じっと手を見る

著者 :
  • 幻冬舎
3.53
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本棚登録 : 750
レビュー : 83
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344032750

作品紹介・あらすじ

大切な人を、帰るべき場所を、私たちはいつも見失う――。読むほどに打ちのめされる! 忘れられない恋愛小説。

富士山を望む町で介護士として働く日奈と海斗。老人の世話をし、ショッピングモールだけが息抜きの日奈の生活に、ある時、東京に住む宮澤が庭の草を刈りに、通ってくるようになる。生まれ育った町以外に思いを馳せるようになる日奈。一方、海斗は、日奈への思いを断ち切れぬまま、同僚と関係を深め、家族を支えるためにこの町に縛りつけられるが……。

感想・レビュー・書評

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  • 近年、日本では高齢化社会が進み介護職の需要が高まり
    つつあるが現実では慢性的な人手不足である。
    キツイ、汚い、危険。所謂3Kと呼ばれる仕事の代表格である仕事だ。本書は、雄大な富士山の望む町で生まれ育った2人の介護士を軸とした物語だ。

    かつては恋人同士だった日奈と海斗。やがて死に至る老人の世話をして、休日にはショッピングモールに出掛ける日々を過ごしていた。
    窪美澄さんは人生に息詰まり閉塞感はあまりにもリアルだ。『流れる様に寂れたこの町を離れ、何処か遠くへ去って行きたい』そんな感情が私の中に確かに湧き上がってきた。ページを捲る手が重く、辛かった程だった。
    しかし、一度は離れた場所に再び舞い戻る場所がある事はきっと幸福なんだろう。

    そのなかにある、みずうみ
    森のゼラチン
    水曜の夜のサバラン
    晴れ惑う虹彩
    柘榴のメルマーク
    じっと手を見る
    よるべのみず

  • 心にぽっかり空いた穴、孤独による寄る辺ない寂しさ。
    穴埋めするかのように身近な他人にしがみつく。
    そして他人と寄り添う温かさを一度知ってしまったら、なかなか離れることが出来ない。

    孤独に耐えきれずもがく男女を描いた連作短編は全体的にグレートーン。
    主人公が従事する介護士の仕事の辛さが物語を一層暗くする。
    老いて死に向かう人々の世話をすることで自分の生を確保していくジレンマは、想像するだけで胸苦しい。
    私の父も週に数回デイサービスを受けているけれど、本作品を読んで介護士の方々には本当に頭が下がる。

    幾つかの経験を経て出来た手の皺は苦労を重ねてきた証。
    そんな手と手を重ね愛しさを思い出した彼女達のこれからに少しでも光が射すといい。
    二人の未来を静かに温かく見守りたくなった。

  • 働けど働けど将来に希望が見えない3Kの職業に就いている地方に住む日南と海斗。彼らの世界はとても狭く目の前にはいつも「死」がある。彼らの住む町にも「死」のにおいが濃く漂う樹海がある。
    「そんな中で何が楽しくて生きているんだ」と問う都会から来た女。その夫との恋によって外へ外へと向かう日南の心と身体。残される海斗。
    いくつも繰り返される対比。生と死。妻と愛人。老人と子供。幸と不幸。都会と地方。未来と過去。やるせない関係性の中で自分の気持ちを見失う日南と海斗。どこまで行っても平行線なのか。
    窪美澄の小説にはどうしようもない人間ではなく、人間のどうしようもなさ、が描かれている。こうなるしかなかったんだ、と最後の最後に思う。彼らがもう一度人生をやり直せることがあったとして。やはりおなじ人生を選ぶんじゃないか、と思う。男と女が出会い、どうしようもない渦に巻き込まれていくその様に強く共感した。
    誰かにそばにいてほしいと思うこと、そばにいてほしい誰かに手を伸ばすこと、伸ばした手を握り返してもらえること。今の私は何に、誰に手を伸ばすのか。誰の手を握るのか。

  • 富士山の見える町で介護士と働く日奈。日奈の元恋人海斗。海斗の仕事場の後輩、畑中。日奈が想いを寄せる東京からやってきた宮澤。みんな自分勝手だったり、さみしかったり、抱えるものあり、そして、その場に流され生きている。不器用でどこか欠けた所がありそれで人を傷つけてゆく。誰もがそうであるけれど、登場人物たちもどこにもいそうな人たちである。その点でよく描かれているが、私の中では特に、宮澤の章「柘榴のメルクマール」は宮澤のもがき、心の中身がよく書かれていて読み応えがあった。全体的に、舞台が地方で職業が介護士ということで、介護の辛さや死に直面しているということで、未来が明るくなく、寂しさはより一層だ。振られたり、孤独を感じたり、でも、最後の日奈の言葉、人は永遠じゃないから愛おしい…そうなんだろうな。わずかな温もりで物語を終えた。

  • 2018年上半期直木賞候補作品。連作短編集。
    富士山山麓の地方都市で介護士として働く日奈と海斗。日奈は東京から来たデザイナーの宮澤に惹かれ、二人の関係は終わる。一方の海斗は日奈のことを忘れられない中、同僚の畑中と付き合うことに。日奈と海斗を中心に繰り広げる、不器用な人たちの切なくやるせない恋愛物語。
    なんともいえない重たさというか、虚しさが残る。最後もハッピーエンドではなく、終わりの始まりのように感じてしまうのは私だけだろうか。

  • 富士山の麓近く、樹海のある町で介護士として働く日奈と海斗。
    「食いっぱぐれがない」という理由で介護士となり、日々を削り取られるようにして働くふたりが、すれ違い、傷つけあいながら生きていく日々を、語り手の視点を変えながら連作短編のような形式で描く。

    人生のままならなさ、やるせなさがじわじわと伝わってくるような寂しい物語だった。

  • 決して明るい未来を描いているわけではないのだけれど
    読み終わった私の心の中は、
    なんだかすっかり清々しい感じになっているのである。
    『人間なんて、そんな大したもんじゃないのよね~』と、肩の力が抜けた感じでしょうか。

    介護の仕事に就いている主人公たちの日々は、
    一般的に見たら眉を顰められてしまうようなことがてんこ盛りで、とっても危うい。
    だけれど、どうにもならない気持ちを抱え
    不器用にそれでも踏ん張って生きている姿に
    どうやら私は、いつの間にかたっぷりの勇気を
    もらっていたようです。

  • 日奈と海斗と宮澤さん、主要な登場人物だ。社会人になりたての頃から30歳くらいまでの人間模様を紡ぐ。単純なようで複雑な人の心を絡ませながら物語は進む。

    本作品は恋愛小説の範疇と決めつけてもいいはずだ。ただし、恋愛要素だけでなく、親世代や子供世代がどう生きるのか、どう絡んで生きていくのか、人生全体の覚悟を突きつけられたような気がした。登場人物の職業を介護士に設定したことで、より人生の儚さや軽さと重さを表現できている。

    登場人物それぞれの視点で語られる連作であり、読者は誰かに共感したり批判しながら読める。

  • 他人から見たらそれはいけない恋だと分かっていても、いざ当事者になると分からなくなるもの。
    分からなくなるというより分かっていても信じたくないしやめられない。
    みんな何気ない日常の中にどこかしら閉塞感を感じながらもどうしていけばいいかなんて分からずただなんとなく毎日は過ぎていく。
    このどうしようもなさと閉塞感の漂い方は本当に窪さんが書くとリアルでいい。

  • 初出 2011〜16年の「GINGER L.」、2016〜17年の「小説幻冬」

    帯には恋愛小説とあるけれど、在宅介護先で中学生愛美璃が訊く「人はいつか死ぬのになんで生まれてくるの?」という問い、裏返すとみんなどうしてうまく生きられずに苦しむのか、がこの小説のベースなんだと思う。初読みの作家さんだったけど、結構好きだ。

    25才の介護士日奈は、仕事で来た東京のデザイナイー宮澤に惹かれ、同級生の海斗とは違う深く感じるセックスを経験するが、宮澤は仕事に行き詰まり来なくなる。

    人がいい海斗は日奈が好きで、祖父が死んで一人になった日奈の面倒を見て同居するが、日奈の心は自分に向かず、職場の同僚と同棲する。男と職場を渡り歩く同棲相手はやがて海斗をおいて東京へ去る。

    宮澤は妻や東京から逃れて被災地の町で営業マンになり、日奈は追いかけて同居し訪問介護の仕事をするのだが、宮澤の妻が宮澤を連れ戻し、日奈は故郷へ帰る。
    どうしようもない宮澤だが、自分が誰とも心を通い合わせて生きていける人間ではないという自意識は良く分かる。

    祖父の残した家が道路の拡幅で取り壊されることになり、日奈はマンションに移り、再会した海斗と取り壊しを見守る。

    誰もが幸福ではなく、かといって不幸でもなく、孤独なのだ。

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著者プロフィール

窪美澄(くぼ・みすみ)
1965年東京都稲城市生まれ。カリタス女子高等学校卒業。短大中退後、広告制作会社勤務を経て、出産後フリーランスの編集ライターとして働く。2009年「ミクマリ」で第8回R-18文学賞大賞を受賞し小説家デビュー。
2011年、受賞作収録の『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)で第24回山本周五郎賞受賞、第8回本屋大賞第2位。同作はタナダユキ監督により映画化され、第37回トロント国際映画祭に出品。2012年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞受賞。2018年『じっと手を見る』で直木賞初のノミネート。

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