アメリカ帝国哀亡論・序説

  • 幻冬舎 (2017年8月3日発売)
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本 ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784344031579

感想・レビュー・書評

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  • 2023年の今読むには少し遅いかなと思ったが、遡って答え合わせもできるので、正しかった主張の根拠を確認できるという二度美味しい読書。時代に流されぬ不変的な教養も学べる。

    本著の主題は、アメリカが相対的に弱体化しているという事。そもそも核を持つ国に軍事行動は取れないし、長距離砲による米軍への被害なども想定すれば、北朝鮮に対する強硬策は無い。ローマ帝国の衰亡要因の有力な説は、世界各地の辺境戦争に繰り返し介入したからというもの。アメリカも同様な状況にあり、手の引き方も難しい。そうこうしていると、中国によるパクスシニカが進む。

    アメリカの建国の振り返りと歴代為政者によるキリスト教の関係性が特に興味深い。本当の意味でのアメリカ建国の先駆者は、1630年アメリカへ渡ったピューリタンであるジョン・ウィンスロップ。アメリカ孤立主義の象徴はウィンスロップが大西洋を渡るときに船の中で行った有名な丘の上の街と題する説法。「我々は世界の模範としてすべての人々の目が注がれるような丘の上の街を作らなければならない。我々はここを保って、道徳的な模範を世界に示し、外交や軍事に関わることでは彼らとは付き合わないようにすべきなのだ。しかし、こんなに立派な天地を作っていることを世界に示すべきなのである」この根本精神が、アメリカの高慢な思想につながると著者は言う。本当か?ウィンスロップの説法が浸透する具体的プロセスは不明でこじ付けにも感じるが、確かにアメリカはここからスタートする。

    トランプはプロテスタント。レーガンもクリントンもプロテスタント。プロテスタントにも様々な教派があり、例えばアメリカでプロテスタントの最大の教派はバプティスト。階級は、国教会、長老派、組合派の順。更に下層で人口が最も多いのがバプティスト。黒人や改宗したアジア系の人々が多いのもバプティスト。ヒスパニックが多いカトリックやユダヤ教は、事実上バプティストより下の位置付けで、ほぼ同じ扱い。トランプは結婚相手に合わせ、娘をユダヤ教に改宗させていて、親ユダヤをアピールできるが、ハイソサイアティのイギリス国教会に擦り寄る様子はない。

    出発点はピューリタンによる建国なのだから、キリスト教について深い理解が必要だという考えは、確かにそうだと思った。やや本著の本筋からはずれているが、そこに最も学びがあり、面白いと感じた箇所である。

  •  長いことアメリカに住んでいると、アメリカに根付いている階層意識、階層差別というのが良く見えてくるそうである。自由の国アメリカ、一文無しからでもビックになれるアメリカンドリームというのはどうやらまやかしのようだ。先日渡米したピースの綾部、大丈夫か? 才能うんぬんより、やっぱり日本人ということで見えない差別の壁に跳ね返されるんじゃないか…

     過激な発言でアメリカファーストを繰り返すためオバマ前大統領とは違う路線だと思われているが、著者によれば、実はトランプはオバマ路線の誠実な継承者らしい。
     オバマは世界の警察官をやめた。トランプはアメリカファーストを掲げている。表現は違えど、二人ともアメリカはもう期待されるような超大国としての役割を果たせませんよ、と言っている。

     北朝鮮の問題にしろ、アメリカが直接かの地に乗り込んで戦争をしかけるなんてありえない。もし本当に北朝鮮が核でアメリカを攻撃できるなら、いままで核保有国に戦争を仕掛けたことがないアメリカが、北朝鮮に戦争を仕掛けるわけがない。また核による脅威がないなら、極東の危機なんて、所詮はアメリカとっては喫緊の課題なんかじゃないから、本腰なんて入れるわけがない。

     トランプの発言はブラフばっかり。彼の過激な発言は、結局はディールなのだ。とりあえず過激な発言をして相手の出方を伺っている。
     
     いろいろ言っているが、北朝鮮への武力攻撃なんて、トランプの頭にはないんじゃなかろうか。

     日本にとっての一番の危機は北朝鮮ではなく、やっぱり中国。日本がいま一番警戒しなければいけないのは、実は米中接近らしい。

     近い将来必ず中国がアメリカを抜いて超大国になる。領土的野心を隠そうともしない中国が尖閣を奪いに来ても、アメリカは抗議くらいはするだろうが、本気で日本の味方なんてしない。そんなことより中国にすり寄ろうとしている現状からみれば、まあまあ、ここは双方矛を収めて、現実的な話でもいたしましょう、くらいな感じで仲介役になろうとするかもしれない。

     著者は日米安保体制で中国の脅威に対して対抗するのは危なっかしいので、いよいよ日本独自で超大国中国に対抗する手段を考えないといけない、と言っている、防衛費もいまの2倍くらいにしないといけないとかなんとか。

     2倍にしたところで中国に対抗できるわけがないし、いまの防衛体制をアメリカ抜きで維持しようとしたら5倍から6倍の予算、つまり30兆か~40兆くらいかかるはずだから、著者の言い分には納得できない。そんな国力あるわけないし。しかし、結局は中国に呑み込まれるか、一党独裁の体制が崩壊して民主化するのを期待するしか今のところない。早晩、民主化への流れは必然だから、その流れを促す戦略を立てるべきと主張には、その通りだと思う。
     
     でもそれって、諜報活動を強化しろってことでしょ? 特定機密保護法でもあんなに揉めたんだから、いまの日本には無理でしょ? 諜報活動に関してだって中国のほうが数段上でしょ?と様々な疑問が浮かぶ。国の舵取りは当たり前だが一筋縄にはいかない。

     そんな状況を知ってみると、いまのアメリカ追従の政権も、アメリカに逃げられたくないから、袖にしがみついて引き留めているだけだ。アメリカがそれで翻意するならしばらくはいいが、10年20年を見越した政策ではないことは確かなようだ。
     逆にアメリカを追い出せなんて言っている勢力は中国の脅威に対してあまりに盲目だ。自国民でさえ信じていない独裁政権の善意を信じる態度は危ういと思う。

  • 終わりの始まりへの道 リアルはバーチャルで、バーチャルこそリアル パクス・シノ・アメリカーナへの移行 中国が次の覇権国へ 大国の傲慢による辺境戦争の繰り返し コロンブス以来の世界史的転換 海洋国家優位から大陸国家優位の時代へ アメリカの相対的衰退 日本の精神的・文化的植民地化 丘の上の町という理想 選民思想・アメリカのバックボーン 国家体制の核となる土着の民の不在 情報戦と転覆戦争への移行 大国間のハイブリッド戦争 組織された民意による体制転換 経済と心理の超限大戦 アメリカという無色透明な文化的無機質さ

  • いける

  • かつてのアメリカの孤立主義への勘違いが日本にはある。本来は理想主義的なもので決して排他的なものではない。トランプの孤立主義は排他的。

    アメリカは相対的に弱体化し、多極化するが中国も危ない要素が多い。

    イギリスこそ帝国である。

    アメリカとイギリスの経済的観点はかなり近い。

    EU離脱とトランプは同じ事。自由主義経済は役割を終えた。

    中国の軍事力はアメリカに追いつきつつあり、南シナ海か、東シナ海もいずれ奪われる。

    日本や西欧は人生の目的が物質追求からつぎの段階にかわろうとしている。

    要するに中国の力はすごい。一帯一路とかでパナマ運河とかアメリカの物流を破壊しようとしている。

    これからはアラブの春のように工作により、政治体制を変える戦いだ。

    日本人はアメリカに世論操作され、従属国と化している。

    中国を民主化するためのハイブリッド戦争がこれからの課題。

    いまはプロパガンダの戦いだ。

  • トランプ政権を中心に昨今の世界情勢を解説した書。全体的にあまり深く踏み込んだ内容でないので、物足りなさを感じる。ただ、これからは軍事力による戦いから、世論操作等の「プロパガンダの戦い」が主流になること、アジアと世界の新秩序が2040年頃に実現すると予想していること、等は示唆に富んでいて面白かった。

  • ドナルド・トランプの大統領就任は、 覇権大国・アメリカの「終わりの始まり」--。アメリカ衰亡のシナリオ、そして日本はどのような備えをすべきか、提示する。


    プロローグ 覇権国・アメリカの「終わりの始まり」
    衰亡のシナリオ1 北朝鮮危機に隠されたトランプ・アメリカの「悪あがき」
    衰亡のシナリオ2 トランプで加速する、アメリカ自滅の「三つの大罪」
    衰亡のシナリオ3 トランプの孤立主義は建国の理念を裏切る
    衰亡のシナリオ4 アメリカに潜む階層・差別の矛盾を露呈するトランプ
    衰亡のシナリオ5 失敗した「アメリカ化」と、アメリカ・ファーストの行方
    衰亡のシナリオ6 “グレイト”宣言は、もはやグレイトたり得ないアメリカの窮状
    衰亡のシナリオ7 “パクス・トランピアーナ”の虚妄
    衰亡のシナリオ8 中ロの圧力に屈し、イギリスとともに「離脱」に向かう罠
    エピローグ―アメリカ衰亡の時代に備え、日本の生きる道を考えておくこと

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著者プロフィール

1947年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授、京都大学教授を歴任。石橋湛山賞(1990年)、毎日出版文化賞・山本七平賞(1997年)、正論大賞(2002年)、文藝春秋読者賞(1999年、2005年)受賞。専門は国際政治学、国際関係史、文明史。主な著書に『帝国としての中国――覇権の論理と現実』(東洋経済新報社)、『アメリカ外交の魂』(文藝春秋)、『大英帝国衰亡史』(PHP文庫)、『なぜ国家は衰亡するのか』(PHP新書)、『国民の文明史』(扶桑社)。


<第2巻執筆者>
小山俊樹(帝京大学教授)
森田吉彦(大阪観光大学教授)
川島真(東京大学教授)
石 平(評論家)
平野聡(東京大学教授)
木村幹(神戸大学教授)
坂元一哉(大阪大学名誉教授)
佐々木正明(大和大学教授)

「2023年 『シリーズ日本人のための文明学2 外交と歴史から見る中国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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