はるか、ブレーメン

  • 幻冬舎 (2023年4月5日発売)
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感想 : 80
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  • 本 ・本
  • / ISBN・EAN: 9784344040960

作品紹介・あらすじ

私を捨てた“お母さん”の走馬灯には、何が映っているのだろう。人生の思い出をめぐる、謎めいた旅行会社に誘われた16歳の少女のひと夏の物語。小川遥香、16歳。3歳で母に捨てられた彼女は、育ての親である祖母も亡くし、正真正銘のひとりぼっちだ。そんな彼女が出会ったのが走馬灯を描く旅をアテンドする〈ブレーメン・ツアーズ〉。お調子者の幼馴染、ナンユウととも手伝うことに。認知症を患った老婦人が、息子に絶対に言えなかった秘密。ナンユウの父が秘めていた、早世した息子への思い。様々な思い出を見た彼女は。人の記憶の奥深さを知る。そんな折、顔も覚えていない母から「会いたい」と連絡が来るのだが……。私たちの仕事は走馬灯の絵を描くことだ。それは、人生の最後に感じるなつかしさを決めるということでもある。

感想・レビュー・書評

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  • 重松ワールド。。。

    ちょっと設定が突飛だけれど、読み進むうちにすっかり重松ワールドにはまってしまった。
    やっぱり良いなぁ。

    突飛な設定。
    3歳で母親に捨てられた主人公 小川遙香。
    祖父母に育てられるが、祖父母も亡くなりひとりぼっちに。
    そんな中、死の直前に見る走馬灯を描き変えることができるという謎めいた「ブレーメン ツアーズ」からコンタクトがあり、幼なじみのナンユウ君と一緒にその世界を見ることに。

    テーマは親子。

    大切な思い出は、正しい思い出とはかぎらない。
    幸せな思い出と、幸せそうな思い出というのは、違うんだ。
    人間には3つの力がある。記憶する力、忘れる力、なつかしむ力。

    あったかい物語。
    でも読み終えると元気をもらって、しっかり生きていこうと思う。
    とても良い物語でした。
    重松作品はすべて私の大切な宝物です。。

  • 遥香は3歳のときに母に捨てられ、祖母に育てられた。
    祖母も亡くなり、ひとりぼっちになったある日、ブレーメン・ツアーズというところから封書が届く。どうやらオーダーメイドの個人旅行らしく、お客様の希望でかつての住まいであったこの家に滞在したいということだった。
    不安な遥香は、幼なじみのナンユウと一緒に話しを聞くことになるのだが…。


    ブレーメンの仕事とは、人生最期のときの走馬灯の絵を描くことだった。
    ブレーメンとは、たどり着けない場所のことであり、
    たどり着けないものがあった人生をハッピーエンドにする会社である。

    遥香にも見える能力があったようで、ナンユウも何かを感じるものが…。
    なんとなく自然な流れで仕事を手伝うかたちになるのだが。

    見えることによって自身の感情も複雑になっていく。
    それは、遥香の母が会いたいと言っていることやナンユウの場合は、ナンユウの父が幼くして亡くなった長男への秘めた思いをずっと心に閉じ込めていることである。

    自分を捨てた母の走馬灯には、何が映っているのか…。

    母との場面では涙が止まらなかった。
    感動的、ともちょっと違う気持ちだけども…
    たぶん、名前を呼んでくれたことがすごく染みたからだろう。
    たくさん呼んでくれて、うれしかったと口に出して言えてることに共感したからかもしれない。
    同時に恨みや憎しみなどの負の感情がなかったことに安堵したのかもしれない。


    悔いのない人生なんてないだろう。
    墓場までもっていく秘密が少なからずある。
    誰にも悟られずに持っていきたいと私は思う。







  • 重松清さんの本は、最初は意味がわからないけど読んでいるうちに内容がわかってきました。幼い時に母親に捨てられた主人公が祖父母に育てられてだけどその祖父母は、亡くなってしまうなんて····テーマは親子ですね!

  • 〈 人生の思い出をめぐる、謎めいた旅行会社に誘われた16歳の少女のひと夏の物語。〉

    おもしろくて引き込まれ一気に読んだ

    グリム童話の『ブレーメンの音楽隊』
    親しんできた童話
    そのブレーメン
    たどり着けない場所
    と設定した物語
    さすが重松清さん

    『走馬灯』
    そこまでして書き換えたいのかなあ
    死ぬ間際
    あるがままを受け入れたい
    とは思う今の私です

    ≪ なつかしい 最期に想う 走馬灯 ≫

  • 人が死ぬ前に最期にみるといわれてる走馬灯を編集する人たちと、過去に寂しさを持ってる主人公たちのお話。昔、「流星ワゴン」を読んでめちゃくちゃ感動したけど、重松清さんのファンタジー物語は、やっぱりめちゃくちゃ心があったかくなる。

  • 重松清さんの作品は、気を緩めて読むと、人間不信に陥りそうな展開だったりするので、いつも、「読むぞ‼️」と、気を引き締めてから読み始めます。(『木曜日の子ども』には打ちのめされました。『流星ワゴン』も『きみの友だち』もなかなかシビアでした…。)
    この作品も、知りたいけど、知らない方が平穏でいられる相手の本音を探る、重い内容でしたが、素直でまっすぐな高校生2人が作品全体を優しい雰囲気にしていました。

  • 走馬灯を描く、なんとも思いも寄らない企画をする旅行会社ブレーメンツアーズ。あ、ファンタジーなんだと気づく。
    記憶を読める特殊能力というとありきたりだが、死をテーマとなるので安っぽくなく重い。

    なつかしむ
    生きるために人に与えられた能力。考えたこともなかった。思い出に浸ることもない日々が忘れさせていたんだろう。
    それでもまだ思い出を大事に思える歳ではないと感じる。その日のために憶えておきたいものだ。

    悔いのない人生
    一度も間違ったことのないという、ずうずうしい人生かもしれないぞ。
    そんな人はいない。救われた気持ちにもなる。

    大切な思い出は正しい思い出とは限らない。
    大事に思えることは本人が決めること。倫理にそぐわなくても。善悪の大小はあっても人に迷惑をかけない人間なんていない。

    10代の女の子に課せられるには重たいテーマだったのかもしれないが、母親との再会、別れも爽やかなものになり、読み応えのある一冊でした。

  • 相変わらず、泣かされてしまった。
    死の直前、人は何を見るのか?安らかにこの世から去りたいと思うのはみな同じ。その安らかさを与えるための特殊な能力がキーワードの物語。
    心に残る言葉もたくさんあった。「幸せであると幸せそうは違う」、「いい思い出が必ずしも幸せな思い出とは限らない」などなど、、、あらゆる世代がグッとくる小説だった。

  • 読書備忘録769号。
    ★★★☆。

    往年の重松さんの作品と比べてしまうと、ちょっと物足りなかった。
    主人公が弱いのかなぁ。
    それとも、こんな感じの作品は最近良い作品が多いから相対的に感じてしまったのか。

    主人公小川遥香。周防市という架空の町に住む高校2年生。
    プロローグ。たった一人の肉親だったお婆ちゃんの四十九日法要と納骨の日。
    納骨して完全に独りになった。遥香は3歳の時に母親に捨てられた。父親はそもそもいない。遥香の母親が妊娠したことを知ると消えた。それからずっとお婆ちゃんと暮らしてきた。
    法要に来ていた東京に住む叔父さん家族は一緒に住もうと言ってくれたが、一人で生きていくと決意する。
    精進落としの会食のあと帰宅。郵便受けに怪しい速達が。宛名は<御世帯主様>。差出人は<ブレーメン・ツアーズ 葛城圭一郎>。

    人生の幕を下ろすとき、人は走馬灯のようにこれまでの人生を振り返るといわれる。
    その走馬灯は、楽しかった記憶だけとは限らない。苦い思い出も走馬灯に出てくるかもしれない。
    その走馬灯を自由に構成できるとしたら・・・。
    そう、ブレーメン・ツアーズは依頼に応じて人生の走馬灯を構成することを生業としている会社。

    遥香の住む家が建つ前に、その場所に住んでいた高齢女性松村光子さん。認知症が進みもう長くない。
    息子の達哉さんは、母親には幸せに旅立って欲しく、走馬灯の作成を依頼した。そして、光子が5年間暮らした周防の記憶に空白があるという。
    空白の5年の記憶を呼び起こすために、松村親子を1週間遥香の家に宿泊させて欲しいという依頼だった。
    圭一郎から、1週間の宿泊には不釣り合いな高額な前金を受け取った遥香は了承する。
    そして、走馬灯の絵師、と呼ばれる世界に触れることになる・・・。

    ネタバレです。
    走馬灯の絵師と呼ばれる人間は、いわゆる異能者。相手の背中から心臓の位置に掌を当て、鼓動にシンクロするとその人の記憶にダイブすることが出来る。
    記憶には色付きとモノクロがあり、走馬灯となりえるのは色付き。モノクロは記憶としては存在するが本人にとって大した記憶ではない。

    そして、圭一郎は遥香が能力を持っていることを見抜いた。そう、遥香は他人の記憶にダイブする能力を持っていた。そうなりますよね。物語上。圭一郎だけが能力を持っていて主人公が能力を持ってないって無いですね。そして、同級生のナンユウくんも能力者。笑
    ガンダムのニュータイプなみに異能者が出てくる。

    そして、光子の走馬灯つくりを通じて、ひとの大切な記憶というものの本質を学んでいく・・・。
    光子の周防での記憶は不倫の記憶だった・・・。夫が横浜に単身赴任している間、勤めている工場の上司と不倫していた。その記憶が色付き。家族との記憶はモノクロ・・・。
    大切な思い出が、正しい思い出とは限らない。
    大切な思い出は、周囲の人々を不幸にするかもしれない。
    いわゆる幸せそうな思い出と、幸せな思い出は違う。
    だから、ひとは記憶する力とセットで忘れる力、そして懐かしむ力を持つのだと。

    そして、東京でブレーメン・ツアーズの手伝いをしている時、母親からの連絡を受ける。すい臓がんでいつ死んでもおかしくない母親。遥香に会いたいと。自分を捨てた母親。
    遥香は迷った末、会うことにした。母親には自分の記憶があるのか?母親に触るのが怖い。でも・・・。
    そして、母親の記憶に見た景色は・・・。

    まあ、ということですね。でも許されないよ。3歳の娘を捨てて蒸発するって。
    めでたしめでたしなんですか?これ?って感じ。

    一方で、ブレーメン・ツアーズのメンバーはめっちゃ魅力的。
    圭一郎のおやじで社長の晃太郎。伝説の走馬灯の絵師。カッコいい!
    ダイブツのおばちゃん!カッコいい!
    こっちをシリーズにして欲しい。様々な走馬灯を題材にして。

  • 『この街の走馬灯があるなら、そこにはどんな場面が描かれているのだろう。世界が滅亡する瞬間、すべての街は、それぞれの走馬灯を見るのだろうか。』

    まだ16歳の高校生の、小川遥香の元に届いた一通の封筒。「ブレーメンツアーズ」というなんとも怪しげな団体名から送られてきた手紙をきっかけにしてこの物語は始まります。

    他人の走馬灯を見ることができたら、そしてそれを編集することができたら。それを幸せなものに書き換えるだろうか、それとも不幸なものは不幸なままにしておくべきだろうか。

    走馬灯でなくとも、自分の人生について振り返ることは誰にでもあることだと思います。そして、それらは必ずしも自分を肯定するものとも限らない。むしろ後悔の方が多かったりします。

    事実として受け入れるのか、隠すために思い出に蓋をするのかは、どちらが正解かでなく、単純に「違い」があるだけのように思えます。

    やはり長編小説は、細切れでワクワクしながら読むのもいいけれど、休日に一気に読むのも面白いですね。

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著者プロフィール

重松清
1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。91年『ビフォア・ラン』でデビュー。99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木三十五賞、10年『十字架』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『カシオペアの丘で』『とんび』『ステップ』『きみ去りしのち』『峠うどん物語』など多数。

「2023年 『カモナマイハウス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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