伊藤くん A to E

著者 :
  • 幻冬舎
3.24
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本棚登録 : 1616
レビュー : 278
  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344024588

作品紹介・あらすじ

伊藤に長い間片思いするが、粗末に扱われ続けるデパート勤務の美人。伊藤からストーカーまがいの好意を持たれる、バイトに身の入らないフリーター。伊藤の童貞を奪う、男を切らしたことのないデパ地下ケーキ店の副店長。処女は重いと伊藤にふられ、自暴自棄になって初体験を済ませようとする大学職員。伊藤が熱心に通いつめる勉強会を開く、すでに売れなくなった33歳の脚本家。こんな男のどこがいいのか。5人の女性を振り回す、伊藤誠二郎。顔はいいが、自意識過剰、無神経すぎる男に彼女たちが抱いてしまう恋心、苛立ち、嫉妬、執着、優越感。ほろ苦く痛がゆい著者会心の成長小説。

感想・レビュー・書評

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  • タイプの違う若い女性たちがある男性とどう関わっていくか。
    柚木さんにしては辛口の作品です。

    デパート勤務の智美は、性格もいい美人なのに‥
    5年越しのつきあいの伊藤くんに冷たくされて迷いながらも、正式な恋人になれないかと待っている。
    売れ残った高級なバッグに自分を投影したりしつつ‥
    伊藤くんは、有名大学出の塾の講師で、ハーフのような顔で服のセンスもいい。シナリオ作家を目指しているということで映画の話なども詳しいのだが。

    伊藤君に好きな女性が出来た。
    塾の受付のバイトをしている修子。
    学芸員の仕事を失い、バイトには身が入っていない。
    伊藤くんに好意を寄せられるが全く反応しないため、伊藤くんは思い込みだけのストーカー的な立場に。
    しかし修子もダメな時期だったのね‥

    聡子は、ケーキ屋のデパートの売り場の副店長。
    見るからに女っぽくて、男を切らしたことがない。
    親友の実希が好きな伊藤くんにふと近づき‥?

    実希は伊藤くんの後輩で、長い間片思いしている。
    綺麗だが男と付き合ったことはない。処女を捨てようと自棄になり、クズケンこと久住健太郎を誘い出すが、そこに‥?

    矢崎莉桜は脚本家で、伊藤の先輩。
    自分の部屋に後輩を集めて、ドラマ研究会を主催しているが、肝心の仕事は途絶え、部屋も汚れていくばかり。
    後輩の中で唯一の成長株が、久住。
    伊藤くんは自意識過剰だが冒険には乗り出さない。莉桜はその傾向を助長するような関係だった‥

    各話で、女性の側の闇の部分も出てきて、特に最終話は濃くて匂いがするようですね。
    女性たちの友情が出てくる部分が面白いです。
    伊藤くんは、この描かれ方だと全くどうしようもない。
    表面的にでも人を惹きつける部分があるだろうに描かれていないので、何でこんな男に惹かれるんだって感じだけど。
    シナリオライター目指してもなれないなんて良くあること。
    ‥と思ったら、それだけじゃない?!
    現実に、ここまであらわにならないだけの似たような人はいくらでもいそう。
    その辺もなおさらイタイ?(苦笑)

    ホットな久住くんは、なかなかいい男。
    うだうだしていた女子たちはこれから成長していく様子なので、すがすがしい。それが人生の鍵でしょ、って。
    伊藤くんも意外な姿を見せましたが、さて?

  • 落ち込んだ。
    伊藤くんも伊藤くんと関わった5人の女性も、さらにその周りの人達も、自意識との終わりのない戦いをしているように見えた。
    なんて生きづらいんだ。

    1人の人間を数人の視点で描く小説が結構好き。
    今回は伊藤くんを5人の女性の視点から見ている。
    伊藤くんがすごいのは、どの女性の視点からでもイライラすること。
    伊藤くんを好きな人も嫌いな人もいるのに、読んでいる私は常にイライラしていた。それがむしろすごいと思った。
    伊藤くんは多分「裏表がない」と評価されるタイプなんだろうと思う。
    誰に対しても同じように卑屈にも尊大にもなることが出来る。
    気分で態度がころころ変わる。
    あぁ~、やだやだ。

    でも、そんな伊藤くんの周りの人達も伊藤くんのこと偉そうに言えないよなと思うんだ。
    そしてもちろん私も。

    伊藤くんには私とは関係ない場所で頑張って生きてほしい。

  • 伊藤くん27歳、ルックス良し、センス良し、スタイル良し、頭良し。しかも実家は千葉の大地主。

    だが、イタい。イタすぎる。
    一方的に好かれて煮え切らないまま自分のプライドを保つためだけの曖昧な関係を続けるか、自分から恋したと思えばストーカー寸前、彼女の友達と寝る自分に酔う始末。

    伊藤くんもイタいが、周りで振り回されてる人々も実はそれぞれに独りよがりな部分を抱えているのよね。。。

    誰しも独りよがりで相手に自分の理想を投影させるから恋も生まれる訳で・・・実態を見抜いていたらそもそも恋なんて出来ないのかもしれぬ。

  • 直木賞受賞に至らなかったこの作品。
    その理由はどこにあるのか?
    朝井リョウと柚木麻子の違いから、その理由について考えてみる。

    ------朝井リョウと柚木麻子の小説は似ている。
    どちらも人間の自意識の過剰さや恋愛や友情のイタさを突いて、ストーリーを構築する。
    朝井の場合は男目線がメイン、柚木の場合は女目線がメインという違いはあるけれど。
    柚木さんの書く女の子の場合は、お喋りとお洒落と美味しいものが話題の中心だ。
    30年ほど前の田中康夫「なんとなくクリスタル」を彷彿とさせる部分もあり、風俗や流行に寄りかかり過ぎているような気がする。
    だからなのか、そこから奥への深みが今一歩足りない。
    朝井リョウの場合は、そこから一段高みに上がり、人間としての生き方の細部に渡っての心情に深く切り込んでいるところまで到達している。
    これは私の穿った見方だが、朝井リョウは中高とも男女共学、柚木さんは中高一貫の女子学生時代を過ごした二人の人生にあるのではないかと思ってしまう。
    いわば経験値の差だ。
    年齢こそ朝井君が下だが、人生経験としては彼のほうが男女間の機微についての感性が上回っているのじゃないだろうか。
    だから、柚木さんのは深みに欠け、選考委員から「世相のルポのようだ」と評されてしまうのではないか。

    この作品は実家が裕福でモテそうなイケメンにもかかわらず、脚本家を目指しながら何も実行できない、実はダメンズの伊藤君をめぐる5人の女性との物語。
    女目線から細かく心情描写されているのだが、どうも軽く上滑りしているように感じる。(最終章だけはやや異質な感じがするが)
    特に伊藤君を含め、男性の登場人物に共感しがたい。
    俺ならこんなことで萎えないようなあ、と思ったりするのだ。
    それは私が男だからというよりも、単に女性ならではの見栄や傲慢さ、或いは弱さ、センチメンタルなどのありきたりな感情から抜けきれない故のような気がする。
    女性にとっては共感する部分が多々あるのかもしれないが、男性読者にとっては、こんな女うざいと思う人が大半なのではなかろうか。

    どろどろした女の感性の発露満載で、なにより中心に位置する伊藤君は男性でも女性でもない中性に見える。
    だからこそ彼は敢えて徹底したモラトリアムであることに、生きがいや自分のアイデンティティを見出すしかないのではないか。
    小説としてはかなり面白いのだが、深く琴線に差し込んでこない。
    柚木麻子の作品を読むと、いつも今一つ物足りなさを覚える。
    永遠に分かり合えない女と男の感性ゆえだろうか?
    端的に言うと、男の私からすれば女臭さが強すぎる気がするのだ。
    そんなことを思いながら読み終えた。

  • 女子高生的に言えば「もおぉー、まぢ伊藤―!」って感じになろうか。
    プライドだけ高くて中身のないイケメン男、伊藤と、彼の周りにいる4人のオンナたちの、物語。
    不思議な男だ伊藤。離れたところから見ている限り、どこがそんなにいいのかさっぱりわからない。
    それなのに色んな立場のオンナたちが、この男に関わることによって、傷つき苦しみもだえ、そして見ないふりしていた「その先へ」と一歩を踏み出していく。なんなんだ。どういうことだ、伊藤。
    私なら絶対に関わらない。友達がこんなヤツに引っかかっていたら全力で反対する。そういうヤツなのに、なぜか気になるオトコなのだ、伊藤。大っ嫌いなのに憎めない、サイテーなのに目が離せない、なんなんだ、伊藤。
    あぁ、そうか。伊藤に振り回されているようで、実はこいつを踏み台にしてみんな目の前のドアを開け放つ力を手に入れていくってことか。不思議なオトコだ、伊藤。一度くらいなら一緒に飲んでやってもいいな、伊藤。

  • 映画化されるということで。
    GINGER連載なのもあり、どたばたラブコメディを想像していたのですが全く違くってびっくり。
    伊藤くんと、彼に振り回されるまわりの女性たちの話が5編です。
    色白ですらっとした長身、海外モデルのような端正な顔立ちに洗練された身のこなしの遊び人、伊藤くん。
    ああーこういうセフレが複数いる根無し草みたいな男いるなぁーという印象をまず受けた。
    けれど一体どういうことか。
    読み進めるにつれその化けの皮はみるみる剥がれ、残ったのはずいぶんちっぽけでちゃちな自尊心を守る童貞だ。
    傷付くことを何より恐れていて、いっさい挑戦しない。何も創らない。永遠に始めない。さあどうぞ、とお膳立てされるのを雛鳥のように口を開けて待っているだけ。自分に自信がなくて、でもそのことを自分が一番理解していて、開き直っているのだ。
    安全な高みから、地に足つけてがむしゃらに頑張っている人を傍観者的に批判するのはどれだけ心地いいだろう。
    いろいろな屁理屈をこねて、やらない自分を正当化するのだけは得意なんだ。
    朝井リョウの「何者」を読んだときのような背筋の冷たさを感じたとんでもない話でした……。自分のことを言われているようだった。

    これが今年読んだ最後の一冊かな。
    来年はやるぞ。

  • 千葉の地主の息子として生まれて、大学を卒業してからもたいした定職も持たずに口ばかりでシナリオライターを目指し、臆病で中身がないくせにプライドが高くて女性を見下したろくでもない男、伊藤くん。
    彼を5人の女性の視点から描いた連作短編集だ。
    ろくでもない、というところだけは共通しているがそれぞれの視線によって描かれる伊藤くんの姿はさまざまで、読んでいるうちに輪郭がぐにゃぐにゃとゆがむ。
    面白いのはどの女性もが伊藤くんと「似ている部分がある」と感じること。
    まったくいいところなどなくて絶対に友達になりたくない男だけれど、なぜか一冊読み通したくなる不思議な引きがある。

  • どうしようもないだめんずな伊藤君にいろんな意味で振り回される5人の女性の物語。伊藤君に照準を合わせて読むと果てしなくイラつくので、女性たちに同情したり感情を寄せて読むのがコツ…といいたくなるくらい、伊藤君の傍若無人・顔以外取り柄なしというキャラは強烈でした。
    けれどそんな彼にいやおうなしに影響されてしまう女性たちが、だからといって愚かだとは思えなく、それはそれであるかもしれない、と思えてしまうリアルさがありました。ダメな人間だから嫌いになる、というようなわかりやすい感情回路があるのなら、数多の恋愛物語は生まれてませんな。
    もっともこのお話のキモは、狂言回しの伊藤君によってそれぞれのかたちで自身を見つめなおして、一歩を踏み出したり、自身を変えていこうとする女性の姿のほうにあります。
    彼女たちの情けなくも泥臭くも、けれども確かに地面を踏みしめているな、涙を流しているな、というリアルがとても身近に感じられたのでした。

    ……それにしても、伊藤君腹立つ(率直かつ端的な感想)。

  • 伊藤くんは、鏡だ。
    彼と関わる女性たちの、理想、嫉妬、嫌悪、優越感、そういった内側の、ネガティブな磁場を映し出してしまう。他者からどう見られているか、見えているかを、伊藤くんを通して自分の姿を、自分を見る他人の姿を否が応でも見てしまう。伊藤くんは、ブラックホールのような、皇居前広場のような空虚な存在でありながらも生々しい感情を湧き上がらせる存在として立ち上がる。
    あるいは、伊藤くんは人間関係のほころびであり、裂け目のような存在。「東京」という都市空間で生きることの息苦しさと相まって、関係性の網の中でもがいている登場人物たちの姿には、身につまされる人もいるかもしれない。それでも、p。230の伊藤くんの独白の破壊力といったら。ぜひ最終章までじっくり読んでほしい。


  • 口だけ偉そうなこと言ってプライドばかり高くて
    特に努力もなにもしない伊藤くん、クズ!!と何度も叫びたくなるくらいムカついた。笑
    でも冷静に考えると自分にも少なからずこういうところがあるなあと思って、そう考えるとぐさぐさ刺さりますね。
    伊藤くんに散々振り回されて成長する女の子たちと、なんにも成長しない伊藤くんの対比がすごい。
    伊藤くん?あ、そういえばそういう人いたねって忘れるくらい彼女たちには幸せになってほしい!笑

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著者プロフィール

柚木 麻子は日本の小説家で、1981年 東京都世田谷区生まれ。

立教大学文学部フランス文学科卒業。
大学在学中から脚本家を目指してシナリオセンターに通い、ドラマのプロットライターを勤めたこともあった。
卒業後は製菓メーカーへの就職を経て塾講師や契約社員などの職のかたわら小説の賞に応募し、2008年に第88回オール讀物新人賞を受賞した。受賞作「フォーゲットミー、ノットブルー」を含む初の単行本『終点のあの子』が2010年に刊行された。

2014年に『本屋さんのダイアナ』で第3回静岡書店大賞 小説部門受賞。
『伊藤くんA to E』『本屋さんのダイアナ』『ナイルパーチの女子会』『BUTTER』が直木賞の候補作となる。

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