もう消費すら快楽じゃない彼女へ (幻冬舎文庫 た 12-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344401976

感想・レビュー・書評

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  • タイトルの引力がすごい、中身もめちゃくちゃ良かった、気づきと学びが多い まだまだ気づけていないことがこの世界には膨大にある
    「夜明け」、教科書に載せてほしい

    メッセージが常に心地よいものとは限らない。心に届くものがたとえ不快であっても、なにかが表現されてしまえば、それは表現だ。
    空き缶を塀の上に並べて置くのも、部屋をゴミで埋めるのも、落書きするのも、自覚していないだけで個々の人間の悲しい表現なのかもしれない。わざわざ生ゴミを道路に捨てたり、トイレの壁にエッチなことを書いたり、タバコの吸い殻を投げ捨てたり、女の子のブラウスを切り裂いたり、犬の顔にマジックで絵を描いたり、そこの高いサンダルを履いて転んだり、髪を白髪にしたり、あらゆる行為は何らかの表現なのだ、と。
    ……誰もが自分もピカソだと自覚できた時、世界の見え方が変わるのだ。あらゆる猥雑で下品で不道徳な行為の向こうに、表現の可能性を信じる。人間のやることにムダな行為なんて何もない。

    苦痛は、あまりにも個別で多様で、それを共有するためには深い愛が必要になる。それは私の手にあまる。苦しみを共に生きるためには、宗教的な覚悟が必要なのだと思った。だけど、気持ちいいことなら大好きだし、苦痛よりもずっと共有できる。……できもしないのに他人の苦悩をいっしょに担おうとしていた。だから健常者であることが申し訳ないような気持ちになっていた。私は五体満足なのだ。それが私だ。自分を否定して相手と関わることはできない。……いまだに彼らの苦痛はわからない。わからないと言う時、ためらう。わからないと言い切っていいのかと。でもわからない。わからないと言った時に微弱電流のように走る心の痛み。このささやかな痛みだけが、私の感じる心の痛み。彼女がどんなに苦痛に喘いでも、私の体は痛まない。
    ……「違い」を理解するために自分を痛めつける。それには限界がある。でも「心地よさ」を知ることは苦痛じゃない。それはただ、自分らしくあればいいだけだから。「気持ちいいこと」を知ることは、あなたと私が「同じ喜びをもてる」という可能性につながる。そして、その先に「違い」がある。最初から「違い」を理解しようとすると、「わからない」と言う迷路に迷い込んでしまうのだ。

    彼の生活は完璧で、美しかった。なに一つ欠損を感じさせなかった。その物腰も、話し方も、明晰でセンスのよい青年そのもので、その動きは計算されていて、隙がなく、生きていることの緊張感に溢れていた。
    ……彼が獲得した光の世界は、不愉快な抽象画のように猥雑で混沌としていた。……この世界は寸分のすきまもなく、ぴっちりとなにかの色で埋め尽くされていた。それが彼を窒息させそうになった。目を開けていると息苦しいのだ。物と色が迫ってきて押しつぶされそうになる。……彼には遠いと近いがわからない、世界は一枚の絵のように見える。……すべての景色は彼を飲み込もうとする巨大なアブストラクト。目を閉じた時だけ、彼はこの雑然とした色の世界から逃れることができるのだ。彼は完璧な盲人だったのに、今は不完全な健常者になった。
    ……夜明けは彼の人生の象徴だ。闇に光が差す。

    純粋な人たちは、いつも自分の意味を求めている。それが彼らを、時としてわがままにし、時として自殺させ、時として犯罪者にしたりする。ずいぶんじゃないか神様、と思う。人にはどう生きるかという選択肢しかない。なぜ生まれたのかも、なぜ死ぬのかも定かでない。人にあるのは「間」だけだ。誕生と死の間。このとりとめのないあいまいな時間。その意味について私たちは何も知らない。

    「『無内容』はそのまま内容のないことではない。今日近代文学のあり方に馴染んだ私たちが、ごく普通に『内容』と言って思い浮かべるところの、意味とか、観念とか、意識とか、思想とか、そういうものを主にして考えた場合の『無内容』なので」あって、そういうものを全部取り去った後、うつろになった容器の中におのずから満ちてくる美酒……それは音楽のように気持ちよく流れるものであり、消え去った後には汲めどもつきぬ泉の豊かさが残る。……読み終わった後になんともえにいわれぬ爽やかな、清々しい清涼感があり、それを私は味わっていたのだということに気がついた。この奇妙な読後感。体のなかを春の沢風が吹きぬけていったような心地よさ。
    ……しかし、私の心は頭とは別に、この詩を感じていた。……読んでいると、何かこうくらくらするような目眩を感じるのだ。鳥が光を反射しながら、きらりきらりと空を飛んでいる。それを見上げている自分。揺らぐ足下、奇妙な遠近感。そんなものを、言葉から感じ取る。感じてしまう。理屈ではなく。

    殺すか殺されるかの間にサンドウィッチのキュウリやハムみたいに、愛だの、思いやりだの、喜びだのが混じってる。それが現実なんだ。悲惨なだけじゃない。現実はいつもどっかユーモラスだったり、愛のかけらがあったり、くだらなかったり、神聖だったりする。だから人は生きていくとも言えるし、だから人が死ぬとも言える。……今日憎みあっても明日は笑っているかもしれない。それが現実の凄さだ。十秒後には相手を許すかもしれない。それが人間の凄さだ。それを信じなければ変幻する現実は生きられない。そう思うことが私の書くことの原点だった。

  • 田口ランディさんの文章を読んでいると、心をつかまれるものがある。
    小説でも、このようなエッセイでも。

    頭だけで考えているわけではなく、
    体験を通して感じたことが書かれているからこそ
    警戒することなくストンと心に落ちてくるのだと思う。

    頭のいい人だなと思う。そしてバランスもいい。
    意味の世界、強くなりたい自分、暮らす力、喜びの共有…
    頭だけで考えてしまう結果で、そうだなと共感できる内容と
    考えてもいなかった方向からの意見にうなづかされる内容が
    バランス良く一冊に収められていてオススメです。

  • 初めて田口ランディさんの本を読んだ
    ニュースや身の回りの人の生き方を一歩深く考察し、読みやすい文章で綴っている
    流している事柄を立ち止まって考えたくなった

  • 4-344-40197-2 290p 2002.2.25 初版

  • 「キモチイイコト」
    オイラは元気なのでカラダの調子が悪いと言う人の気持が理解できない。そんなことをオイラに言われても治してあげられないし早く病院にいけばいいのに、と思う。そんな調子だから悲しんでいたり苦しんでいたりする人のことも同情する振りはできてもほんとのところ、わかってあげられない。自分が嬉しいこと、気持ちいいことをしてあげればいいってわかりやすい。
    「人を殺す人 自我を殺す人」
    殺人と屠殺。そういう定義でみると「誰でもよかった」と言う殺人犯は気持ちが悪い。ランディが言う屠殺だ。
    「母親のお仕事」
    屠殺者にノリコさんから説教してもらいたい。届くかな?ガキが小さかった頃、早朝家を抜け出してダンゴ虫と遊んでいたのを思い出した。毎日が楽しそうで全力で遊ぶ姿に元気をもらった。生涯、あの頃の気持ちを忘れないでいられたらいいのに。母親はお腹の中にいた子どものことも知っている。すごいよ。
    「学級崩壊のあっち側」
    オイラは無宗教だけど、お天道様を信じている。お天道様に顔向けできないような行動はしないことにしている。お天道様は親や家族や友だちにも置き換えられるかもしれない。ランディの「生活者のバカ力」の表現がとても気に入った。そう、オイラたちは何が起きてもなんだかんだで生きていく。言葉や分析は必要ない。それでも知りたいならノリコさんに聞いてくれっ、て感じ。現実は生活者がよくわかっている、理屈じゃなくて。

  • すき、何回読んでも、毎回勉強になる気がする

  • 早川義夫氏のオススメ本になっていたので、再読。

    少し話題が古くて今の人は解らんなと思う箇所があるものの、本当に二回目か?もう四、五回読んでいるかもと思うくらい鮮明に覚えている箇所も多く、言葉が心に突き刺さっているのだなあと感じる。

    色々な世界が広がるが、そうだよな人生ってそう言うもんだよなと思う。自分が単調な人生を歩んでいるが、こういうこともあり得るよなとも思い、何か力強く、何か納得してしまう。
    やはり、洞察が鋭いと言う事なのだろう。著者は感情の現象をはじめとする言語化出来る稀な能力のと見受ける

    【心に残る箇所】
    若いって苦しいのは、いつも現状に満足できないからだ。ここは最低だと思っていた。私もそうだった。満足できない原因が自分にあるのに環境にあるんだって思いこんでいた。そして勝手に挫折して、勝手に何かを恨んでばかりいた。

  • 「馬鹿な男ほど〜」に引き続き田口ランディ著作。
    こちらの方が内容が真面目。そして真面目を求めない私にはイマイチでした。出版順としてはこちらの方が早いようですね。(あれ?違う?)
    ただ、相変わらずこの人の人生には驚かされるというか・・・どうやったらこんなにネタになるような出来事が次々起こるんだ?と思うようなことが多々あります。

    タイトルが秀逸ですね〜。思わず手に取りたくなる。そして、タイトルが中身とリンクしてるというところも好感度高いですね。

  • ランディさんの本を読んだのは二回目だ。一つ目は出来ればムカつかずに〜のエッセイである。あの時も、読んでいてハッとさせられた。この人の感覚は自分に近いところがある。そして物を遠くから、冷静に見ている。感情と遠くから見た時に感じたことと、踏み入った時に得たもの、たくさんを織り交ぜて書いている。読んでいて楽しくもあり、切なくもある。楽しさと切なさは紙の裏表だ。

  • 「夜明け」という作品が秀逸。価値観を良い意味で揺さぶられた。

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著者プロフィール

作家。

「2015年 『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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