世にも美しき数学者たちの日常

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 851
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344034501

作品紹介・あらすじ

「リーマン予想」「ホッジ予想」……。前世紀から長年解かれていない問題を解くことに、人生を賭ける人たちがいる。そして、何年も解けない問題を"作る"ことに夢中になる人たちがいる。そして、数式が"文章"のように見える人たちがいる。数学者だ。

類まれなる優秀な頭脳を持ちながら、時にへんてこ、時に哲学的、時に甘美な名言を次々に繰り出す数学の探究者たち――。

黒川信重先生、加藤文元先生、千葉逸人先生、津田一郎先生、渕野昌先生、阿原一志先生、高瀬正仁先生など日本を代表する数学者のほか、数学教室の先生、お笑い芸人、天才中学生まで――7人の数学者と、4人の数学マニアを通して、その未知なる世界に触れる!

ベストセラー『最後の秘境 東京藝大――天才たちのカオスな日常』の著者が、次に注目した「天才」たちの本当の姿とは。
あなたの苦手な数学の、あなたの知らない甘美な世界へようこそ。

感想・レビュー・書評

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  • 7人の数学者と4人の数学マニアのインタビューを通じ、その人たちの目指す数学の世界や、その日常を紹介した本。

    ホントに、独特の世界観で暮らしている方が多く、面白い(といっては登場された数学者のみなさんには失礼かもしれないけど・・)。
    数学の難しさは相変わらずではあるものの、なんだか親しみを感じた。

    「大人のための数学教室」なんてものもあると知り、それだけ需要があるということにビックリしたが、ちょっと興味もわいてくる。

  • 感覚的に、なるほどと思えることが多かった。

    数学にしても国語にしても同じなんだな、と思ったのは、与えられた問いに対する一つの答えを返すことが大切なのではない、ということ。

    山の頂上に到達することが目的というよりは、そこまでの過程、ルートを考えられること。
    または、そもそも、それが山であるということを、ちゃんと把握しているということの方が大切というか。

    そうすると、計算の間違いなんかは後から何とでもなって、ちゃんと頂上へは辿り着ける。

    「数式は音楽家が使う音符と同じものであって。誰かに伝える時に音符はあると便利だけど、でも音符を読めなくても音楽は楽しめるじゃないですか。本質は楽譜じゃなくて、奏でることにある。数学イコール数式というのは、全然違うんですよ。数学を味わうのに、必ずしも数字や数式は必要ではない」

    本書に登場する数学者のスタイルからは、自分の時間、自分のフィールドで数学とずっと向き合い続けて、日常生活に支障をきたすほどの人もいたり。
    そうではなくて、自分のフィールドを、世界中にいる同じ方向を見ている誰かと共有させて、どう化学変化を起こすかに時間を費やしている人もいる。

    そしてそれはどっちが、というより、自分の世界との向き合い方、姿勢なんだと思う。

    最初と最後に登場する東京工業大学名誉教授の黒川先生は「写経」ならぬ「写オイラー」に楽しみを見出す。

    でもね、なんか分かる。
    同じものを書くことで、書くという一方向の時間の流れを小さく小さく追体験することで、分かることの意味が。

    岡潔とカルタンのエピソードも面白い。

    カルタンによって書き直された岡潔の論文によって、岡潔は一躍有名人になった。
    でも、岡潔はカルタンの論文を、私の理論じゃないといって嫌っていたという。

    「難問を鶴亀算で解いた人が、連立方程式がそこからできたと言われても嬉しくないわけですね。食い違っているんですね」

    「岡先生の論文も、カルタンによって手直しされているんです。最も言いたかった部分が削除されてしまっている。それは何かというと、主観的な部分です。私は何のためにこの論文を書いたか、という言葉が序文からみんな消えてしまってるんです。カルタンからすればそんなものは不要なんですよ」

  • 7人の大学の数学研究者と4人の在野の数学者(数学塾講師、数学お笑い芸人、中学生)にインタビューしたもの。出てくる数学自体の話はよく分からないが、それぞれの人たちの数学への愛がひしひしと感じられる。数学が人生そのものになった人たち、世界で最も幸せな人たちの記録である。その幸せ具合に中てられてしまうというのか、ちょっと羨ましくなったり、ちょっぴり数学がやりたくなってしまいそうになる。この人たちがやっている数学は、高校でやるような公式を使って解くようなものでなくて、自分で分野を切り開き、自分で問題を作るといった非常に自由なものらしい。
    最後の12章の家族へのインタビューは特に面白い。やっぱり数学者は宇宙人ぽいなあ。

    • やまさん
      goya626さん
      こんばんは。
      やま
      goya626さん
      こんばんは。
      やま
      2019/11/09
  • 『科学道100冊』の1冊。

    一般に、数学者とあまり縁のない人たちは、数学者にどんなイメージを抱いているだろう。
    自分の身近でない分野のことはよくわからないものではあるが、それにしても数学者って、何だか浮世離れしたような仙人のような、あるいはちょっと変わった人のような、そんな感じがするのではないだろうか。
    それは多分、数学自体が抽象的な「わかりにくい」事柄を扱っていることにも由来するのだろう。
    何だか「美しい」ことをやっているようだ。けれども何がどう美しいのか、数式を見てもちんぷんかんぷんでよくわからない。
    いったい彼らは日々何を考え、どんな生活を送っているのだろう。
    これはそんな数学者たちの素顔に迫る対談集である。

    登場するのは日本を代表する数学者や在野の数学者たち。聞き手は小説家・ノンフィクション作家である。
    オイラーの数式を書き写しながら、その視点に近づいていく者。
    世界を飛び回り、多くの数学者と議論を交わし、理論を発展させていく者。
    数学がテーマのイベントを主催する者。
    大人のための数学教室を開く者。
    数学は人生だという者。
    アプローチはさまざまで、その世界の奥深さに驚かされる。
    もちろん、実際の研究の深いところまではわからない。才能や努力なしには到達しえない厳しい世界であり、一足飛びに理解できるようなものではない。
    だが、聞き手である著者が、丁寧に真摯に聞き取っていく中で、朧にそのイメージが浮かび上がっていく。

    数学者たちが取り組む数学は、いわゆる受験数学ではない。
    問題のパターンがあり、定まった解法があるようなものではない。
    ある種、問題を解くよりも、問題を作り出す方が大切であり、同じ問題を解くにも人によって解き方が違うこともある。同じ山でも違うルートを通ることもできるわけだ。
    ある問題の解が別の問題を導いたり、すでに解けている問題に別の解法を与えたり、といったこともある。
    時には、数学自体ですら、数学的な考察の対象になる。
    さまざまなものの見方。さまざまな考え方。
    勝ち負けを争うものではないから、数学者同士は得てして仲がよいという。

    個人的には、数学史家でもある数学者の話が特におもしろかった。
    鶴亀算と連立方程式を例に出し、彼は言う。連立方程式を手に入れて、確かに便利にはなった。けれども抽象化が進みすぎ、現代数学は面白くなくなってしまったのではないか。
    うーん、そうなのか・・・。

    数学には漠然としたあこがれがありつつ、ずっとどこから手をつけてよいのかわからずにいる。最先端に触れることができないのはわかってはいるのだが、素人なりに親しむとしたら、どうしたらよいのだろうか。
    そのヒントがちょっともらえたような、でもやはりちょっと難しいような、そんな読み心地である。

  • 数学を愛する人たちのインタビュー集。
    数学は苦手だったのに、フェルマーの最終定理とか、博士の愛した数式が面白いのはなんでだ?と思ってましたが、この本に答えがありました。受験数学は数学の本質ではない。この世界で感じたことを表現する方法に数学という手段があるわけで、それはつまり文学と同じなんだなぁと。

    私はこの本に出てくる『数学者』たちのような人生が送りたい。

  • 数学って美しい。でもどんな風に美しいのか、詳しいところがわからない。―― 著者と編集者がそ数学者7人と4人の数学マニアに会って、数学への思いを聞いてまとめられた本です。

    小川洋子著『博士の愛した数式』を読んで、数学者がどんな感性をもっているのかもっと知りたかったので、読んでみました。
    11人の数学に対する取り組み方や考え方はそれぞれ違い、深く考え抜かれて導き出す数学はまさに美しく、芸術であり、人生です。
    代数幾何が何だったか忘れていた私にはちょっと難しかった。けれど、好きなものに打ち込んでいる人が語る言葉はどれも素晴らしいものでした。

  • 数学者たちのインタビューを収録した内容だが、文字の書き起こしでなく、インタビュアーとしての著者の視点を随所に入れ込みながら「数学とは何か」を真摯にあぶり出そうとしている書籍だ。
    数学は本当に美しい。
    人間が生み出したようで、全く違う。
    そこに「ある」のだ。
    宇宙が存在する以前から、確実にそこに「ある」から美しいのだ。
    そう考えないと辻褄が合わない。だから数学は深いのだ。
    そこの「ある」はずなのに、人類にとって手が届かない部分がある。
    一つを掴むと、新しい難問が見え隠れして、それを次に追い求めることになる。
    数学を生活の糧にしている人は、ある意味でそんなやりとりが苦しい。
    しかし、人類で自分しか知り得ないものを見つけた時は、この世の至福とも言える快楽を得たとも言えるのではないだろうか。
    ニュートンが重力を発見した時はどう思ったのだろうか。
    アインシュタインが相対性理論を発見した時はどう感じたのだろうか。
    そもそも非常に不思議な「数学」という分野に挑む数学者たちも、やはり不思議な存在なのだ。
    自分でも「もっと数学を勉強しておけば」と今になって思っている。
    高校時代に数学は挫折したが、正直人生で困ったことは一度もない。
    社会に出て漢字が書けなくて恥をかいたことはあるが、サインコサインが分からなくて、恥をかいたことはない。
    しかし出来れば、今でもその本質を知りたいと思っているし、数学を勉強し直したいと思っている自分がいることが不思議でならない。
    それだけ数学というのは魅力ある学問なのだろう。
    本書で出てくる社会人が学び直す「数学教室 和」も盛況だという。
    実は私も「ロマンティック数学ナイト」に聴衆として何度か参加したことがある。
    最近はパズルを解く感覚で、中学入試の図形問題などに取り組んだりしている。
    問題に向かっていると、正直、小学生に解かせる問題として制作したことに感心してしまう。
    それだけよく出来ていると感じるのだ。
    問題として美しく、これを人が作ったものでなく、最初から「ある」ということが不思議でならない。
    ちなみに数学の大きな特長の点の一つが「無い」を証明できる点である。
    学問の中で唯一、無い事が証明できる。これが数学だ。
    通常は無いことは「悪魔の証明」と言われ「証拠や痕跡がないのだから、無かったことは証明できない」となる。
    犯罪を犯してないのに「犯してない証拠を出せ」と言われても、やってないものは証拠が出せる訳がない。
    一方で数学においては、それが証明できるのだ。
    フェルマーの最終定理も「解はない」が証明されたことで、300年間に渡る難問に決着がついた。
    そもそもそこに「ある」のが数学で、「無い」を証明できるのも数学。
    役に立たないようで、実は人生を豊かにしているのは数学のお陰かもしれない。
    それは芸術に触れる感覚に似ている。
    圧倒的に美しいものの前では、人間の感情は大きく揺さぶられる。
    そんな世界が見えているからこそ、数学者たちは人生を謳歌しているのではないだろうか。
    本書を読んでそんなことを感じたのである。
    (2021/9/15)

  • 大学受験の時、嫌いだった数学。
    この本を読んで、あの時漠然と持っていた数学に対する良くない感情の正体を掴むことができました。
    私は「受験数学」で数学が苦手になり、社会人になってからは数学のことを何かをこなすための道具としてしか見られません。この本を読んでからも、その気持ちが大転換を遂げることはありませんでした。
    でも、数学を仕事にしているというよりも数学と共に歩んでいる方々の人生を、著者の軽快でいて嫌味のない、それでいて率直な語り口を通して垣間見られる、貴重な体験ができました。
    題名通り、数学という学問について読むというより、数学と生きる人々の人生を読む本だと思います。
    私自身も「結婚」できるようなものを見つけたくなる、そんな楽しい気持ちのきっかけになりました。

  • しあわせ感が伝わってきて、にまにましてしまう。いいなあ。積んでる数学っぽい本読まにゃ!

  • 「最後の秘境 東京藝大」の姉妹版ような今回は、タイトル通り、数学者の日常に迫るインタビュー集。まさに紙とペンを使い、ほとばしるイメージを書き留める学者から天才中学生まで、様々なかたちで数学に関わる人々を描いています。そこで描かれる数学という学問は普通にイメージされているものとは違い、数学者のひとりの言葉にあるように芸術に近いという気がした。数学者として生きるのなら積み上げる努力もさながら、持って生まれた天分が大きく左右するらしい。
    数学を学び直そうと考えている私には充分にトリガーとなった一冊。前著「藝大」ともどもおすすめします。78

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著者プロフィール

1985年、東京生誕。一橋大学経済学部卒。著書は他に「!」「!!」「!!!」「!!!!」「暗黒学校」「最悪彼氏」(ここまですべてアルファポリス)、「占い処・陽仙堂の統計科学」(角川書店)、「一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常」(幻冬舎)などがある。

「2016年 『殺人鬼狩り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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