東芝の悲劇

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344031753

感想・レビュー・書評

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  • 東芝の粉飾決算に行きつく仕組みを描く。
    明るみに出るまでの、歴代4社長にスポットを当てて、粉飾の歴史をたどる。

    会社は利益を出し続けること、現状にとどまらず、絶えず未来を見据えて、利益を拡大していく。そうでないと自分が経営を成功していると言えない。
    そのルールにとらわれ、結果を出し続けることに価値を置いている、エリートたちが、自分の名誉を満たすために、倫理意識は欠如していく。

    エピローグに書いてあるように、傍流から社長になった者たちは社長になることで、ある意味会社におけるメインの実績がないという負い目からも、失敗したくない、必ず結果を出す、(赤字なんてもってのほか)という意識があったのかもしれない。

    大会社の経営層がどんなことを考えているか、どんな価値観でいるか、窮地に陥った時に何をとるのか。
    ある意味非常に人間らしい、スマートではない世界(例えば、目的のために手段選ばずとか、政治的な権謀術数の繰り返しとか、密室的な世界でのパワーゲームとか)が、経営陣の世界なのだなと。

    読み物として、普通に面白い。
    エピローグにあるように、4社長のキャラクターがや相互の関係が面白い。
    『模倣の西室、無能の岡村、野望の西田、無謀の佐々木』

    経営に正解はないと思うけど、ある意味失いがちな、倫理観やポリシーを大切にしないといけない、自分を客観的に監視できなくてはいけない、
    のではないかと思う。

  • ★悲劇とは人災★歴代社長をたどりながら、誰がどのタイミングで東芝をおかしくしたのかを骨太に語る。パソコンの損失を隠すために西田時代に始まったバイセル取引が佐々木時代に急拡大した。236ページの月別の営業損益のグラフで、赤字黒字が振れ幅をどんどん広げながら膨らんでいくのは本当に異常だ。震災時に原発一筋のトップを抱き、無謀な方向へ突き進んだのが最後の引き金を引いたのだろう。これだけの資料と取材をまとめ切る筆力に脱帽した。

    エピローグで日本の大企業では抜擢人事は院政になるので成功しないと言い切る。ソニーの平井一夫氏はゲームとイメージセンサーの成功で退任するときには成功者と位置付けられたが・・・。引用が少なくないためもあるのだろうが、インタビューを含めて注記をつけているのが面白い。単に誠実と言っていいかは分からないけれど。

    それにしても岡村氏にしても西田氏にしても、息子が東芝にいるとは。社長になったのは後付けとしても、子どもを同じ会社に入れるというのは中小企業でもあるまいし生ぬるい風土に驚いた。

  • 非常に面白い。下手な経済小説よりはるかに小説的。一気読みした。
    東芝がごたごたしているのは新聞等で知ってはいたが、出世欲、名誉欲、地位、お金、保身、、、などでボードや管理職が判断を間違えてこのような結果になったのが複数の社長による統治で連続して起きていることに驚く。ただ、自分の会社も似たようなものでありおそらく有名企業の多くがこんなもんではないかな。

  • わかりやすかったー。パソコン販売粉飾やウェスチングハウス買収は歴代社長の功名心や社外取締役、監査法人が仕事をしなかったことが原因のひとつ。

  • 東芝という超名門企業が、トップのつまらない虚栄心やプライドにより、ズタズタにされていく過程を淡々と記している。

    恥ずかしながら、私の勤務先を思い返してみても、似たような状況ではある。

    経営環境が変わっても、トップに恥をかかせられないからという理由で、過去にトップが打ち出した方針に対してつまらない忖度ばかり積み重ねる社風。
    トップか誤った方向に進もうとしても、保身を考え、物申せない従業員。
    結局、会社を運営するのは自分たちなのだという自主性や確たる考えをもって仕事にのぞまないと、悲惨な結果に繋がるということだろう。

    本書は、サラリーマンにとって仕事とはなんぞや、会社にとってガバナンスとはなんぞや、ということを考えさせてくれる貴重な資料だと感じた。

    末筆になるが、東芝の歴代の経営者を一方的に叩くのではなく、優れた功績にも触れている点も良かった。すなわち、優れたビジネスマンがどのようにして狂っていくのかを教えてくれたように思う。

  • 2023年令和5年1月から2月にかけて東芝の悲劇と言う本を読みました。
    (1)この本はよく調べて書かれた本だと思います。まるで著者がその場に立ち会っていたかのように書かれており、調査が随分大変だっただろうと思います。だから、読み進めるにつれて興味が湧いてきました。
    (2)東芝という名門企業が苦しい状況に至るまで、西室社長から始まって西田社長、佐々木社長そして田中社長という歴代の四人にスポットを当てて、歴代社長の人となりとか、どういう風にして粉飾決算があって、どういう風にして破滅の方向に向かっていったのかということが書かかれています。
    読み進めるに連れて、面白くなって、読み応えのある小説のように感じましたが、あくまでも、ドキュメンタリースタイルなので、実際の周囲の当事者にとっては大変な思いだっただろうと推測します。
    (3)まず、西室社長について、彼は、部品の国際営業で頭角を表し、社長になると「選択と集中」で不採算部門から撤退し、成長部門に集中するという大胆な事業再構築を進めて高い評価を得た。東芝を卒業してからも郵政の社長をやって、それが終わっても、東芝のドンと言われていた人らしいが、院政をひいて活躍するというのは良くないと思います。
    経営危機に陥った東芝の転落のきっかけをつくったのも彼だったと言われます。
    次に西田社長は東芝パソコンの立役者で、正規入社ではなくて31歳でイランの現地会社から東芝に入った苦労人らしいです。元々技術者ではなくて大学院で国際政治を研究していたが、それを辞めてイランに向かったということです。その後、東芝に中途入社で入って国際営業で頭角を現して、活躍したとのこと。2000年代にパソコン状況が悪くなって、バイセル方式を始めたらしいですが、これが崩壊の始まりとのことで、東芝も不運でした。
    その頃、箔付けのために、原発メーカーのウエスチングハウスを買収するということで、一躍、有能な経営者となり、脚光を浴び、その後、経団連の会長になるという野望を実現するために色々画策して、東芝内に色々と軋轢をもたらした。
    西田社長の後継者が佐々木社長、東芝生え抜きの原発の技術者で、WHを購入する時は西田前社長とも懇意だったらしいが、その後の路線の違いで対立抗争となり、社内を二分させるような原因を作った。更に、それを仲裁すべき西室社長が拱手傍観していたのがやるせない。
    その次が田中社長で資材の出身であり、西田時代にバイセル取引を考案した人らしい。
    (4)この本で、こういう人たちが社長になって東芝がおかしくなっていったということが明確にわかった。この4人の社長が東芝のトップについていなければ、今も日本の電機業界のトップ企業として東芝は君臨していたと思います。本当に東芝は不運の連続だったと思います。
    ただし、著者は社長になる人は本流からであるべきで、傍系出身だと務まらないと言っておられますが、少し同意できません。本流であれ、傍系であれ、社長になる人は私利私欲がなく、そして皆から人望があり、会社の100年先の将来を思っていれば務まるはずです。例えばパナソニックの松下幸之助、日立の小平浪平、本田宗一郎、稲盛和夫の各氏が思い出されます。明治維新の昔で言うと西郷隆盛だと思います。そういう気持ちを持った人がならないと会社は長続きしないということだと思います。
    (5)2000年代から2015年ぐらいまでに、製造業の衰退は、台湾中国の台頭、東日本大震災、リーマンショックなど日本の産業構造の変化による要因があったわけですが、リーダーの資質によって企業は良くもあり悪くもなるという見本だと思います。今後の東芝の再生を切に望むものです。
    (6)自分の反省としては、当時は、自分のことで精一杯だと思いこんでいて、特にパソコンのいわゆるバイセル取引とか、台湾メーカーへの ODM の発注とかについて勉強不足でした。東芝状況をほとんど知らずに過ごしてきましたが、状況をよく見なければなりませんでした。それができなかった自分は残念だけど、やっぱりレベルの低い小さい人間だと思います。それでも、この本を読んで、今後の自分に何か一つでも役に立つことがあるはずだと感じています。以上

  • プロジェクト・ルビコンなんてすごい名前の仕事が出てきて・・・。
    第三者の立場で読めたことをありがたいと思わなきゃいけないかなぁなんて。

  • 2020年度の売上高は最盛期の50%未満である、東芝の粉飾決算の話。いやーすごかった。
    PC事業の営業利益が売上高を上回ってたことと、その理由にはビビった…(https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtayasuhiro/20161010-00063083/

    p.172〜から詳細が書いてある。

    西室、西田、佐々木、田中の院生経営と会長社長のプライドが度重なる粉飾に繋がった。

    巻末のエピローグに本書の内容が簡潔にまとめられている。

  • 徹底的な取材を積み重ねた渾身の一冊。
    一人の取材者だけでなく、その部下だったり、周辺の人達からも取材しているために、内容が非常に説得力があり重厚。
    よくぞここまで丁寧にまとめたと思う。
    それだけに、本当に読みごたえがあるが、軽く一気読み出来てしまった!
    この本の最後に書かれた一行が、作者の言いたい事のすべてを集約している。
    「その凋落と崩壊は、ただただ、歴代トップに人材を得なかっただけであった。」
    何万人も社員を抱え、超が付くくらい優秀な人達が、いくつものすごい技術力も持っていた。
    それなのに、崩壊はたった一人のリーダーの悪行によってもたらされる。
    これが本質なのではないだろうか。
    企業とは、リーダーが全てなのではないだろうか。
    この本を読んで改めて思うのは、「リーダーが自覚すらしていない」ことだ。
    サラリーマンの目的が「出世」であるならば、出世した時点で目的達成だ。
    会社をどうやって経営しようかなんて、全く思わないだろう。
    リーダーの無自覚が、ここまで問題を大きくしてしまった。
    問題点に気が付いていた人は多数いたはずだ。
    その多数の正しい意見を、たった一人のリーダーが抑え込めるのだから、集団心理というのは非常に恐ろしい。
    おそらくそういう問題点を利用して、出世してやろうと思う私利私欲が、さらに問題を複雑化するのだろう。
    当社も同じなのか?違うのか?
    想像をしながら読んでしまった。
    (2018/8/1)

  • 東芝の崩壊は人災である-

    伝統ある名門メーカーが、世界トップクラスの技術力を有しながら衰退していく様は読んでいて哀しくなった。

    東芝の場合、いわゆる「大企業病」で現状にあぐらをかいているうちに競合に差をつけられたのではなく、トップの無謀な方針を誰も止めることができないまま、出血が致命的なレベルに達したところが恐ろしい。

    成功体験を自分の実力と勘違いし、苦手な相手は遠ざけ、取り巻きを重用し、ヨコ文字のスローガンを掲げ、無理な数字を下に押し付け、「名経営者」としてチヤホヤされることを夢見る...

    器の小さい人物がトップに就いてしまうようになったのは、平成という時代の悪弊なのかもしれない。

    「老害」としか形容できない西室泰三の晩年にはいろいろ考えさせられる。

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著者プロフィール

ジャーナリスト・ノンフィクション作家。1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)をはじめ、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』(以上朝日新聞社)、『ジャーナリズムの現場から』(編著、講談社現代新書)、『東芝の悲劇』(幻冬舎)、近著に取材班の一員として取り組んだ『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』(幻冬舎)がある。

「2021年 『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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