- Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344024588
作品紹介・あらすじ
伊藤に長い間片思いするが、粗末に扱われ続けるデパート勤務の美人。伊藤からストーカーまがいの好意を持たれる、バイトに身の入らないフリーター。伊藤の童貞を奪う、男を切らしたことのないデパ地下ケーキ店の副店長。処女は重いと伊藤にふられ、自暴自棄になって初体験を済ませようとする大学職員。伊藤が熱心に通いつめる勉強会を開く、すでに売れなくなった33歳の脚本家。こんな男のどこがいいのか。5人の女性を振り回す、伊藤誠二郎。顔はいいが、自意識過剰、無神経すぎる男に彼女たちが抱いてしまう恋心、苛立ち、嫉妬、執着、優越感。ほろ苦く痛がゆい著者会心の成長小説。
感想・レビュー・書評
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さすが、柚木麻子さん。
人の嫌な部分、多分みんなが目をそらしている嫌な部分をさらりとわかりやすく書いておられる。伊藤くんはいいとこのぼんぼんだけど、苦労知らずのクズ。イケメンなことが、話をやこしくする。
伊藤くんの大学時代の仲間とそのまた仲間の物語。
少しずつ、皆が伊藤繋がり。
20万のバッグ繋がりの2人、素敵だった。
その後、出てくる洋菓子屋勤務の女の子。
ずっと本心を伝えたことない大切な友人って、ほんまに友人なんか?
クズケン、すきだあー、がんばれ。
最後のどんでん返しも、驚きでした。
そういや、職場に似たタイプの人がいるなあーと思い浮かべて、なんともいえない気持ちになる。関わってるとき、ものすごい違和感があるのを思い出した。
伊藤くんは、クズだけど役にもたってる。
結局、受けとり方次第なのかも。
受けとり方次第で生き方がかわる!!
行き詰まっている毎日が、変わるかもしれない一冊
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すごく良かった。
映像化作品が酷評されていたことや、以前読んだ同じ著者の『マジカル・グランマ』にはあまり入り込めなかったこともあり、そこまで期待していなかった。ただ、サラッと読める軽いものが読みたかったので手に取ったというだけ。
思った以上にドロドロしていて、全然軽くはなかったけど、ここまで感情移入して物語を読めたのは久しぶりだった。
題名にもなっている"伊藤くん"はいわゆるクズ男。有名大卒で、見た目もいいけど、定職に就かず金持ちな実家の脛を齧り続け、知識はあるけど知恵はなく、そのくせプライドは謎に高く、夢見がちで現実を受け入れられない。そしてなんということでしょう、こんなクズなのに女にモテる。
同じ女として「おい!!こんな男に惚れてどうする!!」と叱りたくなる反面、「女って、結局こういう男が好きなんだよねぇ…」と変に納得してしまう自分もいる。
この本は、A〜Eまで、伊藤の周りにいる5人の女の子をそれぞれ主人公とした短編構成。
なんとなーくの前情報で、「5人の女の子全員伊藤のことが好きなのか?」と思っていたが、そんなことはなく伊藤のことを「好き」「嫌い」「軽蔑」「同情」など、5人それぞれが様々な思いを抱えて彼を見つめていた。普通、短編っていうとどれか一つは「これはあんまりだったなぁ…」というのが混じっているものだが、今回はそれが一つもなかった。
智美も修子も聡子も実希も莉桜もどこか自分だった。お気に入りのシーンがいくつもある(ここに書き連ねようかと思ったが、脈絡もなくなるので辞めておく)
そして一つの気づき。この本の中でちょくちょく『風と共に去りぬ』が登場する。『マジカル・グランマ』でも登場したので、単に作者が好きなのかなあ…と思ったら…なんと気づいてしまった、伊藤とアシュリ、少し似ている!!
アシュリはさすがに伊藤ほどのクズ男じゃない(と思いたい)が、見た目よし、貴族の出身、知識は豊富だけど実生活では役に立たないものばかり知っている、いざ仕事をやらせたら頼りにならず、結局仕事のできるスカーレットになんとかかんとか食わせてもらっている、戦後で厳しい状況に置かれてもなお、貴族時代の優雅な思い出が忘れられず、現実を受け入れられない、プライドを捨てられない…
いやちょっと待って!!!
こう考えてみると、アシュリ結構伊藤と張るぐらいのだらしなさだな!?てことは、実希はスカーレットで聡子はメラニー、クズケンはレッドバトラー…!?細かいところは置いといて、結構重なる。
ほんとのところは作者にしかわからないけど、こうやって想像を膨らませるのも楽しかった。
いろいろ書いたけど、伊藤は本当にクズで救いようもない男。
周りはそれに散々振り回されて結局傷ついて。
でもでもでも、5人の女たちが物語の最後、ちょっと変わった自分になれたのは、伊藤という存在があったからこそなのだ。彼がいなかったらそもそも物語は始まっていなかった。こんなこと言ったら、彼は鼻息立てながら得意げになるだろうか。
けど別に私は伊藤を讃えたいわけじゃない。
むしろ5人の女たちを讃えたいのだ。
こんなクズに人生振り回されても、自分次第でそれすら明日への踏み台に変えていけるのだ。
伊藤という存在は多分、誰の心の中にでもきっといる。「傷つきたくない」「変わりたくない」という願望そのものなのかもしれない。だからこそ私たちは彼から目を離せない。
やっぱり本を読むっていうことは自分を知るということなんだとつくづく思う、一冊だった。 -
タイプの違う若い女性たちがある男性とどう関わっていくか。
柚木さんにしては辛口の作品です。
デパート勤務の智美は、性格もいい美人なのに‥
5年越しのつきあいの伊藤くんに冷たくされて迷いながらも、正式な恋人になれないかと待っている。
売れ残った高級なバッグに自分を投影したりしつつ‥
伊藤くんは、有名大学出の塾の講師で、ハーフのような顔で服のセンスもいい。シナリオ作家を目指しているということで映画の話なども詳しいのだが。
伊藤君に好きな女性が出来た。
塾の受付のバイトをしている修子。
学芸員の仕事を失い、バイトには身が入っていない。
伊藤くんに好意を寄せられるが全く反応しないため、伊藤くんは思い込みだけのストーカー的な立場に。
しかし修子もダメな時期だったのね‥
聡子は、ケーキ屋のデパートの売り場の副店長。
見るからに女っぽくて、男を切らしたことがない。
親友の実希が好きな伊藤くんにふと近づき‥?
実希は伊藤くんの後輩で、長い間片思いしている。
綺麗だが男と付き合ったことはない。処女を捨てようと自棄になり、クズケンこと久住健太郎を誘い出すが、そこに‥?
矢崎莉桜は脚本家で、伊藤の先輩。
自分の部屋に後輩を集めて、ドラマ研究会を主催しているが、肝心の仕事は途絶え、部屋も汚れていくばかり。
後輩の中で唯一の成長株が、久住。
伊藤くんは自意識過剰だが冒険には乗り出さない。莉桜はその傾向を助長するような関係だった‥
各話で、女性の側の闇の部分も出てきて、特に最終話は濃くて匂いがするようですね。
女性たちの友情が出てくる部分が面白いです。
伊藤くんは、この描かれ方だと全くどうしようもない。
表面的にでも人を惹きつける部分があるだろうに描かれていないので、何でこんな男に惹かれるんだって感じだけど。
シナリオライター目指してもなれないなんて良くあること。
‥と思ったら、それだけじゃない?!
現実に、ここまであらわにならないだけの似たような人はいくらでもいそう。
その辺もなおさらイタイ?(苦笑)
ホットな久住くんは、なかなかいい男。
うだうだしていた女子たちはこれから成長していく様子なので、すがすがしい。それが人生の鍵でしょ、って。
伊藤くんも意外な姿を見せましたが、さて? -
落ち込んだ。
伊藤くんも伊藤くんと関わった5人の女性も、さらにその周りの人達も、自意識との終わりのない戦いをしているように見えた。
なんて生きづらいんだ。
1人の人間を数人の視点で描く小説が結構好き。
今回は伊藤くんを5人の女性の視点から見ている。
伊藤くんがすごいのは、どの女性の視点からでもイライラすること。
伊藤くんを好きな人も嫌いな人もいるのに、読んでいる私は常にイライラしていた。それがむしろすごいと思った。
伊藤くんは多分「裏表がない」と評価されるタイプなんだろうと思う。
誰に対しても同じように卑屈にも尊大にもなることが出来る。
気分で態度がころころ変わる。
あぁ~、やだやだ。
でも、そんな伊藤くんの周りの人達も伊藤くんのこと偉そうに言えないよなと思うんだ。
そしてもちろん私も。
伊藤くんには私とは関係ない場所で頑張って生きてほしい。 -
伊藤くん27歳、ルックス良し、センス良し、スタイル良し、頭良し。しかも実家は千葉の大地主。
だが、イタい。イタすぎる。
一方的に好かれて煮え切らないまま自分のプライドを保つためだけの曖昧な関係を続けるか、自分から恋したと思えばストーカー寸前、彼女の友達と寝る自分に酔う始末。
伊藤くんもイタいが、周りで振り回されてる人々も実はそれぞれに独りよがりな部分を抱えているのよね。。。
誰しも独りよがりで相手に自分の理想を投影させるから恋も生まれる訳で・・・実態を見抜いていたらそもそも恋なんて出来ないのかもしれぬ。 -
意外に重かった。また、通勤電車に相応しくないものを選んじまった。でも、後悔はしていない。
明らかにオッさんの読む内容じゃないし、いけすかない男と、なぜかそれに影響を受ける女性たちが出てきて、まったく縁遠いワールドだったけど、わりと楽しめました。 -
イケメンだけど性格最悪なおぼっちゃま・伊藤くんと、彼を好きな女性、つきまとわれてる女性、伊藤を転がして内心あざける女性たち。
心の余裕があるときにだけ、開いて読むことをオススメ致します。
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伊藤くんの周囲の女性たちが主人公の、5本の連作短編集。
伊藤くんはもちろん好きなれないのですが、かといって、それぞれの女性たちも好きになれない…。
まれにみる、応援したい人がひとりもいない小説でした。
「傷つけられない」ことを絶対的な信条にして、分厚い鋼鉄の殻にとじこもり、やらない言い訳をふりまきまくる伊藤くん。
「世の中にはこんな人もいるんだな…、広いな世の中って…」と思いました。
(いや、多分おぼっちゃまでもイケメンでもないけど、伊藤くんみたいな芸人さんいたな、1人…)
そんな彼にふりまわされ、傷ついてボロボロになるまわりの女性たち。
でも、よくよく見ると、その女性たちもまわりが見えなさすぎて自分が大事なあまり、無意識の悪意や無邪気な善意でことごとく、他の人をボロボロに傷つけています。
最初は伊藤くんのイタさを嘲っていたはずなのに、気がつくと「もしかしてわたしも、この女性たちみたいにイタいとこ、あるんじゃ…」と不安になってくる、そんな小説です。
読み終えてもスッキリはしないし、読んでいるあいだ中、伊藤くんや女性たちにイライラしっぱなしでしたが、でもなぜか最後まで読んでしまった事実に著者の力量を感じ、おそろしくなるのでした。 -
周りの人がとにかく伊藤くんに振り回される話。
AtoEだけど構成はA〜DとEに分かれていて、A〜Dの4人の女性の視点から描かれる伊藤くんはそれぞれ全然違う人に見えてくる。
途中まで面白かったのだけど、あまりすっきりしない終わり方だった。 -
直木賞受賞に至らなかったこの作品。
その理由はどこにあるのか?
朝井リョウと柚木麻子の違いから、その理由について考えてみる。
------朝井リョウと柚木麻子の小説は似ている。
どちらも人間の自意識の過剰さや恋愛や友情のイタさを突いて、ストーリーを構築する。
朝井の場合は男目線がメイン、柚木の場合は女目線がメインという違いはあるけれど。
柚木さんの書く女の子の場合は、お喋りとお洒落と美味しいものが話題の中心だ。
30年ほど前の田中康夫「なんとなくクリスタル」を彷彿とさせる部分もあり、風俗や流行に寄りかかり過ぎているような気がする。
だからなのか、そこから奥への深みが今一歩足りない。
朝井リョウの場合は、そこから一段高みに上がり、人間としての生き方の細部に渡っての心情に深く切り込んでいるところまで到達している。
これは私の穿った見方だが、朝井リョウは中高とも男女共学、柚木さんは中高一貫の女子学生時代を過ごした二人の人生にあるのではないかと思ってしまう。
いわば経験値の差だ。
年齢こそ朝井君が下だが、人生経験としては彼のほうが男女間の機微についての感性が上回っているのじゃないだろうか。
だから、柚木さんのは深みに欠け、選考委員から「世相のルポのようだ」と評されてしまうのではないか。
この作品は実家が裕福でモテそうなイケメンにもかかわらず、脚本家を目指しながら何も実行できない、実はダメンズの伊藤君をめぐる5人の女性との物語。
女目線から細かく心情描写されているのだが、どうも軽く上滑りしているように感じる。(最終章だけはやや異質な感じがするが)
特に伊藤君を含め、男性の登場人物に共感しがたい。
俺ならこんなことで萎えないようなあ、と思ったりするのだ。
それは私が男だからというよりも、単に女性ならではの見栄や傲慢さ、或いは弱さ、センチメンタルなどのありきたりな感情から抜けきれない故のような気がする。
女性にとっては共感する部分が多々あるのかもしれないが、男性読者にとっては、こんな女うざいと思う人が大半なのではなかろうか。
どろどろした女の感性の発露満載で、なにより中心に位置する伊藤君は男性でも女性でもない中性に見える。
だからこそ彼は敢えて徹底したモラトリアムであることに、生きがいや自分のアイデンティティを見出すしかないのではないか。
小説としてはかなり面白いのだが、深く琴線に差し込んでこない。
柚木麻子の作品を読むと、いつも今一つ物足りなさを覚える。
永遠に分かり合えない女と男の感性ゆえだろうか?
端的に言うと、男の私からすれば女臭さが強すぎる気がするのだ。
そんなことを思いながら読み終えた。