- 本 ・本 (500ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344036017
作品紹介・あらすじ
東京都世田谷区の住宅街で投資ファンド会社を経営する中年男性が刺殺され、捜査一課の樋口顕も現場に急行した。警視庁が特捜本部を設置すると、東京地検特捜部の検事・灰谷卓也が現れる。灰谷は野党の衆議院議員・秋葉康一を政治資金規正法違反容疑で内偵中だった。秋葉は殺された男性と大学時代から親しかったらしく、殺害現場付近の防犯カメラには秋葉の秘書が映ってもいた。それらの事実だけを理由に灰谷は秘書の身柄を拘束。樋口は証拠不充分を主張するも、灰谷は独断で逮捕に踏み切ってしまう……。自己評価が低く、上司の顔色を窺い、部下を気遣い、家族も大切にする――等身大の刑事の生き様を照らし出す人気シリーズ、最新作。
感想・レビュー・書評
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焦眉 ー 警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの6作目
2020.04発行。字の大きさは…小。
警視庁強行犯第3係・樋口顕係長の活躍を描いた物語です。
此度は、投資ファンド社長の刺殺事件を解決したい刑事と、この事件を利用して此度の選挙で初当選した野党の衆議院議員・秋葉康一を、無理やりにでも議員辞職に追い込みたい東京地検特捜部検事との対立のなか樋口係長が、いい味を出して事件解決に進んで行きます。
【読後】
なぜ、担当でもない特捜検事が、捜査本部に入ってくるのか疑問を持っていましたが、それが、なんとでっち上げでも、何でも野党の新人議員を辞めさせて、繰り上げ当選で与党議員を当選させようとする検事の姿には、憤りを感じました。三権分立はどうなっているのだ(怒り)。
また、家庭を大切にする樋口係長が、事件のさなかに、秋葉議員の事務所のボランティアをしたいと言う娘・照美の問題を抱えて、忙しいなか照美と真剣に話し合いながら事件解決に進んで行きます。これがいいアクセントになっていていいです。
【記録】
警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ
《単行本》
「リオ」1996.07発行、「 朱夏」1998.04発行、「ビート」2000.10発行は、字が小さくて読めません。
《文庫本》
「リオ」2007.07 発行、「 朱夏」2007.10発行、「ビート」2008.05発行、「廉恥」2016.08 発行は、字が小さくて読めません。
2021.01.03読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
樋口顕シリーズ最新作。
少年事件専門の氏家が警部に昇進したのと同時に捜査二課の選挙係に異動。
その直後に殺人事件が起こるので政治絡みの事件になるのだろうと予想していたら、斜め上の展開に。
相変わらず誠実で慎重で正義感のある樋口が良い。言えないことは言えないと言うが、話さないとこちらの真心が伝わらないと感じたときは多少踏み込んだ情報も打ち明けて相手の胸襟を開く。
行き過ぎということでは検事たちも同じなのに受け止め方が違うのは、そこに誠実さや信念があるかどうかの違いだろうか。
しかしこの検事たちは酷い。
確かに過去にはひどい冤罪事件を引き起こしている地検だが、現在とは法律も状況も違うしこんなゴリ押しは出来ないだろう。
一方で悪役と思われていた側にも誠実で筋を通す人間がいて急展開に…という今野さんらしさも見られる。
また樋口の娘の照美が序盤では政治に全く感心がなかったのに、急にのめり込むのも若者らしい熱しやすさというより危うさを感じてしまった。
悪くはないのだが、個人的にはやり過ぎ感があって今作はあまり入り込めなかった。
しかし逆に言えばもし地検側の暴走を警察が止めなければ、或いは裁判所も追随すればこのまま冤罪が成立するわけで、やはり各組織の独立性は大切だと感じた。
シリーズとしては初期のように樋口がバンバン現場に出て氏家ともタッグを組んで…という姿を見たいのだが、二人とも偉くなってしまって何だか隠蔽捜査シリーズの竜崎みたいな立ち位置に近付いてきているのが残念。
気になるのは双方のシリーズに登場する田端課長が同一人物なら(フルネームが同じなので同一人物かと思われる)、こちらに登場する刑事部長は伊丹ということになるのか?
名前は一切出て来ないし、キャラクターも違うので別人物?
いずれ双方のシリーズとの共演が見たいが、そうなると真っ直ぐな警察官だらけで逆に面白くないか。 -
四カ月前に佐藤優さんの『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』を読みました。
そちらには佐藤優さん自身が東京地検特捜部に逮捕された時のことが書かれているので、この本で興味を持った方にはぜひ読んでみてほしいです。
秋葉康一議員が鈴木宗男さん
亀田至が佐藤優さん。
ほんとうに512日間拘留されちゃったのですから。
それはさておき、この本は登場人物のセリフや
それらにつけられるシンプルな解説がとても面白かったです。
今回たまたま読んだけど、実は人気シリーズで
何度もドラマ化されているんだ。
展開がドラマっぽかったですものね。 -
今野敏の本で隠蔽捜査シリーズと、この樋口シリーズは本当に楽しみにしています。
今回も見かけて即買いでした。
樋口の慎重さはいつもと変わらず、隠蔽捜査の竜崎に比べると地味なのですが、底に流れる正しさの追求という点では同じ熱さを感じます。
今回は政治と検察と警察の内部のぶつかりが主なので、より地味感が増しています。なんなら殆ど捜査本部を出ないで話が進んでいきますので、場面展開も殆どないです。
それでも一気に読ませてしまうのがやはり上手いなと思いました。
登場人物が多かったので、誰が言ってる発言かわかりにくかったですが、まあこれは僕の頭の出来の問題なんだと思います。 -
樋口シリーズ。
シリーズを重なるに連れ、「隠蔽捜査」の竜崎と樋口の違いがあまりよく分からなくなる。
正義感が強く、曲がったことが嫌い。周囲に何と言われようと正しい道を行こうとする姿に違いはないが、内容としては、樋口が捜査一課の係長である分、若干現場に近く、「警察の中間管理職」の辛さが描かれている気がする。
それでも、本来の警察小説で描かれる現場の捜査のシーンはほとんどなく、関係各所との調整役としての樋口の活躍が描かれる。
物語は警察学校で同期だった氏家が捜査二課の選挙係に異動するところから始まる。
衆議院選挙が終わった直後、世田谷で投資会社の社長が路上で刺殺体で発見される。被害者が先の衆院選で初当選した野党の議員と関係があったことから、選挙違反で検挙したい検察の特捜本部が捜査本部に絡んでくる。そして、選挙係に異動した氏家も、捜査二課長と一緒に捜査に協力することに。
捜査一課、捜査二課、そして検察の特捜。それぞれの思惑が絡み合う様子を中間管理職の目線で描いているのが、面白い。
現場ほど感情的ではなく、管理職ほど事務的ではなく、間に挟まれる人間たちの苦悩を描きながらも、事件もじっくり解決に導いていくのは、さすが警察小説のベテランならでは。
この「樋口シリーズ」も「隠蔽捜査シリーズ」も「安積班シリーズ」も、主人公が落ち着いてしまって、それぞれのシリーズのカラーが薄くなってきてしまっているのだけが残念。 -
樋口さんの実直で思慮深いところが好感が持てます。それにしても検察の暴走はおそろしい…。
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小説幻冬Vol.28(2019年2月号)〜39(2020年1月号)掲載のものに加筆修正を加えて2020年4月幻冬舎から刊行。シリーズ6作目。殺人事件での警察と検察の対立に奔走する樋口さんが良いです。ホントにこんなことあるんだろうかと思いますが、そこは、今野さんの手腕で、さもありそうに展開します。面白くて、一気読みでした。
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警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ
やっぱりこの主人公いいなあ
自己評価がものすごく低くて周りの評価がものすごく高い
本当に本人の思う通りなのかもしれない
でも樋口には絶対にぶれない信念がある
それは『正義』のために行動するということであり、合わせて『正義』のためであれば何をしてもいいということでもないということ
「正しいことを証明するのは正しい方法でなければならない」
これを頑なに守っているから周りは彼を高く評価し手本にしたいと考えるのでしょう
また今回は高い地位につく人たちがすべからく高い『良心』を持っていてすごく気持ち良かった
現実もそうだと信じよう -
前作「回帰」では公安部との対立が描かれていましたが、本作では東京地検特捜部と対立することに。いやはや、刑事も様々な権力との対立があり大変だなと思います。
で、本作に登場する東京地検特捜部の検事二人のやりかたも相当に強引で、読者の素人目線でも「そりゃ無理筋でしょう」といいたくなるような”絵”を描き被疑者逮捕まで持ち込みます。読み手もちょっとイライラしてしまう検事のやり口・態度で早くも作品に没入してしまっています。
検事の二人に待ったをかけるのは樋口たちが参加する捜査本部。わけても樋口があらゆる面で重要な役割を担うのは、物語の主人公だからといってしまえばそれまでですが、やはり樋口自身の人間性や、(本人は過小評価していますが)周囲の期待・信頼のあらわれというものでしょう。最初に任意同行で引っ張った参考人に対する聴取の際、検事二人に意見し真っ当な聴取の場を維持したシーン、それと地検特捜部がターゲットにしている議員と対峙するシーンは、樋口らしさにあふれたものでした。特に議員の事務所におとずれた際の「正しいことは正しいやり方で証明されなければならない」なんてセリフはなかなかいえるもんじゃありません(シビレマシタ!)。ここに樋口の人間力の真髄を見た思いです。
氏家流に悪く言えば杓子定規、裏を返せば常に正義とはなにか、正しいとはどういうことか、物事の本質やあるべき姿を探求し、捜査においてもそうした姿勢を貫こうとする樋口ならではのセリフだったと思います。
本作では警視庁捜査二課へ異動になった氏家も捜査本部のメンバーとして名を連ねる展開で、随所で樋口のモノの見方に対して若干のアンチテーゼを感じさせる氏家の物言いは読者にとっても「樋口さん、そんなに素直に相手のいうことを信じてしまって大丈夫?」と心配になる心情を代弁してくれているようでした。
また同じく捜査本部に参加する氏家の上司であるキャリアの柴崎課長も非常にいい仕事っぷりでした! キャリアゆえの理知的な振る舞い・言動は、たたき上げの田端捜査一課長とは真逆のキャラで、地検の”悪事”と対峙する姿勢は地味でなカッコよさですね。地検の権力という”力”に理性という”力”で対抗した、とうべきでしょうか。この人がいなかったら地検の二人への牽制もうまくいかなかったかもしれません。
そして最後は検事二人の悪行は”暴走”であったことが判明、検事正みずから捜査本部へ謝罪におとずれる展開で、殺人事件の犯人も無事に確保。樋口の娘の照美も念願かなってボランティアができることになり、めでたしめでたし、というエンディング。検事正には辞めてほしくなかったと話す樋口と氏家の会話は、多くの読者も同じ気分になっているのではと思いました。そして、樋口が娘と二人で議員事務所へ出かけるシーンはなんだかほっこりさせられますね。議員が照美に向けた質問の答えは娘んい対する樋口の杞憂を吹き飛ばすもので、とてもうらやましいものでした。 -
シリーズ6作目
「隠蔽捜査」よりも下の立場の人物が主人公で、捜査現場にはもう少し近い世界です
同シリーズと同じく、セリフ回しの妙が楽しめます
今回は明確な敵対関係者が現れ、さらに時間も追われるというドラマな展開でした
政治色強めで、作者の政治信条も反映されているように思います
現実社会でも同様に、例え間違いが起こるとしても自浄作用がしっかりと働いてほしいものです
権力のごり押しがまかり通る様な社会には、なってほしくないですね
著者プロフィール
今野敏の作品





