性と芸術

  • 幻冬舎 (2022年7月21日発売)
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  • 本 ・本
  • / ISBN・EAN: 9784344039834

作品紹介・あらすじ

日本の現代美術史上、最大の問題作、「犬」は、なぜ描かれたのか?作者自らによる全解説。これは「ほぼ遺書」である。「もちろん分かっている――美術作品の解説なんて作者本人はしない方がいいことは。だからこんな悪趣味は一生にこれ一度きりとする。本来無言の佇まいが良しとされる美術作品に言葉を喋らせたら――いったんそれを許可してしまったら――たった一作でもこれくらい饒舌になるという、最悪のサンプルをお見せしよう。ついてこれる人だけついてきてくれればいい。」(本文より)日本を代表する現代美術家会田誠の23歳の作品「犬」は、2012年の森美術館展覧会での撤去抗議はじめ、これまでさまざまに波紋を呼んできた。その存在の理由を自らの言葉で率直に綴る。人間と表現をめぐる真摯な問い。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の悪や変態性は欧米とくらべて「なあなあ」説。ずっと薄雲っていてコントラストの弱い日本の気候が影響している?

    枝や背景はないがしろにして、末節だけ執念深く描き込む。顔は類型化してるのに和服の柄だけはめちゃめちゃ描き込む。「小さきものたち」への近視眼的視線。

    芸術は「一つのメッセージを伝える容器」という役割をなるべく拒絶すべき。

    「止まっている絵」。動きがあり、エネルギーもあり、なんなら闘争や不協和音さえある。でも、バランスが完全にコントロールされ、動きは何一つ画面の外にはでていかないか。

  •  会田誠さんの『犬』という作品への批判に対する長々とした説明が、現代美術のあり方、その歴史などを語ることになっていて面白い。森美術館の展覧会はなぜか分からないけど見に行ったし、新潟市美術館での展覧会も見ている。そもそも美術に対してはあまり関心がないのだけど、関心を持ちたいと常々思っていて、ある時期『日曜美術館』を欠かさず見ていた。しかし根っこの部分で感性が乏しいため、美術作品に心から感動したことなど一度もない。太田光さんが『ゲルニカ』の実物を見てその場から動けなくなったなどという話を聞くたびに、かっこいい~と思う。

     それにしても会田さんは創作に対してすごく意識的で考え事をたくさんして取り組んでいらっしゃる。自分はこんなに何か物事を突き詰めて考えたことがあるかと言えば、ない。必要がなかったから考えていないような気がするが、必要なことも考えずにやり過ごしているようにも思う。

  • 「日本の中のマネ
    ‐出会い、120年のイメージ-」 展
    練馬区美術館
    2022.9.4~11.3

    上記の展覧会で、ご本人に遭遇!ツイッターで「行ってきた。」と、発信されていたので間違いないはず。

    それまで、会田誠って「ちょっと変わった画家」としか思ってなかったけど、あらためて検索してみた。

    エロくて不愉快な作品が次々出てきて、やっぱり「ちょっと変わった画家」と思ったけど、本を書かれているのもわかった。

    タイトル『性と芸術』

    ご本人の作品そのままのタイトルだけど、なかなか興味深かった。

    まず、『犬』は、単に本人の性的な趣味で描いたのではないとわかった。ほんと?笑

    『犬』は、エロではなく、いかに人の心を揺さぶるかが目的らしい。

    確かに、かなり揺さぶられている。

    何でこんなエロくて不愉快な絵を描くの?から、何で不愉快なんだろう?と考えてる。

    あまりに不愉快でじっくり観てなかったけど、これは日本画だと知った。

    大学院で日本画を専攻され、その形式で描いたらしい。

    日本画は、人物は単純に描き、畳や着物などの柄は細かく描くらしい。

    だから、『犬』の女の子はできるだけあっさりと描き、包帯は細かく描いていると。

    『犬』、じっくり観たくなってきた!?

    他には、ずっと画家としてテーマを探していたとか、やってる講義についてなどが書かれていて、アーティストの思考がわかったし、現代アートを観るヒントにもなった。

    会田誠、「ちょっと変わった画家」というのは、単純過ぎたと反省している。

  • わたしにとって会田誠氏は、犬の絵で悪名高い人、ではなく、現代美術の人として調べてみたら実は長きにわたり犬などで叩かれていた人、でした。
    歪さ(アイロニー)は本質であり、必要悪は平和につながる…言ってることはわかるけど不快なもんは不快なんじゃ、ていう平行線を今後も曖昧なまま保存していくしかないよなと思うけど、昨今は正義による浄化が激しすぎて、そういう議論すらできなくなる未来が来るのかもしれない。萎え。

  • 性と芸術に関するエッセイ

    「痛々しいほどフェイクな古典主義」を実作で試そうとしたのが『犬』だった。
    「榎倉康二的」「もの派的」「還元主義的」現代美術でないものとしての現代美術をやろうという真剣勝負。
    目指したのは、誰にでも一目瞭然な「悪」の提示。

    批評として会田誠の作品は存在する
    ヌードって美術の枠の中では権威あるものだけど、一歩外に出たらエッチでポルノになりえるよね など

  • 露悪的というのか、偽悪的なのか、過剰過ぎるのか、丁寧過ぎるのか、真面目過ぎる(不真面目を真面目にする、優等生的不真面目)のか、正直過ぎるのか、頭良過ぎるのか、作品(写真でだけど)も文章も私にはしんどくて、ゆっくりしか読めなかった。頭悪いし、知識もないしで、全然ついていけてなくて、反論したいのか、丸め込まれているのかさえわからない。
    今まで知らなかった芸術家や漫画家の名前や作品、業績を知ることができたのは単純に良かった。

  • 美術家会田誠による初期作品『犬』の解説。描かれた当時の美術業界事情、西洋美術における裸体画の意味などにも触れながら制作意図が説明されている。
    SNSで『犬』に向けてある特定の批判が繰り返し投稿されるらしい。「『犬』は永井豪が『バイオレンス・ジャック』で描いた人犬のパクリである」。この批判に、『犬』制作時には『バイオレンス・ジャック』を読んではいなかった。また、女性の四肢の切断には漢の戚夫人や80年代に流布した都市伝説の例もあり一般的なものであると、批判に応えている。
    正直に言うと、もやもやしたものが残った。ネットのひとがなぜ『犬』を批判するかへの考察が間違えているではないか。『犬』への批判は、アニメや漫画のイメージを現代美術に持ち込んで成功した村上隆への批判と同種のもの、あるいは「のまネコ」騒動にもつながる、「嫌儲」と呼ばれる感情に近いのではないか。別この言葉でいうと「金の匂い」が感じられるからではないか、と思う。

  • 一部の女性からとても嫌われている絵画「犬」の制作過程を作者自らが解説した一冊。

    あの作品は本当に一部の女性に非常に嫌悪されているようで、実際そんな人に出会ったことがある。そりゃ趣味のいい絵画ではないけど、何がそこまで一部の女性の心に悪い意味で刺さるのだろう。分かる気もするが言語化できてない気もする。所詮作り物だし。これに怒っていたら一部のAVやらエロ漫画はどうなのか?とも思うが、単に目に触れていないだけなんだろうか。芸術ということになってるからイカンのだろうか。

    そんなことを思いながら読んでみたが、思いの他おもしろかった。冒頭で著者が言うように、作者自ら解説するって野暮だなとは思う。一言で言えば「低俗な変態的画題を、風雅な日本画調で描こうとしました」ということなんだろう。そこまでは素人の、美術の門外漢でもわかる。しかし読んでみると、作品からはまったく想像できなかったいくつもの伏線があり、その交錯点に「犬」という作品があることがよくわかった。謎解きというか、種明かしをしているような面白さがある。

    しかし、こういう美術的文脈ってある程度勉強しないとわからない訳で、そういう作品を素人の前にポンと提示する現代美術ってなんなのか?とも思う。そもそも素人は相手にしてないのか?目利きの人はあの作品からあんなこんなを読み取れるのだろうか。まさか三島由紀夫とか川端康成が出てくるとは思わなかった。

    そんなわけでおもしろく読んだのだけど、一点引っかかったところがある。それは、日本の「可愛い文化、ロリコン文化」の隆盛は、日本の太平洋戦争敗戦に伴う父性の弱体化に遡ると書いている箇所だ。そうなのかなあ?今ひとつ説得力を感じない。未熟なもの、か弱きもの、小さきものを愛でる文化は、もっと根が深く日本の底流に流れているような気がする。それはこの本の中でも、日本画では背景や木の幹はざっくり描くのに花の一輪一輪を細密に描く、と書いた箇所で触れられていることだ。

    ただこの一連の記述を読むと「犬」の見方も変わってくる。「犬」という言葉にはネガティブなニュアンスもある。戦うための手足を切断されて、媚びた目で飼い主を見上げる未熟なメス犬。それは日本そのものではないのか?という怒気を含んだ保守サイドからの見方もできる。

    それにしても、写実的で美しい絵を描いてれば良かった時代から、ずいぶん遠くへ来たものだ。

    二章の『「色ざんげ」が書けなくて』も面白く読んだ。価値観が急速に変わる現代社会と性の軋轢について書いている。割と同意できる内容だと思った。特に印象に残ったのはオナニーする男性の心理描写。こういう妄想のような部分は確かにあるし、読んでいてキモチワルイ。自分がキモチワルイ。それが今もあまり変わってない気がして、更にキモチワルイ。しかしここまでそのキモチワルサを言葉化できるのは流石と言うべきか。日本のオナニー・スピリットの伝播で世界平和を夢想するところは笑った。

  • 徹底した言語化ができる人だと思う。いやあの作品を作り続けているからこそ、徹底した言語化をせざるを得ない状態になったのかもしれない。本人にもどちらが鶏か卵かはよくわからないのだろう。
    真っ当なプロフェッショナルであるとともに、市井の人の下世話さもわかる稀有なアーティスト。

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著者プロフィール

あいだ・まこと 1965年新潟県生まれ。1991年東京藝術大学大学院美術研究科修了。
美少女、戦争画、サラリーマンなど、社会や歴史、現代と近代以前、西洋と東洋の境界を自由に往来し、奇想天外な対比や痛烈な批評性を提示する作風で、幅広い世代から圧倒的な支持を得ている。国内外の展覧会に多数参加。

「2025年 『会田誠 はなせないことをはなす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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