風は西から

著者 :
  • 幻冬舎
3.93
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本棚登録 : 302
レビュー : 58
  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344032682

感想・レビュー・書評

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  • 過労自死。
    その一言で思い浮かぶのはワタミの一件。そして、登場人物の一人がどうなっていくのかも、その言葉を目にした時点で想像はつきます。

    なので、恋人同士のたまの休日デートのシーンが、とてもつらい。きらきらまぶしくて。その先に、確実に訪れる破局が、過労自死という出来事が。
    なにより、そのきらきらしていると感じていた日常に、気づかないけれど、見過ごしてしまいがちだけど、着実に侵食してきているブラックの跡。

    主人公の一人がそれに気づくのは、しらばっくれる企業相手に労災認定を勝ち取るための調査中。と同時に、ただただきらきらしてる、とだけ考えて読み進めていた自分も、同じだと気づく。

    人は自分の見たいものしか見ない。

    この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
    と書かれていますが、この作品を読んで何を思い浮かべるかは、いわずもがな。
    夢も希望も人望もあり、真面目で責任感もある。そんな人ほど逃げ出せない呪い。そこから逃げ出す方法が自死でしかなかったというのはやるせない。
    それでもまだ、「週休七日は幸せですか?」と言ってのける精神って、なにかね?そこだけ切り取った言葉なので、文脈はあるでしょうが。
    なにかね?

    『明日はきっといいぜ 未来はもっといいぜ』
    文中に何度も引用される歌詞の一節。どんな気持ちで、歌って聞いていたのだろう。
    希望の詩だったはず。将来を約束する詩だったはず。
    それがいつの日か、重圧に聞こえていたんじゃあないだろうか。課せられるノルマのようになっていたんじゃないだろうか。呪いのようになっていたんじゃないだろうか。
    「頑張って」「乗り越えられるよ」と、気楽に声をかけたのが、最後の言葉になってしまったことを悔やむように。根拠のない明るい言葉が、追い詰める原因になったんじゃないだろうか。

    そんな後悔と罪悪感を拭い去ってくれるのが、ラストシーン。ありがとう。

    明日が明るい日だと誰が決めたんだろう。

    それでも、
    明日はきっといいし、
    未来もきっといい。
    魂で行こうぜ。

    風は西から吹いている。

  • 序盤,登場人物の設定がなぁとか確かに広島人はそういうとこあるけどとか斜に構えてしまうところがあったけど,話が進むにつれ何も言えなくなる。これ以上失うものはないからというのはご遺族の言葉なんだろうか。ほんと辛い。
    突然の意見陳述にその場で反論というのも実話なんかな。かっこいい。さすがだ。

  • 重いテーマですが
    風景描写とか温かい登場人物に助けられて
    一気に読みました
    過労自殺
    ブラック企業
    現実の問題です

    ≪ いつだって 風は西から 顔を上げ ≫

  • ミルクアンドハニーに出てくる小説がコレですね。
    にしては、力作すぎる。
    一気に読んでしまった。

    ニュースで知った記憶なんていい加減なもので、読みながらなんとなく電通の過労自殺を思い浮かべていたが、これってワタミの話に近いのね。

    本書では、婚約者の千秋の強さが魅力的だったけれど、実際の話はどうだったんだろうか。

    この本が世に出たことで、少しでも日本の労働環境が良くなれば、と願わずにいられない。
    外食産業最大手に新卒で入社したものの、あまりのシビアさに、5年ほどで退職、脱出したうちの息子は正解だったかも、と思う。

  • 未来に夢を抱いて社会に飛び出した若者が
    日々睡眠や休息を奪われ、ノルマに追い詰められ、
    企業という名の魔物に殺されていく。。。
    ニュースでブラック企業に就職してしまった悲劇を耳にしたとき、私は
    『可哀想に、、、』と同じくらい『そんな会社辞めれば良かったのに・・・』と思ってしまっていなかったか?
    この小説を読み終わった今、そんなことを思っていた自分が恥ずかしい。

  • 過労自殺とブラック企業。マスコミにも取り上げられることしばしばあるテーマを、物語という形で解釈するとこうなるのか。
    ニュースを見ると憤りを感じるが、その一瞬で終わってしまうが、この本を読むと、本来あってはならないことだと痛感させられます。
    最初の主人公の恋愛感情が、だんだん怪しくなっていく様はリアルそのものです。読んでいて辛くなりました。
    でも、この本は自分を含めて働き過ぎの人とその上司たちすべてに読んでもらいたい本です。

  • ブラック企業という言葉が定着して久しいですが、時折痛ましい事件が起きますね。過労で鬱になり自分から命を絶つ。昔であれば、ある程度の役職の中間管理職の人たちが主体だったような気がしますが、最近では新入社員や若手で発生しています。
    落されて落されてやっとようやっと入れた企業なので、自分を追い込んで真面目に真面目に尽くしていった結果、逃げるのではなく命を絶つという最悪の展開になってしまうのでしょう。死ぬくらいなら辞めればというのは簡単。辞めたくなった時には両親や恋人や家族の顔が浮かびますよね、期待を裏切りたくない、ドロップアウトしたくないという心理はよく分かります。
    この本では経営者に心酔して、愚直に頑張ってしまった若者が命を絶ちます。それを冷たく使い捨てにしようとする企業と、恋人、両親のタッグが見事粉砕する話です。そこまで話してしまっても構わない位最終的な着地点は読めています。でもそれでも、これでもかと精神的に痛め続けられる青年の姿が胸を刺し、くそったれな経営陣にいいようにされるところで胸が苦しくなります。
    こんな思いをしている人たち沢山居るんだろうと思うと、この本の存在意義は大きいと思います。居酒屋や飲食店で働いている人たちにやさしくなれる事請け合いです。人間らしい扱いを受けられているように願うばかりです。
    ちなみにずばりワタミモデルですので、ワタミと読み替えて読んでもいい位だと思います。

  • カリスマ社長経営の大手居酒屋チェーンに努める健介。繁盛店の店長になるが、突然自殺する。きつい仕事。本部による吊るし上げ。ブラック企業。死の真相を知りたい恋人の千秋と健介の両親は大企業相手に戦う。前半は二人の関係、後半は、社長の謝罪を求め闘い抜く内容。カリスマといえども相手の身になり考えることができない、都合が悪いことは躱す、隠す、ブラックの実態、そしてその会社により心を壊されていく健介も丁寧に描いている。居酒屋側の対応には読んでて怒りばかりだけれど、最後で和解を申し入れる変化のところをもう少し詳しく書けていたらなあ。従業員であれ社長であれ管理職であれ働く人に読んで欲しい。健介のような方が身近にいたらうまく助言できるかとかも考えてしまいます。

  • 特にここ1・2年、新作ごとにどんどん新しい引き出しを見せてくれる、村山由佳の最新刊は、恋人を過労自死で失った主人公の戦いの物語。
    争いメインかと思いきや、恋人・健介が追い詰められて自ら死を選んでしまうまでにしっかりボリュームが取られていて、その分、主人公・千秋や両親の苦しさがリアルに伝わってきてしんどかったです。それとともに、ブラック企業・山背の腹の立つこと……!!腹わたが煮えくり返りながら一気読みです。
    正直、協力者が多いのはちょっと都合が良過ぎるのではと思いましたが、これくらいのバランスでないと、辛すぎて読み切れなかったと思います。

    奥田民生の曲と広島弁が利いてます。日曜劇場でドラマ化希望。

  • とても重苦しかった。ブラック企業、過労自殺をテーマとした社会派小説です。今のこの時代だからこそ生まれ得た話だと感じた。
    有名なカリスマワンマン社長の大手外食チェーンというと、もうあそこしか思い浮かべられない。
    夢と熱意をもって入社した前途ある若者が、ねじ曲がった劣悪な労働環境で酷使される描写は、あまりにも痛ましい。暗雲が立ち込めている。
    私も学生時代大手の居酒屋でアルバイトしていたのですが、当時の店長たちの姿を思い出さすにはいられなかった。店舗に寝泊まりしてた。レジ金の自腹補填もしてた。幹部のアポなし監査もあった。数ヶ月でころころ店長変わってたなぁ。
    「とにかく、代わりがいないんだ。ほんとにいないんだ」という追い詰められた健介の言葉は非常に危険な思想だ。
    代わりは、いる。絶対にいる。あなたが必要ないと言っているのではない、あなたが一人で全てを背負って押し潰される必要がないのだ。
    社会に出て働くからには責任は必ず付いて回るが、理不尽な環境や要求を呑むことを「責任」で丸め込んではいけない。
    恋人の千秋は自分も社会人として揉まれながらもよく寄り添い励ましていたと思うが、それでもこういうことが起こってしまう。人間は極限まで追い詰められると正常な判断がつかなくなってしまうというのは、こういうことなんだろう。

    前半はとことん悲痛で、自殺してからの闘いも出口の見えないトンネルを歩いているような不安がついてまわったが、最後は本当に風が突き抜けるようだった。
    世論はうごき、私たちを取り巻く環境も、きっと少しずつ進歩している。

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著者プロフィール

村山由佳(むらやま ゆか)
1964年7月10日生まれ、立教大学文学部日本文学科卒業。不動産会社、塾講師などの勤務を経て作家となる。
1991年 『いのちのうた』でデビュー。1991年『もう一度デジャ・ヴ』で第1回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞佳作、1993年『春妃〜デッサン』(『天使の卵-エンジェルス・エッグ』に改題)で第6回小説すばる新人賞、2003年『星々の舟』で第129回直木三十五賞、2009年『ダブル・ファンタジー』で第4回中央公論文芸賞、第16回島清恋愛文学賞、第22回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞している。ほか、代表作として『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズがある。

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