じっと手を見る

著者 :
  • 幻冬舎
3.45
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本棚登録 : 1371
感想 : 159
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344032750

作品紹介・あらすじ

大切な人を、帰るべき場所を、私たちはいつも見失う――。読むほどに打ちのめされる! 忘れられない恋愛小説。

富士山を望む町で介護士として働く日奈と海斗。老人の世話をし、ショッピングモールだけが息抜きの日奈の生活に、ある時、東京に住む宮澤が庭の草を刈りに、通ってくるようになる。生まれ育った町以外に思いを馳せるようになる日奈。一方、海斗は、日奈への思いを断ち切れぬまま、同僚と関係を深め、家族を支えるためにこの町に縛りつけられるが……。

感想・レビュー・書評

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  • 介護士の男女とその周りの出会いと別れ、再会。
    やるせなく、情けなく、リアル。

    富士山を臨む地域で介護士をしている日奈。
    失業することはないが、老いと死に直面する仕事です。
    幼馴染でかっては付き合っていた海斗も、介護士。
    日奈にふられた海斗は身近な女性と付き合い始めるが、日奈のことを諦めきれないでいる。
    東京から取材に来たデザイナーの宮澤に惹かれていく日奈。
    宮澤が通ってくるようになり、やがて日奈は町を出るが…

    狭い町から出て行けないでいた日奈と海斗。
    しかも介護という仕事なので、重労働の割に低賃金という実態も出てきます。老人の世話をする大変さ、いつか来る終わりを思ってしまうしんどさ。
    在宅介護をしていたので、わかる面もあります。
    そして恋愛も…
    そのとき当人は真剣だし、いちいち迷いつつも一度は猪突猛進で燃え上がる。
    都会から来た男と恋に落ちても、そううまくは続かなかった。かなりグダグダ感ありますが、そこがリアル。
    それはどういう出会いでもありうること。恋愛はしょうがないよねえ…

    ぱあっと明るい気分には全くなれないけど、まあねえ、そうだったの、あるよねえ…と同窓会の二次会で、友達に相槌を打つような気分に。
    恋を知らないよりも、恋を知って失った方がいい。と、古来の名言にもありますし。
    それぞれ一生懸命、自分の道を歩いているだけなんじゃないかな。
    ほの明るい穏やかさがともる結末でした。

  • 心にぽっかり空いた穴、孤独による寄る辺ない寂しさ。
    穴埋めするかのように身近な他人にしがみつく。
    そして他人と寄り添う温かさを一度知ってしまったら、なかなか離れることが出来ない。

    孤独に耐えきれずもがく男女を描いた連作短編は全体的にグレートーン。
    主人公が従事する介護士の仕事の辛さが物語を一層暗くする。
    老いて死に向かう人々の世話をすることで自分の生を確保していくジレンマは、想像するだけで胸苦しい。
    私の父も週に数回デイサービスを受けているけれど、本作品を読んで介護士の方々には本当に頭が下がる。

    幾つかの経験を経て出来た手の皺は苦労を重ねてきた証。
    そんな手と手を重ね愛しさを思い出した彼女達のこれからに少しでも光が射すといい。
    二人の未来を静かに温かく見守りたくなった。

  • 富士山を望む町で介護福祉士として働く日奈と海斗を中心に、どこかちょっとずつダメな人間模様を描く。
    物語の始まりは24歳。そのせいか、冒頭は年上の男に溺れていく日奈の性描写から始まる。そして、章ごとに日奈、海斗、海斗の同僚でシングルマザーの畑中、日奈が人生で初めて恋をした宮澤の視点で物語は紡がれる。
    それぞれがみんな上手く生きられない。そんな人生にどこか投げやりで、年を重ねるごとに疲弊していく様子の描写が実に上手い。
    この作品を読んで、「ふがいない僕は空を見た」を思い出した。この作家さんを好きになったきっかけの作品で、その頃の良さも維持しつつ、高齢化社会だったり、介護職の仕事のきつさだったり、社会問題にもきちんと触れており、すごく感銘するわけでもないけれど、じわじわ心に残る良作だと思う。
    いっぱい遠回りをした後のラスト。希望が見えた気がする。

  • 働けど働けど将来に希望が見えない3Kの職業に就いている地方に住む日南と海斗。彼らの世界はとても狭く目の前にはいつも「死」がある。彼らの住む町にも「死」のにおいが濃く漂う樹海がある。
    「そんな中で何が楽しくて生きているんだ」と問う都会から来た女。その夫との恋によって外へ外へと向かう日南の心と身体。残される海斗。
    いくつも繰り返される対比。生と死。妻と愛人。老人と子供。幸と不幸。都会と地方。未来と過去。やるせない関係性の中で自分の気持ちを見失う日南と海斗。どこまで行っても平行線なのか。
    窪美澄の小説にはどうしようもない人間ではなく、人間のどうしようもなさ、が描かれている。こうなるしかなかったんだ、と最後の最後に思う。彼らがもう一度人生をやり直せることがあったとして。やはりおなじ人生を選ぶんじゃないか、と思う。男と女が出会い、どうしようもない渦に巻き込まれていくその様に強く共感した。
    誰かにそばにいてほしいと思うこと、そばにいてほしい誰かに手を伸ばすこと、伸ばした手を握り返してもらえること。今の私は何に、誰に手を伸ばすのか。誰の手を握るのか。

  • 決して明るい未来を描いているわけではないのだけれど
    読み終わった私の心の中は、
    なんだかすっかり清々しい感じになっているのである。
    『人間なんて、そんな大したもんじゃないのよね~』と、肩の力が抜けた感じでしょうか。

    介護の仕事に就いている主人公たちの日々は、
    一般的に見たら眉を顰められてしまうようなことがてんこ盛りで、とっても危うい。
    だけれど、どうにもならない気持ちを抱え
    不器用にそれでも踏ん張って生きている姿に
    どうやら私は、いつの間にかたっぷりの勇気を
    もらっていたようです。

  • 富士山の見える町で介護士と働く日奈。日奈の元恋人海斗。海斗の仕事場の後輩、畑中。日奈が想いを寄せる東京からやってきた宮澤。みんな自分勝手だったり、さみしかったり、抱えるものあり、そして、その場に流され生きている。不器用でどこか欠けた所がありそれで人を傷つけてゆく。誰もがそうであるけれど、登場人物たちもどこにもいそうな人たちである。その点でよく描かれているが、私の中では特に、宮澤の章「柘榴のメルクマール」は宮澤のもがき、心の中身がよく書かれていて読み応えがあった。全体的に、舞台が地方で職業が介護士ということで、介護の辛さや死に直面しているということで、未来が明るくなく、寂しさはより一層だ。振られたり、孤独を感じたり、でも、最後の日奈の言葉、人は永遠じゃないから愛おしい…そうなんだろうな。わずかな温もりで物語を終えた。

  • 静かに、切なく、あたたかく。
    じわり、じわりと胸にしみる。

    みんな、幸せになりたくて、
    心のひっかかりがあって、
    うまく生きられなくて、
    誰かのことを大切に思っていて。

    その、ふれあいや、すれちがいが、
    ていねいに描かれているから、
    それぞれの事情や、胸のうちを思うと
    正解なんかなくて、
    ただ、流れている時間にゆだねるように
    読み進んだ。

    深く、やさしい感動があった。

  • 2018年上半期直木賞候補作品。連作短編集。
    富士山山麓の地方都市で介護士として働く日奈と海斗。日奈は東京から来たデザイナーの宮澤に惹かれ、二人の関係は終わる。一方の海斗は日奈のことを忘れられない中、同僚の畑中と付き合うことに。日奈と海斗を中心に繰り広げる、不器用な人たちの切なくやるせない恋愛物語。
    なんともいえない重たさというか、虚しさが残る。最後もハッピーエンドではなく、終わりの始まりのように感じてしまうのは私だけだろうか。

  • 縛られたくない、でも、一人でいたくない。
    新しい人生を生きてみたい、
    でも、気がつけば古巣に戻ってしまう。

    人間の弱い部分が生々しく描かれている。


  • 田舎の退屈さがこの本から感じられました。
    主人公の女性が宮澤さんに浮気してしまったのも
    普遍的な生活に刺激を求めているように
    思えてしまいました。

    けれど、刺激は少しでいいもの。
    最終的に落ち着くのは、平凡な生活。


    文章や情景描写の美しさに対して
    ストーリーはなかなかのゲスいもの。


    美しすぎて、登場人物が美化されているけれど
    冷静になると「普通じゃないひとびと」ばかりで
    人間の欲深さを垣間見ました。

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著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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