口笛の上手な白雪姫

著者 :
  • 幻冬舎
3.31
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本棚登録 : 784
レビュー : 110
  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344032453

作品紹介・あらすじ

劇場で、病院で、公衆浴場で-。"声"によってよみがえる、大切な死者とかけがえのない記憶。その口笛が聴こえるのは、赤ん坊だけだった。切なく心揺さぶる傑作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 冷ややかで時に残酷で、けして温まりそうにないのに気づけば人肌のようにしっとりと温かい。境界も存在もいつの間にかあやふやになり、あなたなのか私なのかわからなくなる。密やかに侵食される。迷い込む。怖い。ああ小川さんの物語世界だ。その物語世界に耽溺しつつ、読後には帰って来られた安堵の吐息をまずひとつ。ふう。

  • 表題作含め8篇を収めた短編集。
    どれも、静謐で穏やかで、秘密めいて、不思議さがあって。そしてとても優しい。
    この空気は小川洋子さんの本でしか味わえない。
    時々無性に浸りたくなる。
    『盲腸線の秘密』が好みだった。

  • 小川洋子さん独特の世界を満喫できる短編集。どのお話も印象深くしみじみとひたひたと楽しみましたが、少女とお針子のりこさんとの交流を書いた話と、先回りローバの話が特に好きでした。それとお話の展開は心がざわざわしたものの、小説は目で読むのではなく作家が自身の声で語ってくれるのを聞いているのだ、というお話にはそうだったらいいのに!と思ってわくわくしました。読み終わるのが惜しい感じでした。

  • 気持ち悪さと美しさが渾然一体となる不思議。
    以下ネタバレ含む。注意。




    「先回りローバ」
    留守中に電話に出ることの怖さから、時報の声に聴き入る吃音の少年。
    この取り合わせの妙。小川洋子凄すぎる。
    そうか。時報って声なんだな、と思い出す。
    関係ないけど、昔、NHKで12時を知らせる黒盤の時計を食いいるように眺めていた。
    規則正しく刻まれる声への憧れ。
    知り合いの吃音症の方に、自分の発声に対するコンプレックスを聞いたことがある。
    でも、内容よりも訥々と語るその姿に、美しさを感じたことを覚えている。

    「かわいそうなこと」
    身の回りにあるかわいそうなことを、ノートに収集して慰撫していく話。
    シロナガスクジラの骨、図鑑のツチブタ、不器用な野球少年。
    そうした存在に、当事者以上の痛みを感じ、その痛みを丁寧に癒しに変えていく「僕」。
    一見、「かわいそう」と勝手に判断して、自分たちの世界に連れ込んでは、実のところ自分たち自身を慰めているに過ぎない、そんな今の社会の光景を彷彿とさせる。
    でも、この「かわいそう」な存在は、自分の身代わりに出来てしまったものなのかもしれない、と辺りを見渡す「僕」を否定する気にはなれない。

    はっ!キリがないのて、一言ずつ(笑)

    「亡き王女のための刺繍」
    ツルボラン、整然とした姿が怖い。

    「一つの歌を分け合う」
    レ・ミゼラブル、脳内再生間違いなし。

    「乳歯」
    海外で迷子は、確かに死を覚悟する。

    「仮名の作家」
    ファンに気を持たせてはならない教訓(笑)

    「盲腸線の秘密」
    曾祖父を苛めないで……。

    「口笛の上手な白雪姫」
    短編に詰めきれない濃い作品を最後に持って来る所に、笑みが零れる。

  • 『名前に冠されたよだれをはじめ、ミルク、重湯、すり潰した青菜、果汁、ふやけたパン、裏ごしした黄身、胃液、鼻血』―『亡き王女のための刺繍』

    小川洋子の文章に漂う不穏さは、虚構であると解っていても、ぽっかりと開いた口に引き摺り込まれそうになる引力がある。プールの縁を歩いていると必ず現れる水面に映る異界のもの。覗き込んではいけないと言い聞かせても無意識の内に身を乗り出して見つめる世界。何故か懐かしい薄暗さ。水面下の世界の息苦しさと解放感。そのないまぜ。妖しい不穏さ。

    現実に側に居たら近づきたいとは思えないような登場人物が醸し出す雰囲気は、不思議と嫌悪感とは結びつかない。それは何処までも純粋で、ある意味無垢だから。子供のような純真さ、と人は肯定的に喩えるけれど、妥協することが前提となっている世界にその純真は安住する場所を持たない。それは社会が淀みなく動いていく為にはむしろ邪魔な存在と見做される。

    それで本当にいいの?

    小川洋子の小説はどれもこれもそう問い掛ける。博士の愛した数式も、密やかな結晶も、琥珀のまたたきも。

    それに正面から応える勇気は持っていない。小川洋子が描きだす主人公に比べたら誤魔化してばかりの人生だ。一つ違いの小説家の新作は、いつも時代によって刻まれた古傷に塩を塗られるような印象が残る。物語的な語り口で糖衣しながら、いつの間にかこちらを異界に誘い込み、嗚呼この感じこそ小川洋子だなどと軽薄なことを呟いていると、滝壷に落ちいって二度とお天道様を拝めない。あの薄い唇が作るシニカルな微笑みが身体的痛みを連想させ、空恐ろしさがじわじわと沁み渡る。

    表題となった短篇はどこまでも隠喩的。最早存在が稀有となった番台のある銭湯とそこに巣食う年齢不詳の小母さん。壁に描かれる森の深さと濡れ縁の直ぐ先の現実(?)の仄暗い藪。そこに建つとされる七人の小人の住処のような小屋。そこから連想される世界に誰もが郷愁を覚える。

    赤ん坊の記憶は失われたかのようで手の届かぬ処に保管されている。しかし逆説的に、子供にしか見えない世界への入り口はその失われた記憶の導く手掛かり無しには見いだせない。一点を見つめ足早に歩みを進めていては見つからない。ふらふらと余所見をしながら千鳥足気味に進む時、ふと傍らに見出す異界への入り口。「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」。あの作家の言葉がピアニッシモでずしりと胸の奥に響く。取り返しのつかない世界への憧憬。

  • 小川さんの感性に浸るのが好き。文章には声があるって話、なるほどなあと思いました。ただそのお話のラストはちょっと悲しかったので、☆は4つ。

  • 小川洋子さんのプロとしてのゆるぎない文章力で
    不思議な世界へ誘われる
    八編の短編集
    どの世界も静謐で不思議で、でも優しさに満ちている
    物語を読む喜びを味わわせてくれる
    表紙の白鳥が語ってくれるようだ
    ≪ 境界は 意味をもたない この世界 ≫

  • 小川洋子さんの新作短編集。…正直なところ、どんなお話でも端正な文章から予想もつかない静かで豊かな世界が広まっていきそれが例外なく素敵なので、読むのになんの不安もなく、ひたすらに楽しみに新作を待てる作家さんのひとりです。

    今回の短編集も、現代のようで現代でない、ふつうのようでふつうでない出来事をひとつひとつすくいあげて描かれたお話はどれも切なげな余韻を伴い、そのどこにもない空想の世界に浸れる幸せを味わえました。

    今回の話では、「亡き王女のための刺繍」の懐深いやさしさ、「盲腸線の秘密」の二人の孫と子の絆、「仮名の作家」のおかしくも哀しくもある傾倒ぶり、それらのお話の人々の心の揺らぎや信念がとても好きだなあと思いました。

    少年の登場が多くて、いつもよりもみずみずしさというか、動きのあるお話が多いようにも感じました。そういう意味では、小川さんのお話を初めて読む人にも向いているかも、と感じました。

  • 8編。流石にうまいな〜楽しめました。どれも像が浮かび上がる。「先回りローバ」吃音の子の気持ちよく書けてるし、「仮面の作家」の主人公のような人のこと、なぜかやってみたい気がする(最後は非難を受けるのでそこまではパスだけれど)。「盲腸線の秘密」の子供と曾祖父さんのやりとりも素敵だし、「乳歯」や「口笛の上手い白雪姫」の不思議な世界もすっと入り込めました。小川さんの世界、しっかりしてました。

  • 「先回りローバ」が好き。ローバが何かわかってからは先回りしてる姿を想像するとおかしい。電話に出たくないから時報を聞き続けるとかわかる。レミゼのミュージカルを観に行く話は、本編よりミュージカルの力が強かった。

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著者プロフィール

小川洋子(おがわようこ)…岡山市生まれ。早稲田大学文学部卒。1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、同年『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花賞、06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。著書に『猫を抱いて象と泳ぐ』『原稿零枚日記』『人質の朗読会』『最果てアーケード』『いつも彼らはどこかに』『琥珀のまたたき』などがある。海外での評価も高い。


「2020年 『新装版 密やかな結晶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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