山女日記

著者 :
  • 幻冬舎
3.61
  • (96)
  • (340)
  • (329)
  • (36)
  • (4)
本棚登録 : 2017
レビュー : 338
  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344026018

作品紹介・あらすじ

私の選択は、間違っていたのですか。真面目に、正直に、懸命に生きてきたのに…。誰にも言えない苦い思いを抱いて、女たちは、一歩一歩、頂きを目指す。新しい景色が、小さな答えをくれる。感動の連作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 湊かなえさんのホワイトの方(笑)
    妙高山、火打山、槍ヶ岳、利尻山、白馬岳、金時山、トンガリロ、七つの山が織りなす物語。
    登山を絡めた人間模様を、関わりある人達で描く清涼剤的短編集。タイトルからも察するように女性達が軸の山登りなのですが、胸中に秘めたそれぞれの疑問や不安を抱えてるものが他の人と関わりながら頂上にたどり着く頃にはちよっとだけ靄が晴れ、方向性が見えてきたり肯定的に捉えられるようになるというのは、やはり大いなる山の神様の魅力も加担されているからなのでしょう。それぞれ面白かったですが、中でも「火打山」の章から目的地は過去の中にあったと気づくお話が感慨深かったです。

    このお話の女性達のように
    頂上の標柱に駆け寄りポーズを決める、遥か見渡す山々に向い大声で叫んできたくなる(笑)ずっと重いと思っていた荷物は案外、軽いかもしれない。山に置いてくるものは何だろう…山がくれるものは何だろう…
    そんな想像を楽しみながら心地よく読み終えた一冊に。わたしは山ガールではないんですけどね(笑)これを読んだら、自分の身を普段とは違った高さに置きたくなりました。見えないものがきっと見渡せそうな気がして。

  • 今を強かに生きる女達の
    悲喜こもごもがパンパンに詰まったリュックを背負わされ、
    さぁ、
    山の頂まで登るよ!
    息切らして
    汗だくで、足が棒になるまで苦しんで
    てっぺんまで行くよ。
    どんな事も
    (見下ろせば小さな事なんだ。)と自覚する為に
    さぁ、行くんだよ。

    わかっちゃいるが
    肩に食い込むリュックは重い。
    しかも、上り坂を歩き続けるという負担は相当なもの。
    そうやって
    苦しんで
    息切らして
    辿りついたゴールに何がある?
    頑張った<甲斐>は本当にあるの?

    途中、やばいくらいに
    大泣きした。

    何でだろ?

    多分、私が根性なしだからだな。(笑


    彼女達が見た、山頂からの景観は素晴しかった。
    でも、
    人生観は変わらない。
    絶対に変わらない、と思った。

    それより、
    担いできた<荷物>が、
    少なくとも<お荷物>ではなかった、と言う事に気付く事が出来て、晴れ晴れとした気持ちになれた。

  • 冒頭───
    午後11時、新宿駅バスターミナルに集合。ここから夜行バスで長野駅に向かう。10分前に到着した。まだ誰も来ていない。いつものことだ。
    数メートル先にいるおばさんたちのグループは四、五人集まっていて、切符やアルミホイルに包んだおにぎりらしきものを配り合っている。チェックのシャツに裾をしぼった八分丈パンツ、という姿。足元には、脇にストックを差し込んだ25リットルから30リットルサイズのリュックを置いている。
    あの人たちも山に向かうのだろう。「山ガール」とは言えそうにないけれど。しかし、さ来月には30歳になるわたしも、他人のことを言えた立場ではない。おばさんたちは全員お揃いの藍染のスカーフを巻いている。けっこうかわいい。
    気持ちはガールなのかもしれない。(妙高山)

    空に向かい歩いてきたはずなのに、星空は地上にいる時よりも、高く遠いところにある。それでも、星の数は地上で見るよりはるかに多い。(火打山)

    “イヤミスの女王”湊かなえは、あまり後味の良くない女性のどろどろした物語しか書かないのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
    こんな素敵で爽やかな山女小説も書けるのだ。

    日本国内六つ、海外一つの山に登る女性たちを描いた七つの連作短編集。
    全く独立しているわけではなく、細かいところでリンクしあっており、それを最終章の“トンガリロ”では、見事にまとめあげている。
    全体の構成も素晴らしいのだが、登場人物たちが、山に登ったことで日常のしがらみから解放されるせいか、思いのたけを毒舌的に発散する言葉の表現が新鮮で楽しくて笑える。

    ───例えば
    トリカブトに猛毒があることなんて教えなければよかった。不倫相手の奥さんがもし殺されでもしたら、私も協力者になってしまう。(妙高山)

    バリバリと仕事をこなすキャリアウーマンとでも思われていたのだろうか。仕事は忙しいが、老人ホームの事務員にキャリアウーマンという言葉は似あわない。そもそも、こんな言葉はとっくに死語と化しているはずだ。では、今は何と呼ばれているのだろう。大人女子? これでは仕事をしている人としていない人の区別がつかない。(火打山)

    「私、小学校の時のあだ名が金太郎のキンちゃんだって話したことあったっけ」(中略)
     母親の手先がなまじ器用だったため、私の散髪は幼い頃から母がやっていた。しかし所詮は素人芸。バリエーションは縦横まっすぐに切りそろえたおかっぱだけ。小学一年の段階で、(中略)子どもがそんな髪型をしていたら、悪意もなにも関係なく、周りは金太郎を思い浮かべるだろう。
     おまけに、町内会主催の「ちびっこわんぱく相撲」に優勝賞品のゲーム機欲しさに参加して、低学年の部で三年生の男子を倒して優勝したのだから、その名は不動のものとなった。(金時山)
     等々、もう爆笑である。
    読みながら、これまで気付かなかった湊かなえのユーモアセンスに感心したと同時に、表現が綿矢りさに似ていると感じた。

    山に登るということは、何かを発見することでもあり、何かを捨てることでもある。
    新しい自分になって旅立つために、或いは過去の自分に別れを告げるために。
    山に登り、新たな人たちと出会うことや山の頂きへ到達することで、それまで知らなかった自分を見出すのだ。

    この七つのエピソードはどれもが起承転結のよく練られた素晴らしい物語だと思う。
    それぞれの“山ガール”たちの心情も読者に深く沁みわたってくる。
    そして、先に挙げた随所に散りばめられたユーモア表現。
    最初から最後までとても面白く、読み終わるのが惜しいとまで思った。
    ここ何か月か読んだ本の中で最も私を楽しませてくれた一冊だ。
    湊かなえの新しい一面を発見した作品。

    第152回直木賞候補作に推薦します!!

  • 湊かなえさん私は大好きなんですが、あまり多くの人に評価されてないのかな〜と感じます。レビューを読んでも苦手な人が多いみたいだし。
    その理由は、女性の腹黒さだったり、毒々しさだったり、冷たさだったり、なんだか胸くそ悪い!…とかこういった部分でしょうか。でも私はこういう所が好きなんですけどね(笑)

    だけどこの作品ではそういったトゲトゲしさがいい具合に削られてるというか、丸くなってるというか、こんな作品も書けるのか〜と驚きでした。
    ぜひぜひ湊かなえさんが苦手な人にも読んでもらいたいです。

    人は皆、多かれ少なかれ悩みを抱えていますが、モヤモヤした気持ちが吹き飛んてしまう位の爽やかな風が心の中を通り抜けていく様な感覚になりました。そして何故か泣きたくもなりました。

    山に興味を持った事は無かったけど、これを読むと無性に山に登りたくなります。山に登って人生が変わるとまでは思わないけど、私も何かを感じたいな〜。

    今まで読んだ湊作品の中で、間違いなくこれがベストになりました。オススメです。

  • 山登りしないからな~でも面白かった。
    登山って人生と一緒のような気がする。
    共感し合えるのも大事だよね。

  • それぞれの女がそれぞれの思いを抱え、登山する7話の短編集。
    話に繋がりがあって、前の話に出てきた人物のその後がわかったりして嬉しい気持ちになった。

    湊さんの本は昔「告白」を読んで以来。
    あちらは人間のドロドロした部分ががっつり描かれていてインパクトが大きいしズーンとなった記憶があるけれど、こちらはさらりと読めた。
    山の頂上に着く頃には登場人物の心の変化があって、明るさを感じられる。

    山登りはハイキング程度のものしかやったことがないが、父親が山好きなためテレビで山の番組を何度も見ており、山の風景を目に浮かべながら楽しめた。
    山登りいつかしてみたいかも・・・と思った。

  • 湊かなえさんデビューを果たせてうれしいです。切れ味シャープなのに、示唆に富んでいて、暖かい。
    それぞれの山に登る主人公たちは、悩みながらも精いっぱい生きていて、山をおりて戻ってゆく日常で、彼らは少しずつすれ違ったり、表と裏だったり、重なりあっていて、そのニアミスがとてもステキ。これから結婚したり、年を重ねてゆく若い女性に読んでほしいなぁとも思いました。どう歩くか、どんなふうに歩いてゆきたいのかを、できるだけふもとから準備できれば後悔も少ないかも、と老婆心。

  • 「誰かと共有したい」この素晴らしい景色を。この感動を。辛い登りの後にやってくる達成感を。

    自分という人間を他人に分かってほしいという承認欲求と紙一重のような気がする。自分が素晴らしいと思った物、感動した体験を誰かに伝えたい、理解してほしい、あわよくば一緒に体感したい。そんな人間の共有欲求を、山というファクターを通して語られる連作小説。

    団体行動が苦手で単独行する人も、元々誰かと一緒に体験したくて行動する人も、誰もが受け止めてもらえる懐の深さが山にはある。だからこそ魅かれる人も多いのかもしれない。

    山と女。
    それだけでなにやら物語が生まれてくるのだ。

  • それぞれのレビューに共通するのは、湊かなえさんらしくない作品!
    確かに、爽やかな読後感は、”らしく”ない(笑)
    それもこれも、舞台が山だからか。
    山登りの、実体験がないと書けそうもない描写もあり、
    30年来登っていないが、久しぶりに山に行ってみたくなった。

  • 湊かなえさんの作品の中では、読後感がすっきりと爽やかな印象が残る連作短編集。
    いろいろな山に登りながら、女性たちが自分の人生のこと、将来のこと、恋愛のことなどをじっくり考えていく。そして見失っていた自分を取り戻す。

    山に登るということは、ふだんの生活におけるざらざらした余分なものをそぎ落として、素のままの自分として自然、あるいはもっと大きなものと対峙するということなのかもしれない。

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プロフィール

湊かなえ(みなと かなえ)
1973年、広島県生まれ。武庫川女子大学家政学部卒。
2005年に第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選。2007年には第35回創作ラジオドラマ大賞受賞、「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー。読んだ後に嫌な気分になるミステリー「イヤミス」の優れた書き手として著名。
「聖職者」から続く連作集『告白』は、2008年、「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、「このミステリーがすごい!」では第4位に選ばれ、2009年、第6回本屋大賞を受賞。デビュー作でのノミネート・受賞は、共に史上初。2012年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞(短編部門)、2016年『ユートピア』で第29回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。ほか、直木賞で度々候補になっており、2018年『未来』で第159回直木賞に3度目のノミネート。同年『贖罪』でエドガー賞候補となった。
映画化・ドラマ化された作品多数。特に映画では、2010年『告白』、2014年『白ゆき姫殺人事件』、2016年『少女』、2017年『望郷』と話題作が多い。

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