逃亡者

  • 幻冬舎 (2020年4月16日発売)
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本 ・本 (500ページ) / ISBN・EAN: 9784344035935

作品紹介・あらすじ

「一週間後、君が生きている確率は4%だ」

突如始まった逃亡の日々。
男は、潜伏キリシタンの末裔に育てられた。

第二次大戦下、”熱狂””悪魔の楽器”と呼ばれ、ある作戦を不穏な成功に導いたとされる美しきトランペット。あらゆる理不尽が交錯する中、それを隠し持ち逃亡する男にはしかし、ある女性と交わした「約束」があったーー。
キリシタン迫害から第二次世界大戦、そして現代を貫く大いなる「意志」。中村文学の到達点。

信仰、戦争、愛ーー。
この小説には、
その全てが書かれている。

いつか書くと決めていた。ーー中村文則

感想・レビュー・書評

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  • 第二次世界大戦時、”悪魔の楽器”といわれた美しくも謎めいたトランペットがある。それを手にしたことで命を狙われる峰岸。ベトナム人女性との恋愛、二人の過去、キリシタンの迫害、太平洋戦争、原爆、全ては現在に繋がってゆく。
    壮大すぎる物語だった。キリシタンにせよ戦争のことにせよ残虐さがストレートに描かれているし、歴史の真実を見る面でも読み入る。過去があり現在がある、過去を知ることで現在を見る角度が少しでも違って見えるのではないか、いろんな面を持ったこの本を読んでそんなことを考えた。深い深い内容。目を背けてはいけないね。

  • 戦争の最中の描写はどうしても悲惨でだからこそ二度とそれを繰り返してはいけないと思うのかもしれない。
    トランペットが女性というのは面白い表現。
    重いテーマで、読んだあともスッキリしない感情が残る。

  • 重かったな。。。戦場でトランペットを吹く鈴木の日記が辛い。
    展開としてはいろいろツッコミたいところはあって、でも中村さんが身を削って書いたことは十分伝ってきた。

    音楽の才能を人々の狂気にしか使えなかった時代。南方の戦いの意味のなさと、人間の醜悪さがえぐられるように描かれている。
    現代についてもう少しやってほしかったんだよ。でも、ただ読むだけの者が言うことじゃないかもと自省する。中村さん,お体を大切に。

  • 冒頭は中村文則作品によくある、主人公が巨悪から理不尽な運命を宣告されて逃げ始める物語だった
    進むにつれ、宗教や第二次大戦、政治問題などが闇鍋的に物語に絡んできて正直500pに収めるには風呂敷畳切れていないようなところが感じられた
    そのせいで「逃亡者」のタイトルから感じるものよりあまり逃げてる感が無く、ストーリーの起伏やスリラーな展開が少なかった
    幅広いテーマを扱ってるのは挑戦的ですごいと思うけど、帯に中村文学の集大成とあるのは首肯できないかなあ…

  • うーん・・・
    読解力や語彙力に乏しい私が読むには、難しい小説だった。
    ちょっと難しい言葉が多い上に、小説というよりは、著者の思想の論文を読んでいるような感じで、読むのに時間がかかり、結果を結びつける事ができなかった。あまり楽しめなかったのが素直な感想です。
    潜伏キリシタンや、狂気のトランペット、第二次世界大戦など、これらが関わり合う内容は興味があり(だから読もうと思ったのだけど)、それらについて書かれている物語は、没頭して読んでいました。だからなおさら、もう少しわかりやすい筆致だったらよかったのになと、個人的にそ思いました。
    でも、著者が、人々はあまりに現実から目を背け、なんとかなるという思考で、危機感が足りないという事を訴えている感じがして、その思想には凄く共感します。私の読解力と理解力が正しければの話ですが。

  • 中村文則さんの新作は第二次世界大戦下で「悪魔の楽器」と呼ばれ、日本軍の作戦を不穏な成功に導いたとされるトランペットを手に入れた男が、それを隠して逃亡するのがベースにあり、その中でキリシタンの迫害、東南アジアでの政治、第二次世界大戦時の核戦争、愛、宗教などさまざまなことが絡んでいくスケールの大きな作品。物語を通して、現代への警鐘や暗喩が盛り込まれており、作中登場するキャラクターの中でも何を考えているのかわからない正体不明の敵キャラ「B」が味があってよかった。

  • いくつかの時代の、いくつかの国の、いくにんかの人々の人生が寄って撚りあって一本の綱になっている。けれどそのずっとずっと先はまたばらばらの一本ずつの糸になって分かれている。
    その一本ずつは、いろんな人の罪と、いろんな人の血と寄って撚りあって、また別の綱へとつながっていく。
    そんなイメージを抱えながら読んでいました。

    この国が、あるいはこの世界が繰り返す過ちと罪。なぜ、私たちは何度も何度も間違えるのだろうか。
    神はなぜ私たちの過ちに沈黙し続けるのか。
    この、長く広く深い物語を、私はまだ抱えきれずにいる。
    読み終わった後も続くこの不全感から、私はまだ逃げ続けるのだろう。

  • 私の中では三振かホームランかという中村文則著作。本作は当たりの部類か。
    宗教、戦争、思想というセンシティブなテーマのオンパレードだが、凄まじい筆力でグイグイ読ませる。
    でも終盤さすがに疲れた。てか飽きた。

  • 非常に壮大でダークな物語です。読むのにかなり時間掛かったし、全貌が読み取れたかというと全然であると言わざるを得ません。
    第二次世界大戦中、兵士たちを高揚させ、扇動したいわくつきのトランペット。それを巡る物語ではあるものの枝葉と、書いていない想像される末節が無数に感じられる作品で、読み解く力が要求されると思います。
    綿々と紡がれてきた負の連鎖と、人々の持つ弑逆性。自分にも眠る暴力性の種。
    普通の人々が直面した事が歴史として積み重なって現在が有る。何も特殊な人が隠れキリシタンに迫害をしたわけでも、特殊な人が戦地で民間人を虐殺したり強姦したわけでもない。
    何処にでもいる普通の人々が、特殊な状況に置かれた時に狂気的な行動に走る。集団心理や極限状態の心理状態。また、差別から生まれる命の軽重。歴史から考えれば人間という生物に絶望せざるを得ないです。

    人間の愚行に関してこれでもかと描かれていますが、一つ一つ見ると目新しいものではなく、教科書や本、映画等で目にしたことが有る題材です。しかしこの本の中では被虐者達が血を流して叫んでいます。血の匂いのする文章です。歴史の一部分ではなく今も続いている人間たちの物語です。

  • 第二次世界大戦で“熱狂”と称され伝説となったトランペットを手に入れた男の奇妙な物語

    相変わらずダークで逃れようのない閉塞感に満ちているけれど、今作品には長崎の潜伏キリシタンや第二次大戦のフィリピンの惨状などの歴史が散りばめられ、一風変わって面白い

    “B”という絶対悪
    公正世界仮説
    カルト教団

    ヴェトナム人からみたヴェトナムの歴史、“鈴木”という戦場に散った楽士の物語、潜伏キリシタン…“すべての歴史とおまえはつながっている”という話には納得

    実は思っているけど「〜しないし、〜しない」という文調が好き

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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