蝮の孫

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 59
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344030459

作品紹介・あらすじ

この男、稀代の愚将か名将か。信長を追い詰めた男・斎藤龍興は、如何に戦い生きたのか?波乱に満ちたその生涯を描く、戦国史小説。

感想・レビュー・書評

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  • 単なる戦国物でない確かなる読み応え。
    暗愚と言われた武将斎藤龍興は、かつての部下を引き連れて、敵の織田信長に対し、客将として転戦していく。
    改めて、罪のない民も含めて、多くの人を虐殺して、武力で天下を取ろうとする織田信長は、明智光秀でなくても、誰かに倒されるべき人間であった。
    蝮とよばれ、一介の商人から美濃国守となった孫は、最後には、斎藤家という旗印ではなく、ひとりの愛する女性を守るため、勝ち目のない戦に挑んだ。斎藤龍興は暗愚な愚将ではあったが、人間らしい素晴らしい武将になった。

  • 斎藤龍興と竹中半兵衛の因縁(?)もの。
    戦国物は好きだけど、斎藤龍興はぱっとでてきてパッとやられる、で、最後どうなったのかはよく知らない(あまり書かれてない)ので新鮮。史実とは違うのだろうが、読み物としては楽しく読めた。

  • 読めば龍興フアンになる、ラスト感激です
    龍興14歳、美濃の当主となるが自覚がない
    竹中重治が主君を諫めたと称した(野望)
    稲葉山城攻略が露悪に書いてある(好み)
    案の定、重治に美濃を統治する器量は無く
    生き恥を恨みに変えて信長に通じる重治も
    龍興同様に覚醒して感動的なラストとなる

  • いや、よかった。斎藤龍興といえば、道三の孫というイメージしかなかったけど、思い切ったフィクションな設定を取り入れる作者の策が、この作品でははまっていると思います。爽やかすぎるラストも許せるほど、龍興の軽やかな清々しさが、血なまぐさい戦国の描写の中でも貫かれていて、気持ちのいい作品でした。

  • 斎藤龍興と竹中重治。
    別の道を歩んでいったふたりを軸にした、時代小説。
    とても面白かった。
    龍興、秀吉、信長。
    人を引きつけるそれぞれの違った個性をえがいていて、どの人物も魅力的。
    信長の前に何度も立ちはだかる、龍興たちが痛快。
    他人を信頼しなかった重治と、戦う意味を見出せなかった龍興。
    さまざまなことを経験し、成長し、先の見えない中で、懸命に戦い、生きていく。
    最後はじーんときた。

  • 献本
    普段ほとんど読まない歴史小説をこの機会に読んでみたいと思い応募した。

    蝮の道三と呼ばれた斎藤道三の孫である斎藤龍興を主人公にした作品。
    祖父や父のような歴史に名を残す名君ではなく暗愚と呼ばれた龍興が、家臣の信頼厚い名将となっていく姿が描かれる。
    同じ頃名軍師と呼ばれた竹中重治(竹中半兵衛)の側からと、龍興の側から物語は進む。

    歴史に明るくないわたしでも斎藤道三の名前くらいは知っている。娘帰蝶を織田信長に嫁がせ縁戚関係を持ち、息子によって討たれた道三。
    しかし、その後斎藤家がどうなったかと訊かれると、どうなったんだろう知らない、というのが正直なところだ。

    竹中重治というより竹中半兵衛の名前もかろうじてわかる。最初は斎藤家の家臣であった竹中が、何かがあって豊臣秀吉に仕えたこともかろうじてしっている。
    しかし、何かがあってって何があったんだ、という感じだ。

    物語は龍興が家臣に木刀での稽古を受けているところからはじまる。
    武術はおろか馬にもまともに乗れない龍興は、稽古から逃げ端女であるりつに出会う。りつに心惹かれる龍興だが、美濃一国を我が物にしようと考えた竹中重治の起こした謀反により、りつは生命を落とす。

    ここから龍興は身を寄せた堺でキリスト教の穏やかな暮らしに安らぎを感じながら、再び武将として生きていく道を選ぶ。
    そこからの龍興は、祖父から受け継ぐ斎藤の血によるものか名将へと成長していく。

    名前くらいしかわからないわたしでも、この時代に登場する武将たちはいずれ劣らぬ名将ばかりで、多少の知識もあるため大変わかりやすい。
    歴史小説であると言葉なども難解でわからないのではという不安もあったが、特にそういうこともなく読みやすい。

    実際の龍興がこの作品に描かれるような、部下や民を思いやる、心やさしくも力強い、魅力ある武将であったかどうかはわからない。しかし、無能であれば家臣が付いてくるわけもないのだから、人間としての魅力を持つ武将であることは考えられる。
    この作品によると戦国の世では、一度仕えた君主に死ぬまで付いていくというのではなく、家臣の側が選んで仕えることが一般であったらしい。それならば尚更、ただの愚かな男に生命を懸けるはずもないだろう。

    あくまで物語の中心は斎藤龍興と竹中重治であるため、豊臣秀吉や織田信長は家臣から見たことのみが描かれる。
    そのため織田信長が天下統一のために何故あんなにも人の生命を多く奪ったのか、信長の真意はわからない。

    歴史上の人物で人気者ランキングをつければ必ず上位に選ばれる織田信長だが、信長は天下統一目前で生命を落としたからこその人気なのではと改めて思う。
    信長があのまま順調に天下統一を目指せば、きっと多くの血が流された。晴れて天下統一した後は、朝鮮からその先へと信長の野望は留まることを知らないだろう。日本だけでなく、朝鮮や中国の人々の血も多く流されてしまうに違いない。
    それでそのままであればまだいいだろうけれど、いつか必ず奪った領土は奪い返される。そんなことになったら日本という国もどうなるかわからないだろうし、日本は残っても平和が訪れるのは随分先になってしまう。
    織田信長は、死ぬべくして死んだのだなとしみじみ思う。

    果たして、斎藤龍興は歴史の中でどのように生きていくのか。
    これは是非、作品を読んで確かめてもらえたらと思う。
    歴史に疎い、歴史小説初心者であるわたしでもとても愉しく読むことが出来た。
    こういうものを読むと、別角度から歴史を覗いてみたくなる。次の読書へ繋がる良い時間になった。

  • 暗愚な君主と言われた斎藤龍興。一度城を追われたことで、行政に、戦に目を向けるようになるが時すでに遅し。国を追われ堺に。戦はもうごめんと商家でやっかいになるが、かつての部下の思いにうたれ一念発起してまた戦陣に身を投じ、最期は…と。斎藤家では力を発揮できぬと織田家に身を投じた竹中重治との対比もあざやか。後日談は、伝承の域だろうが、世間の名声からすると彼我の差は明らかだがどちらが満ち足りた人生かは考えさせられる。

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著者プロフィール

天野純希
1979年生まれ、愛知県名古屋市出身。愛知大学文学部史学科卒業後、2007年に「桃山ビート・トライブ」で第20回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『破天の剣』で第19回中山義秀文学賞を受賞。近著に『雑賀のいくさ姫』『有楽斎の戦』『信長嫌い』『燕雀の夢』など。

「2023年 『猛き朝日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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