人魚の眠る家

  • 幻冬舎 (2015年11月18日発売)
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本 ・本 (392ページ) / ISBN・EAN: 9784344028500

感想・レビュー・書評

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  • 脳死と臓器移植に直面し我が子が脳死したことを受け入れることができない母親の苦悩の作品。

    ハリマテクスの社長・播磨和昌の6歳の娘・瑞穂が小学校受験を前にプールで溺れる。医師・進藤から告げられたのは、脳死という過酷な現実。そして臓器提供の選択。突然の現実を受け入れることが出来きない母親・薫子は、臓器提供を検討していたが、最後の最後に提供を拒否し、自宅介護を申し出る。夫の会社の研究員・星野祐也の協力を得て、人工知能呼吸コントロールシステム(AIBS)を肺に埋め込んだり、人工神経接続技術により電気刺激により筋肉を動かす技術を用いて小学3年まで生きることになる。

    夫の浮気により離婚を決意していた妻の心の拠り所は、子供の存在であろう。そんな時に娘の脳死を告げられる母親の心境を考えると、現実を受け入れることが出来ないのもよく理解できる。もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。なのに判定で脳死と判定されたら、その奇跡の可能性までも摘み取ってしまう。そう考えると親としては、臓器提供を承諾することに躊躇するのは当然のとこだと思う。

    ただ、読者として客観的に作品を読んでいるため、すでに亡くなった人間に、桁違いのお金をかけて人工的に延命すべきなのか?という気持ちにもなる。多分、誰もが思うことでろう。本作でも、和昌の父・多津朗や薫子の妹・美春の夫がこの状況を拒否し、遠のいている。そして、瑞穂の弟・生人が小学校に入った時にいじめられるきっかけなりかけたのもこの不自然な延命に対してのことである。誰もが薫子のこの異常というべき延命への執着が不気味であり、気分が悪くなる。

    一方で、薫子自身もそんな自分の行為、思いに悩んでいたのであろう。だからこそ新章房子になり変わって、『ユキノちゃんを救う会』に参加し、渡航移植、日本の臓器移植の法律の矛盾を指摘している。だからこそ、雪乃ちゃんの父・江藤や『救う会』の門脇に日本の臓器移植が難しい状況の批判を伝えることで、自分の行動を理解してもらえなくとも、仕方のないことだと受け入れてもらおうとしているように思えてならなかった。元来、薫子は頭がいいので、臓器移植について調べるほどにその法律と現実との矛盾と、我が娘の状況とが被り、不安であったための『救う会』への参加になったのだと感じた。

    保険証や免許証裏に「臓器提供意思確認」として、提供する臓器を記す箇所がある。自分が死ぬとは思っていないし、脳死状況に陥るとも思っていない。何も起こっていないこの状況下で、そして意識もしていない状況下で死んだら心臓、肝臓、腎臓、膵臓等を提供しますと回答できる人もいるかもしれないが、判断が出来ず臓器提供の意思を記さない人もいると思う。もっと、日本臓器移植の状況、例えば、日本での臓器提供数、臓器提供待機者数、その平均待機年数、また待機期間中の死亡率、臓器受給者の生存率、海外臓器移植数あるいは対国内率などをより広く開示し、そして私たちが臓器提供するか否かを判断するためのその情報の開示方法、タイミングを決めてしまう方が理解が得れるように思う。
    例えば、免許書の裏に臓器提供確認の欄があるので、免許証更新時にその説明をして、その場で記載し、シールを貼る。記載は家族の合意もあるかと思うので、その場でなくてもいいのだが。

    1999年に臓器提供意思カードが話題になったが、健康保健症は、常時携帯はしていないし、運転免許証は免許を持っている人しか携帯しない。脳死判定のためには、病院に搬送されるため保険証への記載は確かに有効ではあるかと思うのだが…

    本作で、薫子が変装する新章での説明もあったが、1997 年 10 月に「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)が施行され、2010 年 7 月 に法改正があった。法改正までの約 13 年間でわずか86 人の脳死臓器提供が行われたようだ。また、「自国人の移植は自国内で行うように」という「イスタンブール宣言」についても内容までは覚えていなかった。なぜ、海外移植に行くのか、なぜ海外移植は信じられないくらいの高額なのかというのが、本作でようやく理解できた。

    脳死状態で小学3年生となった瑞穂が、亡くなる時、薫子は今までの介護についてどのように感じたのであろうか。また、和昌とは離婚をするのであろうか。残された家族は今後どのような関係になるのであろうかと、自分なりに想像し、読み終えた

  • 離婚を考えていた夫婦に娘が溺れたという一報が入る。医者より臓器移植の判断とそのための脳死判定の判断を迫られた夫婦が選んだ対応は。

    東野圭吾さんのは、ガリレオなど推理系を読むことが多く、今回のような話は、初めて読んでみた。
    国内臓器移植とそれに伴う脳死判定についての諸問題は、結構読むには、しんどい気持ち人させるものだったが、本自体は、続きが気になり、スイスイと読み進められた。
    体の中のちょっとした動きから体を動かす技術の話など、この話で考えさせられたところは、多くあるが、一番気になったのは、娘の母、薫子という人物である。

    2章、3章などは脳死状態と言える娘に対して、少しの希望から必死に行動すると受け取れるし、他の話でもありそうではある。少しずつ常軌を逸してきているような感じもあるようなところであるが、4章になると、さらにトリッキーな展開に合わせて、びっくりするような行動をとる。素直に騙されたしまった。

    しかも、惹かれていく人もいる辺りは、ちょっとどうかなと思いつつも、それこそ、これだけ思いが強くなっていく人には、そうなっていくのかという気もして、面白かった。

    周りとのズレや狂気じみていく行動など、不穏になっていくが、終わり方は、自分としては、ホッとするもので、よかった。少しでも薫子には、救いのある終わり方ではなかったかと思う。

  • はじめから最後まで涙が出っ放しでした。第五章は、号泣でした。脳死や臓器提供についてまだまだ知らないこともあり死についても考えさせられました。
    「この世には狂ってでも守らなきゃいけないものがある。そして子供のために狂えるのは母親だけなの」が心に突き刺さりました。
    終盤は、もしかしたら!?と思っていた通りの展開になり悲しかったけど読み終わりは、すごくスッキリした気持ちになりました。
    映画化されたようなのでこちらも是非観てみたいです。

  • 脳死判定…
    臓器提供の意思…
    突然その選択の場に立たされたら…?

    特に幼い子供の場合は、親の決断が余儀なくされる。
    愛する者を失った悲しみに暮れる中で、
    果たして感情に流されることなく判断できるのだろうか。

    現実を受け入れられず、奇蹟を願う母親。
    そうですよね…
    娘の身体は温かいのに、死を受け入れることなんて、
    そう簡単にはできないですよね。

    「瑞穂は生きている!」
    母の狂信と、機械仕掛けのあやつり人形のようになっていく瑞穂の姿が痛々しい。

    命が継続することと、人間として生きるということは同じではない。
    でも明日、特効薬が見つかるかもしれない。
    もしかしたら、再び…

    考えさせられました。
    でも、これが正しいと言える答えなど、出せないのではないでしょうか…。
    この物語に登場した人物の誰一人として、
    間違ったことは言っていなかったと思います。

    めまぐるしく進歩する現代医学。
    そのスピードに、人の心が追いつけなくなっている気がします。

    つらく重いテーマではありましたが、
    エピローグに救われました。

    • koshoujiさん
      ほんとに立て続けで恐縮です。
      ファンから非難があったのは最終回のひとつ前、渉が園子を振って簡単に青年海外協力隊の女性と一緒になったからだと...
      ほんとに立て続けで恐縮です。
      ファンから非難があったのは最終回のひとつ前、渉が園子を振って簡単に青年海外協力隊の女性と一緒になったからだと思います。
      調べたら、その時が本間プロデューサーだったので。
      で、TBSが止むにやまれず、元の鞘に納めるべく、無理やり相手の女性を殺して(笑)渉を帰国させ、
      強引に園子と寄りを戻させたような気がします。(笑)
      2016/03/05
    • azu-azumyさん
      杜のうさこさん、こんばんは~♪

      これ、読みたかったの~!
      東野圭吾さんの本は古本屋さんではなかなか手に入らなくて~(涙)
      でも、杜...
      杜のうさこさん、こんばんは~♪

      これ、読みたかったの~!
      東野圭吾さんの本は古本屋さんではなかなか手に入らなくて~(涙)
      でも、杜のうさこさんのレビューを読ませてもらって、ますます読みたくなってます!!
      2016/03/08
    • 杜のうさこさん
      azu-azumyさん、こんばんは~♪

      東野圭吾さんの作品に、ハードルをすごく上げちゃっているせいか、
      最近の3作品が、物足りなか...
      azu-azumyさん、こんばんは~♪

      東野圭吾さんの作品に、ハードルをすごく上げちゃっているせいか、
      最近の3作品が、物足りなかった感が強くてね…。
      本書はミステリーではないのかもしれないけれど、読みごたえありました!

      こちらでも、図書館ではすごい順番待ちになってるようです。
      東野圭吾さん、恐るべし!
      2016/03/08
  • いつもとは雰囲気の違う話だったが、これがグっと引き込まれた。
    娘を持つ母親として、思うところが多かった為、余計に感情移入して、
    気が付けばラストでは泣きながらページを捲っていた。

    泣きながら本を読んでいるところに、ちょうど娘が入ってきて、
    「お母さん?大丈夫??どうした??」
    と。またその声を聞いて涙が止まらなくなってしまった。

    考えさせられる点はとても多く、学んだ点も多かった。

    あの母親の行動は異常ではないかと思いつつも、
    多分現実に起こったら、私も同じことをするのだろうと思う。
    体温を感じられるのなら。

    頭で分かっていることと、行動とはひょとしたら異なるのかもしれない。
    同じ立場にならないと、多分きっとわからない。

  • すごく考えさせられる〜〜〜
    事故である日突然脳死判定されて、でも、親は受け入れられず、他の臓器は無事だから生かしたいという気持ちも凄くわかる。
    最新技術でいかにも自発呼吸してるかのように見えたり、表情の筋肉を機械で動かし笑っているかのようにみえたり。。。
    親はこのまま上手くいけば、目を覚ましてくれるんじゃないかと期待している一方で、
    周囲の目は厳しく、機械仕掛けの女の子だと心無い言葉を発言する気持ちも分かる。
    当事者にしか分からない気持ちや、第三者の気持ち、または、移植を心待ちにしている家族の気持ち等。。。
    今まで脳死や移植についてあまり深くは考えたことは無かったけど、この本を読んで、すごく考えさせられた。。。
    自分自身、瑞穂と年が変わらない子供を持つ親として、自分だったらどうするか、どうしたいか等、考えるきっかけにもなってよかった。。。

    それにしても、なんだかなぁ。。。
    と、モヤモヤのようなこの気持ちはなんだろう?

  • 倫理的には無理だろうが、近い未来、技術的には実現しそうな話である。
    生命倫理と子を思う親の愛情。
    主人公の気持ち、想像してみたが理解はできなかった。

  • 瑞穂が夢に出てきて、どうしたいかを言ってくれたらいいのに…

    突然の事故で、意思を確認できない娘の死の選択を迫られたら。自分ならどうするか、生前の娘なら、死の捉え方とは、考えさせられる。

    人の手触りは、生きている感覚としてすごく鋭くて、直感に訴えられる。理論的に考えたことなんて、直の感覚の前には吹き飛ばされる。

    それでも、薫子は手触りと論理的思考の中で葛藤を続け、自分が納得する娘の死(つまり瑞穂の意思)を選択し、和昌は俯瞰した目線で妻と娘を見つめて、娘が冷たくなる心停止を死と捉えた。

    でも心停止が死なら臓器移植したなら、死とはならない。他人と捉えていたコトが、思考により死とはならない。脳死を死と捉えると、臓器移植しても生きていることにはならない。

    脳死の瑞穂の心臓で一命を取り留めた宗吾。脳は宗吾なのに、瑞穂の感覚が残る不思議。この感覚からすると、瑞穂は死んでいないようにも受け取れる。

    ただ眠っているように見えるのに、血も通って見た目も健康的な瑞穂。でも電気信号で動かされると、突然、人間の滑らかさを失うのか、異質なものと捉えられる。

    瑞穂の異質にもいつか人は慣れていくと思う。臓器移植の問題を超えて人は生きる形をもっと変えていくんだろうなと感じた。

  • 難しい問題……
    そして悲しい……

    人に信じてもらえないような
    不思議な力のようなものはわたしはあると信じています。

    難しい課題のお話でしたがすらすらと読めました。

  • 脳死移植をテーマにした作品です。医療職として移植に関する情報もそれなりには学んでおりますが、内容が本当にリアルで引き込まれました。
    結論として、人の死をどのように捉えるかという問題に関してはどれが正解というものでもなく、自分と異なる価値観を否定できるものでもないということがわかりました。
    とても考えさせられる作品でした。オススメ!

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著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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