貘の耳たぶ

著者 :
  • 幻冬舎
3.50
  • (25)
  • (96)
  • (100)
  • (15)
  • (5)
本棚登録 : 617
感想 : 101
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344030992

作品紹介・あらすじ

自ら産んだ子を自らの手で「取り替え」た、繭子。常に発覚に怯え、うまくいかない育児に悩みながらも、息子・航太への愛情が深まる。一方、郁絵は「取り違えられた」子と知らず、保育士として働きながら、息子・璃空を愛情深く育ててきた。それぞれの子が4歳を過ぎたころ、「取り違え」が発覚。元に戻すことを拒む郁絵、沈黙を続ける繭子、そして一心に「母」を慕う幼子たちの行方は…。切なすぎる「事件」の慟哭の結末。渾身の書き下ろし!

感想・レビュー・書評

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  • 実の母親が帝王切開で産んだ我が子をちゃんと育てられないのではないか...と同じ日に自然分娩で産まれた子と取り替えてしまう話。4年間バレずに育てていくのですが、自分の子だと信じて育ててきた繭子の旦那さんや取り替えられたことを知らずに育ててきた郁絵たち夫婦のことを思うと切なかったです。

    血の繋がりのある子か、育ててきた子か...。

    私自身、保育士でしたが、他人の子より自分の子と一緒にいたくて仕事は、アッサリ辞めてしまいました。だから、郁絵とはまた考え方が違ったかもしれません。でも、保育士としての気持ちはわかるし、繭子のように1日中子どもと向き合ってきたので繭子の気持ちもわからなくもなく読んでいてもどかしく感じました。
    涙も止まらずひき込まれるようにして読んだけど結末は、本当にこれでよかったのか...正解がわからないだけにモヤモヤが残りました。

  • 芦沢央9冊目。今回もイヤな汗を出しながら一気に読み終えた。主人公の石田繭、不安が強く子どもを産めるのか、育てていけるのか自信がない。繭と母親との微妙な関係性がさらに自信欠如を助長する。出産後、自分の子どもの出生体重が軽いためママ友の子どもと交換してしまう。子ども交換が4年後に発覚し、2家族を巻き込む問題に。繭の子どもとママ友の子どものやるせない気持ちと、子ども2人の人生を大きく変えてしまった繭の責任はあまりにも大きい。繭の生い立ち、母親との確執から自己を持てない・幼稚な女性を表現し、終始ゾワゾワでした。

  • 母親学級で出会った2人の母親、繭子と郁江の、2人が主人公。初めは繭子視点から。この人は精神的にとても不安定で、産後うつとかいうレベルではなく、おそらく介助が必要なレベルだと思う。繭子の母親もそうだったのだが、その母親に育てられたから、という訳ではなく遺伝かな、と思う。
    一方、郁江は繭子より4歳年下の保育士。普通の人で、読む側は郁江の気持ちがスッと入ってくると思う。
    自分が郁江の立場ならどうするだろう?
    自分の子どもが赤ちゃんだった時、保育園の時、どんな感じだったかな、思い出しながら読んだ。忘れてしまっている事ばかりだと思った。
    2度とは戻ってこない、あの瞬間。どこかに出かけたとかでもなく、ただの日常生活、意識しなければどんどん流れていってしまうけれど、忘れたくなかった。
    その時は、永遠に続く気がするけど絶対に終わりは来る。

    この本は乳児取り替えの話だけど、今ある一瞬一瞬は永遠じゃない、かけがえないもの、後から手を伸ばしても決して触れられないものなんだよなっていう感想でした。

  • ★3.5

    あの子は、私の子だ。
    知の繋がりなんて、
    なんだというのだろう。

    新生児を取り替えたのは、
    出産直後の実の母親だった…。

    帝王切開で出産した繭子は、異様な衝動に突き動かされ、新生児室の我が子を
    同じ日に生まれた母親学級で一緒だった郁絵が産んだ子供と取り替えてしまう。
    とんでもないことをしてしまった、正直に告白しなければ、いや、すぐに発覚するに違いない…。
    逡巡するが、発覚することなく退院の日を迎える。
    そして、その子は「航太」と名付けられ、繭子の子として育っていく。
    一方、郁絵は「璃空」と名付けた子を自分の子と疑わず、保育士の仕事を続けながらも、
    愛情深く育てて来た。しかし、突然、璃空は産院で取り違えられた子で、
    その相手は繭子の子だと知らされる。
    璃空と過ごした愛しい四年を思うと、血の繋がりがなんだというのだと思うのだが、
    周囲はだんだん元に戻す方へ話進める…。

    読んでいて、終始とにかく息苦しかった。
    第一章は、繭子の視点で語られていますが、何故実の子を取り替えてしまったのか、
    という事に全く納得が出来ず、理解も出来なかった。
    そして「今、言わなくては」という焦りや葛藤、逡巡に全く共感できず、
    モヤモヤとした暗い気持ちに覆われてしまった。
    しかし、中盤に子供の取り違えが発覚してからは、どうなっていくのか
    と引き込まれました。
    取り違えられた子と知らずに育てた、郁絵夫婦の視点で語られとっても切なかった。
    ラスト、何故ここで…。
    それも唐突過ぎて…う~ん。
    とっても深いテーマでしたが、実の母親が犯人だと共感出来なかった。
    何よりも一番の被害者は子供達です。
    こんな事は、絶対に起こってはいけないですね。
    血の繋がりについて深く考えさせられました。
    タイトルの意味が解った時、とっても切なかったです。

  • (故意による)赤ちゃん取り違えにまつわる、二つの家族の物語。

    どうしても繭子という人物に共感できず、またその罪を許せず、序盤からは中々読み進められず。
    しかし、ひょんなことから取り違いが明るみに出てきた後は一気読み。

    胸を抉られ、涙も出た。
    こどもの幸せをただただ祈るばかり。
    なんだかんだ、やっぱりこの人の小説が好きなんだと実感。

  • 自然分娩ではなく帝王切開、完全母乳でないことを責める、専業主婦。子どもとの時間をおろそかにし、食事に手間をかけられないことを責める、ワーキングママ。
    現代の女性にぶつけられる、さまざまな呪いがつまっていて、読んでいて胸が痛む。
    育ての子が、血のつながった我が子でなかったと知ったら? 難しくて、自分には決断できない。
    いろいろ考えさせられる作品。
    そもそもの取り替えの動機は弱く、そこだけが共感しづらかったです。

  • 辛くて読むのをやめようかと何度も手をとめる。
    誰も頼る人がいない中での育児の不安、子どもが産まれたからとらいって、突然母親になれるわけではない。でも、自分の子と他人の子を取り替える、その子を育てる、理解ができない。子どもがかわいそうだった。

  • 初めて読む作家さん。

    母との関係がうまく行っていなかったことから、極端に自己肯定力が低い繭子。自然分娩ができなかったことを気に病み、今後きちんと子供を育てられるのかという不安にかられる。
    同じ日に出産をした保育士、郁絵の子供と自分の子供を突発的に入れ替えてしまう。

    すぐに後悔するも、発覚しないまま時は経ち...

    繭子とその母に終始イライラした。
    そして帝王切開で産むことになんの問題があるのか。
    繭子の義母も、「帝王切開は出産のリスクを母体が全て背負って赤ちゃんを守ろうとする方法」って言ってるし。
    でもこの負の思考は育ってきた環境の中でできてしまったものなんだよなー。

    子供たちがとてもかわいそう。

  • 産院で起こった新生児の取り換え事件。
    それぞれの母の目線で語られる4年間の話。

    前半の章の繭子の行動が理解できないままでした。
    初めての出産で、こんな小さな子をちゃんと育てることが出来るのかという不安を感じることは、自分にも思い当たる節がありましたが、そこからのあの行動はやはり理解出来ませんでした。
    後半の郁絵の章、実の子と信じて育てた子を手放さないとならくなった母親の気持ちが辛かった。
    そして、親から離されることになってしまった子供を思うと、ただただ不憫で仕方がなかったです。
    何が正解かはわからないと思える物語。
    フィクションで良かったと思わずにはいられません。

  • 新生児の取り違え、しかもそれが片方の母親の手によるものだったという衝撃でしかないストーリーで描かれていく芦沢央さんの意欲作。

    よりによって母親が、自分の子供をわざと入れ替えるなんて、そんなこと、あり得ます…?なんて半信半疑で読んでいたらガーンと頭を殴られたようなショックを受けました。
    これはあり得る。あり得てしまうのが分かる。
    共感はできないけれど、妊娠と出産を経てさらにどんどんと思い詰められていく繭子の心情は察するに余りある。
    出産てそのくらい劇的なことだった、って思い出しました。
    一章と二章で発覚の前後、それぞれの母親の視点に分けてすすんでいく構成がとても良かった気がする。
    本当に暗くて誰も幸せになれないラストだった。
    そして「獏の耳たぶ」というこのタイトルの真の重さ。
    獏のぬいぐるみにしか、耳たぶにしか、そういうものに縋るしかない航太が不憫で可哀想で悲しさに胸が引き裂かれそうになった。
    だけどそれでもどこかに希望が感じられるのは、航太と璃空、二人の男の子の日々は決して奪われたわけでなく、これからもずっと続いていくし、どんな形であれ未来をまだまだ描き直せるって分かったからなんだと思う。
    うちの娘も私の耳たぶ大好きだなー。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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