貘の耳たぶ

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 616
感想 : 101
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344030992

感想・レビュー・書評

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  • 産まれたばかりの我が子を自ら手放した繭子と、取り換えられたことに全く気付かず四歳まで育てた郁絵。
    血のつながりがすべてなのか。育てた時間がつくるものはどれほど強靭でいられるのか。

    きっと母親になる前に読んでいたら、こんなにも胸を揺さぶられ、まるで自分が子供を取り上げられるような気持ちの不安から抜け出せなくなったりはしなかっただろう。
    五歳と二歳の母親をしている今でさえ、本当に自分が産んで育ててきたのだろうか、なんて思うほどに母性の薄い私が、辛くて読むのを止めたくなるほど苦しんだ。
    獏の耳たぶの意味が分かった時の、苦痛に感じるほどの感情の揺れ。彼女の、彼女たちの、そして子供たちのこれからが幸せであってほしい。
    私は繭子のような勇気のある母親にはなれない。郁絵のような素直な母親にもなれない。それでも日々育っていく子供たちの恐ろしくはやい一瞬をできるだけ吸い込んでいきたい。
    サンタの説明がとても好きだった。

  • また、また面白い作家さんに出会ってしまった
    一気読み後、じっくり読み中

    出産前に読みたくない内容
    育児中の新米ママの不安や辛さが抉られるように描かれていて、赤ちゃん取り替え関連のサスペンス以外に、その内容にすごく胸が締め付けられた
    誘拐犯なのだけれど、この女性を心から糾弾する気持ちになれないというか、深く感情移入して読むタイプのため、取り返しのつかないことをしでかしてしまった彼女の状態を考えるに
    親に幸せにしてもらえなかった、自尊心が育たなかった→不幸を自分から求めに行くタイプ 自分を大切にできない、アダルトチルドレン、ホストにハマる女の子などもこの負のループだろうと

    見出しの日付の進行とともにどんどん成長する子ども
    それが我が子でないとしたら、どれだけ苦しいだろうか
    主人公は誰かに救いを求めるべきだった
    あと、私は救いを求められない人と結婚しちゃ駄目だと思っている。パイロットだろうが医師だろうが資産家だろうが

    最後、二人とも手離さざるを得なくなったところで、こんな結末を望んでいたわけではないだろうに、という哀れみ?と、二人ともを引き取ろうと決めたご夫婦、特に父親を尊敬する気持ちとで
    感情がどちらにも振れてすごい何とも言えない読後感

    ワーママの辛さもめっちゃわかるし
    保育士さんママはこういう感じなのかな、と思いを馳せたりした

    そして今回もやはり元凶は毒親だった
    子どもが手を離れていないうちは、たとえどんなにどんなに辛いことがあっても、精神を病んではいけない、と感じた。それが親としての責任

    2012年生まれ設定で古すぎるのでは?と感じたのが、
    泣いている子どもをバシャバシャ写真撮影する両家(節分に父親が鬼の仮装、一升餅で転倒)
    無痛分娩拒否、それどころか帝王切開忌避や母乳神話 価値観が古すぎ
    田舎はこんなもんなのか?…いやこれ首都圏の話だ
    それとも、その後の5年でものすごい革新があったのか?

  • 新生児室を一瞬でも無人にしてしまったり、外れるようなタグを付けた病院にも落ち度がある。
    産後、何気無い一言に自信をなくしてダメな母親かもと思い悩む心理状態。凄くわかる。だからと言って自分の子とママ友の子を取り替えるのは異常過ぎるけど。
    両親、祖父母、両方の子ども。誰もが辛い思いを抱えなきゃいけない切な過ぎる話しだった。
    読了後の余韻が辛すぎるが、新しい家族で子供達が幸せを感じられる日が来る事を願う。

  • 図書館借り出し

    自分には子供がいない。
    それでもめちゃくちゃ胸が痛くなる言葉だった。

  • 産後鬱に陥った母親がふと魔が差して自分の赤ちゃんとママ友の赤ちゃんを入れ替えてしまい、そのまま4歳まで育てるが、取り替えの事実が発覚してしまい、関わってきた人がみな傷ついていく話。

    映画「そして父になる」と同じテーマ、我が子だと思って育ててきた自分の大切な子が他人の子だとわかったらどうするか。考えても考えても答えは出ない、引き裂かれるような苦しみになると思う。

    産後鬱状態や初めての子育てに困惑し悩んでいる姿が自分の子育てと重なり苦しい。苦しかったけどもう二度と戻ってこないんだよな、と寂しくも思う。

    じゃあ他にどうすれば?とも思うけど、ラストはこうなるのか… 複雑な気持ち。

  • 産後うつになった母親が自分の赤ん坊と他人の赤ん坊を取り替える話。出産することを希望のように描く物語が多い中、この本は子どもを産んだことに対して母親が絶望してしまう。

    妊娠中は育児のことを考えて不安になったけど、子どもを産めば母親の自覚が芽生えるはず!って思っとった主人公。けど現実はそうじゃなかった。子どもを取り替えた罪は重すぎるけど、この本を読み終わると彼女を一方的に責めることはできない気持ちになる。

    けどやっぱり、大切に育てた我が子が"実は赤の他人でした"って、そんなの絶望的すぎる。無かったことにならないし、みんなの人生が狂うし、誰も幸せになれない。

  • 読んでて辛かった…。忘れていた乳児との暮らしがまざまざと蘇る。我が子をわざと取り違えた繭子に誰も救いの手がなかったのが苦しい。いや、手は差し出されてて、でもタイミングや何かでうまく受け取れなかったたけなのかも。
    結局人の気持ちは他人には分からず、とばっちり受けるのは子供。
    はーつらかった

  • 自分が産んだ子どもを自ら他人の子どもと取り替える気持ちが全く理解できなくて、こーだろーかあーだろーか想像してみたけれど、これこそが小説を読む醍醐味。想像して、現実にもこういう人がいるかもと思ったら自分の視野が広がる気がする。

    取り違えられたほうの親の気持ちになって、自分だったらどうするだろう?と考えたけれど、4年間育てた子どもを手放すことなんてできるわけない!という結論。たとえこの先の人生の方が長くて、最初の四年の記憶が本人にとってはほとんどなくなるとしても。

    取り替えたほうの親は、子どもといつか別れる時が来ると考えながら日々を過ごした。死と一緒で、限られた時間であることを意識すると日々の何でもないことが大切なものだと感じるのだと思うと、自分もそう思って毎日を過ごそうと思った。

  • 繭子と郁恵
    置かれている環境も考え方も違う二人
    お互いの視点で読めるのがいい
    相手が良さそうにみえて、できない自分を責める気持ちが丁寧にかかれていて、まるで自分ごとのように思えた
    感情的に駆られて繭子が取り替えたために
    璃空、航太、そして両親が祖父母が傷ついて取り返しがつかない事態になってしまった。
    でも繭子も育児に対する不安が大きすぎたのか...
    闇が深いなぁと思う

  • *自ら産んだ子を自らの手で「取り替え」た、繭子。常に発覚に怯え、うまくいかない育児に悩みながらも、息子・航太への愛情が深まる。一方、郁絵は「取り違えられた」子と知らず、保育士として働きながら、息子・璃空を愛情深く育ててきた。それぞれの子が4歳を過ぎたころ、「取り違え」が発覚。元に戻すことを拒む郁絵、沈黙を続ける繭子、そして一心に「母」を慕う幼子たちの行方は…。切なすぎる「事件」の慟哭の結末。渾身の書き下ろし! *

    こんなことは絶対にあってはならないことです。それが大前提ですが・・・私も、いつも思っていました。恐ろしくはないのか?と。なぜ、みんな当たり前のように、幸せそうな顔をしたまま自然に母親になれるのか、と。

    出産や育児そのものへの恐れや不安はもとより、善意と言う名の自分の価値観を押し付けてくる「先輩」方の棘の痛さ。過敏になった神経を逆なでされ、追い詰められていく繭子の焦燥感が痛いほど伝わってきます。たった一人でも、たった一言でも、繭子を救ってくれる何かがあれば良かったのに・・・
    ラストは、この物語においては最上の締めくくりかと思いますが、どこにも持っていきようのないやるせなさが身に染みます。子どもを持つ、と言う世界の一端を深く考えさせられた本。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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