武器としてのヒップホップ

  • 幻冬舎 (2021年12月8日発売)
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本 ・本 / ISBN・EAN: 9784344038851

作品紹介・あらすじ

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える!
自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。

DJのように過去と現在をつなげ、MCのように混沌を乗りこなせ、
スクラッチは自分だけが世界に刻む新しい音だ!

1973年のアメリカの手作りパーティから始まったヒップホップは、今、世界でもっとも聞かれる音楽ジャンルだ。ヒップホップは、常に前提を問う。お前は誰だ? お前は今どこにいるんだ? どこから来たのか? どこへ行くのか? 繰り返されるこれらの問いが世界の流れを知覚させる。
「The MC」「Break 」「 Beat」「Loop」……28のヒップホップ用語を軸に、逆境の乗り越え方、隙間をつく思考法、日常の目の付け所など、ヒップホップの精神とともに、閉じ行く社会のなかで、瓦礫を搔い潜る生き方を伝授する。

感想・レビュー・書評

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  • ラッパーであるダースレイダーがHIPHOPにおける発想や思考法を述べている本。

    HIPHOPとは音楽の一ジャンルであるが、一方でその誕生や広まりにはHIPHOPならではの発想がある。
    例えば「サンプリング」
    過去の楽曲の一部を引用し新たな楽曲を作り出す楽曲制作法は、まさに「温故知新」の考えに通じている。
    そのような楽曲制作法やラップの方法などからぐんぐんと考えを広げていく。

    アメリカのラッパー(KRS-ONEやアフリカ・バンバータなど)のHIPHOPへの考えを取り上げるのみならず、ダースレイダー本人が脳梗塞を患い余命5年を宣告された経験をHIPHOPの思考法につなげたり、娘をもった経験からHIPHOPの可能性に気付いたりと、その発想のきっかけは縦横無尽に広がっていく。
    ダースレイダーがHIPHOPに身体的・精神的に「救われた」身であるからこそ、記述している内容には説得力がある。
    そして言及先は、自身の経験、風営法、BLM、新型コロナまで広がっていく。

    HIPHOP(DJ、ラップ、ブレイクダンス、グラフィティ)の格好良さにやられた上に、その思考法にもやられたい人にはおすすめの1冊。

  •  ヒップホップ関連の本はなるべく読むようにしているのと帯コメの豪華さもあいまって読んでみた。ヒップホップを見立てとして人生を、社会を因数分解して著者なりの解釈をいろんな角度から提示してくれていてオモシロかった。

     ヒップホップの楽曲やアーティストを題材にしながら、言葉遊びをふんだんに含みながら朗朗と語っていくスタイルは新鮮でグイグイ読めた。(特に社会をレコードのA面とB面で例えていくくだりはめちゃくちゃ分かりやすかった)ゆえに強調したいところを太字にするのは本当にもったいないと思った。この太字が編集者の意思なのか、著者の意思なのかも分からないし、それこそ著者がいうところの「フロウ」が読んでいる中で失われしまうように感じた。ヒップホップをベースにした自己啓発の要素も高いので流し読みする人向けに太字にしたくなる気持ちも分かるのだけど…

     僕が一番好きだったのは「Feel」 という章。ヒップホップとは何か?というのはヒップホップファンのあいだで、事あるごとに議題になる。そして、人それぞれ答えが違う。言葉の定義としてはラップ、DJ、ダンス、グラフィティの4要素のカルチャーをまとめて呼ぶが、今はラップミュージックが大きく台頭しているのでラップ=ヒップホップになっているように思う。ただ個人的にラップミュージックが好きという逃げはしたくなくて、すべてを包含するヒップホップというカルチャーが好きなので今年はモヤモヤ案件が山ほどあった。著者の提示しているヒップホップの価値観は自分と比較的近いのですんなり腹落ちした。またこういったヒップホップ論議に対する著者の大人な態度も参考にしたい…以下引用。
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    「これこそヒップホップだ!」という称賛も「お前はヒップホップを知らない!」といったマウンティングもあちこちで発生する。全体を知らないにもかかわらず、みんながその話が出来る。それが言葉の面白さでもある。これは果たして空虚なのか?と言えば、それも違う。それぞれにヒップホップの話をするときにはその人なりの実感は存在するだろう。なんなら初めてヒップホップを体験した人がこの感じが好きだ!と言ったときにも、そこに実感としてのヒップホップは存在していると思う。

    あの一瞬、たしかに全体としてのヒップホップを感じたのでは?と思える感性を持つこと、それがヒップホップ(カルチャー)に属しているということだと思う。
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     また著者が他のラッパーと大きく異なるのは大病をしていること。本著全体を通底する著者の死生観とヒップホップの価値観のマリアージュに何度も首を振った。「病人」というイメージをヒップホップ使ってフリップしていこうとするのはかっこいい。刹那的な考えで生活できるかどうか分からないけど少しでも意識して生活したい。

  • ヒップホップに例えた社会論

  • かけがえのない本はかけがえのない読書体験を提供してくれる。ヒップホップに限らずカルチャーは問題を簡単には解決してくれない。ただヒントは与えてくれる。本書でいう選択肢だ。そこから先は受け手次第。武器とはやる気である。ダースレイダー、現代の伊達政宗。一目瞭然!

  • スゴい些末な部分でで申し訳ないのだが、奥さんが出産の際に用意されていたオニギリを勝手に食べて怒られたというのを読んでYTRの録音現場で勝手に用意されてたラーメンを食べたという逸話と重ねた。

    ダースレイダー=勝手にご飯食べて怒られる人というイメージが完成しつつある笑

  • 世界の常態を秩序と見るか混沌と見るか。
    この哲学的な問いを下敷きにしながら、ヒップホップカルチャーの成り立ちを具体的に語り下ろしている。最初から100ページ位までが面白かった。

  • ヒップホップを通した人生論。テンポの良い知的な文章が心地よい。

  • 最初はヒップホップ入門書と思って読み始めたが、人生
    そのものの本だった。社会とコミュニティとの繋がり、生きているレイヤーの違い。子どもの出産、子育てを経てダース・レイダーさん自身が"外と繋がる"体験が描かれた「子どもこそが希望」の章はとても感動的だった。子どもはループを楽しむってことを思い出させてもらった。子どもの感覚に連れて行ってくれるツールとしてのヒップホップ。

  • 文体自体に体を揺らすほどのリズムがあって、なるほどこれこそラッパーの言語感覚がもたらす「読むヒップホップ」なのだと感じた。内容は確かに宮台真司をなぞる主張もあるのだが、むしろ自分の健康状態、日常含めて血肉のあるものとして宮台より生々しくリアルに刺さってくる。
    積極的なヒップホップのリスナーではなかった。言葉の違いもそうだが、社会的背景があまりにも異なっていて、日本において聞く方もやるほうも、お軽いシュミラークルとしてのイメージが今までどうしても拭えなかったのだ。本書を読むことによってこのしょうもないバイアスが優しく解きほぐされていった。
    一番の収穫だったかもしれない。

  • 東京新聞202219掲載 評者:いとうせいこう(ラッパー)

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著者プロフィール

ダースレイダー
1977年、フランス・パリ生まれ。ロンドン育ち、東京大学中退。ミュージシャン、ラッパー。吉田正樹事務所所属。2010年に脳梗塞で倒れ、合併症で左目を失明。以後は眼帯がトレードマークに。バンド、ベーソンズのボーカル。オリジナル眼帯ブランドO.G.Kを手がけ、自身のYouTubeチャンネルから宮台真司、神保哲生、プチ鹿島、町山智浩らを迎えたトーク番組を配信している。著書「武器としてのヒップホップ」(幻冬舎)「MCバトル史から読み解く日本語ラップ入門」(KADOKAWA)など。2023年、映画「劇場版センキョナンデス」「シン・ちむどんどん」(プチ鹿島と共同監督)公開。

「2023年 『イル・コミュニケーション―余命5年のラッパーが病気を哲学する―』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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