半島を出よ (下) (幻冬舎文庫)

  • 幻冬舎 (2007年8月2日発売)
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感想 : 277
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  • 本 ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344410015

感想・レビュー・書評

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  • いやあ、面白かった。後半のシーホークホテル倒壊工作の場面はハラハラしっ放しだった。
    高麗遠征軍を一撃で壊滅させるという大工作を問題児集団のイシハラグループがやってみせ、かつ、その偉業を誰に誇るでもなく、仲間内で黙っている、というラストシーンが印象的だった。

    P580
    明日も来てよかですか、と部屋を出るときにそう聞くと、イシハラという人が振り返って、言った。
    「それは、お前の自由だ」

    事件収束後も、NHK福岡の細田佐起子が、チョ・スリョン中尉の減刑の為に奔走したり、九州医療センターの世良木顧問がキム・ヒョンモク少尉を守る為に養女にした上で崎戸島に職を準備したり、と、国家の思惑とは関係なく、人とひとの関係が続いていく様は救いだった。

    エンタメであり、戦時体制のシミュレーションであり、安全保障の提言書でもある、というかなり欲張りな本だった。



  • 登場人物の多さから、章ごとに主観を入れ替える手法が薄く感じ、有効でない気がした。
    話の終わりも尻切れトンボ感があり、“なぜ?”の残る内容だったが、北朝鮮軍というセンシティブなテーマを、リスペクトを込めて巧く消化し、近代エンタメとしての完成度は凄まじいものと率直に思った。随所のディテールも非常にリアリティがあり、調査の努力と正確性も感じる。
    もう500pあれば。。と思わずにはいられない、引力のある作品テーマだった。

  • 規格外の作品。圧倒的な情報量による物語のリアリティとディティールが凄まじかった。多種多様な登場人物が登場するが、イシハラグループ曲者たちの手に汗握る活躍が特に面白かった笑

  • 著者の後書きによると、彼は多くの脱北者にインタビューを行い、彼らの実体験としての北朝鮮の農村の暮らしや、政府における金王朝への崇拝の実情をしり、それをこの本のプロットの柱としているとのこと。火薬発破のプロセスに関する記述の熱意の入り方もすごかった。
    ーーーーー
    台東から台北へのフライトで読み始めて、ヘルシンキからレイキャビクに飛ぶフライトで読了。

  • すさまじい情報量に圧倒される。
    前から気になっていたが、分厚さもありなかなか手に取ることができなかった。
    あの本読みました?で林Pのおすすめということで、ついに読了。
    壮大な映画を観ているような臨場感。
    しかし長い。。。

  • 面白かったです。

    上巻を読み始めた時はどうしようかと思いましたが、読んでよかった。

    反乱軍と自称する北朝鮮の軍隊に制圧され、日本政府から封鎖という対策を名分に、事実上切り捨てられた福岡。
    あくまでも小説なので、この作品で描写された北朝鮮の人々の心理がどこまで真実に近いものか、私には知ることができませんが、それを前提としても興味深いものがありました。

    彼らは日本人が忘れてしまった大切なもの(自己を厳しく律する心など)を持っている反面、知っておくべき様々な事象(自由な思想を持ち、意思表示することや、娯楽を楽しむゆとり等)の存在すら知りません。
    ただ、悪であると刷り込まれた日本や日本人と接し、新しい観念や事実に触れ、僅かながらも心の中に変化が生まれます。
    その変化との向き合い方の描写も巧みで、なんとも表現し難い切なさを感じました。

    一方で、これまで直面したことのない事態と向き合うことになった福岡市民の言動描写も、うーむ と心に響くものがありました。
    人間の本質的な所へ立ち入り、指摘をされたような気分。それでいて、不快ではない。

    さて、イシハラの下に集まっている青少年は独自の考えのもと、北朝鮮の部隊に独自の手段で挑みます。
    挑みながら、それぞれが個性を発揮し、万事スムーズには進まなくても作戦を決行していきます。
    このあたりは、スピード感やスリル感に満ちていて、でもやはり気持ちの描写に手抜きがなく。

    読了後は爽快感でいっぱい、とは言えないけれど、気持ちいいお叱りを受けたあとのような気分です。
    伊坂さんの作品の中でも特に私が好きなものと、共通したテーマを感じました。

    正義感や道徳心が強すぎて、時々自分をもて余すことがある方におすすめかな。

  • 村上龍さんをあまり読んだことなかったのですが、テーマが気になって読みました。読んで良かった!
    北朝鮮から、まず数名のコマンドが福岡のある島(志賀島?)に上陸・潜入し、福岡ドームを占拠。現実をちゃんと受け止めることができず、右往左往、いや硬直する日本人相手に、わずか数名で武力制圧する。その後次々に飛行機が着陸し、あっという間に福岡は北朝鮮の「反乱軍」に支配されてしまう。
    北朝鮮に反乱軍などあるはずもないが、そう名乗っているところが絶妙〈?〉な作戦で、日本政府は手も足も出ない。北朝鮮と戦争になったわけではないからアメリカに助けを求めることもできず、政府は相手を「テロリスト」と見なして交渉すらしない。そうこうするうちに反乱軍は福岡の住民の情報をさっさと入手して、一部の金持ちや暴力団関係者などを「政治犯」としてとらえ、財産も差し押さえて財源とし、手際よく福岡を支配下に置いてしまう。拷問などの描写はかなり恐ろしいです。
    福岡の住民は、日本政府が全くあてにならないことを悟り、反乱軍に協力しはじめたりもする。この辺のストーリーは、「武力制圧とはなんぞ?」「なぜ人は武力に屈するのか?」がよーくわかって非常に興味深い。
    北朝鮮で、エリートとして鍛えあげられた将校や女性兵士の心の動きも絶妙だ。北朝鮮の体制に疑問を差し挟むことは決してないが、そんな彼らも人間なのだ。ある意味で、とてもピュアな心を持っており、決して野蛮人ではなく、知的である。武力で日本を制圧するのに必要なことをよく心得ており、交渉術に長け、直接彼らと関わった福岡の役人や、テレビ局のアナウンサーなどは共感すら覚えてしまう。(それに対して日本政府の役人の無能ぶりが際立つ)。
    日本政府が何もできずにいる中、もともと経済が破綻した日本社会でアウトローとして生きてきた一部の輩が動き出す。彼らは社会のはみ出し者だが、日本政府よりも、「あの北朝鮮の奴らは我々の敵だ」とはっきり認識しているだけ、よほど賢い。敵だと認識し、何をすべきか、考え、動き出す。そこから物語も大きく動く。彼らの反乱軍(コリョ)との対決シーンも読み応えがあります。そして誰が生き残るのか、祈るような気持ちで読んでしまう。生き残った一部の人たちのその後の描き方も、少し切なく、少し希望ももてる。でも少し恐ろしくもあり、絶妙に文学的です。
    日本政府がいかに無能か、日本の「平和主義」がいかに非現実的かを書いた小説のようにも思えるけど、それでも、そんな状態でも戦後75年、戦争による死者を出さずに存続してきた国家であることは間違いないので、私は個人的には日本という国を誇りに思っている。最近は「地勢学」という分野も注目されているが、その観点では政治的手法だけでなく、地の利もあって日本の平和は守られてきたのだろう。理想も大事にしながら現実を直視しなければならない。教訓に満ちた、しかしそれだけではないすご小説でした。

  • 半島を出よ(上)の続き。
    こっちはクライマックスに近づくにつれて、
    ページをめくる手が止まらない~!って感じで話が進みます。
    う~ん、面白い!!
    ラストは自分で読んで確かめて下さいな。

    てか、この本のスゴイところはその参考文献の多さ。
    一冊の本を仕上げるのに尋常ではない労力がかかっています。
    龍さんのリサーチ能力に脱帽。。。
    そんなスゴイ本を千円以内で手軽に読めるなんて、
    日本はホントにハッピーな国ですな(笑)

    他の龍さんの本にも当たってみるとしよう。。。

  • 何と面白い。
    出てくる奴らが全員濃いが、多すぎてわからんくなった。それは俺が悪い。でも、面白すぎる。それは村上龍がすごい。やけにリアルで描写はエグい。間違いなく力作。
    面白かったところ、少年たちの境遇が終わりすぎてて、最高!全てを失っていてまともな感覚がない奴らが、無意識のうちに世界を救ってた的なめっちゃかっこいい感じもあった。
    現代の日本を嘆く、村上龍なりの皮肉やどうにかしなければならないという熱量も感じた。
    かなりヘビーだけど、間違いなく読後感はエグい!エグいって言葉は嫌いだけど、その感覚にかなり近い。

    • 鬼瓦権造さん
      同感です!エグくて、重くて、ぐちゃぐちゃだけど、面白いっ!熱量すごっ!
      同感です!エグくて、重くて、ぐちゃぐちゃだけど、面白いっ!熱量すごっ!
      2023/03/09
  • 上巻に続き下巻。とうとうホテルを倒して高麗遠征軍も壊滅し完結する。巻末の参考文献を見てわかるように北朝鮮の内部事情や日本の政治、医学や虫、爆弾や構造物の知識まで念入りな下調べがあって、それは読みながらひしひしと感じられた。その下調べと知識の厚さがリアル感と細かい心情描写に繋がったのかなあと思う。村上龍作品には欠かせない何かが欠けている若者たちもやっぱりそれぞれ暗い部分を抱えていて、でも現代の日本人が一生懸命考えているような余計なことは一切考えないし、いつも本質を見ている姿勢はどこかかっこいい。ただ少数派はとても息苦しいし、実際にはそこまで振り切れないからこういう本を読んでそういう生き方を感じられるのはいいことのような気がする。また、北朝鮮サイドの心情も細かく描かれていて、特に"退廃の発見"は今まで考えたこともないテーマで新鮮だったし、チョ・スリョンと細田佐起子のやり取りはなんかよかった。
    やっぱり村上龍はすごい。

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著者プロフィール

一九五二年、長崎県佐世保市生まれ。 武蔵野美術大学中退。大学在学中の七六年に「限りなく透明に近いブルー」で群像新人文学賞、芥川賞を受賞。八一年に『コインロッカー・ベイビーズ』で野間文芸新人賞、九八年に『イン ザ・ミソスープ』で読売文学賞、二〇〇〇年に『共生虫』で谷崎潤一郎賞、〇五年に『半島を出よ』で野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞。経済トーク番組「カンブリア宮殿」(テレビ東京)のインタビュアーもつとめる。

「2020年 『すべての男は消耗品である。 最終巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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