罪の境界

  • 幻冬舎 (2022年12月14日発売)
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本 ・本 / ISBN・EAN: 9784344040137

作品紹介・あらすじ

無差別通り魔事件の加害者と被害者。決して交わるはずのなかった人生が交錯した時、慟哭の真実が明らかになる感動長編ミステリー。「約束は守った……伝えてほしい……」それが、無差別通り魔事件の被害者となった飯山晃弘の最期の言葉だった。自らも重症を負った明香里だったが、身代わりとなって死んでしまった飯山の言葉を伝えるために、彼の人生を辿り始める。この言葉は誰に向けたものだったのか、約束とは何なのか。

感想・レビュー・書評

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  • 薬丸岳さん著「罪の境界」
    著者の作品は毎作品、テーマや背景毎にとても考えさせられるので最近好んで立て続けに読んでいる。

    今作品は渋谷スクランブル交差点でおきた無差別通り魔事件の被害者、加害者、ライターの三視点から描かれている。
    昨今、実際にこのような無差別殺人事件が度々おきるが、その背景にはこの作品の様に被害者や加害者にもその親族や関係者が存在していると思うと事件自体ももとよりその連関性にも恐ろしさを感じる。
    自分もいつそういう魔の手の被害にあうかわからないし、また知人や近しい人が被害者となれば自分自身も被害者との関係性上他人ではいられない。そう想像してみればかなり身近に感じられる話であり、幾らでもありえる話だ。

    この「罪の境界」というタイトル。今作品では「殺人」という行為に引かれたラインに対しての言葉だった。殺人という一線に対してそれを境界線と見たてていた。
    ただこの作品を読んでいて自分にはそれだけではない気がした。人としての境界と個人としての境界が描かれている様に感じていた。
    作中至る所にラインが散りばめられていてその都度、それらは全て個人としての境界線ではないのか?と思わされていた。
    感情と行動と思考のバランスが崩れた時がそれこそ個人としての「境界」なのではないだろうか?
    その二軸の境界が深く描かれている作品に思えて、より考えさせられていた。

    今回の作品は特に身近に感じながら読み進められた。
    いつか本当に身の上にこのような事件が起きないことを願いながら、またもし不幸にもそういう風になってしまったらという思いを巡らせながらも。
    今作品も深い潜考を得られる作品だった。



  • 浜村明香里26歳は渋谷の松濤のレストランで恋人で出版社に勤める東原航平と自分の誕生日のデートの待ち合わせをキャンセルされ、渋谷のスクランブル交差点を歩いている時、通り魔に斧で切りつけられます。

    明香里は17か所の傷を負い重傷もう一人の女性も助かりますが明香里を助けようとした飯山晃弘という48歳の男性が、最後に「約束は守った…、伝えてほしい…」と言いながら亡くなります。

    犯人は小野寺圭一26歳。
    すぐにつかまり、拘置所に入ります。
    小野寺は「こっちの世界に入りたかった」といい刑務所に入り、自分を捨てた母親に復讐してやりたかったとフリーライターの溝口省吾に語ります。
    溝口は、自分の生立ちと似ている小野寺に共感し、小野寺の半生を本にして出版したいと思っています。
    そしてなんと溝口は失意のどん底にいた明香里の恋人の航平の勤める栄倫社から本を出版することになります。

    そして、溝口は航平の存在を知り、明香里に本の原稿を送りつけます。
    明香里は実家を出て航平とも別れ、アルコールがなくてはいられない生活を一人で送っていましたが、その原稿を読み航平と再会します。

    そして明香里は次第に立ち直り、航平とともに、自分の身代わりになって亡くなった飯山の最後の言葉「約束は守った…、伝えてほしい…」というのは誰に向けられたものなのか探そうとします。
    飯山には身寄りがなかったのです。


    ネグレクトについて書かれた小説だと思いました。
    犯人の小野寺とライターの溝口はネグレクトを受けて育ちました。


    しかし、身寄りがなくても飯山のように人を助けて亡くなった人間もいるのです。
    明香里はいいます。
    「飯山さんも私も罪の境界を超えなかった」
    それが本作品のテーマだと思いました。
    飯山の守った約束が最後にわかるのですが、泣かせます。

  • 無差別通り魔事件の加害者と被害者。そして雑誌のライターや被害者の彼氏。決して交わるはずのなかった人生が交錯した、というのは帯の記載。交わるはずのない人生とは、ランダムな無差別性を指すのだろうが「人生の交錯」は予定説なのか、因果論なのか。作者は小説における神であり、事件に関わる登場人物を描く際に、そこに巻き込まれていく因果を説明せざるを得ない。更にそこから因果的な展開をする。物語という性質上、因果論として取り扱わざるを得ず、例え事件が運命として予定されたものだとしても、そもそもミステリーとはそういう仕立てなのである。

    だから小説は、斜め読みをして一行一行の読みが浅いと途端についていけなくなったり、想像世界がスカスカな論理でぼんやりしてしまう。

    他方、我々の日常は、スカスカな論理で構成される。冷蔵庫のお菓子が突然消えても、身内の出入りが多い日にはその因果は解かれない。迷宮入り。突然消えたお菓子は予定説の象徴、解き方が分からぬままの数学みたいなもの。いや、その状態を諦めて生きるあなたや私の人生みたいなもの。つまり、予定説とは迷宮入りの事で、答えを知る神のみが許される表現であり、人間は答えを知りようがないので予定説など言えない。我々は無知、無理解、誤謬によってスカスカにできている。日常には小説のような完結性がないし、通りすがりの他人に役割はない。

    さて、原罪とは何だったか。神に叛いてのつまみ食い。神に叛く事が可能だというのか。この物語は、因果の狭間〝罪の境界“に挑む。

    最近、石井光太の『鬼畜の家』を読み、虐待の連鎖に救いのなさを感じた。生まれる子供には、因果を背負う理由などないはずだ。ならばそこには一瞬、予定説が介入せざるを得ない。あるいは、それすらも、地続きな遺伝子が背負う因果だと言うのか。救いのなさが、罪の境界を生む。本書は、その因果と予定(運命)における〝罪の境界“を扱う。そのギリギリのドラマに引き込まれた。

  • 無差別通り魔事件の被害者となり、自らも重傷を負い一時は意識不明だった明香里。
    彼女を助け、身代わりとなって死んだ飯山の最期のことば「約束は守った…伝えてほしい…」
    これが誰に向けたものだったのか、自身の今後に希望を持てず自暴自棄になりながらも救ってくれた飯山のこれまでを辿ることになる。

    一方では、加害者の経歴を辿るライターは、彼が自分と同じような過去であることに興味を持ち、一冊の本を出せないかと幼少期まで探ることになる。
    ネグレクトを受け学校にも通うことのなかったことが、人を恨み世の中を憎むことになるのか…。

    加害者と被害者が、この事件でどう変わっていったのか、そしてどう生きるべきなのかがわかる。

    罪の境界。
    どんなに苦しく辛くてもけっして越えてはいけない。
    自分の人生を呪うな、誰かを恨むな、自ら変えていこうと努力しないと前には進まない。それをとても感じられた一冊である。


    • ポプラ並木さん
      湖永さん
      親からの虐待とそれによる不条理。薬丸さんならではの内容でした。
      超えてはならない一線が見えました。
      しかし、ラストの下りで一...
      湖永さん
      親からの虐待とそれによる不条理。薬丸さんならではの内容でした。
      超えてはならない一線が見えました。
      しかし、ラストの下りで一気にテンションが下がってしまいました。
      それがなければ⑤だったのに。。。
      2023/05/11
  • ラストがすべてを台無しにした!えっ~薬丸さん、そりゃないよ~絶対に付けない。な~~い!ラスト10ページだったので、重たい本を職場まで持っていき、昼食ガッツリ食べ終わって、歯を磨き、さぁ、正座して読んだ10ページが。。。終わった。。。脱力で感想を書けなかった。。。親から虐待を受けた犯人、恋人のドタキャンでたまたま刺された被害者⓵、被害者⓵を助けたが力尽きた被害者②。犯人と同じ境遇で親から虐待を受けて親を殺したライター。この人物達から垣間見える「罪の境界」、さらに不条理。ただ、ラストが。。。終わった。。。②

    • 湖永さん
      ポプラ並木さん こんばんは。
      コメントありがとうございます。
      ラストで裏切られた感じですかねぇ。
      けっこう重い内容であったので、それにどう対...
      ポプラ並木さん こんばんは。
      コメントありがとうございます。
      ラストで裏切られた感じですかねぇ。
      けっこう重い内容であったので、それにどう対処してレビューを書くのか悩ましいところではありました。
      ★5の場合は、感情を文字で表すのが難しいんですよね。(私だけかもしれませんが…)
      2023/05/11
    • ポプラ並木さん
      bmakiさん、
      おはよう!
      最後の最後で余計?な下りが。。。
      これには評価が和返れていると思います。
      でもそれ以外はとても素晴らし...
      bmakiさん、
      おはよう!
      最後の最後で余計?な下りが。。。
      これには評価が和返れていると思います。
      でもそれ以外はとても素晴らしい内容でした。
      是非読んでみてほしいです!
      2023/05/12
    • ポプラ並木さん
      湖永さん
      おはよう!
      コメントありがとうございます。

      そうそう、ラストの下りが、、、いらないでしょ!と思ってしまいました。

      ...
      湖永さん
      おはよう!
      コメントありがとうございます。

      そうそう、ラストの下りが、、、いらないでしょ!と思ってしまいました。

      湖永さんの感想、素晴らしかったですよ。
      共感しました。
      一線を超えてはいけない境界が見えました!!
      2023/05/12
  • 恋人にデートをドタキャンされた明香里は渋谷のスクランブル交差点で斧を凶器にした通り魔殺人の被害者となる。
    十数箇所切付けられたものの飯山晃弘(48歳)に救われて一命を取りとめますが、助けた飯山は死んでしまい身体の傷は癒えていくが心の傷は深く生活は荒れ家族にも心を閉ざすようになっていく。

    死の間際に飯山が明香里に残した「約束は守った…伝えてほしい…」という言葉を届ける為に明香里が飯山の過去を調べていく、明香里のストーリーと
    殺人犯・小野寺の過去をライターが調べていくストーリーで進んでいきます。

    虐待、ネグレクト、毒親、居所不明児童…
    とにかく重い話です…さすが薬丸岳…
    過去を調べるという話ってなんでこんなに引き込まれてしまうのか?
    暗いけど、重いけど、読むのが止まらない。




    でも読んでる間ずーっと引っかかることが…
    なんで明香里は飯山晃弘を飯山じゃなく晃弘と呼ぶ?48歳に名前呼びって薬丸さんおかしくない?
    嫌な予感しかしないんですけど⁇

    評価分かれるかもしれないけど…
    わたしだけかもしれないけど…
    ラスト4ページいる⁇
    それはダメでしょ⁇
    ☆減っちゃうでしょ。゚(゚´Д`゚)゚。






    • 1Q84O1さん
      ☆減っちゃうほどの衝撃!?
      いらなかったラスト4ページ気になる〜
      ☆減っちゃうほどの衝撃!?
      いらなかったラスト4ページ気になる〜
      2023/06/21
    • みんみんさん
      わたしがひねてるかな。゚(゚´Д`゚)゚。
      わたしがひねてるかな。゚(゚´Д`゚)゚。
      2023/06/22
    • おびのりさん
      そのうち読もうと思ってたけど、後に回す。
      そのうち読もうと思ってたけど、後に回す。
      2023/06/22
  •  「むしゃくしゃしていた。幸せそうなやつならだれでもよかった。」
     渋谷スクランブル交差点で起きた無差別通り魔事件。男性一人が殺され二人の女性が重傷を負う。犯人の小野寺圭一は無期懲役を望んでおり、ずっと「こちら側」にいたいと言う。
     罪を犯すものとそうではないものとの「罪の境界」はどこにあるのか。

     小野寺は、貧困の中で虐待を受けて育ち、学校に通わせてもらうこともできず、存在が人に知られないようにされていた。ライターの溝口は、自分と同じような境遇の小野寺に興味を持ち、本にまとめようと接触していく。
    裁判での自分の姿を見せることで母親に「復讐」したいという小野寺が、求めていたのは愛情だった。自分を探して会いに来てくれなかったから、自分はこんなふうになってしまった。後悔してほしかった。自分の辛さをわかってほしかった。

    「悲しませたくない」人の存在。「愛情をもって接してくれる」人の存在が、あちら側にいくのを踏みとどまらせる。被害者飯山の「約束」にもつながる。

    簡単に「愛情をもって接する」といっても、もちろんそう簡単なことではない。それぞれの生活、感情がある。被害者である明香里の家族も、覚悟をもって支えようとするが、うまくはいかない。愛情をもって接しても、それが明香里をイライラさせる。家を出たものの裁判の傍聴席にきてくれた姿にはジーンとした。人と人との関わりの中で、みんな生きているんだなとあたり前のことだけれど、しみじみ感じさせられた。

  •  薬丸岳の作品を読むと、いつもナイフを突き付けられているような感覚に陥る。私の心の奥底を鋭いナイフで深く抉ってくるようだ。

     通り魔による殺傷事件などをニュースで見ると、なんでそんなことをするんだと、頭にくるし、悲しくもなる。でも、それだけで感情は素通りしていってしまう。少し経つとそんな事件もあったっけと。

     でも、実際にその事件には加害者もいれば被害者もいる。また、それぞれの家族も。この物語は、傍観者であった私にそんな当たり前のことを突き付けてくる。

     浜村明香里は、彼氏とのデートに向かうが、彼氏にどうしても外せない仕事の用ができてすっぽかされてしまう。待ち合わせ場所を出た明香里は、突然、見ず知らずの男に斧で切り付けられてしまう。そこに助けに入った男性が殺される直前、『約束は守った・・・伝えてほしい・・・』との言葉を明香里に訴えてきた。

     物語は明香里目線と彼氏の航平目線、ライターの省吾目線から成る。次々と明らかになってくる虐待には目を覆いたくなるが、それでも母親はいつでも子どものことが大切なんだなと心が救われる。
     また、『伝えてほしい』の言葉を受け、殺された飯山晃弘の知り合いを探す明香里。犯人の小野寺圭一に興味を持ち、ノンフィクションを書こうとするライターの省吾から、犯人と被害者の生い立ちや人物像を形作ることで物語に深みをもたせている。

     自分が明香里ならどういう行動を取れただろうか。圭一なら、やはり自暴自棄になっていただろうか。航平なら明香里にずっと寄り添ってあげることができただろうか。

     答えはわからないが、納得できる生き方をしなきゃと思わされた。

  • 重いテーマでしたが、近年のニュースを見ているとますます身近になっていくんだろうと思います。

    罪を償っていく人、他責で生きていく人、出会いによって生きていく道が変わるのなら、まずは自分の生き方を見つめ直そうと思いました。

  • 久しぶりに読むのを止める辛い物語でした。
    通り魔事件の加害者と被害者、ライターのお話。明香里が家出しウィークリーマンション借りて、201号室の子供が万引きしたところで嫌になってしまいました。虐待、貧困、不登校、毒親、生い立ちが悲惨過ぎる。無理、、、とりあえず一旦やめた!

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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