アイネクライネナハトムジーク

著者 :
  • 幻冬舎
3.89
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344026292

作品紹介・あらすじ

ここにヒーローはいない。さあ、君の出番だ。
奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、
他力本願で恋をしようとする青年、
元いじめっこへの復讐を企てるOL……。
情けないけど、愛おしい。
そんな登場人物たちが紡ぎ出す、数々のサプライズ! !
伊坂作品ならではの、伏線と驚きに満ちたエンタテイメント小説!

感想・レビュー・書評

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  • あとがきで「この本の中に入っている最初の二編については、ミュージシャン、斉藤和義さんから『恋愛をテーマにしたアルバムをつくるので、『出会い』にあたる曲の歌詞を書いてくれないか』と依頼をもらったのが始まりです。『作詞はできないので小説を書くことならば』というお返事をし、そうしてできあがったのがこの短編なのですが、正直なことを言えば僕は『恋愛もの』と分類されるものにはあまり興味がないため、普通であれば、引き受けるのにも相当、悩んだと思います。……結果、この短編の文章を使う形で、斉藤和義さんが『ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜』なる曲を使ってくれました。」と、音楽とこの短編小説の繋がりを説明されていた。

    「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」ドイツ語で「ある、小さな、夜の曲」という意味だと作品中に説明がある。読みはじめた時に横に座っていた主人が、それって、「小さな夜の曲?」とか、真顔で聞いてくる。「どうして、知ってるの?」と尋ねると、「聞いたことあるかなぁ」と…恐れ入りました。

    本作は、各短編の登場人物らが、「出会い」と「再会」をキーワードとして、19年の歳月の中で何度か繋がる。読み進めていくうちにこの人とあの人、あの人とこの人と関係がわかっていくパズルのようなストーリーであった。

    「アイネクライネ」は、マーケットリサーチの会社に勤める主人公・佐藤が、インターネットが主流の今の時代に街頭アンケートをしているところから物語が始まる。会社先輩の藤間は妻・藤間から娘・亜美子を連れて家を出ると言われ、作業中の机を蹴飛ばし、隣の棚が倒れてサーバーのバードディスクが破損した。横で作業をしていた当時27歳の後輩・佐藤がたまたま手に持っていた缶コーヒーが溢れ、直前にとっていたバックアップのテープにかかりデータがなくなった。そのため、課長がこの失態の罰ゲームのため、佐藤に該当アンケートをさせる。この時、アンケートに答えてくれた女性がいた。またこの時、駅の中のモニターに『世界ヘビー級タイトルマッチ』がうつされていた。そして、この編においては、佐藤と女性とが「出会い」後に恋へた進展することを匂わす物語となっている。
    この「出会い」を佐藤に意識させるのが、大学時代の同級生の織田一真の妻・由美であった。織田夫妻には当時6歳の娘・美緒と1歳3ヶ月の息子がいる。由美の高校時代の友人が、次の章の主人公・美奈子である。

    「ライトヘビー」は、美容師・美奈子がこの美容院に通う客の板橋香澄から弟を紹介される物語である。唐突に香澄から弟を紹介したい言われ断ったのだが、香澄の策略で弟から電話がくる。それからしばらく、美奈子と香澄の弟との電話友達の関係が始まる。
    実は、この弟こそ、前章の駅のモニターに映っていた「世界ヘビー級タイトルマッチ」でチャンピオンと戦っていたウィンストン小野(小野学)であり、この後、ふたりは付き合い、結婚する。

    また、美奈子には、日高亮一と山田寛子という飲み友達がいる。

    ここで、1回百円で、その時の気持ちをパソコンで曲を再生してくれる『斉藤さん』という男性が出てくるのだが、この『斉藤さん』が、斉藤和義だったと、あとがきを読んだ後、気がつく。

    「ドクメンタ」は、佐藤の先輩で、妻に逃げられた藤間の物語。免許更新センターで、メガネの縁で知り合った女性と5年毎の「再会」の物語。

    この免許更新センターでの3回目の「再会」で通帳記帳で逃げられた夫と復縁した話を聞く。藤間も、逃げられた妻からの通帳記帳をするようにと言われていだのだが、藤間の場合の通帳記帳に意味があったのか、展開が気になる。

    また、後輩の佐藤は、藤間のために世界ヘビー級チャンピオンとなったウィンストン小野のサインをもらってきて、藤間を励ますのだが、サイン入手の経路も後の章でわかる。

    また、「ドクメンタ」とは、ドイツで開催される5年に1度の現代美術の展覧会のことで、免許更新を「ドクメンタ」にかけているようである。そして、藤間とこの女性の間が恋愛に繋がることはなく、自分の性格を反省するための「出会い」となっている。

    「ルックスライク」は、『高校生』と『若い男女』の2つの物語が並行し最後に繋がる話し。
    『高校生』は、主人公の高校生・久留米和人で、冒頭で英語教師・深堀先生が登場する。また、同級生・織田美緒は男子学生たちのあこがれとして、織田一真と由美の長女で高校生に成長して!登場していた。最初の物語「アイネクライネ」から10年後の物語であることがわかる。
    『若い男女』は、ファミリーレストランでアルバイトをしていた笹塚朱美が、年配男性の執拗なクレームで困っていた時に、男性・邦彦に助けられ、付き合うようになる物語。しかしふたりはしばらくして別れる。この時、朱美は、高校で教育実習をしており、邦夫は社会人であった。

    実は邦夫の姓は、久留米。つまり、久留米和人の父で、久留米邦夫と塚原朱美が深堀先生として「再会する」というオチ。もちろん、深堀先生は、久留米和人が自分の昔の恋人の息子であることは予想していたようだ。

    「メイクアップ」の主人公・窪田由依は、化粧品製造の会社で働く。上司は、あの美奈子の読み友達の山田寛子である。由依は、高校時代に同級生の川久保亜季にいじめられていた。由依の会社の製品宣伝の請負コンペにアシスタントとしてやってきたのが川久保亜季であった。

    過去に自分をいじめた同級生と立場を逆転しての「再会」で会った。

    「ナハトムジーク」は、現在と19年前、9年前の別々の短編小説が一つに繋がり、登場人物らの繋がりがわかる。

    19年前に小野学が世界チャンピオンになった時、奈美子は小野と付き合いはじめる。そして学を連れ、仙台に観光に行った時に、織田由美の家をふたりで訪問する。学たちが由美子の家に行く時に道を聞いた中学生がいたが、無視をされた。
    ウィンストン小野が織田の家にくることを聞き、佐藤が藤間のためにサインをもらおうと由美の家に向かっている時、途中の公園で中学生がいじめられている所に遭遇する。佐藤が到着が遅れている状況を説明するとその公園に織田一真と小野がやってくる。その中学生が、道を尋ねた時に無視をした中学生で、10年後に小野の試合のラウンドボーイとして、「再会する」。

    9年前の描写で分かったのだが、藤間の娘・藤間亜美子と織田の娘・織田美緒は同級生であることがわかる。そして、美緒の彼が久留米和人と、繋がっている。

    斉藤和義が著書に依頼した短編を読んで作った歌が『ベリーベリーストロング~アイネクライネ~』で、この『アイネクライネナハトムジーク』と最後に繋がった気がした。

  • 面白かったので映画になったやつも見てみたら...
    本だけにすれば良かったなぁʕʘ‿ʘʔ

    斉藤さんは斉藤和義さんなのですか?

  • 街頭アンケートから始まる出会いのドラマ。
    「ナハトムジーク」ボクシングの試合で、ラウンドボーイが、元チャンピオンの不甲斐なさに切れてボードを破壊し、試合の流れを変えてしまうのが良かった。

  • 著者の作品は、いくつか読んでいます。この作品は今まで読んだ著者の作品と趣が違います。奇抜な設定などなく。読みやすい恋愛作品と言ってもいいのかなあ。でも、いつもの通り絶妙な伏線が張られていて、ふんふん、なるほどと思いながら読み進めることができました。さすがだなあと感心しきりです。ご本人は恋愛作品は、余りお好きではないのかなあと推察しますが、また書いていただけたらなあと思いました。

  • 個人的に連作短編集が大好きでよく読むのだけれど、本作は連作の面白さが存分に表現された、読み応えのある一冊でした。細かいところまで伏線が張り巡らされていて、頭の整理がこまめに必要ですが(笑)小さな奇跡の積み重ねが、人との「出会い」の大切さを輝かせてくれる。恋愛にまつわる話が多いので、スケールの大きい作品が多い伊坂氏の著作にしては地味かもしれないけど、これは褒め言葉です!微妙な心の動きを丁寧に掬い取って、ユーモアを交えながら物語を紡いでいく。話がうまくいき過ぎじゃないか?と思うところもあるのだが、そんな展開が陳腐に感じないほどの緻密な構成。さすがです。どの短編も好きだけど、一番印象に残ったのは「メイクアップ」。憚っちゃう憎まれっ子の描写がうますぎる!女性のめんどくささをよく理解してるなと唸りました。
    この本を語る上で欠かせないのが、神出鬼没の「斉藤さん」。一回百円で、そのときの心情に合わせた斉藤和義の曲の一部を流してくれるという、占い師チックな謎の男性の登場が毎度効果的で、無性に斉藤和義が聴きたくなります。実際に、路上で会ってみたいわ!
    そして、仙台在住の人間としては、表紙イラストにもニンマリでした。仙台駅前をシュールに描いたこの装丁、大好きです!

  • それぞれのストーリーが時間を超えて繋がって行くのが面白かった。が、登場人物を全て覚えられてなくてこれ誰だったかなーと見返して、あーと思い出して読み進めました。最後の最後にこのひとがーとサプライズでした。

  • つい最近、斉藤さんとのコラボについて知ったばかりで、読みたい~!と思っていたので単行本化はとても嬉しかったです!
    伊坂さんの恋愛の話はどこかかわいらしくてくすぐったいですね。

    「アイネクライネ」
    「ライトヘビー」
    「ドクメンタ」
    「ルックスライク」
    「メイクアップ」
    「ナハトムジーク」

    どれもおもしろかったし、あるボクサーの試合を軸に、時系列をずらしながら、少しずつ繋っていく感じ、とてもよかったです。
    ウインストン小野の試合、ラウンドボーイの行動に胸が熱くなりました。
    そして最後の司会者がまさかの…!

    「アイネクライネ」を読んで、斉藤さんは本当に素敵な人だと思いました。しっかり作品を読まれてあの曲を作られたんだなぁとわかる言葉選びでした…!

    織田の「自分が好きになったのが、この女の子で良かった」のくだり、けっこういいこと言ってるよなぁと思います(笑)

    「ライトヘビー」「ドクメンタ」が特に好きです

    やさしいキャラクターが多くて安心して読めました。
    人と人との繋がりに、日常の小さなサプライズに、人生何が転機になるかわからないというおかしみに、読後は心があたたかくなりました。
    なんだかちょっとした勇気をもらえた気分です。

    斉藤さん一回100円やってほしいなぁ。

  • 伊坂さんらしい軽妙さが光る連作短編集。
    伊坂さんのもう一つの特徴である犯罪などのダークなものはほとんど登場しない~安全な?作品です。

    「アイネクライネ」
    データがふっとんだミスの後始末に、罰ゲームのような街頭アンケートをする青年。
    仕事を探している女性に出会い、何気ない会話が生まれる。
    日常的なシーンの親しみやすさ、大体はぱっとしなくて情けないけど、ちょっとだけ一生懸命な部分もあったり。

    「ライトヘビー」
    美容師の美奈子は客といつしか友達になり、弟と付き合うよう薦められる。電話で喋るようになったが‥?
    ボクシングの試合を見ていると‥
    大人のおとぎ話のような楽しさ。

    「ドクメンタ」
    妻に出て行かれた藤間。
    自動車運転免許の更新のために出かけた場所で、ふと話した相手。
    通帳の記帳でしか繋がっていない元妻に思いを伝える方法とは。
    5年後にもまた会うことになるか‥?

    「ルックスライク」
    学校の先生・深堀朱美。
    生徒の一人は、織田一真の娘の美緒。
    登場人物がちょっとこんがらかってきますが~え、これって‥という驚きが面白いところ。

    「メイクアップ」
    昔いじめられた相手と職場で再会した女子。
    相手は覚えているのか、性格は変わったのか? 復讐する機会はあるのか‥さて?

    「ナハトムジーク」
    ちょっとした不思議な縁が繋がっていきます。
    日常に起きてもおかしくないような小さな奇跡。

    100円でそのときに一番合うフレーズを流してくれる斎藤さんという人物が所々に出てきます。
    斉藤和義に作詞を頼まれ、小説なら書けると書いたのが始まりだったそう。
    曲を聴きながら読むとまたいいのかな。

    絡まれたときに「この方が誰の娘か知っているんですか?」と言ってはったりをかます織田一真のやり方が受け継がれていったり。
    どうということのない男なのに美人と結婚した幸運な男・織田は、口が達者で、時にはそれなりの存在価値を発揮する。このゆるさがいかにも、ですね~。

    笑える日常のささやかな出来事の奥底には、ごく普通のまともさが流れている気がします。
    余裕のある洒脱な雰囲気がよかったです☆

  • 元々、短編として描かれた作品『アイネクライネ』から派生した数々の短編を連作にした作品。
    あとがきにも書いているように、作者にとっては珍しく強盗や泥棒、殺し屋が出てこない作品で、なおかつちょっとした恋愛要素も入った作品たち。
    全ての短編がきちんと独立した面白さで、最後の一話で全てをつなげる感じが期待通りで楽しめました。
    出てくる登場人物も変わっているようで身の回りにいそうな人たち。
    普通にありそうな世界観が読んでいてとても心地いい作品でした。
    誰にでもオススメできる作品です。

  • つながりのある6編の短編集です。

    最後の短編「ナハトムジーク」は
    書き下ろしですが、
    他の5編の初出は媒体も、書かれた年も
    バラバラ。

    なのに
    さり気なくつながっていて、
    読みながらそのつながりに気づけたときは
    気持ちがふわっとします。

    「年齢を重ねても人生は変わらない。
    経験を重ねるからこそ人は変わる」
    (202ページ)
    という文にドキッとしました。

    わたしはまさに、
    経験ではなく年齢だけ
    重ねてきてしまったなあ…と
    しみじみ思いました。

    伊坂幸太郎さんの著書を読むのは
    アンソロジーをのぞけば2作目ですが、
    あとがきで著者自身も言及しているように
    本作は
    伊坂幸太郎さんの作品にしては珍しく、
    恐ろしさや奇妙さのある設定が
    ほとんどない作品だそうです。

    伊坂幸太郎さんのお話は
    まだ読んだことがないけれど
    怖い展開はニガテ…という方にも、
    胸をはってオススメできる短編集です。

    「フーガはユーガ」と違い、
    こちらはうつ療養中でも
    安心して読めますので大丈夫です。

    ちなみに
    アイネクライネナハトムジークの
    意味は作中でちゃんと説明されています。

    有名なモーツァルトの曲でもありますが、 
    今回あらためて曲を聞いてみたところ、

    明るいワルツな感じで
    全然「アイネクライネナハトムジーク「」
    という感じがなかったので
    びっくりしました。

    でも
    曲自体があたたかく
    上品に明るい感じだったので、
    BGMに流しながら本作を読んでみると、

    本からも曲からも
    あったかい気持ちをもらえると思います。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

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