銭ゲバ 下 (幻冬舎文庫 し 20-5)

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  • Amazon.co.jp ・本 (395ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344410299

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  • 蒲郡風太郎が殺しすら用いてのし上がり、その果てに……という話。
    取り込もうとした会社社長の娘の、美しい三枝子と不美人な正美。
    秋遊之助という作家。
    追って来る刑事や、その子供や。
    超個人的な話で始まるのだが、さらに会社が水俣病に似た公害を引き起こしたり、政治家に野心を抱いたり、社会的な話にもなっていく。
    (このへんで三島由紀夫「青の時代」を連想したり、南米小説の成り上がりものを思い出したり。)
    (石牟礼道子「苦海浄土」も。)
    とにかく苛烈な成り上がりで、しかし悔恨と虚しさに常に苛まれている……このあたり、悪の権化的な扱いに反して、ナイーブで純粋だ。

    「私は美しいものがすきズラ。美しい人の心が欲しいズラ。だけど人の心が美しいとは思わんズラ。この世に真実というものがあれば、命をかけておいもとめるズラ」

    彼に関わる正義面や女やのほうが、道徳を普段言い立てるくせに実は醜悪。
    信じられない。信じるに足るのは金だけだ。
    しかし最期……、原稿用紙に「人間の幸福について」と書こうとして、平凡な生活を思い浮かべてしまった自分に絶望して。
    (原稿用紙に囚われていく感じ……また、刑務所の格子が連続するコマとか……回想とか……漫画表現的にもアヴァンギャルドで、分析の意義がありそう。)

    「いつも私だけが 正しかった この世にもし真実が あったとしたら それは私だ
    私が死ぬのは 悪しき者どもから 私の心を守るためだ
    私は死ぬ 私の勝ちだ 私は人生に勝った」

    秋遊之助≒ジョージ秋山の言葉。

    「てめえたちゃ みんな銭ゲバと同じだ もっとくさってるかもしれねえな 
    それを証拠にゃ いけしゃあしゃあと 生きてられるじゃねえか」

    キャラやコマ運びや、どうかなーと思うところがあるが、とことん突き詰めた問いとしての漫画、ずっしり残る。

    普通の暮らしを送ろうとしている自分の中に、蒲郡風太郎が一ミリもいないと言える人は、いないのではないか。
    こうはならなかった可能性としての自分。

  • ありとあらゆる手段で成り上がった『銭ゲバ』こと蒲郡風太郎。この本で彼は政界に進出するために金を使ってあらゆる手段を尽くすのですがその果てに彼を待っているものは…。壮絶なラストにはショックを受けました。

    全てを手に入れたかに見えた『銭ゲバ』こと蒲郡風太郎。この下巻ではついに政界にも進出しています。しかし、栄華を極めながらもことあるごとに引用されているものがあります。それは、旧約聖書の『ヨブ記』の一節である

    『なにゆえ、ひざが、わたしを受けたのか。なにゆえ、乳ぶさがあって、わたしはそれを吸ったのか。そうしなかったならば、わたしは伏して休み、眠ったであろう。そうすればわたしは安んじており、 自分のために荒れ跡を築き直した地の王たち、参議たち、 あるいは、こがねを持ち、しろがねを家に満たした君たちと一緒にいたであろう。なにゆえ、わたしは人知れずおりる胎児のごとく、光を見ないみどりごのようでなかったのか。 かしこでは悪人も、あばれることをやめ、うみ疲れた者も、休みを得、捕われ人も共に安らかにおり、追い使う者の声を聞かない。小さい者も大きい者もそこにおり、奴隷も、その主人から解き放される。なにゆえ、悩む者に光を賜い、心の苦しむ者に命を賜わったのか。このような人は死を望んでも来ない、これを求めることは隠れた宝を掘るよりも、はなはだしい。 彼らは墓を見いだすとき、非常に喜び楽しむのだ。 なにゆえ、その道の隠された人に、神が、まがきをめぐらされた人に、光を賜わるのか。わたしの嘆きはわが食物に代って来り、わたしのうめきは水のように流れ出る。わたしの恐れるものが、わたしに臨み、わたしの恐れおののくものが、わが身に及ぶ。 わたしは安らかでなく、またおだやかでない。わたしは休みを得ない、ただ悩みのみが来る』

    掲載されていたのは本当は一部なんだけれども、あえてここに該当箇所を全部をのせました。なぜ彼は(手段はどうであれ)自分の生い立ちを克服して自分の望むものをすべて手に入れたはずなのに
    『生まれてこなければよかった!!』
    と幾度となく叫んだのか?これは僕の今後、もしかしたら一生考えるべきテーマのひとつです。

  • 金がすべてといいつつも 買えないモノを 孤独に願う
    意外と望みがシンプルで嫌いになれない

  • 読み終わって色んな意味でとてもかわいそうな人の一生を見たような気がした。
    風太郎に同情はできないけれど、何とも言えない悲しさが残る。
    ここまで極端でなくても(殺人とか)、他人に絶望して人生を送っている人は多いのではないだろうか。
    すべて手に入れて、さて、幸せとは何ぞやと考えた時に原稿用紙の上に出てきた情景は本当に普通の暮らしだった。家族仲良くつつましく暮らす。たったそれだけのこと。そのことに気づいてしまったからあのラストなのだろう。悲しいとしか言いようがない。

  • ドラマ化されているわけだが、衝撃のラストはちゃんと描写されるのだろうか?

    つーか、よくこれドラマ化O.K.にしたな。

  • 元を正せば嫌らしい個人的なエゴイズムだよ 弱肉強食の資本主義社会だ。ならば弱肉強食の闘いの策を立てた方が利己だ。人生…は現実なんだ。 権力が自分の手の中に次第に入る又は入りつつあるという感情こそが人間の満足感、幸せだと思います!権力を憎む者は権力を倒して自分が権力を得ようとするからだと思います。 何時も私だけが正しかった。この世に真実があるあったとしたらそれは私だ。私が死ぬのは悪しき者供から私の心を守る為だ。私は死ぬ。私の勝ちだ。私は人生に勝った。

  • 感想は上巻に。

  • カネがあれば愛される。
    しかし本当は、愛されるよりも、愛したい。

  • 幸福は金なのか、愛なのか。主人公が到達した人の善悪の真理に圧倒される。罪を犯し続ける人間という生き物の魂をここまで追求しえた娯楽作品が他にいくつあるだろうか。多彩で深く、世界で評価される日本のマンガが今日あることの底力は、70年代にこういう作品が表現され、受け入れられていたという経験を経ているからだな、と改めてその表現力とテーマ性に感嘆。憎しみと哀しみを左右のペルソナに持つ主人公の顔!

  • ドラマ懐かしい

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