日本のイキ (幻冬舎文庫 お 20-2)

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  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344407947

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  • ファーストキッチンの「ガリポテト」で知る若者の味覚、視聴率至上主義の真の背景、「全然いい」などデジタル化する日本語、子供に「翔人」と名づける親、ますます“若尊老卑”化する社会・・・。どんどん便利になる日本、でもどこか病んではいないか?
    人気脚本家オオイシが、仕事、人生、恋愛を通して日本人の心イキを問う、痛快エッセイ。
    (「BOOK」データベースより)

    本書は、2002年12月~2004年10月までの期間に週刊誌に連載されていたエッセイをまとめたもので、「職人の意気」「日本のイキ」「人生の粋」の3つに分かれている。

    「職人の意気」では、テレビで働く人たちを初めとして様々な”プロ”の職人魂とはなんだろう、といったものが著者自身の目線で描かれている。大石氏が脚本を手がけたドラマの裏側の事情も見えたりして、とても興味深く読んだ。
    大石氏は現場で「疲れた」と口にする人間は俳優もスタッフも信用しないと言い切る。自分自身も何があっても「疲れた」とは死んでも口走らないと。それが”職人”、すなわちお金をもらって働く”プロ”ということなのだろう。
    その「職人の意気」のなかに「若者の権力志向」と題されたエッセイがある。劇場スタッフが特に混乱が起きているわけでもないのにもかかわらず、「決まりだから」のひと言で客を思いのまま動かせようとする、という内容だ。1,200座席もある映画館に20人ほどしか客は居ない。けれど、そのスタッフは「扉の前で並んでください」と言う。その口調はもはや客に対するものではなく、命令に近いものだ。客にサービスを提供するという職務を忘れ、自分の言葉で人の動きを制御できる自分に酔ってしまった若いスタッフ。これではプロとは言えない。そのスタッフがアルバイトだろうが、正社員だろうが、客には関係ない。自分の対応一つで、その劇場に対する客の印象が決まってしまうという自覚がないのだろう。いや、自分が正しいことをしていると思いこんでいるのであろうことの方が恐ろしい。

    「日本のイキ」のなかでは、日本の時代の移り変わりを感じさせるエッセイが多く収録されている。その中でも特に印象的なのは、上記の本の紹介文に書かれている「子供に”翔人”と名付ける親」。さて、これは何と読むのかおわかりだろうか。著者が電車の中で嘆いているやや年配の女性たちの会話から聞いた話。自分の孫が生まれたけれど、その子の名前が”翔人”だというのだ。”しょうと”ならまだ読めるし、理解できる。が、実際は・・・。読んでからのお楽しみ。よくもまぁ、こんな名前を考えついたものだと、ある意味、感心してしまう(苦笑)。
    さて、同じエッセイの中で牧師である父に「勝利者」という意味を持つ名前を付けられてしまった画家の話も出てくる。生前に売れた絵はわずか1枚。世間に認められないまま自ら命を絶ってしまった。死後、彼の絵はようやく認められ、今では知らない人はいないだろうというくらいの有名な画家だ。名前とは、皮肉なものだという気もする。

    「人生の粋」では、著者の人生観のようなものがよく現れているなと感じた。同感する部分もあり、ちょっと違うなと思う部分もあり。一番印象深かったのは2つのエッセイ。
    「生まれてきたい」という話の中に、著者の友人が未婚のまま妊娠したときに診てもらった産婦人科医の言葉が出てくる。流産しかけた彼女に医師は言う。
    「薬は使いませんよ。科学の力を頼るくらいなら、産まない方がいい。親の思いに左右されるような子も、弱過ぎる。何が何でも生まれてきたい子だけ、生まれてくればいいんだから」
    ただ快楽を求めた結果、生まれてきた子も、苦しい不妊治療の結果、産まれてきた子も、みな「生まれてきたい」と自ら望んで生まれてきたのだろうか。それだけの思いを持って生まれてきた子でも、この世の空気を胸一杯に吸い込んでからわずか数ヶ月後、あるいは数年後に命を失うこともあるけれど・・・。
    もう1つは「自由墓石って?」と題されたエッセイ。今はいろんな形の墓石が流行っているらしい。それに違和感を覚えるのは私だけではなかったようだ。著者の言葉を借りると、その自由墓石なるものには、生と死の哲学が感じられない。そこにはノーテンキな明るさだけが存在し、墓の持つ情緒もない、ということになる。
    人は死んだらどこへいくのかわからないし、果たしてどこかへ行くのかどうかもわからない。死んだあと自分の墓のことまで気にするのかどうかも、生きている人間ならば誰も知らないわけだ。そう考えると、「お墓」というのは遺された者のためにあるのかもしれない。ならば、どういうお墓にしようと勝手といえば勝手だ。自由である。けれど、自分の墓はシンプルにして欲しいなと、生きている今はそう思う。
    墓が必要かどうかという議論もある今日この頃。散骨葬もできるらしいから「お墓」は絶対的なものではなくなってきている。「生と死の哲学」というものも変わりつつあるのかな。

    全部で48編のエッセイ集。著者の厳しい視線も優しい視線も感じることができる。もちろん楽しい視線も。どの言葉も書き留めておきたくなる話ばかりだった。

  • お母様方が見る大河ドラマ、朝の連続TV小説などの脚本家、大石静さん。<BR>週刊誌に連載されていたコラム?を本にしたもので短編区切りなので楽しめた。<BR>山の上ホテルを並ぶ文豪達の荘をされていたご実家の話は、驚きました。<BR>私、子供の頃の夢は『山の上ホテルで結婚式♪』でしたから(笑)

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著者プロフィール

大石 静(おおいし しずか)
1951年東京都生まれの脚本家・作家・女優。日本女子大学卒業後、女優になるため青年座研究所に入る。1981年、永井愛と「二兎社」を設立、二人で交互に女優と脚本を担当。1986年『水曜日の恋人たち 見合いの傾向と対策』で本格的に脚本家としてデビュー。
以降、多数のテレビドラマの脚本を担当することになり、1991年脚本家に専念するため俳優を廃業、二兎社を退団。1996年『ふたりっ子』で第15回向田邦子賞、第5回橋田賞受賞。2008年『恋せども、愛せども』により文化庁芸術祭賞テレビ部門(ドラマの部)優秀賞受賞。2011年『セカンドバージン』により東京ドラマアウォード2011脚本賞、放送ウーマン賞2010を受賞。アニメ『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』の脚本も務めている。
飛躍する若手俳優を見抜く眼力に定評があり、内野聖陽、佐々木蔵之介、堺雅人、長谷川博己を自らのドラマに登用してきた。2019年、NHK札幌放送局が制作する北海道150年記念ドラマ、嵐・松本潤主演「永遠のニシパ~北海道と名付けた男 松浦武四郎」(ニシパは小さいシが正式表記)脚本を担当。
『セカンドバージン』等、ドラマ脚本作の単行本・文庫化作は多い。2018年に対談を書籍化した『オンナの奥義 無敵のオバサンになるための33の扉』を刊行している。

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