあっていた相手が、次の日には会えなくなってしまう。
    「ショックで食べ物が喉を通らない」なんていうことが現実に起こり得るんだということを知り、世界の色が一瞬にして変わってしまうことを知りました。

    だからこそ、「明日死ぬかもしれない人々に囲まれて、だた、生きていた」という真澄の言葉が重く感じられ、
    今、大切な人との時間をどれだけ大事にしているのか、分かっていたはずなのに忘れてしまっていたことがとても悲しかったです。

    読後はなんともいえない温かな気持ちにもなりましたが、それではいけないのだと思います。

    「明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち」というタイトルの通り、いつ終わりがきてもおかしくない。そんなとき「まだ、もう少しだけ、このまま楽しませてはくれないか」といっても容赦なく今までの時間から切断されてしまいます。

    まだ、もう少し、と言うことなく「ありがとう」で終えられる人生のために、今を一所懸命過ごしていこうと思わずにはいられませんでした。

  • 「今日という日が残りの人生の最初の一日。」
    まさしくそう思わせてくれる素晴らしい本でした。

    書名を見て、エッセイ?小説?
    詠美先生も年を重ねて『死』というテーマについにランクアップ?
    など、勝手に思い込んでしまってすみませんでした。

    これは最良最高の『愛』の話です。
    愛っていう言葉は世界中の人達の使っている万能薬のような言葉ではありますが(創太くんのセリフから)一概にそれだけではなく、家族に対しての愛、連れ合いに対しての愛、兄弟同士の愛、友達同士の愛(歪みがあってもなくても)様々な愛がこの本には満ち溢れています。

    しみじみと、言葉の流れに身を漂わせて詠美先生って本当にイイなぁ~と
    再確認したのでした。

  • 澄生、真澄、母が再婚した事で創太が弟になり千絵が生まれ…幸せの塊のような家族が、澄生の不慮の死で崩れてしまう。そう書くと不幸な話に聞こえるが、最後、どうにも温かい気持ちになる。家族それぞれの気持ちが分かるにつれて、愛のカタチを考えて涙が出る。ニュースで聞く他人の死は 同情はしても他人事で、決して当事者の気が狂いそうな心はわからない。大切な人の死をどう乗り越えるのかが正解かなんて分からない。家族一人一人が母を大切にしながら澄生を想う、いい本だった。

  • 子連れどおしの再婚。末っ子の誕生。長男の死。アル中の母。
    語り手を長女、次男、次女で語り継いでいくところや、家族の死をテーマにした部分が朝井リョウくんの「星やどりの声」を思い出させたのだけど、すぐさま消し去られましたね。こっちはもっとヘヴィ。

    特に次男の創太に対する母親のひどい言動には読むたびチクリと胸が痛みました。
    もうこの歳になれば、完璧な親ばかりではないのは重々承知してますが、それでもこの母親はひどい。
    とは言え、私は子供もいないし、子供を亡くしたこともないので、環境が違っていたら、きっと感じかたも違うのかなと思う。同情の余地はありました。

    そして皮肉なことに、この母親の存在があって、血の繋がりのない継父と長女が、そして長女と次男が本当の家族になっていくんですよね。苦しみを共有して。戦友のように。
    最後のあれは正直どうなの?って思ったけど、ある意味ハッピーエンドでよかったよかった。でした。

    • vilureefさん
      めぐさん、こんにちは。

      この母親の態度にはもやもやが残りました。
      長男が亡くなる前から次男へのひどいこと言ってませんでしたか?
      シ...
      めぐさん、こんにちは。

      この母親の態度にはもやもやが残りました。
      長男が亡くなる前から次男へのひどいこと言ってませんでしたか?
      シュークリームを焼いた場面とか。
      それでも無心に母親を追い求める創太の姿が切なくて切なくて。
      私はダダ泣きでした(笑)
      結末は救いがあってよかったですよね。
      2013/07/02
    • うずまき猫さん
      vilureefさん こんにちは!

      シュークリームのとこ!わかります。
      わたしもシュークリームの場面がいちばん衝撃でした。
      とにかく創太が...
      vilureefさん こんにちは!

      シュークリームのとこ!わかります。
      わたしもシュークリームの場面がいちばん衝撃でした。
      とにかく創太が不憫でたまりませんでしたよね。

      結末も、え~!?でしたけど、あの唐突さに救われた感じ 笑
      2013/07/02
  • 二組の合成された新家族が長男の突然の死によって、幸せとは一見違う表膜に長いこと包まれてしまいます。普通なら、年月と共に昇華されていくべき死者の魂が、精神を病んでしまった母親の強い想いによって、どこまでも傍から離れずに、呪縛のようにこの家族を捉え、苦しめていくお話です。
    中盤までは、読んでいても辛く感じてしまいましたが、読み進めていくうちに次第に自分の中で納得できる要素が見つかり、最終章「皆」に至っては意外なサプライズにささやかな希望を見つけることも出来ます。よかったのは親も性格も皆違う3人の子供たちの視点から、それぞれが家族以外の他者との関わりの中で「死生観」に対する考えを自分自身のこととして咀嚼していったことです。
    遺された家族の軌跡。想像以上に、読み応えあった作品でした。

  • 最後に山田詠美を読んだのはいつだったか思い出せないくらい久しぶりの山田作品。
    再婚同士の二つの家族が、新しい家族になるべく共に暮らし始めた。ある死の影を背負い続けた家族の再生の物語。

    子どもたちの独白という形で進むストーリーは、悲惨で切なく、愚かしくもあり、そして温かくもある。一つの家族の物語だけれど、そこにはたくさんの人々の人生が映し出されているようにも見える。
    だって、人はいつか必ず死ぬ時が来るのだからね。すべての人に平等に、生きることの隣にはいつも死があり、死を描くことで、残された者の生が浮き彫りにされる。

    実は結末はちょっと私が想像していたのと違っていた。う~ん、あれはあれでよかったのだろうけれど、少し違和感を感じなくもない。
    最終章の千絵のくだりは必要だったかな~、なくてもよかったような気がするけど、好みの問題?

  • 西加奈子さんの『さくら』を思い出す。
    兄を亡くしたステップファミリーの子どもたちの物語。

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著者プロフィール

1959年東京生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。他の著書『ぼくは勉強ができない』『姫君』『学問』『つみびと』『ファースト クラッシュ』『血も涙もある』他多数。



「2022年 『私のことだま漂流記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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