風は西から

著者 :
  • 幻冬舎
4.02
  • (21)
  • (22)
  • (17)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 232
レビュー : 29
  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344032682

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 過労自死。
    その一言で思い浮かぶのはワタミの一件。そして、登場人物の一人がどうなっていくのかも、その言葉を目にした時点で想像はつきます。

    なので、恋人同士のたまの休日デートのシーンが、とてもつらい。きらきらまぶしくて。その先に、確実に訪れる破局が、過労自死という出来事が。
    なにより、そのきらきらしていると感じていた日常に、気づかないけれど、見過ごしてしまいがちだけど、着実に侵食してきているブラックの跡。

    主人公の一人がそれに気づくのは、しらばっくれる企業相手に労災認定を勝ち取るための調査中。と同時に、ただただきらきらしてる、とだけ考えて読み進めていた自分も、同じだと気づく。

    人は自分の見たいものしか見ない。

    この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
    と書かれていますが、この作品を読んで何を思い浮かべるかは、いわずもがな。
    夢も希望も人望もあり、真面目で責任感もある。そんな人ほど逃げ出せない呪い。そこから逃げ出す方法が自死でしかなかったというのはやるせない。
    それでもまだ、「週休七日は幸せですか?」と言ってのける精神って、なにかね?そこだけ切り取った言葉なので、文脈はあるでしょうが。
    なにかね?

    『明日はきっといいぜ 未来はもっといいぜ』
    文中に何度も引用される歌詞の一節。どんな気持ちで、歌って聞いていたのだろう。
    希望の詩だったはず。将来を約束する詩だったはず。
    それがいつの日か、重圧に聞こえていたんじゃあないだろうか。課せられるノルマのようになっていたんじゃないだろうか。呪いのようになっていたんじゃないだろうか。
    「頑張って」「乗り越えられるよ」と、気楽に声をかけたのが、最後の言葉になってしまったことを悔やむように。根拠のない明るい言葉が、追い詰める原因になったんじゃないだろうか。

    そんな後悔と罪悪感を拭い去ってくれるのが、ラストシーン。ありがとう。

    明日が明るい日だと誰が決めたんだろう。

    それでも、
    明日はきっといいし、
    未来もきっといい。
    魂で行こうぜ。

    風は西から吹いている。

  • 過労自殺とブラック企業。マスコミにも取り上げられることしばしばあるテーマを、物語という形で解釈するとこうなるのか。
    ニュースを見ると憤りを感じるが、その一瞬で終わってしまうが、この本を読むと、本来あってはならないことだと痛感させられます。
    最初の主人公の恋愛感情が、だんだん怪しくなっていく様はリアルそのものです。読んでいて辛くなりました。
    でも、この本は自分を含めて働き過ぎの人とその上司たちすべてに読んでもらいたい本です。

  • ブラック企業という言葉が定着して久しいですが、時折痛ましい事件が起きますね。過労で鬱になり自分から命を絶つ。昔であれば、ある程度の役職の中間管理職の人たちが主体だったような気がしますが、最近では新入社員や若手で発生しています。
    落されて落されてやっとようやっと入れた企業なので、自分を追い込んで真面目に真面目に尽くしていった結果、逃げるのではなく命を絶つという最悪の展開になってしまうのでしょう。死ぬくらいなら辞めればというのは簡単。辞めたくなった時には両親や恋人や家族の顔が浮かびますよね、期待を裏切りたくない、ドロップアウトしたくないという心理はよく分かります。
    この本では経営者に心酔して、愚直に頑張ってしまった若者が命を絶ちます。それを冷たく使い捨てにしようとする企業と、恋人、両親のタッグが見事粉砕する話です。そこまで話してしまっても構わない位最終的な着地点は読めています。でもそれでも、これでもかと精神的に痛め続けられる青年の姿が胸を刺し、くそったれな経営陣にいいようにされるところで胸が苦しくなります。
    こんな思いをしている人たち沢山居るんだろうと思うと、この本の存在意義は大きいと思います。居酒屋や飲食店で働いている人たちにやさしくなれる事請け合いです。人間らしい扱いを受けられているように願うばかりです。
    ちなみにずばりワタミモデルですので、ワタミと読み替えて読んでもいい位だと思います。

  • カリスマ社長経営の大手居酒屋チェーンに努める健介。繁盛店の店長になるが、突然自殺する。きつい仕事。本部による吊るし上げ。ブラック企業。死の真相を知りたい恋人の千秋と健介の両親は大企業相手に戦う。前半は二人の関係、後半は、社長の謝罪を求め闘い抜く内容。カリスマといえども相手の身になり考えることができない、都合が悪いことは躱す、隠す、ブラックの実態、そしてその会社により心を壊されていく健介も丁寧に描いている。居酒屋側の対応には読んでて怒りばかりだけれど、最後で和解を申し入れる変化のところをもう少し詳しく書けていたらなあ。従業員であれ社長であれ管理職であれ働く人に読んで欲しい。健介のような方が身近にいたらうまく助言できるかとかも考えてしまいます。

  • 特にここ1・2年、新作ごとにどんどん新しい引き出しを見せてくれる、村山由佳の最新刊は、恋人を過労自死で失った主人公の戦いの物語。
    争いメインかと思いきや、恋人・健介が追い詰められて自ら死を選んでしまうまでにしっかりボリュームが取られていて、その分、主人公・千秋や両親の苦しさがリアルに伝わってきてしんどかったです。それとともに、ブラック企業・山背の腹の立つこと……!!腹わたが煮えくり返りながら一気読みです。
    正直、協力者が多いのはちょっと都合が良過ぎるのではと思いましたが、これくらいのバランスでないと、辛すぎて読み切れなかったと思います。

    奥田民生の曲と広島弁が利いてます。日曜劇場でドラマ化希望。

  • とても重苦しかった。ブラック企業、過労自殺をテーマとした社会派小説です。今のこの時代だからこそ生まれ得た話だと感じた。
    有名なカリスマワンマン社長の大手外食チェーンというと、もうあそこしか思い浮かべられない。
    夢と熱意をもって入社した前途ある若者が、ねじ曲がった劣悪な労働環境で酷使される描写は、あまりにも痛ましい。暗雲が立ち込めている。
    私も学生時代大手の居酒屋でアルバイトしていたのですが、当時の店長たちの姿を思い出さすにはいられなかった。店舗に寝泊まりしてた。レジ金の自腹補填もしてた。幹部のアポなし監査もあった。数ヶ月でころころ店長変わってたなぁ。
    「とにかく、代わりがいないんだ。ほんとにいないんだ」という追い詰められた健介の言葉は非常に危険な思想だ。
    代わりは、いる。絶対にいる。あなたが必要ないと言っているのではない、あなたが一人で全てを背負って押し潰される必要がないのだ。
    社会に出て働くからには責任は必ず付いて回るが、理不尽な環境や要求を呑むことを「責任」で丸め込んではいけない。
    恋人の千秋は自分も社会人として揉まれながらもよく寄り添い励ましていたと思うが、それでもこういうことが起こってしまう。人間は極限まで追い詰められると正常な判断がつかなくなってしまうというのは、こういうことなんだろう。

    前半はとことん悲痛で、自殺してからの闘いも出口の見えないトンネルを歩いているような不安がついてまわったが、最後は本当に風が突き抜けるようだった。
    世論はうごき、私たちを取り巻く環境も、きっと少しずつ進歩している。

  • 恋人の健介が勤務先の激務から追い詰められついに過労自殺をしてしまう。主人公の千秋は恋人の健介の両親と共に大手居酒屋チェーン「山背」と戦うことを誓う――あらすじを見ると、物語が進むにつれてだんだん異常な勤務状態が明らかになるのかなと思うが、実はそうではない。話は健介が自殺する少し前から始まり、千秋の視点からだけではなく健介の視点でも語られていく。読者にはあらかじめどうやって追い詰められていたのかが明らかにされているのだ。自殺するとわかっている恋人同士の物語を読み進めるのは正直つらい。しかし、こうやって書くことで、健介が逃げるポイントはたくさんあるということがわかる。働いている読者は、もちろん自身の働き方と照らし合わせての読書となるだろう。僕自身も休日出勤の電車の中でこの本を読むのは素晴らしい読書体験だった。自分は誰と幸せになるために生きているのか、幸せになるための手段は正しいのか、自分の心に問いかけるだけではなく、誰かと話すことが大切だと感じた。

  • 20180328Mリクエスト

    なんと辛い話。
    自殺することがわかっていて、読み進めることはきつい。息苦しくなりながら、一気読み。
    健ちゃんは、こんなレベルでは無い苦しさだったのでしょう。
    外食産業、ブラック企業、自分に経験があるだけに、描かれている酷さが身にしみる。

    村山由佳、本当にたくさんの引き出しのある作家さんですね。
    恋愛系がひりつくほどいいと思ってましたが、こんな話も、グイグイ読ませる筆力。
    次の作品も、楽しみです。

  • 某企業を思い出させる ブラック企業に勤務する恋人が過労自殺してしまった話。

    理想的な恋人同士だっただけに彼を救えなかった主人公や両親の気持ち等を思うと、涙が出てきた。
    大企業を相手に戦う主人公の千秋達が どうなっていくんだろうと気になり、辛いお話であるものの一気読み。

    死ぬぐらいなら、仕事なんて辞めたらいい、とか死ぬぐらいなら何だってできる。だなんて言葉にはとても出来ない。

    それほど心も身体も壊されてしまうんだと恐ろしくなってしまった。
    本当に悲しくなったけれど読んで良かったと思う。

  • 初出 2016〜18年「上毛新聞」外12紙

    「実在の人物、団体とは関係ない」と書いてはあるが、誰もが悪名高いワ◯ミがモデルだとわかる。

    前半は、健介が社長の理念に心酔して全国チェーンの居酒屋企業に勤め、繁盛店の店長になって、自分の寝る時間、休息時間を削ってまで働くが、トラブルから赤字を出し、本社の叱責で心も体も追い詰められて自殺してしまう。いい人過ぎる健介がかわいそうでしょうがないし、頑張ってと励ましてしまった恋人の千秋が自分を責めるのが切ない。
    後半は、残された千秋と健介の両親が、健介の死に責任はないとする会社と戦い、裁判までいって全面謝罪を勝ち取るまを描く。会社の姿勢に猛烈に腹が立ったけど、会社の本音はそうなのだろう。

    ブラック企業の幹部たちは、自分たちが経験してきた過酷な状況を、乗り越えられないダメな社員は要らないから、過労死してかまわないと思ってるんだろうな。

    自己責任で「自主的に」過労死できる高プロに反対する人たちを国会で恫喝してたね、あのひと。

全29件中 1 - 10件を表示

プロフィール

村山由佳(むらやま ゆか)
1964年7月10日生まれ、立教大学文学部日本文学科卒業。不動産会社、塾講師などの勤務を経て作家となる。
1991年 『いのちのうた』でデビュー。1991年『もう一度デジャ・ヴ』で第1回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞佳作、1993年『春妃〜デッサン』(『天使の卵-エンジェルス・エッグ』に改題)で第6回小説すばる新人賞、2003年『星々の舟』で第129回直木三十五賞、2009年『ダブル・ファンタジー』で第4回中央公論文芸賞、第16回島清恋愛文学賞、第22回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞している。ほか、代表作として『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズがある。

風は西からのその他の作品

村山由佳の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

風は西からを本棚に登録しているひと

ツイートする