- Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344032453
作品紹介・あらすじ
劇場で、病院で、公衆浴場で-。"声"によってよみがえる、大切な死者とかけがえのない記憶。その口笛が聴こえるのは、赤ん坊だけだった。切なく心揺さぶる傑作短編集。
感想・レビュー・書評
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孤独と向き合う人たちに焦点をあてた、優しい物語たち。
どこか童話のような、幼い頃からずっと心の支えになってくれているような懐かしい記憶。
切なくて、何とも言えない温かい空気を感じる。
老婆をカタカナで「ローバ」と呼んだり、お針子さんを「りこさん」、曾祖父のことを「ひいちゃん」と呼んだりするところが素敵だなと思った。
人ってこんな寂しさの一歩手前で生きているのかなと思う。
表題作は、公衆浴場の脱衣場で赤ん坊の世話をする小母さんの話。
ただひたすら赤ん坊のためだけに我が身を捧げている話が心に残った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読んでいくと既読感が。ただ詳細は忘れていたので新鮮な気持ちで。
相変わらず異常さと繊細さとの紙一重の部分が描かれている物語集。ただ今回はグロテスクな部分の方が目立ったような気がしてあまり入り込めなかった。
年齢も背格好も似ていないのに、ミュージカル俳優を亡くなった息子と思い込む伯母。その俳優が出演する『レ・ミゼラブル』の舞台を伯母と共に観に行くことになった青年。
始めは伯母が俳優に何かするのではないかと心配で監視していた青年だったが、次第に舞台の物語に入り込み感動していく話「一つの歌を分け合う」は作品の中で唯一分かりやすかった。
もう一つ、吃音の少年の前に現れる小さな老婆が失われた声を拾い集める「先回りのローバ」も優しさとユーモアが少しあった。
しかしそれ以外の話は危うい綱渡りをしながらも踏み留まる話もあれば崩壊する話もあるものの、小川さんらしい、主人公の中では完成された完璧な世界が表現されているようには思えず微妙な読後感だった。
主人公たちの行動を異様な執拗さと見るか、完璧を求める故の徹底さと見るか。異常性と個性の境界線は何か。
見方によって怖くもあり美しくもあり、滑稽でもあり切なくもある。不思議な世界。 -
初めて読んだ小川洋子さんの作品でした。
短編でしたので、読みやすく描かれていて、
小川さんの世界観も感じれて良かったです。
印象が残った作品は、やはり表題作の「口笛の上手な白雪姫」で、公衆浴場で、母親が入浴している間に、赤ん坊を世話する小母さんの話で、心が暖まるお話でした。その他の作品もどこか寂しさも残るが、ユニークな気持ちになるし、心が暖まる。
それが小川洋子さんの文章が惹きつける魔力だと思いました。もっと多くの作品を読んで見たいです。 -
小川洋子さんの小説は安心できる。
読み始めればすぐに、小川さんの世界にスルッと入り込むことができる。
1ページ目早々の『何もかもがどこかしらおもちゃめいていたが、僕は最初からそれが、ただものではないことにちゃんと気づいていた。両手に載るほどの大きさなのに、何を企んでいるのか分からないふてぶてしさと思慮深さを併せ持っていた。』という黒電話の描写から、小川さんらしさが全開だ。
更に今作は、「こんなお話もお好きでしょ」と言って蔵出しの品を並べてくれたようで、「はい、大好物です」と返したくなる。
そんな中で『亡き王女のための刺繍」は、少しだけビターな味わいだ。
りこさんは「私」が子供の頃に服を仕立ててもらっていたお店のお針子さんだ。縮めて私からは「りこさん」と呼ばれる。
子供の私は「りこさん」が大好きだが、りこさんにとってはどうだろう。
13歳の私が学校の宿題である、ハンカチへの刺繍の肩代わりを頼む。りこさんによって美しく仕上げられたイニシャルは、しかし触れただけてスルスルと解けて糸に戻ってていってしまった。りこさんがフレンチノットステッチ(糸止め)をわざとしなかったのだ。
名前で呼ばれぬ「お針子さん」が、“イニシャル”の刺繍の依頼に込めた複雑な想いにも取れるし、妹に“王女さま”の座はとうに譲り渡している私が、子供時代を脱ぎ捨てていく象徴にも思えるーりこさんの刺繍は子供達の護符なのだからー。
小川さんは何も説明せず、ただ刺繍が解けていく様を美しく描写するだけなのだけれども。
50年の付き合いの中で、私にも、りこさんにも子供はいないことが会話から分かる。
何となくりこさんは独身を通しており、私は子どもを欲しても妊娠しなかったような雰囲気を、勝手に感じる。
二人は時は違うが、大変なお産を乗り越えて無事に生まれた子どものために、ツルボランを刺繍のモチーフに選ぶ。
冥界の地に咲く花を刺繍するとき、“あなたの生はいつも死と隣り合わせなの”と赤子の耳に囁くようなひやりとした感触を覚える。
『亡き王女のための刺繍』というタイトルもまた、ショーケースで古びていく私の子供時代への、もしかしたら生活苦で恵まれなかったりこさんの子供時代への、そして生まれてこなかった私の子供への哀悼にようにも思えてくる。
この一編だけで、やっぱり小川洋子さんは特別だ。 -
8編。流石にうまいな〜楽しめました。どれも像が浮かび上がる。「先回りローバ」吃音の子の気持ちよく書けてるし、「仮面の作家」の主人公のような人のこと、なぜかやってみたい気がする(最後は非難を受けるのでそこまではパスだけれど)。「盲腸線の秘密」の子供と曾祖父さんのやりとりも素敵だし、「乳歯」や「口笛の上手い白雪姫」の不思議な世界もすっと入り込めました。小川さんの世界、しっかりしてました。
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冷ややかで時に残酷で、けして温まりそうにないのに気づけば人肌のようにしっとりと温かい。境界も存在もいつの間にかあやふやになり、あなたなのか私なのかわからなくなる。密やかに侵食される。迷い込む。怖い。ああ小川さんの物語世界だ。その物語世界に耽溺しつつ、読後には帰って来られた安堵の吐息をまずひとつ。ふう。
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主人公は、ふだんは言葉数が少なく、ひそやかに生きている人たちばかり。
その繊細な心のうちの声を、ていねいにえがいていて、ひきこまれる。
ふつうの日常のようなのに、どこかしら奇妙な要素がまぎれこみ、結果、独特な世界をつくりあげていく。
ふしぎな魅力があった。
「先回りローバ」「亡き王女のための刺繍」「口笛の上手な白雪姫」がよかった。 -
世の中かれ少しはみ出してしまった人を描くのがうまい。登場人物たちは誰にも迷惑をかけないようにひっそりと暮らすものが多い。タイトルの口笛上手な白雪姫が良かった
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小川洋子さんの世界観がとても清潔に丁寧に不思議に描かれている短編集でした。
中でも「亡き王女のための刺繍」と「口笛の上手な白雪姫」が好きでした。
「亡き王女のための刺繍」は、話に起伏があまりないのですが、何故か強く心に残って、その世界にずっと浸っていたい様な、とにかく不思議な感覚でした。刺繍とは、女性にとって、何か特別なものなのかもしれません。
「口笛の上手な白雪姫」は神域とおとぎ話のメルヘン感がとても生々しく、小母さんの真面目過ぎる奇妙さが奥行きを出していて、「白雪姫」と名付けるとは。と、すごいの一言です。 -
表題作含め8篇を収めた短編集。
どれも、静謐で穏やかで、秘密めいて、不思議さがあって。そしてとても優しい。
この空気は小川洋子さんの本でしか味わえない。
時々無性に浸りたくなる。
『盲腸線の秘密』が好みだった。