どうしても生きてる

著者 :
  • 幻冬舎
3.66
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本棚登録 : 3143
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344035164

感想・レビュー・書評

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  • “死にがいを求めて生きているの”を読んでから約2年。
    その作品からはものすごいエネルギーを感じて、わたしの中で、苦手だった作家さんが好きな作家さんになった瞬間だった。そんな、大切な大切な一冊。
    そして、本作品“どうしても生きてる”。作家10周年という節目の作品にもなるようで、この作品からも並々ならぬエネルギーを感じた。

    “死にがい~”では生きるための原動力、生きる意味、というところに焦点があてられていた、ように感じている。
    本作品では、主人公が“死にがい~”よりも年齢を重ねていて、「生きる」ということに対する価値観が明らかに変化している。それは、作者である朝井リョウ自身の生きることに対する価値観の変容と、作家としての想像力の拡張、のように感じられた。

    作品は全6編からなる短編集。
    主人公はだいたいみんなそれなりの年齢で、「何かのために死ぬ気になってもがいている」年代ではない。”死にがい~”では、そこに焦点を当てて「生きる」ことに向き合うのだけれど、本作品では、そこを乗り越えて歳を重ねた今、「生きている」ということに向き合う、そんな印象だ。
    何かのために死ぬ気になってもがいて、そこでした選択。
    例えば、立ち向かう、逃げる、裏切る、利用する。
    成功と失敗。その時の状況と自分の気持ち。
    誰しもが抱えている、過去。
    そうした過去を重ねて、今になってまた新たな問題が目の前に降りかかってくる。
    でも、その問題はもう、死ぬ気になってもがいたって解決できない。そもそも答えのない問題だったりすることが多い。それに、過去の失敗が実は今の成功だったり、過去の成功が今の失敗だったりしていて、何が失敗で何が成功か、それすら曖昧なのに、また選択をしなければならない。
    どんな選択をしても、結局は辛い選択で、逃げ道なんてなくて、生きていかなければならない。
    選択すら許されない、つまり決断して前に進むしかない場面だってたくさんある。
    そう、この作品のタイトル”どうしても生きてる”はつまり「何があったって生きていくしかない」ということだ。

    朝井リョウの作品は、いつだって読者の心を剥き出しにする。
    作中で否定的な立場として描いているキャラクターの気持ちにものすごく共感させたり、あるいはこちらが平凡な社会生活を営むために着せている鎧を、いとも簡単に、剥いでしまう。こういう描き方が、本当に巧い。
    本作品では「生きがい」のその先「生きていくこと」に焦点をあてつつも、読者の中にある、とっくの昔にしまいこんだ情熱のようなもの、かつてあった生きるエネルギーのようなものに手を伸ばして抉ってくる。「ねえ、昔はあったよね、生きる意味とか、エネルギーってやつ。君は今、何のために生きてるんだっけ?今君は、生きていて楽しい?」と、心のずーっと奥の方まで、手を伸ばしてくる。「もうやめて!」そう叫んでも、朝井リョウという作家は、決してそれをやめない。これが、全6編。結構苦しい。

    一話を引き延ばして、それだけで一冊の本を出版できるのではないか、と思えるほどの筆致。読了後は、心の中にずっしりと残ってくれました。
    朝井リョウさん、作家10周年、おめでとうございます。

    • naonaonao16gさん
      まおちゃん

      わ、わ!
      お祝いコメント嬉しい!ありがとうー!
      まおちゃんは先月だったかな?
      おめでとう\(^o^)/
      ね、ほんとに、楽しい1...
      まおちゃん

      わ、わ!
      お祝いコメント嬉しい!ありがとうー!
      まおちゃんは先月だったかな?
      おめでとう\(^o^)/
      ね、ほんとに、楽しい1年にしよう!

      わたしは怪我が治りにくいのと日焼けしてすぐ茶色くなっちゃって…まあ日焼けすんなって話なんだけど(笑)
      歳とったよね*´`*
      池袋のシャイニングは面白くてさいこう!!どこかであの双子が出てきたりして!?

      歳とって身体の話ばっかりするようになるっていうけど気持ちわかるよね…
      運動偉い!わたしも見習っていきたい!
      アラフォー頑張ろう!
      2021/05/19
  • どうしても生きてる。

    タイトルを目にした瞬間頭から離れなかった。
    そう思ったことが何度もあるから。


    TVもスマホも本も何も手につかなくて、お腹は空いてないのに妙な飢餓感を感じてスナック菓子なんかを手に取ってしまう。

    どうにもやりきれなくて、ただただ時間を持て余す。
    眠りたいのに眠れない。そんな夜を何度も耐えてきた。

    納得できないこと、でもどうにも出来ないことは沢山ある。いやな思い出ばかり蘇る。襲いかかる憂鬱は少しずつ身体がとらわれていく沼のようで、静寂さえも耳に痛い。



    そんな孤独にとらわれるのは私だけではない。この本は少しの安心を与えてくれる。


    今日もどうしても生きてる。

  • やっぱり癖になるおいしさ ならぬ面白さ!の朝井作品ですね♪
    6編(健やかな論理、流転、七分二十四秒めへ、風が吹いたとて、そんなの痛いに決まってる、籤)の短編集でいずれもが朝井リョウの色濃い匂いに包まれております。
    不器用でカッコ悪くて爽やかでもない男や女がそれでも歩みを続けて行ってる様が何故か共感をいつの間にか覚えてしまうのです。
    いちばん私に響いたのは最後の「籤」でした。

  • 軽やかに、健やかに日々を過ごしている「誰か」と較べて生きづらさに藻掻く人々をこれでもか!と容赦なく描写していく短編集。年下の恋人やかつて共に夢を追っていた仲間、家族等から放たれる真っ直ぐな光に照らされて出来る心の闇がどれも共感出来てしまう。色々後悔したり諦めたり、現状どうしようもないまま後ろを向いたままだけど人生歩いていくしかない辛さがある意味軽やかに描かれていて怖い。どれも秀逸だけど「そんなの痛いに決まってる」尊敬する以前の上司のSM趣味がバレて、からは予想もつかない心の叫びの深さが響いた。「流転」の夢を掴み続けられなくて手を離してしまってからの言い訳人生の果て、年齢を重ねている今余計に染みる。最後の「籤」外れを引いてしまうしかない事は多々あるけど希望がほんのり見える終わり方にほっとした。

  • 等身大の人物を描写するのが、とてもうまい作家さん。

    社会の中で、もまれて、悩んで、
    傷つきながら、それでも、
    どうしても生きている・・・・誰しも。

    読んでいて、胸がチクチク痛むような感覚。

    特に、
    『風が吹いたとて』
    『籤』
    女性の心情をよく表現していると、関心した。

  • 今の自分は、生きていくことに不自由がない。だからこそ感じられる、世界からの疎外感は何なのだろう。(P.17)
    変わるのはいつだって、人間のほうだ。自分に嘘をつくことでしか生き延びることができない、人間のほうだ。(P.103)
    「大人になればなるほどさ、傷ついたときほど傷ついた顔しちゃいけないし、泣きたいときほど泣いちゃいけないよね」(P.238)


    日常の小さな出来事も、比喩を使って特別なことが起きたかのように思わせてくれる朝井さんの文章が好き。どうしてもこの世界で生きていかなければならない息苦しさと、少し前向きになれる勇気をもらえる作品。最後の「籤」というお話はそっと背中を押してくれるような、まだ大丈夫だと思わせてくれる。それまでの作品は息が詰まるような感じが大きかったが、最後は救われる感じ。見捨てないでいてくれる朝井さんの優しさも感じた1冊だった。

  • 6篇からなる短編集。
    いずれも、社会で人と共に生きていく上でどうしても生じる鬱屈とした思いや歪みなどが全体を支配している。読み終わると、誰にも言っていなかった自分の中の暗部
    をずばり指摘されたような、正面から見つめさせられたような、何とも言えない気持ちになった。

  • 6篇
    『健やかな論理』死の直前のSNS投稿を集める女性。死にたいから死ぬわけじゃない、という健やかな論理。
    『流転』心のまま嘘のない漫画を描こうとしていた豊川、しかし周りの人を裏切って生きてきた。
    『七分二十四秒目へ』
    派遣を首になった女性、YouTubeを見ながらラーメンを食べる。
    『風が吹いたとて』
    仕事で苦しむ夫を見守る主婦。心に風が吹きまくる。
    『そんなの痛いに決まってる』
    妻は仕事で活躍するばかり。その一方で転職に失敗する夫。自分より格下と思う女性と不倫する。
    『籤』性別、家族、家庭環境。どれも選べない。

    どれも苦しい内容。日常を生きる中、酷く苦しさしんどさを抱えた人たちばかりで。表に出さずに抱え込んでいる人たち。ポジティブな人とか人間関係でのトラブルにひどく悩まされない人、性格とか気持ちの問題もあるかも、そして、そこまで思いつめないタイプの人はなんでこんなに苦しむのだろうとか思うだろうね。ただ、今の閉塞感いっぱいの社会は程度のこそあれ、登場人物のような人、多いんだろう、朝井さんはその面を描きたかったのかな。最後の『籤』は割りを食いながらも生きようとする力強さがあって前向きな終わり方でよかった。前に進む、どうしても生きるのだ。

  • 著者の作品も気がつけば4冊目の読了となりました。

    最初に手にした「正欲」が素晴らしく、そこから4ヶ月で4冊、まあまあいいペースかと。

    ただ残念なのは「正欲」以降に手にした作品の読後評価は全て☆3つ。

    比較しちゃダメだと思いながら、どうしても比べてしまっている気がします。

    本作は「絶望」と共に「生きる」姿を描いた6作の短編集。

    何気ない日常、それはある意味で幸せな日常。

    しかし、「幸せ」のすぐ側には「絶望」が存在する。

    読みながら「そんなの痛いに決まってる」が一番好きかもって思いながら読み進めましたが、読み終えると最後に「籤」で本作の幕をおろしたことが正解だったと思います。

    「生きる」って楽しいだけじゃなく、辛い思いも背負っている。

    それでも「生きていく」。

    読んでいた時には感じなかった深さを今は少し感じることが出来ました。

    なので、☆4つへ再評価。


    説明
    内容紹介
    歩き続けるのは前に進みたいからではない。
    ただ止まれないから。それだけなのに。

    デビューから10年 。
    進化し続ける著者の最高到達点。

    死んでしまいたい、と思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。
    『健やかな論理』
    家庭、仕事、夢、過去、現在、未来。どこに向かって立てば、生きることに対して後ろめたくなくいられるのだろう。
    『流転』
    あなたが見下してバカにしているものが、私の命を引き延ばしている。
    『七分二十四秒目へ』
    社会は変わるべきだけど、今の生活は変えられない。だから考えることをやめました。
    『風が吹いたとて』
    尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が映されているような気がした。
    『そんなの痛いに決まってる』
    性別、容姿、家庭環境。生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない。
    『籤』


    「確かにあの時私たちはこんな絶望と幸せの⼿前で⽣きていた。⽣きざるを得なかった。⼗年後に『どうしても⽣きてる』を読み返しながらきっと私はそう思うに違いない」是枝裕和(映画監督)
    内容(「BOOK」データベースより)
    死んでしまいたい、と思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。(『健やかな論理』)。家庭、仕事、夢、過去、現在、未来。どこに向かって立てば、生きることに対して後ろめたくなくいられるのだろう。(『流転』)。あなたが見下してバカにしているものが、私の命を引き延ばしている。(『七分二十四秒めへ』)。社会は変わるべきだけど、今の生活は変えられない。だから考えることをやめました。(『風が吹いたとて』)。尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が映されているような気がした。(『そんなの痛いに決まってる』)。性別、容姿、家庭環境。生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない。(『籤』)。現代の声なき声を掬いとり、ほのかな光を灯す至高の傑作。
    著者について
    1989年5月生まれ。岐阜県出身。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー、同作が12年に映画化。11年『チア男子!!』で第3回高校生が選ぶ天竜文学賞受賞、同作が16年にアニメ化。12年『もういちど生まれる』で第147回直木賞候補、13年『何者』で第148回直木賞を戦後最年少で受賞、同作が16年に映画化、17年に舞台化。14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞。2016年には英語圏最大の文芸誌「Granta」日本語版でGranta Best of Young Japanese Novelistsに選出される。その他の小説に『星やどりの声』『少女は卒業しない』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『何様』『ままならないから私とあなた』、エッセイ集に『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』。近著は『死にがいを求めて生きているの』。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    朝井/リョウ
    1989年生まれ、岐阜県出身。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第二二回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『何者』で第一四八回直木賞、『世界地図の下書き』で第二九回坪田譲治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • それぞれの話の主人公が抱える問題、誰しもが何かしら持っているであろう人には公表したくない心の闇の部分がうまく表現されていて、陰の部分でありながらも共感できる。
    その人の視点でしか視ることのできない悩みがすごく伝わる作品。
    まだ朝井リョウさんの作品はまだ2作目ですがこんな世界ってあるんだなと知らない世界を教えてもらってます。

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著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

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