泣いてちゃごはんに遅れるよ

  • 幻冬舎 (2021年12月16日発売)
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本 ・本 / ISBN・EAN: 9784344038790

作品紹介・あらすじ

ままならない日も、涙に舵はとらせない。
料理、家族、仕事、社交。笑顔と涙、頑固と寛容、面倒と小さな喜び――。
女の人生のやりくりを描く25篇のエッセイ。

一生懸命生きてるのは、みんな同じじゃないですか

家のことに手をかけているとき、どういきていったら良いか――どう生きてはいけないか――ということだけは、分かっている気がする。(本文より)

台所から、生き方を考える。
『わたしのごちそう365』で話題の著者最新刊!

〈目次〉
・かまどの神様 自己紹介に代えて
・食いしん坊の心得
・ゴム手袋に告ぐ
・こたこたなもん
・三月の蓑、八月の鯨
・ルイさんの声
・二四〇〇年の家事
・不祝儀袋
・桜の木、檸檬の木
・手のひらの東京
・同級生
・新宿ケセラセラ
・終戦記念日のシュプレヒコール
・叱るという字、裁くという字
・日記
・ただ白いクロスを汚したくないだけ
・空飛ぶ手紙
・結婚小景
・ホテルニューオータニの朝
・母の長い春休み
・体との約束
・ブラック アンド ホワイト
・気働き
・木陰の贈り物
・泣いてちゃごはんに遅れるよ

感想・レビュー・書評

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  • 最近、アマゾンのおすすめ本に登場していたエッセイを読んでみました。
    著者がワーキングマザーということもあり、考え方に共感できる部分が多く、自分と似ているところがあると感じました。(おそらく年齢も近いのではないかと思います)
    そのためか、他のエッセイ本よりも多くの箇所に付箋をつけてしまいました。

    特に心に響いたフレーズはこちらです。

    「ぜひ仕事は続けてください。経済的な裁量を持つことを簡単に手放さないでほしい」

    どんなに仕事が辛くても、辞めたいと思ってもやめなかった理由は、まさにこれだと思いました。
    結婚して夫の収入だけで生活するということは、自分で自由に使えるお金がなくなるということ。
    何かを買うときに、いちいち「これ、買っていいかな?」と夫に確認するのは、私にはとてもストレスです。(性格的に「夫の収入=夫婦二人の収入」と考えられないんですよね)
    そう考えると、結婚しても、子どもが生まれても、経済的に自立した状態を保つことが、自分にとって一番心地よいと感じています。
    子どもに「お菓子買って!」と言われたとき、ポケットマネーでサッと買ってあげられる。それが私にとってはとても大切なことなんです。

    もう一つ、共感したフレーズがあります。

    「自分でも驚くことに、疲れたという感覚から年々解放されている。ストレスを抱えすぎないように、疲れるものや人から距離を置くようになったことも、無関係ではないと思う」

    四十を過ぎると、「これ、本当に無理だわ…」と感じることがはっきりわかるようになりますよね。
    最近も、私にとって無理なお誘いがあったのですが、それを断ったあとで「本当にこれで良かったのかな…」と悩んでしまいました。
    そんなとき、つい夫に本音を漏らしてしまったんです。
    「今回のお誘い、修行みたいなものなんだけど、まだ修行しなきゃいけないんだろうか?」と。
    すると夫は、
    「四十を過ぎたら、もう修行はしなくていいだろう」
    と、バッサリ。
    その言葉で、自分の選択に自信を持てた気がしました。

    若いころは体力もあるから「これも人生修行!」と割り切ってできたのかもしれません。
    でも、四十を過ぎて、時間・体力・お金が有限だと理解してしまうと、無理をすること自体がマイナスだと感じるようになりました。
    (もちろん、歳を重ねたらまた考えが変わるかもしれませんが)

    改めて思うのですが、こうしたエッセイを書けるのは、日々の生活の中で自分と向き合い、内省を続けているからこそだと思います。
    ちょっとしたことに反応する自分を観察して、そこから気づきを得る。
    エッセイを読むことは、そうした内省のヒントを得る良い機会にもなりますね!

  • 文章がとても素敵なんだけど、わたしには合わなかった。
    泣きたい時はひたすらに泣いていいと思う私には涙に舵は取らせないはキツい笑

  • 時間をおいて再読することはままあるけど、読み了えてすぐに読み始めることはまずない。ただ、寿木けいさんのエッセイだけは別。

    サーキットトレーニングよろしく初読・再読の2セット読みすることで味わいが深まることは前作『閨と厨』での経験済み。グルメ雑誌風にいえば滋味深さを堪能できる。

    著者のエッセイは、落語の三題噺よろしくいくつかのエピソードや記憶の断片を挟み込み、それぞれの話は屹立しながらも絶妙に絡み合う。定食に添えられた手抜きのない副菜だけでもご飯が食べられてしまうようなオモウマイ エッセイだと断言できる。

    例えば、自身のエッセイの書き方を語ったエッセイ〈かまどの神様 -自己紹介に代えて-〉はこんな構成。

    起:編集者時代を回想
    段取り上手から『ダンドリータ』というあだ名が付けられていた。

    承:結婚後の段取り
    家の切り盛りは仕事の様にはいかず、夫といさかいが起り、ホワイトボードにTO DO LISTを記すことに。〈共働き×子ども2人〉の家庭において重要なのは見える化する事。夫の目にも止まるべく台所、それも冷蔵庫に装着し、ハウスマネジメントを共有。

    転-その1 台所
    料理家でもある著者は台所は主戦場。そこでは時に歯を磨き、俎板を横に追いやり原稿を書いたり、考え事に耽ったり…。そんな自分を終始見てるのは台所の安全を司る荒神さんとお札。

    転-その2 お札
    アートディレクターの石岡瑛子のエピソードを想起。火の用心の御守りを台所に貼っていたことに驚く。自信家で赤を勝負色と語ることとは真逆にも思えるが、その実は…。石岡瑛子の心に熾る火柱に精神性を考察。

    ⑤結-再び台所へ
    文筆家として、その手法を明かすことを由としないが自己紹介を兼ね手の内を語る。冷蔵庫に貼ったホワイトボードにはエッセイのキーワードを書き付け、3つ揃えばもうそのエッセイは書けていると。
    それが私の段取り…と書き出しのダンドリータに繋がるサゲ。

    闊達なエッセイだけに、書くうちにふと気づいたりそういやあんなことあったよね的に想起したことを挿入していくフリージャズのような即興的スタイルで書かれる方かと思いきや、あにはからんや。そこには周到な準備と発酵とホワイトボードへの一瞥。

    今回の感想は内容をそっちのけ、時間を忘れて読み耽ってしまう彼女の文章・文体にフォーカス。

    接続詞の使用は最少、話の変わり目は時に転調激しいのに極めてシームレス。ギッコンバッタンのない最適なサスペンションが装備された読み心地。

    腹落ちと腹持ちのいい上質エッセイ。騙されたと思って読んでいただきたい、超オススメの一冊。

  • 私自身、日常からさまざまな場面や感情を、掬い上げて観察しがちな人間だと思う。
    だけどそれらのすべてを心に留めるかというとそうではなくて、疲れていたりべつのことで忙しいときは「まあいいや」で流してしまうことも多々ある。
    寿木けいさんのエッセイは以前にも読んでとても好きだなと思ったのだけど、寿木さんは基本的に「まあいいや」をあまりしない人なのではないか、とイメージしている(イメージなのでもちろん定かではない)
    日常から拾い上げる温かいこと、ばかりではなく、けっこうピリっとしたことや、内省的なこと、毒の効いたことも、隠すことなく、だけど綺麗な表現で綴っている。
    毒の効いた内容も、綺麗な言葉で書いているからこそ、はっとさせられたり襟を正すような気持ちにさせられる。
    言葉の使い方に知性を感じる人に、だから私は惹かれるのだと思う。

    寿木さんは料理家だけど、料理の話題はそこまで多くはない。
    料理を普段から習慣としてしている人って、それが当たり前だから、わざわざそのことを話題にも挙げないものだと思う。SNSにもいちいち載せないし(それを思うのは私の毒。笑)
    むしろ載せるのはプロだからこそ、仕事の場面。それは料理家に限らない話。

    編集者時代の話や、結婚や子育てのこと、女友達のことなど、負の感情も含んではいるけれど重くない文章で綴られているからするっと飲み込むように読めてしまう。
    料理家にはたまに、とても魅力的な文章を書く人がいる。高山なおみさんなんかも、私的にはそう。
    黙々と料理することと、日常を拾い上げることには何か共通点があるのだろうか、などと考える。

    プロの職業人であり、妻であり、母であるからこそ、どんなときでも涙に舵は取らせない。そのたくましさは、立場の違う私にはないものだ、と思いながら読んだ。
    母は強し、というけれど確かに、と母ではない私はいつも思う。同世代でも、親である人の強さは親ではない私とは別物だ、とつねに感じている。
    どちらが正しい論ではなくそれぞれの選択する生き方なのだけど、そういう絶対的な強さみたいなものは、得ようとして得られるものではない。
    たくましさの中に見え隠れする繊細さとしなやかさが素敵なエッセイ。「泣いてちゃごはんに遅れるよ」。人生はサバイバル、な面もある。

  • 文章においては私は素人ではあるが、イチ読者として文体とか言葉のチョイスには作者のセンスが出ると思うので、それも楽しみながら様々なジャンルの本を読むようにしているが、すごくセンスの良い美しい文章を書かれる方だなというのが1番の印象。
    読んでいて心地よく穏やかで優しい日常の情景が思い浮かんだ。
    この本のタイトルにも繋がる、最後の二つの話で思わず涙してしまった。
    涙に対する捉え方はむしろ逆だったので、新鮮だったしそういう強さも持ち合わせた人になりたいなと思った。

  • とても賢くて知識があるお方が書かれてるんだなぁと感心して読んでました。
    他の御本も読んでみたいと思いながら。

    おたまと菜箸が両側についてる便利道具を醜いというようなと表現してある箇所までは。

  • https://note.com/otaemon/n/n23872f385a6e

    小説よりも、エッセイを読むことが好きだ(小説が苦手という意味ではない)。

    今よりずっとたっぷり時間があった大学生時代も、長編小説などではなく、様々な作家やエッセイストのエッセイを読んだ。なぜ、こんなにエッセイばかり読んでしまうのだろう?とちょっと考え込んだほど。

    きっと、誰かの生き様、考え、想いにふれて、「自分はどう生きるか」を考えていたのだと思う。

    それは、大学時代だけじゃなく、これまでずっとそうだ。好きな作家のエッセイから、自分の生き方へと想いを馳せてきた。

    最近はそれほどエッセイを読めていなかったのだけど、ほんの1ヶ月ほど前、久しぶりに素晴らしいエッセイに出会うことができた。

    『泣いてちゃごはんに遅れるよ』寿木けい著 幻冬舎

    この本に出会ったきっかけは、ライターのさとゆみさんが対談イベントに登壇され、その対談相手だったのが寿木けいさんだったことから。その時、私は初めて、寿木さんが料理家であり、エッセイストでもあると知った。

    もともと、Twitterで寿木けいさんをフォローしていたので名前は存じ上げていた。寿木さんがアップされる料理がなんとも滋味あふれるしみじみしたもので、好みの料理家さんだと思い、フォローしていたのだ。

    さとゆみさんとの対談で、エッセイストでもあるんだ!と改めて知り、本書を取り寄せた。

    エッセイストであり、料理家であり、会社員であり、妻であり母である、寿木けいさんの日々が綴られている。

    読み進めていくうちに、これは簡単にサクサクと呼んではいけない類の文章だと感じた。

    「重い」「読みにくい」というのではない。

    言葉の一つひとつが選び抜かれ、文章が緻密な構造をとっており、一つひとつのエッセイの結びが見事に着地する。

    私はこんなにきれいな文章を知らない。

    だから、簡単に読み終わっちゃいけないと思ってしまった。

    淡々とした筆致の中ににじむ一生懸命な日々。洗練された文章に込められた悩みぶつかる人生。

    さとゆみさんが、「向田邦子の再来とも言われる」「芳醇な文章を書く」とある対談で話していらしたのにも納得。

    磨き抜かれた言葉選びと巧みな文章構造は、寿木さんご自身の豊富な読書歴や言葉と関わる職業を続けておられることに由来するのだろう。

    まだじつは全部読み終わっていない。あと少しなのだけど。そこには「簡単に読み終えてはいけない、じっくり読みなさい」という自分への戒めと、「こんな文章が書きたい。じっくり読んで勉強したい」という羨望がある。2つの想いに挟まれている最中だ。一応、私も文章を職業にしているから。

    内容として、ここまで読んだ中で心に残っているのは「終戦記念日のシュプレヒコール」「ブラックアンドホワイト」…。う〜ん。どれも面白かったから、選べない。でも本の帯にあった「一生懸命に生きているのは、みんな同じじゃないですか」という言葉がすごく気になっていたけれど、そうか、ここで言ってるのか!という箇所を見つけて、なるほどなとなった。

    興味がある方は本書を読んで、ぜひ、見つけてみてほしい。

  • どんなことどもも、糧にできるか。喜びも悲しみも悔しさも。日々の失敗も楽しみも。糧にできれば、揺るがない土台ができるんだろうな。揺るがないというか、どんな揺らぎも吸収してしまうような土台。
    すっくとした立ち姿を想像させるさまざまな情景を読んで、ますます、敵わないなあ、と思うけど、そう思いたくて、また読むと思う。

  • 著者の方がどういうひとなのか、前知識がないまま読みはじめた。
    東京の編集者だからアグレッシブなのか、この方が特別チャレンジ精神があるのかわからないが、華やかな都会の思い出話には少し萎縮してしまう。
    ただ上京したの話は、自分の体験も思い出して胸がギュッとなった。希望1割不安7割楽しさ2割、みたいな、あの頃のなんとも言えない気持ちはまだ覚えている。

    全体として働くことへのプライド(それが家事であっても)が感じられ、自分もがんばろうと思えた。

  • 料理、家族、仕事、社交。笑顔と涙、頑固と寛容、面倒と小さな喜び…ままならない日も、涙に舵はとらせない! 女の人生のやりくりを描いたエッセイ集。「食いしん坊の心得」「結婚小景」「木陰の贈り物」など全25編を収録。

    SNSでタイトルを目にして図書館から借りた。
    芯の通った清々しい感じ。私とは違ってきちんと生活をしているんだろうなぁ…。

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著者プロフィール

富山県出身。エッセイスト、家庭料理人。早稲田大学を卒業後、出版社に勤務。編集者として働きながら執筆活動を開始。新聞等で連載多数。著書に『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』『閨と厨』がある。

「2020年 『わたしのごちそう365』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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