半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

著者 : 村上龍
  • 幻冬舎 (2007年8月1日発売)
3.89
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  • 本棚登録 :2653
  • レビュー :203
  • Amazon.co.jp ・本 (591ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344410015

作品紹介

さらなるテロの危険に日本政府は福岡を封鎖する。いまや九州は反乱軍の占領下となった。逮捕、拷問、粛清、裏切り、白昼の銃撃戦、被占領者の苦悩と危険な恋-。絶望と希望が交錯する中、若者たちの決死の抵抗が始まる。現実を凌駕する想像力と、緻密な描写で迫る聖戦のすべて。各紙誌で絶賛を浴びた、野間文芸賞、毎日出版文化賞受賞作品。

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 一言で言えば、村上龍っぽくなかった。
    ほとんど福井晴敏の『亡国のイージス』とかぶるくらい、単に少数のヒーローが日本を救いました、的な冒険小説になってるようにも読める。

    卑屈で鈍くさいマジョリティが、危機的状況に直面してもいつまでも動かないから、マイノリティが暴れてなんとかする、という構図は『愛と幻想のファシズム』『希望の国のエクソダス』と共通する。

    けれど、前2作と決定的に違うのは、今回は危機からは救われても、卑屈で鈍くさいマジョリティは大して動じない。
    前2作では日本自体もめちゃくちゃになってた。少数者たちは日本を救おうなんて微塵も思わないし、外部からやってくる危機と先を争うように、毎回食い散らかしてばかりだった。

    でも今回は少数者は危機をやっつけただけで、それが終わったからといって日本を救いも食い散らかしもしない。
    だいたい「危機」も弱りきった北朝鮮によってもたらされたものだし、世界経済もむちゃくちゃだし、この世界の設定ではもう誰も元気じゃない。
    きっと村上龍も、前2作ほど経済的な動向が描けなくて、それでこうなったんだと思う。「その後の人々」は書けても、「その後の日本」「その後の世界」は書けなかったんだろう。

    だから、村上龍っぽくない。別にいい意味でも悪い意味でもない。うっすら怖くはあるけれど。

  • 圧倒的な文章力と構想力。村上龍は本来、言葉にすることが難しいことをすごくリアリティに表現する。音楽とか戦いとか、感情とか。映像化したものを見てみたいけれど、きっと物足りなさばかりが残るのだろう。
    壮大な話はクライマックスがもう一歩な作品が多いけれど、これは最後の終わり方もよかった。
    村上龍のベスト一冊

  • 読み切った。受け切った。

    圧倒的ディテール。

    ほんまもんのエンターテイメント小説。

  • とんでもない傑作だった。

    そもそも、カバーに使用されている空撮の地域で高校までを過ごしたという身である。自分が育った馴染みのある地域や場所、母校なんかも作中にバンバン出てくる。何より物語は実家の最寄り駅名でもある場所で幕を閉じる。野球観戦に何度も福岡ドームに足を運んだし、そのついでにシーホークやホークスタウンに立ち寄ったことも数知れず。
    まさしく、実際に目にするかのように「情景が浮かぶ」わけだ。「あの道を通って、あそこから侵入したのかぁ。。。」てな具合に。
    そういう意味でも、もはや他の小説なんかとは比べものにならないくらい自分の中では特別な読書体験・小説になったわけだ。

    村上龍作品の中でもおそらく、最もページ数があり、膨大な情報量が詰まった作品だと思う。その作品の舞台が自分の地元という。
    こんな幸運な偶然って、そうそうないと思う。

  • 北朝鮮の特殊部隊を中心としたテロ軍隊に制圧された福岡がどうなっていくか、後半は破滅への道へ向かっていくストーリーが現実感をなくしていく。しかし世界のあちこちで国家の枠では捉えられない集団が戦いを繰り広げている今日には簡単に見過ごすことはできない。そういう意味では10年も前にこの小説を書いた村上龍のすごさ、分析力、創造力にうならされる。

  • この巻の戦闘シーンは本当に素晴らしい。自分が戦闘の舞台のシーホークホテルにいるように錯覚する。
    中でも、「美しい時間」という章は、何度読んでも飽きない。この章の文章には特に透明感があり、鋭さがあるように思える。
    482ページでサトウがアンニョン、ハシムニカ、と言いながらАКを撃ちまくるシーンも強烈に印象に残る。
    カネシロの「おれの世界だからおれが自分で壊すんだ」という言葉に非常に心打たれた。カネシロはなにか、自分の原点の一つになったような気がする。

    最後のイシハラたちも良い。こんなに鮮やかな小説はあまりないのではないか。

  • 現実とのリンクが多い。登場人物も魅力的。忘れられない一冊になった。

    スパイとテロ、怖い~~~~!!

  • 凄まじい情報量を、
    こんなにも圧倒的なリアリティに取りまとめ、
    そしてひとりひとりの登場人物が生きている小説は、
    他に類を見ない。

    テーマは一貫としてわかりやすい。
    村上龍を読むと元気になる理由は、
    毎回同じところで見出せる。
    私が総括するより、読めばわかる。
    ただし、
    これまでの作品に、
    ここまで情緒的だったものはあっただろうか。

    見出せなかった感情を、
    自らの中に見出し、感じ取り、
    じわじわと体で味わっていく過程が描かれているのは、
    血と絶望的な危機と、
    死と痛みと死臭がする只中なのだが、
    そのphase two 11『美しい時間』の、
    実に、実に素晴らしい美しい空間に絶句する。
    文字の列を知覚しているのに、
    空間を感じ、そこに居る錯覚を呼ぶのだ。
    涙がしばらく止まらなかった。

    かなしく、苦しく、
    曖昧模糊としたやわらかな感覚を芽生えさせ、
    高揚し、興奮し、
    充実感を残す小説には、
    滅多に出会えるものではない。



     不安や恐怖があっても、
     それを自覚してどう対応するか自分で決めることができたら、
     とりあえず立ち向かっていけるのだ。

  • 上巻同様、とても読むのに時間がかかった…
    描写の細かさは秀逸で一つの場面でもとても詳細に状況を描いている。
    しかしそれが自分にとってはスピード感をなくしてしまっているようにおもえた。
    とはいえ朝鮮軍が攻めて来た時の日本人の危機感の無さ、政府の意思決定能力の低さなど、実際起こったらこんなふうになるんだろうなととてもリアリティを持てた。
    村上龍はとても好きな作家だが作品ひとつひとつ読むのに時間がかかると思うので次はまた半年後くらいに読みたいなと思った。

  • 2012/12/22読了。

    3月の震災以降、ニュースに登場する機会が減っていた北朝鮮であったが、総書記の死去で久々に新聞の一面に登場した。そんな時にタイムリーにこの本を読んでいたのは、何と言う偶然だろうか。まぁそれは一旦脇に置いておこう。

    「近くて遠い国」と形容される北朝鮮であるが、それは”物理的な距離”の割に”国家間の結びつき”が希薄であるという意味なのだろう。しかしこの本を読んだ今、その意味に加えて、”感覚的”にも遠い国となっていることを認めなければならない。
    北朝鮮で起こっていることが、自分とは関係のない世界での出来事であり、それが自分に直接的な影響を及ぼすなんて露にも思っていない。それが日本人の多数派になりつつあるのではないか。その中の一人であった自分は、読み始めてすぐにハンマーで頭を叩かれたような衝撃を受けた。

    今の状況が続くということを妄信した時点で、環境の変化を読み取るアンテナは鈍くなり、考えることを止めてしまう。問題を直視しなければ、その解決策など生まれない。生命の危機に瀕しても、適切な対応を取ることができない。よく「平和ボケ」と称される日本人を、その対角にいる、北朝鮮の特殊部隊のエリートの視点から描いた部分には示唆が溢れている。
    集団の象徴としての日本政府に目を向けてみても、同様である。大震災と原発問題でも、中国の巡視船の問題でも、この本で指摘されているように、方向性を定めないまま、責任の所在も不明瞭なままで流されてものごとが決められていくという事態が実際に発生していた。それだけ著者の観察が優れていたという証拠であろう。

    そのように読み始めた時には、日本人と北朝鮮人を単に対比して、正常な日本人の異常さを浮き彫りにするだけかと思っていたが、そうではなかった。占領後には、微塵の危機感も持ち合わせていなかった日本人と、欲や世俗と無縁の世界を生きてきた北朝鮮人が接触する。そこでは、北朝鮮兵に欠けていたものも浮き彫りになる。互いに未知であった部分に触れることで徐々に変化していく態度や価値観と、それに伴う感情の起伏や葛藤の連続が見事に表現されている。日本人も北朝鮮人も、もともとの差異は小さいということだろう。人間性に影響を及ぼすのはその人間の民族性ではなく、個々の意識と個々を取り巻く環境であるという主張は本質をついていると思う。

    また、この本を貫くテーマの一つが、「少数派と多数派」だ。福岡の人々とその他の地域に住む日本人。社会に馴染まない若者とそれを強制使用とする大人達。規則違反を犯した兵とその他の兵。
    少数派はいつも多数派の存続のための犠牲となる。今は多数派であっても、すぐに少数派となる可能性がある。そしてもう一つの重要な示唆は、少数派による多数派の変革ではないか。
    北朝鮮からのたった9人のコマンドが、慌てふためく日本政府を尻目に人口100万人の福岡をいとも簡単に制圧した。後発部隊が到着して多数となり、隙が生まれ始めた占領軍に立ち向かったのが、何かに引かれるように詩人の元に集まってきたグループだった。多数派の腐敗・堕落に対抗・変革できるのは多数派ではなく、普段は蚊帳の外にいる少数派でしかないということだろう。

    脈絡なく徒然と書き綴ったが、結局の結論は何かというと、こんなに示唆、メッセージに富んだ本を書ける著者はすごいということに尽きる。他の著作も読んでみたくなった。

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