白鳥とコウモリ

著者 :
  • 幻冬舎
4.20
  • (1215)
  • (1520)
  • (455)
  • (51)
  • (6)
本棚登録 : 12933
感想 : 1207
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  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344037731

作品紹介・あらすじ

『白夜行』『手紙』……新たなる最高傑作
東野圭吾版『罪と罰』

感想・レビュー・書評

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  • しばらくぶりに東野圭吾さんの作品を読了した。500ページを越える長編作品ではあったが、事件の真相となる本当の顛末を知りたいという気持ちに駆られ、次々にページをめくりたくなる気持ちが続いた。章ごとに主要な登場人物が入れ替わりながら描かれていて、少しずつ事件の解決に向かう緊張感と登場人物たちの揺れ動く心の切なさを感じながら作品世界に入り込んでいった。

    中心人物は倉木和真と白石美玲、事件の当事者となる倉木達郎の息子と白石健介の娘。

    物語は、2017年秋から始まる。重要な登場人物である五代と中町の2人の刑事が捜査していたのは、55歳の弁護士、白石健介が殺害された殺人事件。死体発見現場は港区海岸にあった車の後部座席。その後の捜査で、スマートフォンの位置情報から、殺害現場は隅田川の清洲橋近くの遊歩道と予想された。この2つの場所は、ラストに向かって、意味のある場所ということが明らかになる。その展開は胸にグッときた。東野さんが、ところどころに描いている場所や出来事がつながっていく、その巧妙さに感嘆する。

    倉木達郎は66歳。息子の和馬は大手広告代理店に勤務し、住居は東京。この親子にとって重要な場所となるのは、東京の門前仲町の「あすなろ」。そこは20年近く続く料理屋である。店主は浅羽洋子で70歳近く、そして娘の織恵は40代。料理屋「あすなろ」を営む浅羽親子と、客として通っていた達郎。達郎が通っていた目的もはっきりしないまま、そこにこの事件の背景があるのだろうという気持ちがはやり、真相を知りたいという思いがわいてくる。

    白石健介が殺害された殺人事件は、1984年の名古屋で起きた東岡崎駅前金融業者殺害事件とつながっていく。この事件の被害者は灰谷昭造51歳。そして、2つの事件がつながるのは、倉木達郎が灰谷昭造と白石健介を殺害したという自供からであった。その自供に不信感をもつ倉木和真と白石美玲。それぞれが抱く不信感の内容は違うものであり、それは、和真と美玲が抱いている、それぞれの親への認識があったからであった。そこにも、複雑にからみあう登場人物たちの関係や思いがある気がしてならない。

    1984年当時、逮捕されたのは福間淳二、浅羽洋子の夫であり、織恵の父であった。この逮捕から、事件は思わぬ方向に動いていく。読み終えたときに思うのは、この事件がきちんと解決されていればという仮定。逆にいうと、この事件の真相が明白にならなかったことが、30年後の新たな事件を起こしてしまった。ラストに向かって、何とも言えない、切なく悲しい顛末が明らかになっていく。

    倉木和馬から見た父である達郎が、殺人事件を起こすこと自体にも、和馬にとって不信があり、その理由についても納得いくものではなかった。和馬の視点で考えるほどに、私も事件の真相は明らかになっていないという気持ちが膨らんだ。それほど、和馬にしろ達郎にしろ、純粋に仕事や生活に向き合っている魅力的な登場人物であった。白石美玲にとっても、父である健介が殺される理由に納得していなかった。弁護する者に寄り添い、親身になって対応する健介が、達郎が自供しいているような殺害されるきっかけとなる言動をするはずがないと力説する。物語が進む中で、徐々に判明していく真実。それは倉木達郎と白石健介の関係が明らかになっていくことでもあった。その真実によって、心が揺れ動いていく和馬と美玲。そして、互いを意識し始めている2人の関係。まっすぐに向き合うからこそ、近づけないもどかしさ。タイトル『白鳥とコウモリ』と重なる2人の姿。ページを捲る手がどんどん速くなる。ラストの和真と美玲のシーンに、グッときて胸が熱くなった。

    ラストに向かって次々に真相が明らかになっていく展開、魅力的な登場人物の描写、胸に込み上げてくるシーン、東野圭吾さんの作品の魅力を思う存分味わった。次の東野さんの作品を読みたくなる、そんな作品であった。

  • アールグレイゅぅママさんのレビューを読んでからずっと読みたかった本書。やっと...やっと本棚にやってきてくれました。
    旬は過ぎても鮮度は落ちず、余りにも悲しい結末に私の可愛いお胸はハートブレイクです。落ち込み過ぎて普段ふてぶてしいはずの飼い猫が隣に寄り添って来る始末。厚みのあるこの500ページに至る大作は「罪と罰」という際限のない無限のテーマに恐れる事無く踏み込み、そしてその中の大きな一つの物語を私に見せてくれた。とても面白かったです。
    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    遺体で発見された善良な弁護士。容疑者は確保され殺害を認める。更に三十年前の「金融業者殺害事件」の犯人も自身だと告白。思わぬ棚ぼたに警察は万々歳、「弁護士殺害事件」は早々に収束する事となる。
    もうここまでだけで短編一作読み終えたかのような満足感だ。幸福と疲労が同時に襲ってくるので脳がバグる、良い意味だ。

    だが事件は終わらない。
    犯人である倉木達郎は全面的に罪を認め自供をしているが息子である和真は父の発言に違和感を覚える。そして被害者である弁護士、白石健介の娘、白石美玲もまた達郎の供述の中の父に対し違和感を感じていた。

    「動機は重要ではない、被害者が殺害され、死体が遺棄された」検察官や弁護士はこの結果のみが重要であり、犯行を認めている限り、「動機」は着眼すべき事柄ではないと主張する。だが、その真相に納得していない人間がいるのだ。「事実」とは違う部分、その人しか知らない「大切な人との記憶」の矛盾である。
    加害者の息子と被害者の娘、立場は真逆なのに二人の求めている「真実」は同じ物だった。

    以降コピペ
    【罪】法などの規範や、宗教の教えに反する行為
    【罰】過ちや罪を犯した者に与えられる制裁
    ーーーーーーー

    数日前までこの説明を読んで「その通りだ」と頷いていただろう自分だが、今はもう分からない。罰とは、無関係の人間に対してお披露目する方法でしかこれは制裁だと認めてもられないのだろうか。
    勿論、罪は償い罰は受けるべきだと思う。しかし「真実」を知った時、行動やそれに乗せた思いを知ってしまった時、こんなにも心をぐらつかせられてしまうなんて想像もしていなかった。強く頭を殴られたような気分だ。

    私は所詮、蚊帳の外の人間だったのだと痛感した。そしてこの感覚は未来の私を良い物にしてくれる気がする。

    • アールグレイさん
      NORAさん♪こんにちは(^_^)/

      白鳥とコウモリ、お読みになったのですね!
      私のレビューを気にして頂き、嬉しく思います。
      白鳥とコウモ...
      NORAさん♪こんにちは(^_^)/

      白鳥とコウモリ、お読みになったのですね!
      私のレビューを気にして頂き、嬉しく思います。
      白鳥とコウモリは、立場に問題がありますが、惹かれ合うふたりなのではと思いました。私の読み間違えでしょうか?
      2022/05/16
    • NORAxxさん
      アールグレイゅぅママさん、こんにちは。コメントありがとうございます^ ^
      えぇ、仰る通りだと思います。立場が真逆の二人がシンパシーというのか...
      アールグレイゅぅママさん、こんにちは。コメントありがとうございます^ ^
      えぇ、仰る通りだと思います。立場が真逆の二人がシンパシーというのか、共鳴している様で心に強く響きました。正に「白鳥とコウモリが共に飛び立とうとしている様だ」ですね。
      素敵な紹介をありがとうございました♪
      2022/05/16
  • 一年前に図書館に予約したこの本、やっと手元に来ました。ちなみに、同じように予約がまわってくるのに一年かかったのは、他に『そして、バトンは渡された』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』です。
    やっぱり待つだけの価値がありますね。
    東野圭吾さんは久しぶりに読んだのですが、ページを捲っている時のドキドキ感、そして読後の切なさは変わりません。 
    東野圭吾さんの小説はいつも大事な人を思う気持ちが深く突き刺さってきます。相手を大切にするが故の行動が歯車を狂わせてしまう。
    今作の登場人物は皆、真面目で自分本位ではない。とても信用できる人なんだろうけれども、ある意味融通がきかない人でもあるのだと思う。結果、自分の首を絞めてしまうこともあるのでしょう。でも、それはとても魅力的な人ですよね。
    三十年間ずっと背負い続けた十字架、被害者家族・加害者家族の苦しみ。この本の厚さ通り、ズッシリと心に響く作品でした。

    • あゆみりんさん
      こっとんさん、500人って…
      ちょっと予想を大きく超えています、びっくりです(*´Д`*)
      待ってる間に他の本も読むから待てなくないけど、で...
      こっとんさん、500人って…
      ちょっと予想を大きく超えています、びっくりです(*´Д`*)
      待ってる間に他の本も読むから待てなくないけど、でもいつになるんだろ〜って感じですね。
      一冊待つ間に新たな春夏秋冬を迎える…
      これは、すごいことですよ、季節が移ろいます。
      2022/12/28
    • こっとんさん
      あゆみりんさん、
      まさしく!季節が移ろっちゃってます笑
      500人ともなると、もう行列に並ぶ感じですね笑
      こんなに並んでるんだからきっと美味し...
      あゆみりんさん、
      まさしく!季節が移ろっちゃってます笑
      500人ともなると、もう行列に並ぶ感じですね笑
      こんなに並んでるんだからきっと美味しいんだろう‥‥みたいな笑
      2022/12/28
    • あゆみりんさん
      行列ですね‼︎
      もう大人気アトラクションですよ、整理券で500番目なんて用意されてませんよね、ファーストパス欲しいです。

      私の図書館は、こ...
      行列ですね‼︎
      もう大人気アトラクションですよ、整理券で500番目なんて用意されてませんよね、ファーストパス欲しいです。

      私の図書館は、こちらの本は2冊を32人で待っているので、まだまだましなほうなのかもしれませんね(=^▽^)σ
      2022/12/28
  • 『罪と罰の問題はとても難しくて、簡単に答えを出せるものじゃない。』
    殺人事件の罪と罰をめぐる東野圭吾の長編ミステリー。
    私の期待と予想を超えるすばらしい作品で、お盆期間に一気読みしました。

    最初からおもしろくて読む手が止まらず、最後はストーリーが整理されて、スッキリしました。
    読後に"白鳥とコウモリ"というタイトルの深さを感じました。

    余談ですが、500ページを超える単行本を読むと、本を持つ手首がしびれます。ブクログのみなさんは、どのように読まれているのか知りたいです(笑)

    最後に、本書を私にオススメしてくれた"アールグレイ"さんありがとうございました。
    最高の本と出会うことができました(^^)

    • なべさん
      yyさん、こんにちは。
      いいね!とコメントありがとうございます。

      yyさんの手と腰の負担軽減のやり方、とても参考になりました。
      書見台買お...
      yyさん、こんにちは。
      いいね!とコメントありがとうございます。

      yyさんの手と腰の負担軽減のやり方、とても参考になりました。
      書見台買おうかな!

      東野圭吾さん、最高ですよね♪
      どんなジャンルでもおもしろいのが魅力です。
      私は"○笑小説"シリーズが1番好きです。

      これからもよろしくお願いします。
      2022/08/14
    • アールグレイさん
      なべさん★こんにちは(^_^)/

      皆さん、おじゃま虫です

      わざわざ私の名前を出して頂き恐縮致します。
      真実を求めて加害者と被害者、白鳥と...
      なべさん★こんにちは(^_^)/

      皆さん、おじゃま虫です

      わざわざ私の名前を出して頂き恐縮致します。
      真実を求めて加害者と被害者、白鳥とコウモリが強力しあう。ん~っ、複雑な立場の二人でした。
      冤罪も大変だったことデスね。
      ひとつ、謝らなければと思うのですが、m(._.)m 私はこの本をなべさんに薦めていたことを忘れていました!フォローバックの時に薦めたのではと思います。いつもいいねをありがとうございます。
      これからもよろしく、なべさんもお薦め本があったら、首を長くして待っていますね!
      2022/08/14
    • なべさん
      アールグレイさん、こんばんは。
      いいね!とコメントありがとうございます。

      フォローバックの時に本書をオススメしてもらいました♪
      私もオスス...
      アールグレイさん、こんばんは。
      いいね!とコメントありがとうございます。

      フォローバックの時に本書をオススメしてもらいました♪
      私もオススメあったら、コメントします^_^
      こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
      2022/08/14
  • アールグレイさんのおすすめだった気がする…
    図書館で予約したのが2021年8月。ずいぶん昔。
    ようやく順番が来ました。
    522ページの大著。
    怒涛の勢いで読んだ。面白かった。

    ー 幸せな日々は、もう手放さなければならない

    なるほど、そういう物語だ。
    真実は時に人を不幸にする。
    だけど、真実を隠すために嘘で固められた幸せな日々は、いつか清算をしなければならない。
    そして、何が罪で、償うためにはどんな罰こそ相応しいのか。

    深いですね。
    けっこう考えちゃいました。

    圧倒的に切ない。
    でも最後に、ひとかけらの希望があって、少しだけ救われた。

    タイトルの意味は、391ページに書かれている。
    立場は敵でも目的は同じ。
    白鳥とコウモリが一緒に空を飛ぶ。

    白石健介と倉木達郎。
    そうか、「白い」と「暗き」なんだ…

    ♪New York New York/TOKONA-X(2004)

  • 552ページの厚さをみて、一瞬怯みましたが一気読み必至の面白さでした。
    さすが国民的人気作家の東野圭吾さんの最新作です。
    今年のミステリーの大賞作品はこれで決まりではないでしょうか。


    以下ネタバレ少しあります。お気をつけください。


    誰からも恨みを買うはずのない港区で弁護士事務所をやっている白石健介55歳が港区の海岸で殺されているのが発見されます。
    スマホの通話履歴から愛知県に住む倉木達郎66歳が浮かび、刑事の五代らが、愛知県へととび、捜査が始まり2、3か月に一度上京し一人息子の倉木和真のところで寝泊まりをしていたという倉木を怪しいとあたりをつけます。
    しかし倉木はあっさりと自白。
    白石に法律相談をして知り合い殺したと罪を認めます。
    倉木はそして1984年の『東岡崎駅前金融業者殺害事件』の真犯人は自分であり、その時に捕まって留置場で自殺した福間淳二は誤認逮捕であり、その罪を償うために遺族である浅羽という母娘に遺産を遺す相談をしたら弁護士の白石に「死んでから償うのではなく、生きているうちに償うように」と反対されたので秘密をばらされると思い殺したといいます。

    ここまでで、まだ100ページ弱。
    ここから倉木の息子の和真や白石の一人娘の美令が倉木の自供がどうもそれぞれの父親像と違うということを不審に思い刑事たちとはまた別になんと二人が協力して調べようと動き始めます。

    そして門前仲町で『あすなろ』という居酒屋を営んでいる浅羽母娘。娘の織恵は倉木に好意を持っていました。

    それぞれのそれぞれを想う想いが交差してついに二つの事件の真相がみえたとき『白鳥とコウモリ』というタイトルにこめられた深い意味がわかり、もの凄い濃密な人間ドラマを読んだという思いを強く感じました。

    • まことさん
      くるたんさん♪

      くるたんさんのレビューの方に書けばよかったのですが
      >たった一つの愚かな過ちがその後無理にそれぞれの幸せという歯車を...
      くるたんさん♪

      くるたんさんのレビューの方に書けばよかったのですが
      >たった一つの愚かな過ちがその後無理にそれぞれの幸せという歯車を回していたことを思うと
      本当に、この二人はとんでもない事件でしたが、いい出会いだったと思います。
      二人で今度は同じ歯車を回せれば、このボタンの掛け間違いから起きた事件も少しは悪くなかったと思えますよね。
      2021/06/20
    • HARUTOさん
      こんばんは。
      私も東野さんの本は大好きです。
      この前、白夜行を読みましたが、とても素晴らしくて感動しました。
      白鳥とコウモリも読んでみ...
      こんばんは。
      私も東野さんの本は大好きです。
      この前、白夜行を読みましたが、とても素晴らしくて感動しました。
      白鳥とコウモリも読んでみたいです。
      2021/06/20
    • まことさん
      HARUTOさん。こんばんは!
      東野さんは、もはや国民的人気作家さんですよね!
      私も初期の作品は、ほとんど読みました。「白夜行」も文庫化され...
      HARUTOさん。こんばんは!
      東野さんは、もはや国民的人気作家さんですよね!
      私も初期の作品は、ほとんど読みました。「白夜行」も文庫化されてすぐ読みました。
      この作品は、他の方のレビューによると東野さんが、「この作品を超える作品を書くことが目標です」とコメントされているそうです。お勧め作品であるのは、間違いなさそうです。522ページ一気読み必至です!
      2021/06/20
  • 【感想】
    東野圭吾版「罪と罰」がキャッチフレーズの作品。
    プロモーションで『「白夜行」「手紙」につぐ新たなる最高傑作』と書かれており、著者・東野圭吾の直筆メッセージとしても『今後の目標はこの作品を超えることです』とのことでした。
    このように、かなり大々的にPRされていた為、かなり期待して読み始めてしまいました。
    ・・・そのハードルが些か高すぎたことが、結果的に読み終えた後の「肩すかし」につながったのかもしれません。
    ※ちなみに本作品は、決して「白夜行」の続編ではありません。(僕以外にもそう勘違いしている方は多少いらっしゃるのでは?)

    あらすじに書いてある通り、港区海岸で殺人事件が起き、捜査が難航するもふとしたきっかけから犯人逮捕につながる。
    犯人も自供しているし、事件自体は解決したはずなのだが、どうも釈然としない事が多く、また謎が残ったまま・・・
    そもそも、なぜ犯人は?の供述を?
    捜査結果に納得できない被害者遺族の美令と加害者家族の和真が「白鳥とコウモリ」の如く異質のタッグを組み、真相究明に奔る・・・

    しっかりと作りこまれたストーリーで、読み進めていく中でも全く次の展開が読めない構成には舌を巻きました。
    また、毎度のことですが、作中に散りばめられた伏線が見事に回収されていく様も見事!!
    特に、最後のどんでん返しなど、「流石は東野圭吾!!」と読んでいて膝を打ったのはまた事実。
    物語自体、読んでいてとても面白かったと思います!

    ただ・・・・正直これは僕が単純に勘違いしてだけなのかもしれませんが・・・
    読んでいる間、やはりどうしてもずっと頭をかすめ続けたのは、「これって白夜行の続編なのでは?」という淡い期待でした。
    「罪と罰」というキャッチフレーズも、「白鳥とコウモリ」というタイトルも、何だか白夜行の雪穂と亮司を彷彿とさせるものがありましたし・・・
    また、プロモーション上で対比に「白夜行」を持ち出してしまっている以上、「幻夜」のように、やはり白夜行と何か関係のある作品なのでは??と期待してしまいますよね。
    上述の通り、結果として本作品は白夜行とは何の関連もない作品でした・・

    というわけで、作品の構成や完成度自体はとても高かったように思えますが、どうしても白夜行に比べると少し劣る作品だったなと思いました。
    (比較したくありませんが、出版社がそう対比させるプロモーションをしていますので・・・)
    結論、出版社である幻冬舎の行き過ぎたプロモーションが、ちょっと悪かったのかもしれませんね(笑)
    確かにイイ作品ではありましたが、些かPRが過剰でした為、肩すかしをくらいました・・・


    【あらすじ】
    2017年11月1日。
    港区海岸に止められた車の中で腹を刺された男性の遺体が発見された。
    被害者は白石健介。正義感が強くて評判のいい弁護士だった。
    捜査の一環で、白石の生前、弁護士事務所に電話をかけてきた男、
    倉木達郎を愛知県三河安城に訪ねる刑事、五代。
    驚くべきことにその倉木がある日突然、自供をし始める――が。
    二〇一七年東京、一九八四年愛知を繋ぐ〝告白〟が、
    人々を新たな迷宮へと誘う?。


    【メモ】
    p79
    「なぜ、あなたは『あすなろ』に行くんですか?
    そのことを息子さんに隠している理由は何ですか?
    それだけじゃない、あなたは浅羽さん母娘にさえも隠し事をしていますね。
    自分が、三十数年前に起きた『東岡崎駅前金融業者殺害事件』で痛いの第一発見者だったことを隠していますね。
    それはなぜですか?」

    「倉木さん…」
    「もういいです」
    倉木が五代たちのほうを向いた。
    五代は、はっとした。先程までとは比べものにならないほど穏やかな顔をしていたからだ。
    「すべて、私がやりました。すべての事件の犯人は私です」
    「すべてって…それはもしかすると」
    はい、と倉木は頷いた。
    「白石さんを殺したのは私です。そして灰谷昭造を刺し殺したのも私です」


    p95
    倉木の供述は多くの疑問に答えてくれるものではあった。
    しかしひとつだけ、大きな謎を残している。

    なぜ倉木は三十数年前に逮捕されなかったのか、なぜ容疑の対象から外れたのか、ということだ。
    本来、事件の第一発見者は、真っ先に疑われるのが普通だ。
    だがそれについては倉木自身も、わからない、と答えるばかりだ。

    自分たちは本当に迷宮入りを免れたのだろうか?
    もしかすると新たな迷宮に引き込まれたのではないか?


    p291
    「どんな犯人だって、なるべくなら刑は免れたい。そのためなら、あれこれと嘘だってつくだろうさ。
    じゃあ、倉木はどうだ?あの人物が嘘をついているとして、それは何のための嘘だ?
    減刑には繋がらない。それなのに、なぜ嘘をつく?」


    p391
    「被害者の遺族と加害者の家族が協力して情報交換しているなんて、普通じゃちょっと考えられないですよ」
    中町は頭を左右にゆらゆらと揺らした。
    「その通りだが、あの2人の場合は特殊なんだよ。理由がある」
    「何ですか、それは?」
    「どいらも事件の真相に納得していないってことだ。もっと別の真実があり、それを突き止めたいと思っている。
    ところが警察は捜査を終えた気でいるし、検察や弁護士は裁判のことで頭がいっぱいだ。
    加害者側と被害者側、立場上は敵同士だが、目的は同じ。ならば手を組もうと思っても不思議じゃない」

    「光と影、昼と夜、まるで白鳥とコウモリが一緒に空を飛ぼうって話だ」


    p418
    「他の犯罪ならともかく殺人事件だ。裁判で死刑になるかもしれない。そんな罪を他人の代わりに被る人間がいるなんて、普通は思わないよ」
    「そうです。問題は、なぜ倉木はそこまでするのかということです」
    五代は液晶モニターに目を向け、キーボードを操作して映像を戻した。ある人物が横顔を見せている。
    その人物の写真を見たのは、浅羽母娘の部屋に行った時だ。小学生時代の姿が写っていた。
    少年の名前は安西知希、父親の安西弘毅によれば、中学二年生ということだった。


    p499
    「捜査を混乱させるためですね。車を移動させれば、子供の犯行だとは普通思わない。白石さんは最後の力を振り絞って、安西知希を守ろうとした」
    「倉木氏もそう考えた。白石さんは、安西知希を守ることで過去の罪を償おうとしたんだと。だからこそ倉木氏は、その意図を尊重しようとした」


    p507
    「殺人に興味があったというのです」
    女性弁護士の言葉を理解するのに、ほんの少し時間がかかった。数秒の沈黙の後、えっ、と発した。
    「興味?」
    佐久間梓はゆっくりと頷いてから、改めてファイルに目を落とした。
    「小学生の時、祖父が殺人犯だったことが周囲に知られ、いじめられるどころかむしろ恐れられていると感じ、人殺しという行為の影響の大きさに関心を持つようになった。やがては、人を殺してみたいと思うようになった。

    倉木氏から母親に送られたメールを盗み読みしたことで、状況が一変した。人を殺す動機を得たと思った。
    長年の恨みを晴らすためだったとあらば、世間も許してくれる、刑罰も軽くなるのではないか。
    その思いは瞬く間に膨れ上がり、行動に移す原動力となった」

    • 八幡山書店さん
      確かにタイトルといい、罪と罰といい、白夜行を連想させるフレーズが多かったですよね。笑
      自分も最初そうなのかもしれないという頭でしたが、読み終...
      確かにタイトルといい、罪と罰といい、白夜行を連想させるフレーズが多かったですよね。笑
      自分も最初そうなのかもしれないという頭でしたが、読み終わって、「いやー面白かった!でも白夜行の3部作目ではなかったから、楽しみが次の機会に持ち越されて良かった!」という気持ちになれました^_^
      2021/04/18
    • きのPさん
      八幡山書店さん
      コメント有難うございます!
      確かに、この作品そのものの完成度、面白さは圧巻でした!!
      「次の機会に持ち越されてよかった」とい...
      八幡山書店さん
      コメント有難うございます!
      確かに、この作品そのものの完成度、面白さは圧巻でした!!
      「次の機会に持ち越されてよかった」という八幡山書店さんの考え方はとても新鮮でポジティブで素晴らしいですね!!
      僕もそう思うようにします(^^)
      2021/04/21
  • 白鳥とコウモリの意味が加害者遺族と被害者遺族が、共に真実を探る事を表現しているとは思わなかった。

    15年前に起きた事件から現在まで繋がる事件。ある犯人を逃してしまったことによる因果なのか、人殺しの嘘は人殺しを重ねてしまうという不条理。

    それがこの事件を通して感じた。
    最後犯人の動機が人殺しに興味を抱き、動機を得てしまった為に復讐という大義名分を背負って実行したところがすごいなぁと感じました。

    かなりの長編でしたが一気読みでした。

  • お久しぶりの東野圭吾さんでした。
    今回6冊目です。
    読後感が良く、とても読み応えのある本
    でした。

    殺人事件が起きた。
    捜査を進めていくうち、30年以上前の殺人事件に繋がっていることが判明した。その事件では、誤認逮捕が、冤罪が、ある家族の未来を狂わせていた。


    この本、少し読んだだけで犯人逮捕となる。そして、大人しく素直に自供する。
    ・・・・おかしい・・・この先にある大量の
    頁には、いったいどんな展開が待っているのか?読んでいて先が気になって仕方
    がなかった。

    ――どちらも事件の真相に納得していない。もっと別の真実があり、それを突きとめたい。加害者側と被害者側、立場上は敵だが目的は同じ。
    まるで白鳥とコウモリが、一緒に空を飛ぼうって話だ。――本文より

    もう裁判が始まる事件をひっくり返す!
    白鳥とコウモリは真実を知りたかった。
    協力して調べていくうちに待っていたのは意外な展開だった・・・・

    いつの日か、白鳥ではなく、コウモリでもなく、同じ鳥として共に飛べる日が、
    来てほしいと思う。


    2021、8、16 読了

    • ゆうさん
      ゆうママさんのレビューを読んで自分が読んだときの感動を思い出しました。東野圭吾さんは読みごたえがある本、軽い本も大好きです。また読みたくなり...
      ゆうママさんのレビューを読んで自分が読んだときの感動を思い出しました。東野圭吾さんは読みごたえがある本、軽い本も大好きです。また読みたくなりました。ありがとうございました。
      2021/08/19
    • norisukeさん
      ゆうママさんのレビュー、拝見しました。なかなか面白そうな作品ですね。早速図書館HPを見てみたら、何と千人以上の予約が! とても人気ある作品な...
      ゆうママさんのレビュー、拝見しました。なかなか面白そうな作品ですね。早速図書館HPを見てみたら、何と千人以上の予約が! とても人気ある作品なんですね。という訳で、取り敢えず別の東野作品にチャレンジしようと思いました。
      2021/08/20
    • たけさん
      ゆうママさん、おはようございます!

      「白鳥とコウモリ」面白そうですね。ゆうママさんのレビュー読んで、さっそく図書館に予約しました。
      ...
      ゆうママさん、おはようございます!

      「白鳥とコウモリ」面白そうですね。ゆうママさんのレビュー読んで、さっそく図書館に予約しました。
      Morosuke さんのおっしゃるとおり、大変な人気本。さすが東野圭吾さんです。気長に待ちます。
      2021/08/21
  • 切ない不幸の連鎖、東野圭吾さんらしい物語でした。
    大切な人を思う気持ちから、その不幸の連鎖は始まり、世代を越えても断ち切れぬまま新たな不幸へと連鎖する。

    帯にある、「幸せな日々は、もう手放さなければならない」こんな覚悟を決めるって、凄いことだなぁ…と思います。
    罪を犯した自覚があるからこそ、今の生活が当たり前ではなく“幸せ”であることを実感して生きていたと思う。
    その全てを手放す覚悟を決めた男二人、でも家族は辛い。
    親子は個々の存在だとは言っても身内から犯罪者がでれば、世間からは同等に扱われる。
    “自分は罰を受けなければならない人間”だと分かっていながら、普通に生活し家庭まで築いた男が自分の父親。
    どの立場を想像しても辛いです。
    そして結末は、嫌な予感はしていました、とても残念です。
    真犯人の動機に救いは少しもなかったし、この不幸はとても大きく長く続くものです。
    周りの人間全てに責任があるとも思えるし、境遇などではなく本人の浅はかさには光など見えないように思います。

    東野圭吾さんの長編は久しぶりに読みましたが、とても良かったです。
    物語に引き込まれてグイグイ読んでしまう、あっという間の520ページでした。
    「白鳥とコウモリ」2人とも自由に、一緒に空を飛んで欲しいです。

    • こっとんさん
      あゆみりんさん、こんばんは♪
      図書館順番回ってきたのですねー
      ★5!
      待った甲斐がありましたね。
      (なぜか、あゆみりんさんのこの本のレビュー...
      あゆみりんさん、こんばんは♪
      図書館順番回ってきたのですねー
      ★5!
      待った甲斐がありましたね。
      (なぜか、あゆみりんさんのこの本のレビューだけ見落としていた私‥‥なぜだー???今頃のコメントごめんなさいっっっ)
      『同士少女‥‥』も楽しみですね♪
      2023/02/25
    • あゆみりんさん
      こっとんさん、おはようございます♪
      本当は34番目だったのですが、隣の図書館ではなんと1番目になれることに気付き、予定よりかなり早く読むこと...
      こっとんさん、おはようございます♪
      本当は34番目だったのですが、隣の図書館ではなんと1番目になれることに気付き、予定よりかなり早く読むことが出来ました。
      図書館初心者なので、使いこなせていませんでした。
      場所によって予約の人気ランキングが大きく違ったり、面白いです。
      「同志少女〜」楽しみですよ〜(*´꒳`*)
      2023/02/26
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著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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