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本 ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784344042131
作品紹介・あらすじ
あの時、警察が動いていれば、
死なずに済んだのに――。
2019年10月。福岡県・太宰府市で平凡な主婦の凄惨な遺体が見つかった。
大事な家族を惨たらしい形で失った遺族の悔恨、慟哭。
洗脳し暴行の限りを尽くした犯人の非道、残虐。
落ち度を否定し続ける佐賀県警の無謬主義、厚顔。
ローカル局若手記者の逡巡、苦悩。
報道特別番組「すくえた命〜太宰府主婦暴行死事件〜」(2021年日本民間放送連盟賞番組部門・テレビ報道最優秀賞受賞)取材班リーダーによる、渾身のノンフィクション。
無残な姿で見つかった高畑瑠美さん。瑠美さんは山本美幸と岸颯(傷害致死罪等で起訴)に同居を強いられ、洗脳、暴行され命を失った。夫や2人の子供と幸福な家庭を築いていた主婦が、なぜ?
「何度も鳥栖警察署に相談に行っていたのに、全く動いてくれなかった」――遺族の告発を聞いたテレビ西日本報道部は調査報道を開始。取材で浮かび上がってきたのは佐賀県警鳥栖警察署の杜撰な対応だった。塩塚記者は、遺族と向き合い、犯人の背景を探り、佐賀県警の無謬主義とぶつかる。そして報道の注目度と比例するように重くなる“背負った荷物”に、次第に押しつぶされそうになっていく。ローカル局若手記者たちが挑んだ2年に及ぶ調査報道、辿り着いた真実とは――?
感想・レビュー・書評
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九州は福岡で起きた残忍な事件の、マスコミサイドから書いた作品。
加害者の暴虐さ、佐賀県警の無謬態勢、他局の無関心、事件と関係のない人たちの横暴。
被害者の遺族は、ある日突然遺族になった。まるで季節が変わるように。朝日が昇るように、雨が降るように、地震が来るように。生きていたら当たり前に起こる出来事のように家族を失い、遺族になった。
まさか、顔も知らない人からなぶり殺されるとは思わず。被害者も被害者遺族も、何の非もなく生きていたのに、憤懣と悲哀が蠢く禍根の底に突き落とされ、財物は奪われ、まごころを欺かれ、家族の絆を引きちぎられた。
加害者は抗告をした。「殺していない。勝手に死んだ」と供述している。リンチと監禁と尊厳を奪ったことは証拠を突きつけられて認めた。これを弁護する弁護士がいる。こんな事件、仕事と割り切ってできる範疇を越えている。
著者は遺族に絆されていると言われ、局で取り上げたこの事件の特集は幕引きとなった。
私たちは誰でもいつか、被害者に、遺族になりうる。加害者については、気の持ちようとしか言えないが、被害者になることは避けられない。対岸の火事とは思えない話だった。
だからと言って、この本は「被害者になったらどうなるか」みたいな本ではない。著者は読者にあとがきにこう書いている。
「この事件は終わっていない」と。
私も思う。被害者が、被害者遺族が「赦す」と言っても、事件のクランクアップにはならない。加害者の顔には死ぬまでスポットライトを浴びせてやればいい。死んでも火葬場から断られ、墓に入れようにも寺から無視されればいい。この事件の加害者の、最初の犠牲者がそうなって、無縁仏として供養され、誰の骨かも分からなくなったときと同じように。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
事件の酷さに言葉も出ない。佐賀県警、鳥栖署の対応には憎しみすら覚える。ご遺族の辛さを思うと涙が止まらなかった。
精神的にもとても読み進めるのが辛いけれど、読むこと、知ることが自分にもできることの一つだと思って読了した。事件を取材され、ご遺族と共に戦われた著者に敬意を表します。 -
ご家族や瑠美さんのことを思うとほんとにたまらない。そしてよくぞここまで調べて寄り添って戦ってくれたTNSに頭が下がります。
主犯メンバーはただただ鬼畜の所業で、なんでそんな生き方をできるのか全く理解が出来なかった。そして何より許せなかった佐賀県警、組織を守るため、自分自身の立場を守るため、人ひとりの命をこうも軽く扱えるのかと軽蔑しました。守るほどの価値なんて何もないくせに。
被害者家族に寄り添ったTNSと共産党、逆に市民に見向きもせず自分たちを守る警察と自民党。今の世の中を見ると、何も反省してないし、何も変わっていない。
一般企業のように、第三者機関からしっかり監査を受けてはどうでしょうか。ほんとに腹立たしい。
この本を読む前に、母という呪縛 娘という牢獄を読んで、誰かに相談できていれば!と思ったのに、警察に相談した上でこんな二次被害三次被害に遭うならどうすれば良いのだ!と悔しく悲しくなりました。
ないとは思いますが自分がこの先警察に何か相談するようなことあれば全て録音するように徹底したいと思います。 -
謝れない組織に人は救えない。
救う気すら無いのだろうけど。 -
コロナ禍のときの事件だったのか
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太宰府主婦暴行死事件の調査報道のドキュメンタリーを作ったテレビ局スタッフによるその調査報道の軌跡を描いたノンフィクション。番組は以前に観てて気になったので買ってみた。被害者遺族に寄り添ってだんだん被害者の気持ちに自己も飲み込まれていくような描写は客観的な事件のルポルタージュと言うよりは、自らの調査報道の体験のルポと言うようなメタな構造を感じた。そういった記者の情熱や感情までが伝わって来て、純粋な調査報道の書籍とは違うけど、それはネガティブな事でもなくて俺は人間臭くて好ましく思った。犯人たちの残忍さはもうとんでもなく恐ろしいんだけど、それにしても佐賀県警はクソオブクソだなあ。議会での同じ回答リピートはバカバカしくて笑えてきたよ。警察組織の無謬ってのは恐ろしいもんだな。佐賀県警の体質については今度も市民やマスコミが注視をしていく必要がありそう。面白かったよ。
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佐賀県民のため、他人事でなかった。
また、裁判で提示された暴行の証拠の部分は読みすすめるのが辛かった。
警察が市民を守ってくれないのならどうしたらいいのか、考えさせられた。
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まずこの事件で思い浮かんだのは北九州一家連続監禁殺人事件だった。加害者が被害者を洗脳し、金を奪い取り、酷い暴行を加え死に至らしめる。首謀者が女性ということで、角田美代子の事件を浮かべる人もいるだろう。また鳥栖署、および佐賀県警の対応の杜撰さは作中でも言及されていたが、桶川ストーカー事件を彷彿とさせた。
私はノンフィクションで取材側が表に出てくるタイプの作風があまり好きではないのだが、この件に関しては遺族に寄り添い共に闘う取材側の姿勢は、取材側という第三者ではなくもはや事件の一部であるようにも感じられた。
結局、佐賀県警も鳥栖署も非を認めることなく山本受刑者の獄中死というなんとも後味の悪い最後で幕を閉じる。過去何度「被害者は以前に警察に相談していた」と事件後に語られたことだろうか。警察が忙しいのも分かる。しょうもないことで110番してくる人がいるというのもニュースで見た。しかしどうか、警察は事件の起こる前に相談者に寄り添い、事件を未然に防ぐことに尽力して欲しい。 -
亡くなられた被害者の苦痛や、ご家族が悲しみの中で戦うつらさや、著者の苦悩を思うと涙なくしては読めませんでした。
複雑な事件の内容でしたがわかりやすくまとめてありました。またTNCさんのYouTubeもあわせて拝見しより理解することができました。
佐賀県警には憤りしか感じません。
誰かの気持ちに「寄り添う」とは何かを考えさせられました。
著者プロフィール
塩塚陽介の作品





