無名 (幻冬舎文庫)

  • 幻冬舎 (2006年8月1日発売)
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本 ・本 (312ページ) / ISBN・EAN: 9784344408289

作品紹介・あらすじ

父が脳の出血により入院した。ゆっくりと、だが確実に衰えてゆくその横顔を私は飽かずに眺め続けた。父と過ごした最後の日々。自らの父の死を正面から描いた書き下ろし長編。沢木文学の到達点。

感想・レビュー・書評

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  • 沢木耕太郎、ノンフィクションライターの凄みを読んだ。
    沢木耕太郎の実父の終末期、寄り添う家族と父の俳人について語られている。
    どんな親でも人それぞれ思うところはあるもの。それにしてもよく書けたとその凄みに感心する。

    よく生きよく死ぬ、ピンピンコロリなんて言う言葉が先行すくが、人の死はそんなに簡単じゃなくまさに生き様死に様なのだ。
    身内なら着色するか、逆に恨みつらみしか出てこなくなる回想が、沢木耕太郎という体内を通すと父も子もここまでくっきり描ける。

    私の身内の最後、そしていつかくる自身の最後、どうなるかなそんなと空想する。

  • 著者の父の死の前後を書いた随筆のようなもの
    何より文章が読みやすかった

    いつか来る介護(する、される)を考えるとつらいものがあった
    著者の父親の人柄、考え方に共感するところが多かった。
    何もかもを認め肯定し、自分は何物でなくてもよいとする
    と言うような感じ

  • 沢木耕太郎『無名』幻冬舎文庫。

    自らの父親の死と正面から向き合った作品。著者が如何に父親を畏怖し、尊敬していたかがよく解る。

    多くの市井の人は生涯『無名』で当たり前であるが、家族という大きな樹に、決して消えることのない年輪を刻んで生きている。

    著者は父親の死後に父親の残した俳句を句集としてまとめ上げる作業を通じて、家族のために刻み続けてきた数多くの年輪を浮き上がらせようとする。

    その過程で初めて知る父親の人生……

    普通の人の人生は、そんなものだ。いや、そうあるべきだ。普通に全うな人生を歩み、何時の日にか静かに人生の幕を閉じる。そうありたいものだ。

    読みながら、実直を絵に描いたような自分の父親のことを思い出した。今年の春先に倒れ、2カ月余りの入院を経て、奇跡的に快復した高齢の父親は今、高齢者施設で暮らしている。真面目に、真っ直ぐに生きて来た父親は何度も大病を重ねながらも、不死鳥のように復活出来たのは、神様のくれたご褒美なのだろう。

    本体価格630円
    ★★★★★

  • 静かに流れていく時間の中で、俳句の中だけに現れる「父」の心情、慈愛がとても丁寧に描かれている。本当にノンフィクションなのかと疑ってしまうほどその俳句の一つ一つが心を打つものばかりである。雑踏の中で生きている僕にはこんなにも他者に謙虚に振る舞う事などできない。「父」の死生観からも、人生の大切なことを教わった気がする。

  • 沢木耕太郎が自身の父を亡くす前後の日々を淡々と綴った作品。そう多くの文章を読んできたわけではないけれど、この人以上に好きな文章を書く人間をほかに知らない。この人の文章がこの世界に存在する限り、自分が文章を書く意味がないのではないかと思うほどに、何度読んでも打ちのめされる(もちろんそんなはずはないので、私が書くのをやめることはないが)。語彙も、句読点の打ち方も、語尾の結び方も、何もかもが、とにかく好きだ。酔いしれるというのではないが、この文章はこうでしかありえない、という説得力が凄まじい。私は自分の書く文章が好きではあるけれど、いつか沢木耕太郎よりも好きだといえる文章を書けるようになりたい、と思う。

    祖父が死んだ時のこと、顔を合わせるたびに老いを感じるようになった両親のこと、自分にも覚えのある感覚にぎりぎりと身を絞られるような気持ちで読んでいた。

  • 正直こんな映画みたいな親子関係って沢木さんらしいなと。刻々と迫る父の死を達観している中でも揺れ動く息子の姿、そして父という存在をあまりにも知らない作者自身がこのタイミングで父親探しをする旅路のような物語。

  • 沢木耕太郎は「凍」以来2作目。著者自身の父上の最期にまつわるエッセイ。1日で読了。
    仕事では肉親以上の根気よさで赤の他人の話を聴いているのに、自分の父親のことは何も知らないという、ノンフィクション作家ならではの罪悪感。特に盛り上がりがあるわけではないが、飾らない文章がかえってじんわり来る。また、著者の、父上に対する丁寧な話し方が印象的だった。
    170403読了。

  • 死にゆく父との短い時間の話。

    ささやかな晩酌と本がだけが生きがいだった父。

    そんな父に死が近づきつつある。そんな状況になって初めて父と向き合い本当の意味で対話することができたのかもしれない。

  • p.2006/8/5

  • 過去と現在を往還しつつ、沢木耕太郎は自らの父親像を実に手堅く描き切る。そのタッチはいつもながら抑制されており、「乱れ」「狂い」がなく実に端正だ。すでに対象となる父親にすべてを訊くこともできないまま、沢木は己自身の記憶と残っている記録を頼りに1人の「無名」の人物の実像に肉薄する。ノンフィクションというよりは個人的な読書体験から言えば実に水墨画の如き淡彩さが印象的な素描であり、つまりは純文学と整理したい。対象との誠実な向き合い方、そしてすべてを怜悧な認識と文体で整理していく手腕に沢木の職人芸を見る思いを抱いた

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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