調理場という戦場 「コート・ドール」斉須政雄の仕事論 (幻冬舎文庫)
- 幻冬舎 (2006年4月7日発売)


- 本 ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344407718
感想・レビュー・書評
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本書は佐久間宣行氏が「メンタル回復本」として紹介されていた。20年ほどずっと読んでいて、熱い気持ちを取り戻したい時にいつも読み返すそうだ。どの部分が佐久間氏の胸に響くのか想像しながら楽しく読めた。
以下、本書より抜粋。
「『テリーヌは何度で何分でしょう?』そういう小賢しい基礎知識を掘り回す人を見るとちょっとむっとしてしまいます。そんなことないよ、試してみなければわからないじゃないか。結果が良ければそれが最高のテリーヌの作り方なんだ。最高の旨味を出してあげることが素材に対して1番丁寧で敬意を払うことになる。テリーヌのジューシーのおいしさを、僕なりに出そうと思っているのです。」
「その時々の素晴らしいメートル(恩師)と並走しているときには、案外自分でもできるのではないだろうかと思ってしまうものです。しかし、うまく並走することができているのは、隣にいる恩師が見えない微調整をしてくれているからに他ならないのです。」
「愛しているものがあったら、自由にしてあげなさい。もし帰ってくれば、あなたのもの。帰ってこなければ、はじめからあなたのものではなかったのだ。」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
斉須さんが若手の頃に感じていたような負荷を感じにくい現代になっていると思う。自分でかけれる負荷なんてたかが知れてるし、やっぱり負荷を自分で探しにいかないと成長なんてない時代なんだと思う。
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タイパ、効率。そう言う事ではなくシンプルに愚直に向き合ってこそわかる、身になる。仕事に対する向き合い方を考えさせてくれる本。
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・自分自身とは異なるシェフの世界の話
・斉須さんや周囲の方の考え方/生き方が興味深い
・才能はプレイヤー、生き方はトレーナーから。
よいトレーナーと働きたいし、そうありたい
・人と環境はとても大事
・店の見切りが早い(数ヶ月で辞める)
・コード・ドールに行きます!
〜以下、メモ書き〜
◆仕事
・いいものを作ろうと目指していれば、
キャパシティぎりぎりの仕事をすることになる
・何もないなら自分でマニュアルを生み出す。
怒り/ストレス/欲求がいい作用の切掛になる
・仕事場のあり様や空気は仕事に映し出される
大切なのは簡潔/清潔/人間性があること
整理整頓は仕事がきちんとなされるための基本
・意志疎通をすること以上に大切なことはない
・掃除/雑用などの作業に多くのヒントがある。
これらを通じて感じ/考え/整理された体験が、
自立する上で大きな原動力になった
・時間や生き方なしでは、やりたいことの最後までたどりつかない
◆人
・他人はその人の毎日の習慣を人格と認める
・独創性は「あれをマネしたい」と思う気持ちから
かけ離れては受け入れられない
・誰にも頼れない中でとっさに作るものにこそ、
その人が何を考えているのか人間性が出る
◆リーダー論
・抑圧的に指示するのではなく、
自然にそうなる環境を作るのがリーダーの務め
・「仕事をしなくていいよ」と言えるすごさ。
「これとこれだけは、きちんとしたい」という
確固たる線引きがある
・スタッフが常に全力を尽くせるように、
コストをかけても、ゆとりを持たせたい
・人を束ねてある水準を維持するには、
システム/意識/人材登用が非常に大切
・立場が上がるほどプライドを軽くしないと、
下で働く人たちが酸欠状態になってしまう
・リーダーが激情に身を任せては、その一瞬で
一日の流れが断ちきられてしまう
◆その他
・幼い頃から諦めることを強いられてきたから、
「耐える覚悟」という名のバネが強靭なんです
・才能はプレイヤーから湧き出てくるが、
生き方はトレーナーの影響を受けることが多い
プレイヤー/トレーナーの2つの意見のブレが、
経験を通して融合したものが本当の才能
・組織はマニュアルを作るから弱体化していく
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『感想』
〇職人の世界が描かれているな。自分がレベルアップするために一つの場所にとどまらない。いろんな経験をして自分をトップとした自分の理想の店を作る。
〇一つの職場で上り詰めていくわけではない道は、自分には想像がつかない。でも経験の貴重さとか、挑戦の大切さとかはよくわかる。
〇労働環境を整えることや仕事だけを生きがいにしないことなど考え方は色々ある。でも自分で選んでいるのなら、そんなものがない世界でもいい。これを部下に強要していると思われると厄介だが。 -
「コート・ドール」のオーナーシェフ、斉須政雄氏のフランス体験記でもあり、仕事論、人生訓でもある一冊。読者に語りかけるような文体で難解な言葉はなく、読みやすかった。料理人としての生き様が血肉化した言葉となり、料理にかかわらず働く上でヒントとなる内容が多かった。
[特に刺さった言葉]
・自分の常識を通すためには、さまざまな軋轢を打破して、時には争いごとだって経験しないと、やりたいことをやれない。
・便利すぎると人は動かなくなる。便利を目指したのに、結局道具に使われる現実が出てくる。
・掃除ができない人は、何もできないと思います。
・清潔度は毎日やらないと保たれないものだから、貯金しておけない。愛情や信頼と同じですね。
・続けると、いろいろわかってくる。だから頑張れる。
「どんなことでも完全に思い通りにはならない」ということも、わかってくる。
・人生に近道はない。まわり道をした人ほど多くのものを得て、滋養を含んだ人間性にたどりつく。
印象に残ったのは、フランス3店目の章。ここに出てくるオーナーのペイロー氏とリーダーのベルナール氏が斉須氏にとってロールモデルであり、よき仲間であったことが分かる。こうした人との出会いは人生の宝だなとしみじみ思った。
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オンライン書店の本ガチャ「エッセイ 前向きな気分になる」で手許にやってきました。
一流のひとの仕事論として敬意をもって読み通した。
内容にまったく心がそわないのは、まぁ私が一流の仕事人ではないし一流の仕事に憧れもしないからなのだろう。著者のように人生を捧げて悔いない職をもつのは素晴らしいと思う。所謂充実した人生なのだろう。
でもそこに感情が動かないのよね…生計をたてられる最低限だけ働いて、あとはのんびりしたいかな。ダメ人間といえばそうなんだけど。
仕事に全振りしちゃうと、そこを退かざるを得なくなったときにすべてを失ってしまいそう。何が起こるかわからないのも人生。いや、一番の理由は私が基本めんどくさがりの怠け者だからです。わかってます。
暴力を正当化するひとは苦手。
著者の行動力にも精神力にも感服するけど、そうであっても暴力は肯定できない。
いついかなるときも暴力をふるうな、と言ってるんじゃない。暴力を行使する場面は人生にあるかもしれない。そんなときに否応なしに(あるいは考え抜いて覚悟のうえで)暴力を用いたとしても、暴力という手段を正当化することにものすごい拒否感がある。
234ページ
「ぼくはすごい軽薄で、お調子者の子どもでしたから」
失礼だが、納得感はあった。
261ページ
「情熱と努力で、いつかそこまで駆けあがってくるであろう未来のあなたに出すのです。これを糧に本当の意味の三つ星になってほしい」
ミシュランはやっぱり鼻持ちならないなぁ…としみじみしました。
余談。
これ、たぶん斉須氏のインタビューか何かを文字に起こしてエッセイとしてまとめたのだろうと思うんですが、文章としてまとめたかたの筆力が些か残念な気がします。すっきりと読みやすくはあるんだけど、句読点もうちょっとどうにかできなかったのかとか、用言を修飾するなら「すごい」ではなく「すごく」だろうとか、言いたいことがたくさんあるよ…。 -
これから大切にしていこうという言葉を見つけたら、そのページの角を折るのだけれど、この本はたくさん折った。授業が独りよがりになっていないか、慣れで仕事をしていないか、毎日試しているか、自分の仕事を振り返った。
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白金高輪のフレンチの名店コートドールのオーナーシェフであり、日本のフランス料理の匠である著者が23歳の若さで飛び込んだフランスでの6つの店での武者修行と日本に戻ってきてからのコートドールでの経験を振り返る仕事論。
フランスでの6つの店での修行をそれぞれの店ごとに章立てて叙述されており、その店で何を学んだのか、という点がクリアにわかる点が面白い。
一番印象的だったのは3店目でのリーダーシェフの厨房掃除を大事にする振る舞いの話であった。著者自身がコートドールの厨房において何よりも掃除を大事にしており、そのステンレスが徹底的に磨かれた厨房の美しさとさながら戦闘機のコックピットのような整然さは口絵のカラー写真でよく理解できる。そのベースがこの3店目での経験であり、シェフが”掃除をしろ”ということを口うるさく指示するのではなく、自らも掃除をしながら”常に厨房は綺麗なのが当然”という環境を率先して作り出したこと、このような行動を起こさせるための環境整備こそリーダーの振る舞いである、という点は自身にも非常に刺さるところがあった。
コートドールはずっと行きたいと思いながらいけていない店の一つ。近いうちに本書を片手に訪れてみたい。
斉須政雄の作品





