愛を振り込む

  • 幻冬舎 (2013年10月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784344024779

感想・レビュー・書評

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  • 一枚の千円札でつながるお互いには見知らぬ女たち。札幌を舞台に、それぞれもがきながらも普通に生きてる、主人公たち。
    どの人にも共感できない部分を感じながらも、一つ間違えたら同じような立場になりかねないと思える、何も知らなければごく普通に見える人たちなんだろうと思えた。
    きっと同じ境遇の人々は、自分が知らなくても電車で隣になっていたりカフェで横にいたりするものなんだろう、と思う。
    どのストーリーも、希望が見える終わり方なのがまた良かった。

  • 1枚の千円札で繋がった6人の女の物語。

    それぞれがもがき苦しんでいる。
    好感の持てる主人公がいないけれど、とても興味をそそられる女たちばかり。
    誰でも、何処のボタンをかけ違ったは、そんな風になってしまうかもという絶妙なストーリーでした。

    表題作が好みでした。
    通帳のメッセージ、届いているといいな。

    そして、みんな、きっと前進している。

  • 短編ながら、つながっている感じが、たまらない。世の中はそんなつながりで動いているのかも。人の弱さと醜さを上手に作品にしてくれる女性作家の1人。好み。

  •  この人の小説を読むのは、3年前のデビュー短篇集『自縄自縛の私』以来2冊目である。なので『自縄自縛の私』と比較するしかないのだが、3年の間に目覚ましい進歩を遂げていてビックリ。小説家として一皮むけたという印象だ。

     『自縄自縛の私』は、映画化された表題作は傑作だったものの、ほかの4編は習作の域を出ていなかった。
     対照的に、全6編(+エピローグ)の連作短編集である本書は、6編とも水準以上の出来。とくに、後半3編は掛け値なしの傑作だ。

     アブノーマルな性の世界を扱うなど、キワモノ的な面もあったデビュー短篇集に比べ、本書はわりとフツーの恋愛小説集になっている。性描写はあるもののそれがメインではなく、性描写にも文学的香気があるのだ。

     フツーといっても、この著者のことだから甘ったるい恋愛小説にするはずもなく、6編ともビターでひねりの効いた“異形の恋愛小説”になっている。

     たとえば「不肖の娘」は、東電OL殺人事件の被害女性を彷彿とさせる、デスペレートな売春行為をくり返すOLがヒロインだ。また表題作は、普通なら恋愛小説の主人公にはならない、見る者をぎょっとさせるような醜女がヒロインである。
     にもかかわらず、2作とも恋愛小説としか呼びようのない作品に仕上がっている。とくに、表題作の哀切なラストシーンは素晴らしい。

     赤インクで汚れた1枚の千円札が6人の女性たちを結ぶ“バトン”となるという趣向も見事に決まっているし、短篇集としてのトータルな完成度が高い。

  • 読み終わって 改めて 表紙を見て なるほど 「愛を振り込む」ね…1枚の 千円札が 次々と 女性に 渡っていく…物悲しくて 滑稽な 短編集。

  • 「フィッターXの異常な愛情」が秀作だったので読んでみたのですが、想定しているターゲット読者が女性であろう事を鑑みても今ひとつ嗜好が合いませんでした。ただ、千円札の仕掛けはお見事。

  • 同年代の人が書いた感じがする…と思ったらやはり。2歳違いだった。
    女性像がまさにありのまま。それだけに身につまされてつらいとこもあるけど、全体的には連作短編形式もよかったし、面白かった。

  • 気になる作家蛭田亜紗子。拇印のついたある一枚の1000円札が女から女へとわたっていく。今後も読み続けたい気になる作家のひとりである。

  • カフェ女とつけ麺男はインパクトあったなあw
    連作というよりは一枚の千円札が人から人へ渡っていくという繋がりで構成されている一冊で読みやすいし、エロ描写もやっぱりいいし、巧いなと思った。

    正常そうでどこかいびつでなんか人間味があってそれぞれの登場人物にあって、ああいるなあって思える。

  • 男女が入り乱れる凄まじい6つの連作短編。とあるものがきっかけになり、いろいろ振り回されてしまうという感じ。愛・お金・暴力・快楽などをふんだんに盛り込み、波乱万丈に仕上げている。頭がクラクラするようなくらい黒い部分もあり、楽しめた。

  • 不倫の清算でつかった拇印の朱がついた千円札。そのお金の持ち主となる女性を描いた連作集。
    設定こそ面白いものの、女性たちがみんなどこか薄暗い。いずれも最後は少しなりとも前進しているような爽やか風味なんだけど、よく考えたら状況が好転しているわけでもないので、もしかして開き直り?!と感じたり。
    会ったこともない人のブログが更新されるたびに千円を振り込む表題作は、なんだか清らかで良かったけど。
    なんか作者が他の人と言われても違和感なく受け入れてしまえそう。蛭田さんの個性をもっと知りたいので、他も読んでみよう。

  • どこにでもいる冴えなくて、
    "センスのない"女性を描くのが上手い。

    例えば第三話に出てくる、絹代の一言
    「・すごいことになってるでしょ。そこ。
    今度は私のターンね」

    最中に女性にこんなこと言われると自分なら引く。
    それを学習しないまま年を重ねたのは、彼女自身が自営業に勤しんでいたことに理由があるのかはわからないが、
    ここ数年彼氏が居ない彼女の理由にピンと来る。

    それと、第六話の穂乃果が意中の相手との念願のディズニーデートでの描写。

    休憩しに入ったレストランでミッキーマウスのかたちをしたピザを齧りながら。


    僕もディズニーでミッキーマウス型のピザを食ったことあるけど、食べづらい上にさほど美味くなかった記憶がある。

    いとこと分け合いながら食ったピザも最後は残して親に渡したか捨てたかは忘れてしまった。
    10年以上前の出来事でもまだ覚えているくらいまずいピザをこの穂乃花は高齢にして迎える念願の初デートでまんまと選んでしまい、尚且つそれを良い思い出として昇華してしまう。

    冴えない人というのは、センスの悪さからくるどことなくツキの悪さみたいなものもあって、
    この文を読んだときに、この穂乃花はただ経験に乏しいだけでなく、
    始めて迎えるデートの一つ一つの行動でさえ上手くいかないものなんだなと。

    そのデートでの食事に付き合わされている相手の男の冴えない表情まで浮かんできて、とことん救いようのないものに感じられた。

  • 心に葛藤や悩みを抱える女性達を描いた連作短編。ここまでギリギリの心情や行動を描いた内容は痛いけど面白い。お金が絡む展開で余計に生々しくてリアル。最後はほんの少し前進してるのが救い。汚れた千円札が象徴的だった。

  • R18文学賞受賞者らしい1冊といえばそうなんだけど(ちなみにこの本は窪美澄さんのツイートで存在を知った)、軽薄な部分がありつつも、登場人物たちの気持ちにぐいっと寄っていく部分もあって、作品としてバランスがいいなと思った。
    登場人物にそこまで感情移入できないのに、なんとなく”わかって”しまうのは私が女だからなのかも。

  • 苦い思い出が生んだ千円札が旅するように、さらなる苦い思い出を背負い込んで続く連作短編小説。薄汚れていく一枚の千円札が物語をつないで行きます。
    さすがR18文学賞受賞者ってだけあってエロさもグロさもちょうどよい感じで交り合っており、特異な描写も受け入れ安い印象。
    愛と哀が織り交ざってそこにどーんとエロというスパイスをどっぷりかけた毒々しい短編たち。蛭田さんの作品はすべて読んでますが、落とすのが上手だなと思う。毒々しく落とす。あのはじまりの千円も、実はロリコンだったとか、夢見た世界から一気に突き落とす感じが越えて爽快。
    ただ、おもしろくはなかったかな。無理して連作にしなくてもよかった気もする、個人的にですが。エピローグにつなぐ第一話の主人公・みず帆が単に好きになれなかった。確かにみず帆の苦い思い出により千円札の旅が始まったからエピローグをつくるならみず帆で締める必要はあったのかもしれないけど。
    愛を振り込む、ってタイトルが哀切。そして表題作の短編が一番好きでした。

  • 切々とした女性たちの気持ち。
    共感したりしなかったり、でもどの短編もどっぷりとその世界につかって、彼女たちの痛みがストレートに伝わってくる。
    蛭田さんの作品は、冷たいようで、でもあたたかい何かもあって、前をむける感じがする。一枚の千円札がつなぐ物語。

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著者プロフィール

1979年北海道札幌市生まれ、在住。2008年第7回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、2010年『自縄自縛の私』(新潮社)を刊行しデビュー。そのほかの著書に、『凜』(講談社)『エンディングドレス』(ポプラ社)『共謀小説家』(双葉社)などがある。

「2023年 『窮屈で自由な私の容れもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

蛭田亜紗子の作品

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