昭和の犬

  • 幻冬舎 (2013年9月12日発売)
3.22
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344024465

作品紹介

柏木イク、昭和33年生まれ。いつも傍らに、犬。犬から透けて見える飼い主の事情。『リアル・シンデレラ』以来となる長編小説!

昭和の犬の感想・レビュー・書評

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  • 不思議な作品。
    苦手な文体でとっつきにくいし、そもそも楽しくない。
    でもレビューを書く今になってもっと評価高くても良いんじゃないかと思ってみたり。
    印象に残る作品であることには間違いない。

    今だったら児童虐待と言われかねない両親に育てられるイク。
    父親に謂われない怒りをぶつけられても、母親からのひどい仕打ちをうけてもただただじっと受け入れるだけのイク。
    大学に入り上京してもなお両親からの呪縛は解けず、今度は両親の介護のために郷里を往復する日々が続く。
    そんなイクの傍らには常に犬がいた。

    なんて書くと、犬が心の助けになっている感動ストーリーみたいだがこれが全然違う。
    そこはあくまで昭和の犬。けっして愛玩動物ではない。
    犬を飼う目的が番犬だった時代のお話。
    あの頃は野良犬がそこいら中にいて、いつの間にか居ついてしまったり、知り合いの所で沢山産まれた子犬を貰ってきたり。
    飼い犬が鎖に繋がれていなくてウロウロしていたり。
    ついこの前の風景のようにも思えるが、平成になって四半世紀。
    もう一昔前の事か。

    犬の飼い方は変化し、女性の生き方もずいぶん変わった。
    イクの母親のように夫への愛情を感じないまま結婚生活を継続する女性は絶滅状態かもしれない。
    それでも、どの時代でも親の権力は絶対だ。
    昭和でも、平成でも。
    イクの様な子供が幸せをつかむことができますように。

  • 祝・直木賞受賞!
    ちょうど読んでいる最中に報を聞きました。

    滋賀県で育ち、家庭から脱出するように東京の大学に入った柏木イクという女性の50歳前までの話。
    自伝的小説です。

    父親は突然、理不尽に「割れた」ような怒り方をする。シベリア抑留が長く、悲惨な体験をしたのだろう。
    そんな夫に絶望している母親もどこか壊れている。
    イクは幼い頃はあちこちに預けられ、教会の託児所から移った初めての我が家は、仮設事務所だったので安く借りられたもの。
    山中に一軒だけ建つ、「ララミー牧場」の家のようだと思う。
    家には迷い込んだトンという黒い犬と、シャアという猫がいた。
    シャアは人懐こく優しい気立てだったので、イクは犬と猫の性質を逆に感じて育つ。

    身近にはいつも犬がいた。
    ただし、当時は犬を飼うといっても、繋ぐことさえするとは限らず、名前をつけて餌をやれば飼っているという。餌も残飯を与えるだけ。
    父親は犬に言うことを聞かせることが出来て、それは初めて会うドーベルマンですらそうだった。
    (犬が主人と認めるような権威を発散していたのでしょうね)

    そんな父のやり方を見ていたせいで、犬の扱いが上手いイク。
    何のとりえもないと感じていたが、学生時代に貸間を転々として住んでいるときに大家の飼っている犬の世話をしたり、何かと関わっていた。
    就職して住んだ家の大家の初音清香はお嬢ちゃまがおばちゃまになったような女性で、白い小型犬(ビションフリーゼ)のベルに洋服を着せて室内で飼っていた。
    そういう犬を初めて見たイクは違和感を覚える。
    まだ珍しい時代だったんですね。
    だんだん懐かれると、かわいくなってくるのだが。

    イクが35のときに父はなくなり、その後5年間は人が変わったように母は明るくなる。
    だがその後は病気になり、人が変わったのも病気ゆえの変調だったのかと思われた。
    両親がやや高齢だったので介護で往復するのも早い時期からあり、下宿先の初音家に病人がいたせいもあってか、どこか暗い印象を持たれるイク。

    子供の頃飼っていた犬ペーにそっくりなマロンという犬に出会う。
    思わずすぐに手を出して撫でたら、犬のほうもふしぎと嫌がらない。
    連れていた老人が散歩で通りかかる時間を見計らい、10分ほど犬と遊ぶ時間を過ごすことになる。
    ある日、ふとこれまでを振り返り、特別でない日々を送ってきた自分が幸せだったと感じるのだ。
    父を苦しめた戦争を経験することもなく、平凡に生きてこられた。
    そこに犬がいたせいで、父も母も癒されたことがあったのだろうと。

    ラストで幸福感が溢れるようになるとは、これまでの淡々として苦味のある描写からは予測していませんでした!
    親を見送った後の感慨というのは、実感としておおいに理解できます。
    作者とは世代が近く、テレビ番組はわかる方が多いし、犬の飼い方の変化もまさしく!かなり知っています。
    作者に比べると生まれたところが都市部なので状況も違い、ずっとのほほんとした育ちなので、申し訳ないぐらい幸せに感じますが(違う苦労はあるにしても)。

    「ハルカ・エイティ」と「リアル・シンデレラ」を前に読んでいます。
    どちらも直木賞候補作で、女性の半生記という点は共通。
    自伝ではないためか、この作品よりも優しい穏やかな筆致でした。
    作品リストを見ると、もっと挑発的で強烈なタイトルが多いのですが、そうでないのを読んだようです。
    この作品はやや離れた視点から幼い日のことを眺めていて、その冷静さがいいですね。
    感情移入したい人には、あるいはややとっつきにくいのかも知れませんが。
    感情がないかのように生きているイクに、実は大きく感情が動いていることが端々に見受けられるのが、読んでいて胸の詰まるところです。
    犬のことをべったりと書いてはいないのが、犬を飼ったことのない人には入りやすいのか?わかりやすいのかどうなのか。
    猫も犬もべたべた可愛がって育ててきた自分だったら、嫌いな人には付いてこれないぐらい甘い話を書きそうです(笑)

  • ああ、ヤバい…と思った時にはどっと涙があふれていました。

    『マロン』という名の犬と出会ったくだりあたりから。
    感想をレビューしようと本を開こうとするともうダメなんです。

    昭和を生き、時を経てはっきりと見える自分の今までの輪郭を捉えていく
    柏木イク自身と関わった犬たちの物語。

    風変わりな父母と一人っ子のイクの3人の生活。
    褒められることのない両親のぬくもりを感じない生活が
    自分を表現し、発する声そのものを出づらくさせてしまいます。

    全部自分の中に飲み込んでしまい、
    何事にも抗わず受け入れてしまうイク。
    そんなイクに刺激を与え、助けるように現れてくる犬や猫。

    厳しい環境のようであり、人々の心もおおらかだった昭和の風景。
    私も小2から12年間、自分の気持ちを上手く外に表現できない時に
    生活し隣で寄り添ってくれていた犬との思い出が洪水のように溢れてきました。

    イクの犬たちとの関わり方がとても素敵です。
    特に最後の方に出てくる『マロン』と一緒にいるときに
    大声で言う一言が…そんな風に思えたことが…涙・涙です。

    やはり動物とかかわることは、神様のはからいなんだと思います。
    会話ができないもの同士の感覚のコミュニケーションは
    深いところを揺さぶってきますから。
    ここぞ!という時に天から派遣されてきているんじゃないかと私は思ってます。

    巻末に載っているジョシュア・レイノルズ『小さき祈り』の絵に
    この物語を直木賞に選んでいただきありがとうございましたと感謝したくなる一冊です。

    あの時どうすればよかったのかをずっと探し続けたとしても
    イクさんのあの一言のような気持ちになれれば、
    どんな人生だったとしてもやはり幸せなんだと思います。

    小ずるく欲張りな私は、どれだけ先に進めばそうなるのか見当もつきませんけどね…。

  • イクの5歳頃から、50歳頃までの人生を綴ったお話し。
    キーワードはやっぱり「犬」ですね。
    いろんなワンちゃんと関わって、
    でもワンちゃんだけじゃなく、やっぱり父、母との関係性も複雑で、
    私の中ではすごくいろんな事が詰まった内容だったなと感じました。
    最後にはストンと納得させられるような。

  • 祝!直木賞受賞。

    今、自分の年齢と親の介護からも眼をそらさずに真っ直ぐに敬虔に生きてきたカオルコさんが著したこの本、重たいほどの感動を持って読み終わりました。
    犬を愛でるという経験を通して自分の半生を思い起こすと滋賀県の良く見知った(かつて心酔した「ツイラク」にて)風景や方言と共に両親との摩擦や友達との距離感をまた深く思い出します。それは柏木イクでもあり、森本準子でもあり、私であったのかもしれない。
    誰にも似てない、という評価、直木賞の選評であったと耳にしましたが、カオルコさんの本はずっと以前からこうでしたし、かつてのノミネート作もしかりですし、何を今更の撰者の言葉と思ったのですが、そこはそれ、本当にようやくの受賞、よかったよかった。
    この本は直木賞受賞作はご苦労様でした賞などと嘯いていたこれまでの(ダレとはいわないけれど)私の直木賞本への思いを覆しました。多分にひいき目もありますが。

    そんなに好きなのに!なぜ、発刊後即読みしなかったかというと『犬』だったから。これが『猫』だったらまた違ったのですが。

  • 淡々としたトーンで、自分の生い立ちや生活を不幸とはカテゴライズせずに、ただ息をひそめて「何とか」生きてきた半生が語られる。読み手それぞれのコアな感覚部分に触れる作品。子供の頃から生きるのが不器用で居場所がなかった人、親と分かり合えなかった人、孤独感の強い人、大きな支えを失った人、には尚更のこと響くものがあると思う。たとえ犬・猫に何の興味を抱かない人でも解る部分はあるだろう。

    最後の方で出会う”マロン”と飼い主の老人はこの小説では「救い」の象徴である。最近思うことであるが、ご老人の中には、その人と接するだけで癒しの感覚をもたらしてくれる特別な人がいる。色々な経験の積み重ねと、削ぎ落としたものの多さから来るものなのか、よくは判らない。だが、言葉では表せない”本質”の交流から何かを感じ取っているのだろう。他者(犬猫を含む)との交流から救いを感じられた人は幸せなのだろう。

  • 戌年スタートはこの本と決めていました。

    主人公の女の子が49才になるまでを描いた作品。その半生は、犬によって彩られてきました。

    この作品のいいところは、主人公、イクの淡々としたところだと思います。
    作中には「悲惨」と言われそうな人生を負った人物が数々現れます。

    戦時中を思い出して突如泣き出す、飲食店の親父さん。
    夫を亡くし、精神病にかかった二人の子どもを抱える大家さん。
    そして、夜中うなされ、時に理不尽なことで割れるように怒りを撒き散らす父親。

    そうした人の中で、これがいけないとか、これが正義だということは一切なく、悲しみはいだきながらも、淡々と成長していくイク。
    彼女の、押しつけのない静かさ、穏やかさ、真面目さが心地よかったです。この主人公じゃなかったら、作品は成立してなかったんじゃないかな?


    この本をおすすめしたいな、と思う人が知人にいます。
    その人も、こびりつくような悲しみを持った人で、私はあまり上手い言葉をかけられていません。
    この本を介してなら、一人じゃないですよと言ってあげられるんじゃないか……、そんな風に思っています。

    筆者・姫野さんの筆力に舌を巻きつつ、この本に出会えたことを感謝したくなります。

  • 後世に語り継がれる人生でなくとも、人が歩んだ時代というものは平等に尊い。人生の目的とは何かを人は暗中模索するが、そもそも生まれたからには、生き抜く事が使命なのだと私は考え至っている。平凡に飽き疑問を持って立ち止まっても、死ぬまで周りに迷惑を掛けても、償いきれない罪を背負ったとしても命尽きるまでなにがなんでも生きる。荒波を越えてこそ人の終着点はある。歩みというものは振り返ってこそ、その良さに気付くものだと目を細めた。良い事より被らなくて済んだ不幸のほうが多かったと、感謝する主人公の想いに私は同調し頷いた。

  • 猫派の自分が言うのもナンだが、犬こそが人間の最大の友になりうるペットだろう。それくらいに犬と人との結びつきは強いものだ。

    主人公・イクは、人付き合いが苦手な女性だ。その代わり犬と関わるのがとても得意である。イクは犬を通じて多くの人と出会う。
    この作品には、各章ごとにメインとなる犬が登場する(ちなみに各章のタイトルは、当時放映されていた海外ドラマのタイトルだそうだ)。その犬たちを通じて、イクはその飼い主あるいはその周辺の人びとと関わっていく。
    攻撃的な人、境遇が全く違う人、悩める人。コミュニケーションが取りにくい人同士でも、犬が間に入ると、驚くほどスムーズに交わせることがある。
    犬の話であり、人情話である。また昭和の断面図としても楽しめる作品だ。

  • 初姫野さん作品。なんか、不思議な雰囲気だけど、感覚的にわかる気がします。大人に気を遣う子どもだったな、私も。そのくせ気が強いからやりにくい子どもだったと思います(^^;; もちろん、トム派‼︎ ジェリー許すまじ。昭和の犬と平成の犬…願わくば、これからもワンコが人間に寄り添って暮らしてくれますように。

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