山女日記

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344026018

感想・レビュー・書評

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  • 今を強かに生きる女達の
    悲喜こもごもがパンパンに詰まったリュックを背負わされ、
    さぁ、
    山の頂まで登るよ!
    息切らして
    汗だくで、足が棒になるまで苦しんで
    てっぺんまで行くよ。
    どんな事も
    (見下ろせば小さな事なんだ。)と自覚する為に
    さぁ、行くんだよ。

    わかっちゃいるが
    肩に食い込むリュックは重い。
    しかも、上り坂を歩き続けるという負担は相当なもの。
    そうやって
    苦しんで
    息切らして
    辿りついたゴールに何がある?
    頑張った<甲斐>は本当にあるの?

    途中、やばいくらいに
    大泣きした。

    何でだろ?

    多分、私が根性なしだからだな。(笑


    彼女達が見た、山頂からの景観は素晴しかった。
    でも、
    人生観は変わらない。
    絶対に変わらない、と思った。

    それより、
    担いできた<荷物>が、
    少なくとも<お荷物>ではなかった、と言う事に気付く事が出来て、晴れ晴れとした気持ちになれた。

  • 冒頭───
    午後11時、新宿駅バスターミナルに集合。ここから夜行バスで長野駅に向かう。10分前に到着した。まだ誰も来ていない。いつものことだ。
    数メートル先にいるおばさんたちのグループは四、五人集まっていて、切符やアルミホイルに包んだおにぎりらしきものを配り合っている。チェックのシャツに裾をしぼった八分丈パンツ、という姿。足元には、脇にストックを差し込んだ25リットルから30リットルサイズのリュックを置いている。
    あの人たちも山に向かうのだろう。「山ガール」とは言えそうにないけれど。しかし、さ来月には30歳になるわたしも、他人のことを言えた立場ではない。おばさんたちは全員お揃いの藍染のスカーフを巻いている。けっこうかわいい。
    気持ちはガールなのかもしれない。(妙高山)

    空に向かい歩いてきたはずなのに、星空は地上にいる時よりも、高く遠いところにある。それでも、星の数は地上で見るよりはるかに多い。(火打山)

    “イヤミスの女王”湊かなえは、あまり後味の良くない女性のどろどろした物語しか書かないのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
    こんな素敵で爽やかな山女小説も書けるのだ。

    日本国内六つ、海外一つの山に登る女性たちを描いた七つの連作短編集。
    全く独立しているわけではなく、細かいところでリンクしあっており、それを最終章の“トンガリロ”では、見事にまとめあげている。
    全体の構成も素晴らしいのだが、登場人物たちが、山に登ったことで日常のしがらみから解放されるせいか、思いのたけを毒舌的に発散する言葉の表現が新鮮で楽しくて笑える。

    ───例えば
    トリカブトに猛毒があることなんて教えなければよかった。不倫相手の奥さんがもし殺されでもしたら、私も協力者になってしまう。(妙高山)

    バリバリと仕事をこなすキャリアウーマンとでも思われていたのだろうか。仕事は忙しいが、老人ホームの事務員にキャリアウーマンという言葉は似あわない。そもそも、こんな言葉はとっくに死語と化しているはずだ。では、今は何と呼ばれているのだろう。大人女子? これでは仕事をしている人としていない人の区別がつかない。(火打山)

    「私、小学校の時のあだ名が金太郎のキンちゃんだって話したことあったっけ」(中略)
     母親の手先がなまじ器用だったため、私の散髪は幼い頃から母がやっていた。しかし所詮は素人芸。バリエーションは縦横まっすぐに切りそろえたおかっぱだけ。小学一年の段階で、(中略)子どもがそんな髪型をしていたら、悪意もなにも関係なく、周りは金太郎を思い浮かべるだろう。
     おまけに、町内会主催の「ちびっこわんぱく相撲」に優勝賞品のゲーム機欲しさに参加して、低学年の部で三年生の男子を倒して優勝したのだから、その名は不動のものとなった。(金時山)
     等々、もう爆笑である。
    読みながら、これまで気付かなかった湊かなえのユーモアセンスに感心したと同時に、表現が綿矢りさに似ていると感じた。

    山に登るということは、何かを発見することでもあり、何かを捨てることでもある。
    新しい自分になって旅立つために、或いは過去の自分に別れを告げるために。
    山に登り、新たな人たちと出会うことや山の頂きへ到達することで、それまで知らなかった自分を見出すのだ。

    この七つのエピソードはどれもが起承転結のよく練られた素晴らしい物語だと思う。
    それぞれの“山ガール”たちの心情も読者に深く沁みわたってくる。
    そして、先に挙げた随所に散りばめられたユーモア表現。
    最初から最後までとても面白く、読み終わるのが惜しいとまで思った。
    ここ何か月か読んだ本の中で最も私を楽しませてくれた一冊だ。
    湊かなえの新しい一面を発見した作品。

    第152回直木賞候補作に推薦します!!

  • 湊かなえさん私は大好きなんですが、あまり多くの人に評価されてないのかな〜と感じます。レビューを読んでも苦手な人が多いみたいだし。
    その理由は、女性の腹黒さだったり、毒々しさだったり、冷たさだったり、なんだか胸くそ悪い!…とかこういった部分でしょうか。でも私はこういう所が好きなんですけどね(笑)

    だけどこの作品ではそういったトゲトゲしさがいい具合に削られてるというか、丸くなってるというか、こんな作品も書けるのか〜と驚きでした。
    ぜひぜひ湊かなえさんが苦手な人にも読んでもらいたいです。

    人は皆、多かれ少なかれ悩みを抱えていますが、モヤモヤした気持ちが吹き飛んてしまう位の爽やかな風が心の中を通り抜けていく様な感覚になりました。そして何故か泣きたくもなりました。

    山に興味を持った事は無かったけど、これを読むと無性に山に登りたくなります。山に登って人生が変わるとまでは思わないけど、私も何かを感じたいな〜。

    今まで読んだ湊作品の中で、間違いなくこれがベストになりました。オススメです。

  • 山女日記という山ガール向けのサイトに集う妙齢の
    女性たちのオムニバス。

    妙高山
    不倫中のデパートの同僚由美と山登りをする
    結婚と同居に戸惑う律子

    火打山
    婚活で出会った神崎さんという男性と山登りをする
    贅沢に慣れた高慢な女に見られがちな美津子

    槍ヶ岳
    妙高山で登山した女性たちと同じデパートに勤める
    団体行動が苦手で一人登山を愛するしのぶ
    毎回登頂直前に不慮の理由により登頂完了しなかった
    槍ヶ岳を今回こそは制覇しようと登山する。

    利尻山
    医者と結婚した姉に誘われ登山することになった
    微々たる翻訳収入と親の年金で暮らす
    独身30代後半の妹希美

    白馬山
    白馬山に三人で登ることになった
    医者と結婚して順風満帆だったけれど、
    離婚を切り出されている利尻山登山に登場した姉と
    その子供、頼りない妹希美

    金時山
    売れない劇団員と付き合い、ひょんなことからその彼と
    二人で箱根の山に登ることになった
    妙高山に登場した律子や由美と同期で仲が良い舞

    トンガリロ
    ニュージーランドのトンガリロへ二度目の登山をする
    山女日記で人気のある帽子を作っているユヅキ
    利尻山の希美とは親友

    それぞれ心に迷いや葛藤をもちつつ山を登った
    彼女たちは頂上で結論を見出したり
    自分と見つめあったりして、登頂前とは
    違った気持ちでその後の生活を始める。
    それぞれの話に少しずつそれ以前の話の登場人物が
    絡んできて、読んでいてその絡みを見つけるのも
    とても面白い。
    トンガリロ登山ツアーでは他の山に出てきた
    女性たちも登場して、それぞれの話の後日談も
    その際にわかったりして後味もとても良い。

    山ガールという言葉はそればかり独り歩きして
    あまり好きではないけれど、こうして自然と
    向き合って自分を見つけ出す女性たちの話は
    颯爽としていてとても良かった。また読み返したい。

  • 山女(山ガール)達が、山に登ることで、自分自身や生き方について、身近な人達との関係について、何かを見出したりきっかけを掴んで行ったりする7つの短編。妙高山、火打山、槍ヶ岳、利尻山、白馬岳、金時山、トンガリロを登ります。波長の合わない職場の同僚が山行を共にすることで距離を縮めたり、お見合いパーティで出会った二人がお互いのことを知り合ったり、わだかまりのあった姉妹が本音をぶつけあって心を近づけて行ったりする心理描写がとても面白かったです。女の人達特有のどろっ、ねちっとした感情もオブラートに包まずに表されていながらも読後感が爽やかなのは大いなる山がすべて包んで浄化してくれているかのように思えるから。各話ごとに出てくる人達が違う山でも再登場してたりしてそれも良かった。

    私も山に行こうかしら…とたぶん読んだらふっとそういう思いになることでしょう。
    私は高校の時、白馬岳に登ったことがあったので、大雪渓とかお花畑とか、情景が浮かんできて懐かしかったです。山で食べたり飲んだりするものって、格別なんですよね。いいなぁ…。

  • 7つの短編で7つの山が舞台

    火打山・妙高山縦走に始まり
    槍ヶ岳 利尻岳 白馬岳 金時山 
    トンガリロ(ニュージーランド)

    たくさんの高山植物が出てくる。

  • イヤミスでもなく、一緒に山登りをしたような爽快感がもてる話だった。
    海外でのハイキング行ってみたいな

  • 湊かなえさんの本でミステリーの無いこのジャンルは珍しいと思います。

    登山を通してそれぞれ主人公の生活、人生を織り混ぜていきます。なにかの雑誌で読んだですが著者も作品を主筆しながら行き詰まった時に山に登るのだそうです。
    山ガールブームがまだ続いている現在、登山ブームも続いています。何故、山に登るのか…。
    山でなにを思うのか、十人十色。きっと、現実から離れた場所から自分をみつめてみたい、今を考えてみたいのでしょうか。自分で答えをみつける、一歩一歩踏みしめ歩いたら先にあるものを求めて。

    妙高山
    火打山
    槍ヶ岳
    利尻山
    白馬岳
    金時山
    トンガリロ

    どの話も様々な思いを持った女たちが描かれてて共感する部分めたくさんありました。白馬岳の離婚を切り出された完璧主婦の戸惑いとそれを思んばかる娘と妹のいたわりあう姿に泣けてきそうでした(実際、泣きました)。
    トンガリロは有名な映画の舞台にもなったニュージーランドのトレッキングコースだと初めて知りましたが歩いてみたいと思いました。
    それぞれの主人公たちは違う山で繋がっているので1冊のまとまった話になってるのもいいなあと思いました。

  • 山登りをしたことはないけど、読んでいると自分も山登りをしているように楽しかった!今まで読んだことのある湊かなえさんの本のイメージとは全然違いますが、凄く面白く、短編が繋がっているので読みやすいです。
    白馬岳での「不思議の国のアリス」のお茶会が素敵すぎてうっとり。山の上で温かいコーヒーを飲みながら、フランスパンに色々なものを挟んで食べるシーンは眼に浮かぶよう。何種類ものパテが小瓶に入れられ、アイスの木のサジがそれぞれに添えられて、フランスパンにはスライド状に切れ目が入れられて。こんなに素敵なおもてなし、私も受けたいなぁ。

  • いい意味で湊かなえさんらしくない、爽やかな短編集。タイトルの山女日記というサイトと、散りばめられた事柄でうっすらと繋がっている物語はいろんな縁をも思わせる。過去と今、思い通りの人生などないのだけれど、ベストはなんだろうかと模索するのに、山登り絶好のロケーションなのかもしれません。過去の悔いも受け止め、希望をそれぞれに見いだすストーリーは読後感もとてもよいです。山登りしたくなりますね。

著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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